
昼だけの関係、という逃げ方 第1話
あらすじ
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昼の時間にだけ、人と会うことがある。
決まっているわけではないが、
気がつくと、そういう関係になっている。
ある日、コミュニケーションサイトで見かけた
一行の言葉に惹かれ、一人の女性とやり取りを始める。
会うのは決まって昼。夜は互いの生活に戻る--そんな
「踏み込まない関係」は、気楽で、どこか心地よかった。
けれど、言葉を重ねるうちに、次第に距離は曖昧になっていく。
触れないまま近づいてしまったふたりが選んだのは、
関係を続けることか、それとも--。
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昼だけの関係、というのは、たぶん逃げ方なんだと思う。
夜を共有しないことで、
お互いの生活に踏み込まずに済む。
それでもいいと、どこかで思っている自分がいる。
あのときは、
そんな言葉で片付けられるものだと思っていた。
きっかけは、いつもと変わらない。
画面越しにいくつかの言葉を眺めて、
その中のたった一行が、妙に引っかかる。
理由はうまく説明できない。
ただ―
この人とは、少しだけ話してみたいと思った。
やり取りを重ねていくうちに、
最初はぎこちなかった言葉が、少しずつほどけていく。
どこまで踏み込んでいいのか、
どこからが踏み込みすぎなのか。
そんな距離を測りながら、それでも少しずつ近づいていく。
会う約束は、決まって昼だった。
夜ではなく、昼。
それぞれの生活に、きちんと戻れる時間。
その曖昧さが、むしろ安心だった。
最初に会ったときのことは、今でも覚えている。
少しだけ緊張した表情で、互いにぎこちなく笑った。
イタリアンの店で、当たり障りのない話をする。
仕事のことや、最近の出来事。
どこにでもあるような会話。
それでも、時間が経つにつれて、
少しずつ空気が変わっていくのがわかる。
言葉が増えるわけじゃない。
むしろ、減っていく。
それでも不思議と、
通じているような感覚だけが残る。
ふとした拍子に、相手が自分のことを話し始める。
「この前会った人に、いきなり混浴に連れていかれたことがあって」
少し笑いながら、でもどこか本気のような顔で。
「ネカフェでね、いつでも帰れるようにして、ちょっとだけ冒険してみたいって思ったこともあるの」
そういう話を、どう受け取ればいいのか、最初はわからなかった。
ただ、否定する気にも、踏み込む気にもならなかった。
「そういうの、嫌いじゃないですよ」
それくらいの距離で、言葉を置く。
深く聞かない。
でも、遠ざけもしない。
その曖昧さが、ちょうどよかった。
別の日、カフェで向かい合って座っていたとき。
何気ない会話の途中で、ふと目が合った。
ほんの一瞬だったと思う。
すぐに視線は外れたのに、
なぜか、その時間だけが長く残った。
少しだけ恥ずかしそうに笑った顔と、
言葉にしなくても通じてしまったような、あの感覚。
あれ以上、何かを確かめる必要はなかった。
触れてしまえば、たぶん簡単だったと思う。
けれど、触れないままの方が、
ずっと長く残るものがあることを、
そのとき初めて知った気がした。
昼が終われば、
互いにそれぞれの場所へ戻る。
何もなかったように。
それでいいはずだった。
きっと、この先も。
名前を呼ぶこともなく、
特別な関係になることもないまま。
--そう思っていた。
けれど、ふとした瞬間に、思い出す。
コーヒーが冷めるまでの、あの短い時間。
何気ない会話の途中で、視線が重なった、あの一瞬。
触れてしまえば、簡単に壊れていた気がする。
だからあの距離のままでよかったと、
今でもどこかで納得している。
それでも--
あの関係を、
ただの「昼だけの関係」と呼んでしまうには、
少しだけ、惜しい気もしている。