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第6章|胡散臭い味方

    夢に必要なのは、才能だけじゃない。
    ガソリン代と高速代、少しだけ悪そうな大人の力がいる。
    その日、SlowRushは初めて“足”を手に入れに行った。


    「社長のとこ行く」

    ユウがそう言った時、ルナはちょうどペットボトルの水を飲んでいた。
    危うくむせそうになる。

    「社長って、あの社長?」
    ユイナが聞く。

    「他に誰がいるんだよ」

    スタジオの隅で絢音が小さく笑った。
    カイは壁にもたれたままスマホを見ているが、たぶん耳はこっちにある。

    社長。
    スタジオの大家で、Rustline Recordsの代表で、見た目だけは妙に胡散臭い男。
    革ジャンにサングラス、時にはダブルのスーツ。
    でも音楽の話をする時だけは、目の奥が少しだけ本気になる。

    「前から言われてるしな。所属しろって」
    ユウが言う。

    「入るの?」
    ルナが聞く。

    「入らない」
    ユウは即答した。
    「今はまだ」

    その言い方が、少しだけ強かった。
    ルナは頷く。
    ユウが頑固なのは知っている。
    でも、その頑固さが今は必要だった。

    「車は必要」
    ユウが続ける。
    「この人数で機材積んで回るなら、もう電車じゃ無理だ」

    「機材車って言ったら、やっぱハイエースだよね」
    ユイナが言う。

    「夢があるのか現実なのか分かんない言い方」
    ルナが返す。

    「どっちもだろ」
    ユウはそう言って、すでに歩き出していた。

    社長の部屋は、昼でも薄暗い。
    木と紙と煙草の匂いが混じる、古い大人の部屋だった。

    「相談があります」
    ユウが頭を下げる。

    「全国回るんだろ」
    社長は最初から分かっていたみたいに言う。
    「そろそろ来る頃だと思っていた」

    ユウは真っ直ぐ答えた。
    五人で回りたいこと。
    対バンも押さえていること。
    でも足がないこと。
    資金も、まだ足りないこと。

    社長は煙を吐いてから、机の引き出しを閉じた。

    「所属しろ」

    部屋が静かになる。

    「今は、まだ入りません」
    ユウは迷わなかった。
    「自分たちで一回、ちゃんと背負いたいんです」

    社長はしばらく黙って、それから口の端だけで笑った。

    「条件付きだ」

    「ワンマンの映像配信権をうちに任せろ。その代わりに中古のハイエースを用意する。ツアーの最低限の経費も支援してやる」
    ルナは思わず口を開いた。
    「映像を全部……? そんな簡単に渡していいの?」
    ユイナなら飛びついただろう。だがルナの胸には得体の知れない不安が渦巻いた。

    けれど、ユウは迷わなかった。
    「僕らは今、足が必要です。未来を見せられるなら、映像は差し出します。その代わり――このツアーで成功したら、次のステージを用意してください」
    社長はにやりと笑って、灰皿に煙草を押しつけた。
    「言うじゃねぇか。いいだろう。お前らが結果を出せば、考えてやる」

    事務所を出て、階段を下りる。

    「……すごいね」
    ルナが言う。

    「何が」
    「私、ちょっとビビってた」

    ユウは少しだけ笑った。

    「怖いよ」
    と、ユウは言う。
    「でも止まる方が怖い」

    数日後、スタジオの前にそれは現れた。
    錆びたボディ、塗装の剥げた白い中古ハイエース。ドアは重く、開けるたびにキーキーと悲鳴をあげ、シートの破れはガムテープで無理やり補修されていた。
    ルナは絶句した。
    「……これ、本当に走るの?」
    ユイナは大爆笑し、ユウは淡々と答える。
    「走れば十分だ」

    社長は肩を揺らして笑いながら、背を向けて言った。
    「バンドなんてのはな、どんなポンコツでも夢を運ぶ足があればいい。お前らの未来は自分で切り拓け」
    そう言い残して去っていった。


    夜、片付けのために残ったのはユウとユイナだった。

    さっきまで誰かがいた気配だけが、スタジオの中に薄く残っている。
    アンプの熱も、ドラムの余韻も、まだ少しだけ消えきっていない。

    ユイナはスネアの上に置いたスティックを弄びながら、ぽつりと言った。

    「今日のユウ、ちょっと怖かった」

    ユウは機材ケースの金具を閉めながら顔を上げる。

    「何それ」
    「いや、ちゃんと取りにいってたから」
    ユイナは肩をすくめる。
    「ハイエースも、その先の話も。ああいうの、昔のユウならもう少し遠慮してた」

    ユウは少しだけ黙って、それから笑った。

    「遠慮してる時間、もうないし」

    軽く言ったのに、その言葉だけは軽くなかった。

    ユイナは少しだけ目を細める。

    「だよね」
    それから、いつもの調子に戻すみたいに言う。
    「ついに、はじまるね」

    ユウは短く頷いた。

    「ああ、一歩ずつ進んでる」

    その返事で十分だった。

    三人で始めたバンドが、もう三人のままではいられないところまで来ている。
    でも、だからこそ見える景色もある。

    ユイナはスティックをケースにしまって、笑った。

    「じゃ、成功させよう。ポンコツハイエースごと伝説にしてやろうよ」


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    総目次|SlowRush

     
     
    📘 Novel × 🎵 Music × 🎥 MV すべてAIで創り続けるプロジェクト。 小説「Parallel Lights」を元にした楽曲 『Before the World…』を公開中。 小説・作詞・作曲・アレンジ・MVをSuno / Sora2 / Canva など

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