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Second Wind|第39話 秘めごと[イクス]

    Second Wind

    第1章『Superstar』
    第39話 秘めごと[イクス]


    「コーヒーを、ごちそうさせてくれませんか?…僕の部屋で。この時期のスペインにしては、今夜は冷える」


     ……これは、僕の賭け。
     まさにこの瞬間に、僕はこの日のすべてを賭けていた。
     
     ずっと迷っていた。脚本のこの台詞。
     いったい僕は、この時、どんな表情、どんな声色で、この誘いを彼女に投げかければいいのだろう……?

     “それは彼女が張り巡らせている壁の向こう側に、ヨンヘが足を踏み入れるということなんです”――

     
     アレンは、どんな男だろう?
     アレンなら、いったいどんなふうに最後の一歩を踏み出すだろうか――?

     そんな想いを突き詰めていって、とうとう僕は気づいた。

     ……あぁ、そうか。きっとアレンなら、自分から彼女に踏み込むようなことはしない。

     ただ彼は、二人の前に引かれた線のギリギリのところに立って、“彼女自身が自分の手で扉を開くのを待っていた”んだ――。

     僕たちは、その後、何も言葉を交わさないまま、ホテルの部屋へと戻った。

     エレベーターのドアが閉まる間も、アレンがスイートルームのロックを解除する時も、彼女は一言も話さなかった。

     先に立ってカードキーを差し込み、静かに扉を内側に開いて彼女を通す。バラの花束のこすれ合う音だけが、薄暗い室内に響いた。

    「……!」

     僕は静かに、けれど素早く彼女を壁際に抱き寄せると、その時初めて彼女の瞳を真っ正面からのぞき込んだ。

     熱さもなく、冷たさもない。温度すら感じさせない視線。
     そんなものを与えることすら自分に許さない、孤高で憐れな男の秘められた熱情――。

     僕は彼女を見据えると、一言強い口調で、静かにこう言い放った。

     「こうなることを、わかっていなかったとは言わせない」

     愛おしさでも、欲望でもない。
     冷酷さでも哀しみでもない、目の光。

     それは孤独なアレンという男が選んだ、狂おしくも切ない、彼女の愛し方だった。


    *続き | 第40話 切なさの帳とばり[唯]
    *目次 | 長編小説『Second Wind』



     
     
    長編小説『Second Wind』を連載中。 華やかな世界の片隅で、静かに止まってしまった時間が 再び動き出すまでの物語。 静かな始まりから、やがて運命を揺るがす奔流へ。