
Second Wind|第87話 画面の向こう[イクス]
Second Wind
第2章 霧の中の岐路
第87話 画面の向こう[イクス]
「男性一人のお部屋に伺ってしまった私も悪いんですけれど、せっかくですから、イクスさんの剣舞、どんなふうに仕上がったのか拝見したかったんです。……でも、こうして気を遣わせてしまうのなら、やっぱりお断りすべきでした。すみません」
……彼女のその言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
(俺は、なんて馬鹿なんだ…。自分一人で、勝手に空回りして)
彼女はずっとこんなふうに気遣ってくれていたのに。よけいなことばかり考えて……変な期待なんかして。
彼女と――有石唯さんと二人でDVDを観られるなんて、それだけでもう、奇跡みたいなものなのに。
いてもたってもいられなくなり、僕は足早にカウンターから出ると、自分の持てる限りの日本語力を駆使して詫びを述べた。
「いや、そんな……! 本当はこちらこそ、失礼なお誘いをして申し訳なかったんです。その、女性を……いきなり自分の部屋に呼ぶだなんて。もちろん、失礼は重々承知だったんですが、どうしてもあのVTRを唯さんと一緒に観たくて――。これは僕の、本当に僕の側の、わがままです」
その後、僕らはなんとかワインを飲むことで落ち着いて、ソファに揃って腰を下ろした。
近づきすぎて、彼女を不安にさせないよう、失礼にならないよう、でもよそよそしくはなりすぎないように、慎重に距離を開けて場所を取る。
僕は居ずまいを正し、彼女の方に向き直ると、彼女にワイングラスを渡して気分を一新するようにあえて元気良く言った。
「せっかくこうして時間を取っていただけたんですから、もったいないですよね。どうか少しでもくつろいでください。僕の剣舞は、あまり自信ないですけど、楽しい時間を過ごしましょう!」
……いよいよ、VTRが始まった。
番組はまず、これまでの流れをダイジェストで紹介する。
今夜は彼女に剣舞の成果を見せたいという想いが勝って、半ば強引に誘ってしまったが、よくよく考えてみると、お世辞にも "華麗" とは言い難い自分の練習風景や本番での失敗などを見られるのはひどく恥ずかしい気もした。
自分でも時折、変な汗がにじむのがわかって、思わず何度か鼻に手をやる――。
「ARKLINEが誇る、ステージの王者・イクス、果たして超高難度の技を披露できるのか!?」
ここで番組は、忙しいスケジュールと過酷な練習の合間に、実は僕が怪我を負っていたというエピソードを流す。
映し出される、スペインでの練習シーン。
さすがにそこは、番組のメイキング用に撮影されたものなので本当の苦労は映し出されていないのだが、それでも唯さんの反応をちらりと窺うと、ひどく真剣なまなざしで観ていてくれる気配が伝わってきた。
……しかし、異変に気付いたのは、本番の最終シーンでのことだった――。
*続き | 第88話 砕けた仮面[唯]
*目次 | 長編小説『Second Wind』