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Second Wind第71話 譊戒唯

    Second Wind

    第2ç«  霧の䞭の岐路
    第71話 譊戒唯


     「圌、間に合っおよかったわね」

     信号埅ちの亀差点で、降っおくる雚を気にしながら京子さんはハンドルに手を掛けたたたそう声をかけた。

     「ああ  むクスさん」

     私は少しばかり波立぀心の内を悟られないよう、努めお䜕気ない声で答える。

     「撮圱終了から間が空いおしたったからどうかず思っおいたけれど、盛り䞊がっお良い䌚だった。これでたた、業界内にも貎女のファンが増えお、良い仕事がたくさん舞い蟌んでくるず良いけれど」

     倧通りからマンションぞず向かう角を巊折しながら、京子さんは淡々ずそう述べた。

     今日の打ち䞊げ䌚のような、ひず぀の仕事を終えた埌の感慚になど、この人はたったく囚われるこずがないのだ。
     人情よりも合理性――。十代の頃は、い぀も倉わらないこの人の冷静さがひどく頌もしくもあり、そしお恐ろしくもあった。

     「そうね。たた面癜い圹がくるずいいけれど」

     窓ガラスに萜ちた雚粒に反射するラむトのきらめきを芋ながら、䜕気なくそう答える。

     「きっず今埌は、むクスさんの方にもオファヌが増えるこずになるでしょう。䜕しろ貎女の盞手圹ずしお、十分な合栌点を出したのだから」

       䞀瞬、京子さんのこの蚀葉を聞いたら、きっず圌は顔をほころばせるのではないかず思った。

     J・むクス――。

     ポケットの䞭に入れたたたになっおいた、あのカヌドに手を觊れる。

     むクスさんを䌚堎ぞず芋送った埌、私は念のため、化粧宀に行く振りをしお䞀旊そのたた倖に出た。

     今すぐ圌ず䞀緒に䌚堎に戻るのはたずい――

     人の足を匕っ匵るこずだけに゚ネルギヌを傟けおいる者も少なくないこの䞖界では、たずえこれたで撮圱を共にしおきた仲間たちずいえども、やはり油断はできなかった。

     人の噂にのがるきっかけになるような行動なら、できるだけ避けおおく方が賢明だった。私だけでなく、倚くの女性ファンを抱えるむクスさん自身のためにも。

     しかしその点に぀いおは、おそらく圌も十分に承知しおいるのだろう。
     カヌドを枡す時、圌が䞀瞬、扉の圱に隠れるような仕草をしたこずに私は気づいおいた。

     少し䜓を傟け、車内から倜空を芋䞊げる。雚足は匷たっおきおいたが、ただ遠くの雲の切れ間に、倧きな満月が浮かんでいるのが芋えた。

       正盎、圌からあのカヌドを差し出された時は驚いた。
     
     皆のいない堎所で、個人的な連絡先を枡されたからずいうわけではない。そんなのはよくあるこずだし、もっず蚀えば、男性共挔者から䜕らかのモヌションをかけられるずいうのも日垞茶飯事に近い。

     ただ、あの時の圌の衚情――。
     これたで、たるで感じたこずのない雰囲気だった。

     あれは正盎、共挔者に向けるものずいうより、たるで今埌は真剣に男ずしお私ず向き合いたいず蚀わんばかりの顔぀きだ。日頃の様子ずはたったく違う、圌の無愛想で萜ち着かない雰囲気がやけに気になった。

     京子さんが蚀うように、むクスさんにはたしかに倩然ぜい、少し無邪気なずころがある。
     けれど、さすが倩䞋のARKLINEアヌクラむンの名を背負っおいるだけあっお、若いながらも、時に恐ろしく冷静でしっかりしたずころがあった。自分のこずを客芳芖するこずにも長けおいお、少なくずも共挔埌によくある"圹柄を投圱した疑䌌恋愛"にはたるようなタむプには芋えない。

     むクスさんず入れ違いに打ち䞊げ䌚堎を埌にした埌、私は䜕気ないふうを装っお、䌚堎から少し離れた堎所たで䞀人歩いた。

     念のため、軜く呚囲に目を走らせおから、私はさっきずっさにポケットに入れおしたったカヌドを取り出す――。

    《J・むクス李 惺宇 リヌ・シンナヌ
    090--××××-△△△△
    Mail: lxy83@.sg
    ぜひ連絡ください IX》

      これは、本名 

     芞名の埌ろにあるのは、どうやら圌の本名らしかった。この業界ではわざわざそれを曞き添えるだけでも珍しいこずなのに、埋儀に挢字でも衚蚘しおくれおいる。

     "IX" が、ARKLINEずしお掻動する際の圌の衚蚘、IXむクスだずいうのは䜕ずなく聞いおいた。

     "ぜひ連絡ください"――。

     そんなメッセヌゞの埌に、小さく控えめなにっこりマヌクず共に圌のサむンが曞かれおいた。

     そんな蚀葉を芋お、私はたすたす戞惑う。

       いったいこれを、どう解釈したらよいのだろうか  

     本圓は、䜕か適圓にごたかしお連絡先など受け取らずに枈たせる方が無難だったのかもしれない。けれど私の方がはるかに幎䞊でキャリアもあるのだし、共挔者同士の連絡先亀換などよくある話だ。逆に意識する方がおかしいようにも思えた。

    圌はこれを、今日のためだけにわざわざ甚意しおここに来たのだろうか

     カヌドを芋぀めるうちに、ふずそんなこずを思った。

     実際、スタッフや共挔者の䞭には、今日を境に二床ず䌚えなくなっおしたう人もいる。打ち䞊げは、いわばそんな業界内の垌薄な人間関係の䞭で人脈を確保するための堎でもある。
     それを考えれば、圌が今日こういったものを甚意しおきたずしおも、䞍思議はない――。

       けれど。

     私は車のシヌトにもたれたたた、真っ暗な倜空に浮かぶ月を芋ながらたた想いを巡らせた。

       あの時は、あたり深く考えるこずなくすぐに䌚堎に戻ったのだが、やはり䜕かがおかしかった。

     ずいうのも、今日のスタッフ・共挔者の䞭で、圌からこのカヌドを枡されたのはどうやら私だけのようなのだ。たずえば圌は、監督や他の共挔者たちずはスマホで連絡先を亀換し合っおいた。
     たたたたず蚀えば、本圓にたたたたなのかもしれない。しかしカヌドを差し出した時に圌が芋せた、あの衚情。
     あれは、やはり  ――

     その時、車が自宅マンションに到着した。


    続き  第72話 鉄の掟唯
    目次  長線小説『Second Wind』


     
     
    長線小説『Second Wind』を連茉䞭。 華やかな䞖界の片隅で、静かに止たっおしたった時間が 再び動き出すたでの物語。 静かな始たりから、やがお運呜を揺るがす奔流ぞ。