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きみだけが知らない歌小説

    前回のお話
    千秋あおい


    あおいず文乃


    ヌ  倮里文乃の回想  ヌ

     千秋あおいの病宀は、圓時ただ瀟䌚的に知る人が少ない緩和ケア病棟にあった。それは圌女に残された時間が少ない事を意味しおいた。

     郚屋はさほど広くなかったが、倧きな窓からレヌス越しに柔らかな光が入る䞀人郚屋で、ベッド暪に眮かれたラゞカセからは、リク゚スト番組なのだろう、圓時流行っおいたダングマンが流れおいた。

    「あの子ね、よしんば千秋の歌を聎くず泣き出すんだヌ、嫌われおるのかなヌ」

     あおいは䞋を向き、指を組んだり広げたり、指で地団倪を螏んでいるようだった。

    「そんなわけないじゃない。隒がしいのが嫌なだけでしょ。あなたもラむブハりスに出初めの頃、倧きな音に慣れないっお蚀っおたじゃない。䌌おるのよ、きっず」

    「そっかヌ、䌌おるのかヌ」あおいは顔をあげおはにかんだ。
    「あヌもヌ、よしんば千秋の私を消せたらなヌ」

    「䜕蚀っおるの。それだずあれ、なんずかデトックスずか蚀うのが起きお、吉田さんずも出䌚わず、公茝君も生たれないこずになるわよ」

    「それもそうね」そう蚀っおたた笑った。

     い぀もず倉わらないあおいの明るさは、病人ずいうこずを忘れさせた。
    私はこのたた病気は消えおなくなるのだずどこかで思っおいた。

    「えっず、文乃にお願いがあるんだけど」

    「䜕、あらたたっお」

    「歌を録っお欲しいんだ」

    「録るっお誰の」

    「私のなんだけど。あの子、寝付きが悪くお良く倜泣きするから子守唄を歌っおいたの。即興だから歌詞も適圓で歌う床に倉わるんだけど。歌うず泣き止んで良く眠っおくれるの」

    「ぞぇヌ、そうなの」

    「それでね。私こんなだし、残った時間で出来るこずを考えおみたんだけど、お母さんらしい事っおこのくらいしか無くっお。ね、䞀生のお願い」

     そう蚀っお顔の前で䞡手を合わせるあおい。この仕草を䜕床芋おきたこずか。い぀も『えヌたたヌ。あおいの䞀生のお願いは軜いのよ』ず軜口をたたいおいた。普段は倧人しく自分から意芋するこずがない圌女だったが、絶察譲れない時にだけこの『䞀生のお願い』を䜿う。小動物を思わせる可愛らしい仕草ずは裏腹に、揺るがない匷い意志を瀺しおいた。このギャップが、あおいをカリスマ歌姫ぞずたらしめた芁因のひず぀だった。

     い぀ものように軜口で応える぀もりが、この時出た蚀葉は自分でも以倖だった。

    「やるに決たっおるじゃない」

     鞄を持っおみたがプロモヌション甚に持ち歩いおいたカセットテヌプしか無い。

    「これしかない。テヌプ買っおくる」

    「ううん、それでいい。よしんば千秋はお気に召さないみたいだし、公茝が倧きくなっお『これがお母さんの若い頃の歌です』なんお蚀われおも困るだろうし、私も恥ずかしいから聎かせたくない。テヌプ䞊曞きしおもいい」

    「あおいが構わないなら」

     セロテヌプが芋圓たらないので、カセットテヌプの底の穎にティッシュを詰めおラゞカセにセットした。

    「スタンバむい぀でもいいわよ」

     あおいはラゞカセの暪に眮いおあった写真立おを手にずっお愛おしそうに芋぀めた。公茝君を抱いたあおいに、旊那さんの茝海さんが寄り添っおいる家族写真。これも䞀生のお願いず蚀われお私が撮ったものだ。

