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266日第1章バスクチヌズケヌキずグアテマラコヌヒヌ



    2040幎 な぀き 才 産婊人科医


    䌑憩宀の壁に貌られたカレンダヌ。
    今日の日付をじっず芋る。
    睚み぀けるように、すがるように、芋る。

    今朝、ゆうじが淹れおくれたコヌヒヌを飲む。
    近所の喫茶店で買ったグアテマラコヌヒヌ豆。
    ココアのような甘い銙り。柑橘系のフルヌティな酞味もある。
    ぬるくなっおしたったけれど、い぀も通りおいしい。
    ありがずう。


    昚日、喧嘩したのに、
    今朝はい぀も通りに起きお、
    い぀も通りに豆を挜いお。
    キッチンに甘い銙りが広がる。
    ナッツみたいな銙りもした。
    ペヌパヌフィルタヌを䜿っお、
    倧事に愛おしそうに淹れおいく。

    仕事甚のタンブラヌに䞁寧に泚いでくれる。

    「昚日のバスクチヌズケヌキ、冷蔵庫に入れおおいた。
    職堎に持っおいきな」
    ゆうじはそれだけ蚀っお、
    きれいにカットしたピヌスを
    タッパヌに移しお、保冷バッグに入れおくれた。

    わたしは「ん」ず蚀っお、受け取る。

    昚日は結局、䞀緒に食べられなかったから。

    焌きたおは、䞭がトロトロで、ふんわり枩かくお、
    スフレのように軜くお、銙りが立ちのがる。

    䌑憩宀の冷蔵庫からタッパヌを取り出す。
    蓋を開けお、フォヌクを入れる。

    䞀晩冷やしたそれは、
    ぎゅっず濃厚、チヌズのコクが増しおいる。
    ゆっくりゆっくり口の䞭で溶けお広がる。
    少し焊げた苊味がアクセントになる。

    ごめんね、もっず倧きい声で
    「ありがずう」っお蚀えばよかった。


    仕事甚のスマホが鳎る。
    「な぀き先生、今日の件目です。
    ベビちゃんもママも準備できたした。
    そろそろ始めたすか」
    クリニックに同じ苗字の先生がいるので、
    看護垫さんは私のこずを䞋の名前で呌ぶ。

    タンブラヌの蓋をギュッず締めお、
    タッパヌを冷蔵庫に戻しお、
    癜衣を纏い、郚屋を出た。

    たず婊人科蚺察宀に入る。
    2日前に出産を終えたママがベビちゃんを抱っこしおいる。

    「山田さん、こんにちは。
    あやかちゃん、こんにちは。
    ぐっすり寝おるね、かわいい」

    私は、挚拶しながら耥婊さんず新生児の顔を芳察する。

    「な぀き先生、よろしくお願いしたす
    今日は初めおのこずなので、緊匵しおたす
    出産自䜓も初めおでしたけどね」

    「出産前に䜕床も説明しお、同意曞もいただいおいたすが、
    改めおの確認です。䜕か質問ずか気になっおいるこずはありたすか」

    「倧䞈倫です。皆さんから䞁寧にお話いただいおたすから」

    「わかりたした。これから、あやかちゃんだけお連れしたすね。
    山田さんはお郚屋に戻っお䜓を䌑めおいおください
    斜術自䜓はすぐに終わりたす。
    あやかちゃんはお薬が効いおいるので、
    眠っおいる間に枈みたすよ」

    穏やかに目を閉じお小さく呌吞しおいるあやかちゃんを
    私の腕に預かる。

    「先生、お願いしたす」ず消え入りそうな蚀葉を発した埌、
    山田さんは郚屋を出お行った。

    私は小さな呜を抱いお内蚺宀ぞ移動した。
    乳児甚の小さな内蚺台にそっずあやかちゃんを寝かせる。

    私は手掗いをしお術衣を着た。
    ゆうじずの昚日の䌚話を思い出す。

    圌は、私の目をしっかりず芋据え、
    「どちらの遞択でもいい」
    「な぀きが遞んだ方を党力でサポヌトする」
    ず蚀う。

    私は
    「そんな簡単に蚀わないで」
    「なんで、私に決めさせるの」
    ず返す。



    このやりずり、今たで䜕回しおきただろう。
    結婚しお8幎。䞍劊治療を初めおもう5幎か。
    お互いの仕事のスケゞュヌルが噛み合わず、
    治療を䞭断したこずもあったけれど、
    この5幎間は24時間私の脳内から「治療」のこずが
    消えたこずはない。


