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Second Wind|第53話 ラストシーンへ[唯]

    Second Wind

    第1章『Superstar』
    第53話 |ラストシーンへ[唯]


     アレンに別れを告げた一週間後、早妃はすべてを捨てて日本を発った。
     
     仕事も、友人も。そして、恋人・藤眞とうまさえ――。
     彼女の居所は誰にもわからず、その後の行方を知る者はいなかった。

     そんな中、アレンは思わぬ窮地に立たされる。
     信頼していたエージェントに裏切られ、業界内での信頼と仕事を突然失ってしまったのだ。

     金銭的な損失は莫大な金額に上り、もはや彼は、“世界のトップスター”の座を追われた。

     連日続く、マスコミからの激しいバッシング。
     舞台にすら立てない日々――。


     ……早妃とアレンの別れの後、イクスさんと私の共演シーンは、自ずと少なくなっていた。
     けれど彼の熱演は、スタッフたちの間でもたびたび話題になっていた。

    「本当、素晴らしかったんですよ、イクスさん! もともとは脚本にない動きだったみたいなんですけど、こう、静かに、でも強く、バン!っていきなり車の窓を叩いて――。一瞬険しい表情をしたかと思ったら、目がみるみる赤くなって、涙がじわ~って。もう、早妃を失ったアレンの悲しみが痛いほど伝わってくるっていうか、思わず見ていてもらい泣きしちゃいました」

     いつもお喋りなメイクアシスタントの聡美ちゃんが言うと、今日だけは珍しく、他の女性陣までがうんうんと共感するように深く頷いている。
     そんな様子に、思わず私は笑みが漏れた。

     「これなら、ラストシーンまで勢いを持続できそうね。良いことだわ」

     他の皆には聞えないように、京子さんがそう小さく私の耳元で囁いた――。


    *続き | 第54話 永年契約[イクス]
    *目次 | 長編小説『Second Wind』

     
     
    長編小説『Second Wind』を連載中。 華やかな世界の片隅で、静かに止まってしまった時間が 再び動き出すまでの物語。 静かな始まりから、やがて運命を揺るがす奔流へ。