
昼だけの関係、という逃げ方|第4話
あらすじ
——
昼の時間にだけ、人と会うことがある。
決まっているわけではないが、
気がつくと、そういう関係になっている。
ある日、コミュニケーションサイトで見かけた
一行の言葉に惹かれ、一人の女性とやり取りを始める。
会うのは決まって昼。夜は互いの生活に戻る--そんな
「踏み込まない関係」は、気楽で、どこか心地よかった。
けれど、言葉を重ねるうちに、次第に距離は曖昧になっていく。
触れないまま近づいてしまったふたりが選んだのは、
関係を続けることか、それとも--。
——
その日は、どちらからともなく、少しだけ歩いた。
いつもの店を出て、
あてもなく、ゆっくりと。
会話は途切れがちで、
それでも不思議と居心地は悪くなかった。
むしろ、
何かを探るような沈黙が続いていた。
人通りの少ない道に入ったとき、
ふと、足が止まる。
理由はわからない。
ただ、どちらからともなく。
少しだけ風があって、
髪が揺れるのを、ぼんやりと見ていた。
こんな距離で向かい合うのは、初めてだった。
手を伸ばせば届く。
言葉にすれば、何かが変わる。
そういう距離。
「……なんか、不思議ですよね」
彼女が、ぽつりとそう言った。
何が、とは聞かなかった。
聞かなくても、わかる気がしたから。
昼だけ会って、
それ以上でも、それ以下でもない関係のはずなのに。
今、この瞬間だけ、
少しだけ違う場所に立っているような感覚。
目が合う。
逸らさないまま、ほんの数秒。
そのまま時間が止まればいいと、
一瞬だけ思った。
触れる、という選択肢が、
はっきりとそこにあった。
けれど--
どちらも動かなかった。
いや、動けなかったのかもしれない。
この距離を越えてしまったら、
もう元には戻れないことを、
どこかでわかっていたから。
「……このくらいが、ちょうどいいのかもしれないですね」
彼女が、小さく笑う。
少しだけ、困ったような顔で。
その言葉に、
肯定も否定もできなかった。
ただ、同じように少しだけ笑った。
それ以上、何も言わなかった。
歩き出すタイミングも、ほとんど同時だった。
さっきまでの距離が、
ほんの少しだけ遠くなる。
それでよかったのかもしれないし、
少しだけ、惜しかった気もする。
振り返ることはなかった。
けれど、あの数秒だけは、
あとになっても、やけに鮮明に残った。
もし、あのとき--
そう考えかけて、やめる。
考えなくても、わかっているから。
あの距離のままで終わったからこそ、
今もこうして、残っている。
——
※触れなかったままでいいですか?
——