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Second Wind第99話 察峙唯

    Second Wind

    第2ç«  霧の䞭の岐路
    第99話 察峙唯


     通路に出た瞬間、少し先にあるベンチから長身の圱が立ち䞊がるのが芋えた。

     黒を基調にしたステヌゞ衣装。
     掟手な装食があるわけではないが、動くたびに生地の光沢がわずかに浮かび、鍛えた腕の線がいやでも目を匕く。それが圌だず気づくたでに、そう時間はかからなかった。

     突然のこずでさすがに動揺はしたが、京子さんの目もあるので、そうず気づかれないよう玠っ気なく振る舞う。

       近づくに埓っおわかる、緊匵感に満ちた圌の衚情。
     簡単に枈む話でないこずは、すぐに察しが぀いた。

     圌ずの距離が、䞀歩䞀歩近づく。
     やがお圌は、私たちの目の前に立぀ず、意倖にもにこやかな衚情で、瀌儀正しく深々ず䞀瀌をした。

     「ご無沙汰をしおいたす。突然すみたせん、こんな堎所で」

     「  おはようございたす。䜕か、ご甚ですか」

     京子さんの目が譊戒するように光り、抑揚のない声で応じる。

     そんな圌女の様子に恐瞮したように䞀床頷くず、むクスさんは持っおいたバッグから二枚のCDを取り出しお、私たちそれぞれに差し出した。

     「新しい舞台のアルバムが出たしたので、ぜひ聎いおいただきたいず思っおお持ちしたした。ちょうど僕らも、今日ここで収録があったものですから」

     『STARDUST』――。パッケヌゞには、そう曞いおある。

     圌の髪はしばらく芋ないうちに分け目が倉わり、少し䌞びお、色も黒ぞず戻っおいた。

     京子さんのような敏腕マネヌゞャヌずいえども、他ならぬタレント本人からこれほど玳士的に仕事の話を持ち出されおしたっおは、無碍むげにもできない。
     嘘の぀けない圌の衚情からは、ずおもそれだけずは思えない䜕かがにじんでいたが、それでもなかなか賢いやり方だった。

     「  これはご䞁寧に。ありがずうございたす」

     無蚀を貫いおいた京子さんが、CDにちらりず目を萜ずし、意味深なほどゆっくりずした動䜜でそれをバッグに収める。
     それをしっかり芋届けるず、圌は぀いに切り出した。

     「それで  本番前のお忙しい所、倧倉申し蚳ないのですが。唯さんに、ほんの少しだけお時間をいただきたいのですが」

     そう蚀っお、私をひたず芋据える。

       憮然ずした衚情だった。
     圌はあくたで笑顔を貫いおはいたが、それは明らかに、タヌゲットを定めた挆黒の獣の目だった。

     ぀いに来たか、ずいう様子で、京子さんの目぀きが䞀瞬険しくなる。
     そしお少し睚むように圌を芋、私を振り返った。

     京子さんず圌、二人の芖線に亀互にずらえられ、重苊しい気たずさが空間を支配する。

     「  わかりたした。本圓に、少しだけでよろしければ。京子さん、申し蚳ないけど先に行っおいおください。すぐに向かいたす」

     こみ䞊げおくる溜め息をそっず呑み蟌んで、私はただそう答えるしかなかった。


     京子さんは䞀瞬、目を现めお探るように私の顔を芋たが、最終的には頷いおくれた。
     倚少の嫌味も入っおいたのか、すれ違いざた圌に䌚釈し、そのたた楜屋ぞず姿を消す。この埌のこずを考えるずいろいろず気が滅入るが、ずにかくこういう堎合、圌女が私にある皋床のこずを任せおくれるのは有り難かった――。

     折りしも、最寄りのスタゞオで番組収録が始たり、人通りが途絶えた。

     「これからカメラリハなので、手短にお願いしたす」

     結局のずころ、埅ち䌏せに他ならないこの匷匕なやり方に、私はさすがに憀りを隠せなかった。簡朔にそれだけ告げるず、口元を結び、圌の顔を真っ正面から芋据える。

     「こんな倱瀌なこずをしお、申し蚳なく思っおいたす。  ただ今日は、どうしおも盎接、貎女ず話がしたくおここぞ来たした。僕もすぐに次の仕事に向かわなければなりたせん。お手間は、取らせたせんから」

     〈有石ありいし唯ゆい〉に睚み぀けられおも、たったく匕く気配を芋せない。たるで揺るぎない炎を思わせるような、真っ盎ぐで曇りのない匷いたなざしが私をずらえおいた。

     新しい舞台のコンセプトに合わせたものらしい、軜快な服装ず髪型。口調はあくたで穏やかなのに、その目には、誰の蚀葉をもはねのけるような頑なな光が朜んでいた。

     「  」

     口元を固く結び、ただ無蚀で圌を芋返す。
     
     こんなやり方をされお私が愉快ではないこずを、少しでも圌に知っお欲しかった。しかしそんなこずは芚悟でもしおいたかのように、圌もたた埮動だにしない。

     そしお――

     「もう少し、僕を信じおもらえたせんか」


     圌の声が、人けのない廊䞋に䞍思議なほど響いた。


    続き  第100話 呪瞛唯
    目次  長線小説『Second Wind』


     
     
    長線小説『Second Wind』を連茉䞭。 華やかな䞖界の片隅で、静かに止たっおしたった時間が 再び動き出すたでの物語。 静かな始たりから、やがお運呜を揺るがす奔流ぞ。