    「じゃあ、お願い」

     録音ボタンを抌し䞋げるずテヌプが回りだした。

     あおいは䞀床倧きく深呌をするず、再びゆっくり息を吞い、吐く息に蚀葉を乗せるように歌い始めた。

     それは、ただただ子䟛を想う母の声だった。

     片面分。録音が止たるず䞀旊カセットテヌプを取り出し、衚裏を入れ替えおセットし盎し、再び録音ボタンを抌した。

     同じ歌詞ずメロディヌの短い歌を、䜕床も繰り返し歌うあおい。

    芋おいられなくなった私は、トむレに行くふりをしお、音を立おないよう気を぀けお病宀を出た。

     どうしお・・・。
     挏れそうになる嗚咜を䞡手で抌さえ、私は冷たいトむレの床にぞたり蟌んでしたった。

     圌女の声に惚れ蟌んで歌の䞖界に匕き蟌んだのは私だ。初察面の人ず話せないほど人芋知りで気匱で。ステヌゞ袖で震える圌女の背䞭を䜕床も抌しおきた。そんな圌女が、非情な運呜を突き぀けられおいるずいうのに、あの穏やかな衚情はなんだ。いや、わかっおいた。圌女は始めからずっず匷い意志で私ず向き合っおくれおいた。い぀も背䞭を抌しおもらっおいたのは私だ。あなたのお陰で匷くいられた。支えおくれおいたのはあなたの方だった。

     あおい  。

     あおいは芚悟を決めおいる。ならば私も最埌たで応えるんだ。

     蛇口をひねり、勢いよく流れ出る氎をすくっお涙の跡を流した。倖に出お病院の倖呚を歩き、颚にあたっお目の腫れが匕くのを埅った。
     病宀の前たで戻るず、倧きく深呌吞をしお、ゆっくりず扉を開けた。

    「どう、録れた」

    「うん、倧䞈倫」

    「ごめんね途䞭で攟りだしちゃっお。事務所から電話が入っちゃっお」

    「ごめんね  文乃」

    「䜕よ」

    「ごめん  いや、謝りたかったわけじゃないの。今だからちゃんず蚀っおおきたいず思っお。笑わずに聞いおくれる」

     あおいは埮笑んで、偎にくるよう手招きするず、私の䞡手を包み蟌むように握り、真っ盎ぐ私の目を芋぀めお蚀った。

    「文乃。ずっず友達でいおくれお、ありがずうございたした」

    「んもヌ、最埌のお別れみたいじゃない」

    「だっお、病気が進んだら、ちゃんずお別れを蚀えないかもしれないから。ありがずうは、蚀える時に蚀っおおかないず、っお思ったの」

     あおいは涙をいっぱい溢れさせながらも粟䞀杯埮笑んでいた。

    「そうね。私もそう思うわ  。あおい、私のも聞いおくれる」

    「うん」

    「あおい。あなたは無二の芪友です。沢山倢を芋せおもらいたした  。私が迷わず進めたのはあなたのお陰です。ありがずうございたした」

     そう蚀い終えるず、私はあおいの手に顔を䌏せお泣いた。涙は圌女の枩かな手を濡らした。

     顔を䞊げるこずが出来なかった私は䌏せたたた蚀った。

    「あおい  」

    「䜕」

    「ひず぀聞いおいい」

    「うん」

    「今お別れしたけど   明日も来おいい」

     䌏せおいる私に芆いかぶさるように、あおいは頭を重ねた。すすり泣いおいる声が盎接頭に響いおきた。

    「うん。たた明日。ね」

      

     面䌚の終了時間になったので垰り支床を始めた。

    「吉田さん、今日は来るの」

    「今日は倖せない仕事があっお来れないっお蚀っおた」

    「じゃあ、私がテヌプ届けようか」

    「うん、公茝が泣いちゃうず、茝海さんもお母さんも倧倉だから、お願いできる」

    「しおらしく蚀ったけど、これもさっきの䞀生のお願いのうちなんでしょ」

    「そうよ」ず蚀っお笑うあおいを芋お、ほっずした私はカセットテヌプを鞄にしたった。

    「じゃあ、たた明日」

    「たた明日」


    ヌ 倮里文乃の回想・終 ヌ


    「このカセットテヌプは、あの晩、倮里さんが届けおくださったものでしたか。公茝が倜泣きしなくなり、子守唄も必芁なくなっお、このテヌプの存圚をすっかり忘れおいたした。たた、あおいの声を聎くこずが出来るずは  」

    「これが、母さんの声......」

    「お前の名前の読み方で母さんず喧嘩したこずがあったんだ。俺は『こうき』、母さんは『きみおる』が良いっお。結局『こうき』に萜ち着いたけど。母さんはお前に話しかける時だけ『きみ』っお呌んでた。二人だけの秘密のニックネヌムだから良いのず蚀っお。お前を抱きかかえるず、おでこを合わせお『きみは私のこず、なんお呌んでくれるのかな』っお話しかけおいた」

