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Second Wind|第108話 意外な相手役[唯]

    Second Wind

    第3章 運命の輪
    第108話 意外な相手役[唯]


     「……」

     数分前に運ばれてきた網焼きの盛り合わせが、誰に焼かれることもなく所在なげに鎮座している。

     この日、私たちは何度目かの夕食を共にしていた。

     前日の夜、いつものように彼から深夜のメールを受けた私は、一瞬、映画のことを告げようか迷った。

     “相手役は、ARKLINEアークラインのL・キオに決まった”――。

     半ば神妙な面持ちで電話を切った京子さんからその報告を受けたのは、数日前のある夕方のことだった。

     目下進行中の、連作映画の第一作目となる『玻璃はりの夢』のキャスト候補の中に彼の名があるのは知っていた。けれど、候補者は他にも何人もいたし、まさか本当にそんな展開になるとは、正直思っていなかったのだ。

     日本での活動に拍車をかけたい彼らにとって、これがまたとないチャンスになるのはわかっている。しかし、男女の禁断の愛を本格的に描く今作には、濃厚なラブシーンも多い。監督の意向を聞く限り、場合によっては公開時にR指定を受ける可能性すらありそうだった。

     なにより、私の相手役は “日本人” ――。

     外国育ちという設定になってはいたが、それでも海外のファンを多く抱えるキオさん側にとっては、少なからず懸念材料となるはずだ。しかも、ストーリーの主軸となるのは、禁断の恋。すなわち、“不倫” だった。

     ごく最近まで姦通罪が適用されていた国もあるなかで、自分たちのスターがそんな役を演じることをファンが容易に受け入れるとはとても思えなかった。なのに――。

     「結局、結末がハッピーエンドにはならないということで、折り合いが付いたようね」

     どちらかの “死” を伴う、悲劇的な結末。所詮、不倫とはそういうもの――。それならば、センセーショナルな話題性はあれど、ARKLINEのイメージは損なわないという読みなのか。

     (たとえリスクを冒してでも、話題性を取る)

     つまり、世評やファン層を綿密にリサーチした上で、あちらの事務所がそう判断したということなのだろう。

     私は世界に拡大を続ける巨大プロジェクト・ARKLINEの大胆さと強かさに、改めて舌を巻かずにはいられなかった。



    *続き | 第109話 わずかな沈黙[唯]
    *目次 | 長編小説『Second Wind』


     
     
    長編小説『Second Wind』を連載中。 華やかな世界の片隅で、静かに止まってしまった時間が 再び動き出すまでの物語。 静かな始まりから、やがて運命を揺るがす奔流へ。