
Second Wind|第96話 閉ざされた扉[イクス]
Second Wind
第2章 霧の中の岐路
第96話 閉ざされた扉[イクス]
あの夜、別れて以来、彼女とは連絡が取れなくなった。
……自分でも、まさかこんな急展開で二人の関係が進むとは思っていなかったので、次の行動につい慎重になっていた。とにかく自分の本気さを伝えるために、すぐにメールだけは送ろうとしたものの、なかなかスムーズに言葉が出てこない。
何を書いても、どんな言葉を紡いでも――。
何もかもがうわべだけになりそうで、上手く気持ちを伝えられる気がしなかった。
きちんと届かない気がした。
やはり直接会って、彼女の声が聞きたかった――。
音沙汰もないまま、二日が過ぎようとした頃、彼女はもはや自分から連絡してくるつもりはないのではないかと悟った。
このままでは、彼女とのあの夜が本当に夢のままで終わってしまう。
僕は、意を決してついにメールを書いた。
《 イクスです。
あれからどうしているか、ずっと気になっています。
直接会って、話がしたい。お会いできませんか? 》
有石唯――。
実際の年齢だけでなく、考え方も行動も、おそらくすべてにおいて僕より大人の女性。あれだけ魅力的なひとなのだから、当然、誰か別に特定の相手がいたっておかしくはないだろうと思った。
(彼女にとって、あの夜がほんのひとときの気まぐれでしかなかったとしたら……?)
そんな不穏な考えが、僕の頭をよぎらないはずはなかった。
けれどあの夜、彼女が見せてくれたあの瞳が、気の迷いだったなんてとても思えない。
いや、思いたくない――。
僕の腕に抱かれている間。愛し合っている間。
吐息と吐息が重なり、視線が交わったときの、優しく揺れる切なげなまなざし――。
彼女は、本当に美しかった。
それに、これまで見たこともなかったような、安らぎにさえ近い表情をしてくれていたと思う。
日に日に大きくなる不安を抱えて、僕は、彼女からの沈黙が、ただただ辛かった。
*続き | 第97話 別れのメール[唯]
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