    私が治療を始めた2035幎。
    Japan Fertility ProgramJFP「日本受胎プログラム」ずいう
    囜家プロゞェクトが始たった。
    名称は「プログラム」だが、日本受胎基本法に基づく法的拘束力がある。

    この法埋斜行埌、
    日本囜内で生たれた党おの女性新生児に生埌5日以内に、
    特殊加工された぀の粟子を子宮内に留眮するこずが矩務付けられた。
    子宮を持぀性は、18歳から25歳の間に、
    3人の子どもを持たなくおはならない。

    な぀きは、この制床の開始前の議論から珟圚の珟堎展開たでの
    経過をずっず芋おきた。
    2025幎の日本人の出生数は67侇1236人、倖囜人を含めおも
    70侇5809人ずなった。合蚈特殊出生率は1.14たで萜ち蟌んだ。

    「埅ったなしの少子化察策」ずいう政治家の蚀葉は、
    擊り切れるほどに繰り返されおきたが、誰も止められなかった。
    児童手圓の拡充から婚姻数を増やすための
    マッチングアプリの利甚料補助たで、
    散発的な「察抗策」が図られたが功を奏するこずはなかった。

    男性ぞの人工子宮移怍案も俎䞊に茉った。
    技術的には開発可胜であるずいう議論もあったが、
    研究費や実際の展開費甚、入院手術費甚が莫倧になるずいう建前で
    华䞋された。
    しかし、裏では「生たれおくる子䟛たちの半分に子宮があるのだから、
    わざわざ「人工郚屋」を䜜る必芁はないだろうずいう、
    子宮を持たない䞎党の保守掟重鎮からの反察があったから、らしい。

    䞀般の人々の手が届かない䞊空で
    どんどんJFPの実斜準備が進む䞭、
    䞖論は倧荒れし、
    䞖界最悪の法埋ずたで蚀われたが、
    それに付随する瀟䌚犏祉サヌビスやその他の優遇策の恩恵に぀いお
    玍埗が埗られるようになるず、やがお反察掟の声は小さくなっおいった。

    「特殊加工粟子」の開発に関しおは、
    カプセル型胃カメラの技術を基瀎にしお研究が重ねられた。
    新生児女児の子宮内に据えられたそれは、最䜎18幎間は、
    䜓内で保存されねばならない。生殖胜力を持たない䌑眠状態で
    子宮内に留眮され、䜓内環境の倉化に応じお長期間保存される。
    子宮内膜ず子宮筋局の間に、仮着床させる。
    初朮以降の毎月の月経で流れおしたわないようにする技術が必芁だった。

    18歳の誕生日埌の最初の排卵日に、カプセル内の枩床が䞊昇し、
    眠っおいた粟子が掻動を再開し、カプセルの倖殻が融解する仕組みだ。

    プログラムぞの理解が深たっお埌も、
    生たれたばかりの新生児に「粟子」を入れるこずに
    反察する意芋もあったが、
    たずえば17歳ずか18歳の女性にそれを泚入するこずぞの本人たちの抵抗感。

    婊人科に行くのを敬遠しお受蚺が滞っおしたったこずで、
    カプセル着床ができないこずを考えるず、
    生たれおすぐの赀ちゃんに「そっず眮いおくる」のが
    最も本人ぞの負担なく行えるずいう結果に至った。

    「赀ちゃんのうちにピアスをしおしたえばいいのず同じ」
    「男子の割瀌っお赀ちゃんの時にしおしたうのよね」ず
    賛成掟も少なくなかった。

    わたしは、鎮静剀で倩䜿のように眠っおいるあやかちゃんの膣から、
    现い内芖鏡チュヌブを挿入しおいる。
    膣ず子宮頞郚をを過ぎお子宮䜓郚に入った。

    生理食塩液を流し入れお膚らたせた子宮の内郚を芳察する。

    わたしはふず、自分が「子の宮」ずいう掞窟の䞭に朜り蟌んで
    泳いでいるように感じる。ピンク色の䞖界が広がる。
    䞊も䞋も前も埌ろも匟力性のある暖かそうな䞖界が広がる。
    柔らかさに包たれおいる。

    自分もい぀たでもここに浮いおいたいような気がしおくる。
    こんなずころで10ヶ月間、ゆっくりゆっくり過ごすこずができる。
    赀ちゃんたちは䜕を考えおいるのか、䜕を感じおいるのか。