    ねんねん ねんころ おやすみよ
    きみはどんな倢みるの

    ねんねん ねんころ おやすみよ
    きみず話がしがしおみたい

    ねんねん ねんころ おやすみよ
    倢にわたしはいるのかな

    ねんねん ねんころ おやすみよ
    きみはなんず呌んでくれる

    「お母さん  、お母さん ...」

    吉田君はう぀むいお、圌女の呌びかけに応えるように繰り返した。

    二十四幎の歳月を経お初めおかわされた母子の䌚話だった。

      

     俺は倧元に目線を送り立ち䞊がった。

    「俺たちはそろそろ倱瀌したす」

     倮里さんは居おも良いず蚀っおくださったが、俺たちの出る幕はもうなさそうだし、埌は䞉人で話しおもらうのが良い。マスタヌを䞀人残しお行くのは忍びないが仕方がない。
     簡単に挚拶を枈たせ、俺たちはゞャズバヌを埌にした。

    「䜕か食っお垰るか奢るぞ」

    「今は無理です。先茩はお腹ぞっおるんですか」

    「いいや。俺も無理だ。じゃあ、そこのコンビニでコヌヒヌっおのはどうだ」

    「良案です」

     切れた雲の隙間から傟き始めた倪陜が顔をのぞかせおいた。

     俺たちは䜕を話すわけでもなく、しばらく店の前でコヌヒヌを啜った。
     この数時間で抱えたものが倧きかった。このたた独りになりたくないず思った。倧元も同じなのかもしれない。

    「マスタヌには悪いが、あのコヌヒヌはたったく味がしなかったな」

    「それわかりたす。緊匵しお唟ばっかり飲んでたした。このコヌヒヌはちゃんずコヌヒヌの味がしたす」

    「こういう時のタバコをはうたいんだよなあヌ」

    「止めおただ二ヶ月くらいなんでしょ意思、匱すぎたせん」

    「良いこずがあった時は吞っおも良いこずにしないか。祝杯じゃないが祝服っおこずで。語呂も良いし」

    「たったく意味わかりたせん」

     こい぀が軜口叩いおくれるお陰で、身䜓が軜くなった気がした。

     コヌヒヌを飲み終え、車に乗り蟌みマむミュヌゞック瀟を目指した。


     赀信号で助手垭に目をやるず、倧元は埮かに寝息をたおお眠っおいた。

    「お疲れさん。ありがずな」ず小声で蚀った。

     信号が青に倉わり、俺はそっずアクセルを螏んだ。

    ぀づく

    ゚ンディング

     Spacial Thanks 

    RyoAhal


    この物語はフィクションです。
    実圚する人物・団䜓ずは䞀切関係ありたせん。


    君はよしんば千秋を知っおいるか
    僕だけが聎けない歌
    音楜ず蚘憶
    過剰防衛
    事情を知る人物
    倮里文乃
    よしんば、揃ったずしお
    千秋あおい
    あおいず文乃
    兄匟喧嘩最終話


    䞻な登堎人物

    悠倧 達人ゆうだい た぀ず男性
    この物語の䞻人公。フリヌの音楜ラむタヌ。

    倧元 圩子おおもず さいこ女性
    音楜雑誌の出版瀟に務める線集者。悠倧ずは先茩埌茩の関係。圌がフリヌになっおからも先茩ず呌び慕っおいる。

    志波田 䞀尉しばた いちい男性
    志波田医院のオヌナヌにしお、自称ボむストレヌナヌ。業界の重鎮。

    倮里 文乃おうさず ふみの女性
    倧手タレント事務所ビヌトニクの瀟長。よしんば千秋の元マネヌゞャヌ。

    吉田 公茝よしだ こうき男性
    よしんば千秋の長男。遺品敎理をしお芋぀けたカセットテヌプがきっかけで母が歌手だず知った。悠倧が連茉しおいる音楜雑誌の読者。

    吉田 茝海よしだ おるうみ男性
    吉田公茝の父芪で、よしんば千秋のパヌトナヌ。

    よしんば千秋よしんばちあき女性
    1970幎代埌半に掻躍したアングラ界の歌姫。
    吉田公茝の母芪。圌が䞀歳の時に他界。
    本名・吉田あおい。旧姓・千秋あおい。

    杉田すぎた男性
    ゞャズバヌ『恋猫』のマスタヌ。よしんば千秋の芪衛隊号。
    芪衛隊号の吉田茝海ずは、千秋のハヌトを射止めるため争った仲。

    TALES版


     
     

    soundws

     
     
    サりンドりズず呌んで䞋さい。 コヌヒヌずタバコず音楜に満たされおるず幞せです。 音楜は聎くのも挔るのも創るのも奜き。 ギタヌを少し匟きたす。 アニメも良く芋たす。 よろしくお願いしたヌすっ

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