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Second Wind第72話 鉄の掟唯

    Second Wind

    第2ç«  霧の䞭の岐路
    第72話 鉄の掟唯


    䞀床だけ  連絡をしおみようか

     マンションの地䞋駐車堎から自分の荷物を抱えお郚屋たで䞊がる間、ふずたたそんなこずを考えた。

     頭の䞭で、〈有石ありいし唯ゆい〉ずしおの自分ず玠顔の自分がせめぎ合い、ひどく萜ち着かない――。

     京子さんが、゚レベヌタヌの最䞊階のボタンを抌す。閉たるドアの向こうにがんやりず芖線を投げながら、私は撮圱䞭によく芋かけた、むクスさんのある癖を思い出しおいた。

     集䞭しおいる時の、わずかに口をすがめるようなあの仕草。
     本人は真剣なのだろうが、どこか小動物のようで、緊匵を匷いられるようなシヌンでも䞍思議ず心が和んだものだ。

     長身の圌が、あの倧きな背䞭を䞞めながらカヌドを前にしおいる様子を想像しおみる。そんなふうに口元をすがめながら䞀生懞呜にカヌドを曞く圌の姿を思い浮かべるず、ふず頬が緩んだ――。


     京子さんが先に立っお玄関のドアロックを解陀し、宀内の灯りを点ける。

     䞊局に䜍眮する郚屋だが、盗撮防止のため、各郚屋にかけられた遮光カヌテンはほずんど垞に閉められたたただ。しかし圌女が郚屋の様子に倉わりがないか䞀通りチェックする間、私はい぀も、少しの間、玄関で埅っおいなければならなかった。

     やがお明日のスケゞュヌルのおおたかな確認を枈たせるず、京子さんは玄関ぞず向かった。

     けれど今日、圌女はすぐには垰らなかった。

     ドアを閉める盎前、ふず私の顔を芋぀めるず、圌女にしおは珍しく䜕かを䞀旊蚀いかけお口を぀ぐむ。

     「  どうしたの」

     䞍思議に思っお、そう尋ねた。

     するず圌女は再びこちらを芋るず、今床は私の目を正面から芋据え、はっきりした口調でこう告げた。

    「い぀もの通り、最終的な刀断は貎女に任せるわ。 でもあっちの事務所はアゞアの最倧手。面倒なこずになるようなら、それなりの措眮は取る――」

     京子さんが垰った埌――。
     私は着替えもせずに、゜ファに腰をおろしおそのたた身䜓を暪たえた。
     
     䞻の䞍圚が倚いこの郚屋は、今もしんず静たりかえっおいる。

     「  “い぀もの通り”、ね――」

     ふず、京子さんに向けたそんな嫌味が口を突いお出た。

     圌女が今倜、たるで先手を打぀ような圢であんなこずを蚀ったずいうこずは、私の勘は、やはり少しは圓たっおいるのだろうか。

     “倱瀌に思われたら申し蚳ないんですが。これ、僕の連絡先です”――

     そう蚀っおカヌドを差し出された時、正盎、私は戞惑った。

     ドラマの圹ずは違う、圌の衚情。

     ARKLINEアヌクラむンの時ずも違う、その衚情。

     それはきっず、李 惺宇リヌ・シンナヌずいう男のものなのだ。
     私はどこかで、もう気づいおいたのかもしれない。

     “撮圱の埌、本圓はもっずゆっくりお瀌を蚀いたいこずが、いっぱいあったんです。でも、党然時間がなくなっおしたったので。  なので、今床たたもし䌚っおいただけるようでしたら、ここに連絡をください”――

       そんな䞀蚀䞀蚀を、たるでひどく倧切そうに䌝えようずする。

     い぀もの無邪気な笑顔も、愛想の良い埮笑も、ARKLINEずしおの自負もプロ意識も――。あの時、そんなものはどこにもなかった。あそこにいたのは、ただひたすらに䜙裕のない、恋をしおいる䞀人の青幎のように芋えた。

       そしお私も、京子さんに釘を刺されたこずで、少なくずも気づかされたこずがある。

     ざわ぀く、この胞の理由。

     「䜕を、銬鹿なこずを  」

     私はひず぀静かにため息を぀くず、䟋のカヌドをポケットから取り出しおもう䞀床眺めた。さっきず同じように、たた唇をすがめながらこれを曞く圌の姿を想像しおみる。

     「倉わった人には  違いない、か」

     じんわりず滲むぬくもりず苊い想いずが、たるで亀互に心を支配しおゆくようだった。

     このドラマの話が来た時に芳た、ARKLINEのPV――。それは、圌らの日本進出埌、初めお出されたアルバムの曲だった。

     あの芚悟に満ちた、迷いを断ち切る刃のような圌の姿ず、撮圱の合間に屈蚗無く笑う無邪気な圌――。

     ずおも同䞀人物ずは思えないほどに乖離しおいるず蚀っおもよかった。曲によっお千倉䞇化するその衚情を思えば、圌が挔技者ずしお玠晎らしい才胜を秘めおいるこずはたやすく想像できる。

       だずすれば、私に芋せる衚情すら停りでないず、誰が保蚌できるだろうか

     ただ䞀぀確かなのは、私はプラむベヌトでの人間関係においおさえ、〈有石唯〉ずいうブランドを絶察に厩すこずはできないずいうこず――。

     これは、しばらくこのたたにしおおこう

       たずえ䞇が䞀、圌が私を異性ずしお意識し始めおいるのだずしおも、しばらく時間を眮けば、ドラマの䜙韻も収たり少しは頭が冷やされるかもしれない。

     そしおそれが単なる瀟亀蟞什にすぎないものだずしおも、今の状況ですぐに連絡を取っおしたえば、〈有石唯〉そのものの䟡倀が倱われる。

     だからこそ、京子さんはあえお今倜、私にクギを刺したのだ。圌、むクスさんの埌ろには、アゞアの巚倧事務所、クロノス・゚ンタヌテむンメントがいる、ず――。

     “い぀もの通り、最終的な刀断は貎女に任せるわ。 でもあっちの事務所はアゞアの最倧手。面倒なこずになるようなら、それなりの措眮は取る”――。

     圌女はこれたで、私に恋愛自䜓を犁じたこずは䞀床もなかった。
       けれど。

     “決しお利甚されるな”
     “決しお、〈有石唯〉ずいう名に傷を぀けるな”


     それは私ず京子さんずの間での、決しお犯しおはならない、暗黙の掟だった。



    続き  第73話 埅ちわびたメヌルむクス
    目次  長線小説『Second Wind』


     
     
    長線小説『Second Wind』を連茉䞭。 華やかな䞖界の片隅で、静かに止たっおしたった時間が 再び動き出すたでの物語。 静かな始たりから、やがお運呜を揺るがす奔流ぞ。