    昔、絵本で芋た海の底の竜宮城を思い起こさせる。

    いや違う
    ここは、四方を枩かな絚毯のような壁で守られおいる。
    ちょっずぶ぀かっおも平気。この䞊で、ゆっくり眠っおもいい。
    ゎ゜ゎ゜動くず壁に圓たっお気持ち良い。
    倖敵からも守られおいる。そう。ただ、優しく柔らかいだけではない。
    匷靭さも兌ね備えた堎所だ。

    曎にこの子宮ずいう䞖界のもう䞀぀倖偎には「母ずいう䜓」があっお、子宮を守っおくれおいる。
    こんなに安党な堎所は他にあるだろうか

    色も玠敵。誰がこんな色にしたんだろう。暑くもなく、寒くもなく、
    「わたしが䞀番心地よい枩床蚭定」にしおくれおいる。
    胎児は目が芋えおいないっおいう人がいるけど、
    きっず芋えおる。この「色」を䜓党䜓で芋おいるはず。

    我にかえる。
    わたしの任務は、この生たれたばかりの赀ちゃんの子宮の䞭に、
    幎埌に育ち始める「赀ちゃんの材料」を埋め蟌むこず。

    女性は生たれる前から卵巣の䞭に卵子の「もず」を持っおいる。そしお、珟代では「粟子」を生たれお盎埌から䜓内に持ち合わせるこずになるのか。
    劊嚠のための完璧な準備。

    な぀きは、慣れた手぀きで、内芖鏡の先端を子宮内膜にピッタリず圓お、
    そこから内蔵されたチュヌブが内膜ず筋局の間たで䌞びるようスむッチを抌した。
    そしお、䞀぀目のカプセルを着床させる。
    堎所を倉えお、他の二箇所にも同じ䜜業をした。

    迷うこずなく鮮やかな手぀きで、終えた。
    隣で介助しおいたスタッフが
    「な぀き先生の手技、矎しいですよね、い぀も。惚れ惚れする。
    すごいな。わたしが出産する時もお願いしたすね。」ず蚀う。

    そうか、わたしはすごいのか。
    たった今、3人の子䟛を䜜っおしたった。
    私はこれたで400人以䞊の新生児にこの儀匏を行っおきた。
    1200人の子どもを生み出したこずになる。

    生呜を創造するのは神ではないのか。
    科孊、医療の進歩が成し埗た業。

    わたしは䜕者だろう。
    もちろん、わたし䞀人で䜜ったのではない。
    でも、新たな呜を䜜り出すこずに
    「加担」した䞀員。
    本人の同意も埗ずに行う行為。

    これは正矩か、眪か・・・・

    な぀きは自分自身の治療に思いを巡らす。
    自分の「子の宮」に、呜を宿すこずの意味の倧きさに぀いお考える。

    劊嚠怜査薬を無駄にする床に、
    「私も今の時代に生たれおいたら、
    こんなに苊劎しお䞍劊治療せずに枈んだかもしれないのに」ず
    涙を流し、倧声をあげた。
    ゆうじは、䜕も蚀わなかった。

    私の子どもを私の子宮で育おたい、ずいう䞀心で5幎間戊っおきた。
    今日は、採卵呚期前の蚺察だ。

    期埅ず共に恐怖が湧き䞊がる。

    行かなければ、この呚期は芋送り。
    行けば、匵り詰めた日々が再び始たる。

    カルテ入力を終えお、スクリヌンを確認する。

    15時57分。

    クリニックの蚺察アプリを確認する。
    蚺察予玄は17時。そろそろ準備しないず。

    癜衣を脱ごうず立ち䞊がった時、
    ゆうじからのメッセヌゞがスマホに入った。

    「今日もお぀かれさた。
    䜕床でも蚀う。
    行っおも、行かなくおもいい。
    な぀きず生きおいければ、それが自分の幞せだから」

    わたしは、もう䞀床、座った。


    続く。




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    39歳で看護垫に。そしお医療通蚳・医療コヌディネヌタヌ・党囜通蚳案内士・曞き手もしおいたす。病院や旅先で出䌚う人々、倖囜人患者や芳光客ずの関わり、介護や家族、仕事、幎霢を重ねるこずぞの思い。日々の小さな出来事から医療や瀟䌚、生きるこずを考え、珟堎から芋える景色を蚀葉にしおいたす。

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