
Second Wind|第107話 “秋”と“冬”[唯]
Second Wind
第3章 運命の輪
第107話 “秋”と“冬”[唯]
「二部作?」
会議室のソファにもたれて台本を手にした私は、思いがけない話に驚きを隠せなかった。
目の前で、京子さんがコーヒーを片手に、窓の外をじっと見つめている。
「そう、この秋と冬の撮影で。貴女に、新作映画二部作の主演の話がきているの」
先日、〈有石唯〉として “華麗なる復帰” を果たしたとはいえ、実際に放映が済んだのはイクスさんとのあのドラマだけのはずだ。正直、まだそれほど大きな仕事の話が舞い込むとは考え難かった。
「まだ一本ドラマに出ただけなのに、いきなり映画、しかも二部作だなんて。いったい、どういうわけ?」
素直な疑問が、口を突いて出る。
京子さんはコーヒーテーブルを挟んで私の向かいに周り込むと、腰を下ろしてカップを静かに置いた。
「一言で言えば、貴女の復帰を待ち望んでいた人間が思いのほか多かったということね。今回の作品は、二つともあの美作監督がメガホンを取ることになってる。貴女を主演にというのは、監督自身のたっての希望なの」
美作達治監督――。なるほど、それで少し事情が呑み込めてきた。彼は、かつて私が十代の頃にドラマで初めて殺人者を演じた時の監督だった。
「数年前に、彼が映画の世界に進出したのは知っているわね? どうも以前から撮りたいと思っていた作品があったみたいなの。これなんだけれど」
京子さんはそう言うと、美しい装丁の本を二冊、コーヒーテーブルの上に広げてみせた。
『玻璃の夢』。
『冬苑の灯』。
著者は共に、 “御子柴巴”となっている。
「これ……」
その表紙には見覚えがあった。どちらも、高名な文学賞を受賞した人気女流作家の手による大作だ――。
「読書家の貴女のことだから、読んだことがあるのではなくて?」
京子さんの言う通り、私にとってはどちらも既読の作品だった。それだけに、復帰したばかりの私に白羽の矢が立ったということに、ある種の興奮を覚えずにはいられなかった。
なぜなら、この両者に共通するテーマは、“禁じられた恋”――。
「どちらも哀しくて美しい話よ。とてもね。美作監督も、そこに惚れ込んでいつか映像化したいと考えていたようね。そして、それなら主演は貴女しか考えられないって」
“この美しくも悲しい愛の物語を、ぜひ有石唯主演で映画化したい”――。
先日のドラマ『Superstar』の成功を受けて、監督自身がスポンサーに掛け合い、制作にまでこぎ着けたということだった。
私はその日、京子さんから脚本をもらい、自宅に持ち帰って読みふけった。
熱病のような恋と、凍てつくような愛――。
私は時間を忘れて没頭し、それぞれの世界に魅了されていった。
目を通し終わった頃には、私の心は決まっていた。
それがまさか、自分とイクス、そしてキオさんをも巻き込む運命を招くことになるとも知らずに――。
*続き | 第108話 意外な相手役[唯]
*目次 | 長編小説『Second Wind』