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第5章|五人席

    席が一つ増えただけで、未来の話し方まで変わる。
    五人で座るテーブルは少し狭くて、
    その狭さが妙に嬉しかった。


    スタジオ帰りのファミレスは、思ったより混んでいた。

    「四人席しか空いてないですね」

    店員が申し訳なさそうに言う。

    五人で顔を見合わせる。

    「じゃあ、ルナがそこね」
    ユイナが即決した。

    「なんで」
    「主役だから」

    主役、という言い方が冗談なのか本気なのか分からない。
    分からないまま、ルナは四人掛けのテーブルに追加された椅子へ座らされた。
    いわゆる、お誕生日席だ。
    でも特別扱いみたいで少し嬉しい。料理はたぶん一番取りづらい。

    三人の時にはなかった座り方だった。
    それだけのことなのに、妙に可笑しい。

    「狭い」
    ユイナが言う。

    「でも、嫌じゃない」
    絢音が言う。

    「なんだそれ」
    カイが笑う。

    ドリンクバーのコップが並ぶ。
    ポテトが来る。
    夜のファミレス特有の、安っぽい安心感がある。

    さっきまで鳴っていたGhostedの余熱が、まだ身体に残っていた。

    「あそこ、やばかったよね」
    ユイナが言う。
    「サビ前のブレイク入るとこ」

    「うん。あそこで一回、景色が真空になるのがいい」
    絢音が即答する。

    「言い回しが強い」
    ユイナが言う。

    「でも分かるでしょ」
    「分かる。分かるけど、なんか今の言い方だと私まで賢くなった気がする」

    ルナは小さく笑う。

    こんなふうに、同じ音の話ができる人間が一気に増えるとは思わなかった。
    三人の頃は、言葉にしなくても通じる代わりに、言葉にできないことも多かった。

    今は違う。
    誰かが言葉にしてくれる。
    その分、逃げられなくもなる。

    「で」
    ユイナがポテトをつまんだ。
    「どうする?」

    テーブルが少しだけ静かになる。

    ユウは水を飲む。
    ルナはストローを指で回す。
    絢音はメニューを閉じる。

    カイが最初に口を開いた。

    「やりたいです」

    即答だった。

    その言い方に、照れも格好つけもなかった。

    「今日の、もう一回やりたい」
    カイは言う。
    「というか、あれをこの先どうなるかまで見たい」

    ルナは一瞬だけ目を上げる。

    それは、誘う側が言いたかった言葉だった。

    絢音は少しだけ考えていた。
    考えている顔すら、どこか音楽的だとルナは思う。何でも音で処理していそうな人だ。

    「私は」
    絢音が言う。
    「条件付きなら」

    「条件?」
    ユウが聞く。

    「コンクールもあるし、大学もあるし、ピアニストの道をやめるつもりはない」
    絢音は淡々としていた。
    「ずっと一人で上まで行くつもりでいたから。たぶん、それは変えられない」

    その言い方は言い訳ではなかった。
    長い時間をかけて、自分の進む道を一つに絞ってきた人の声だった。

    「でも」
    絢音は少しだけ笑う。
    「今日のは、困った」

    「何に?」
    とユイナが聞く。

    「楽しかった」
    絢音は言った。
    「思ったより、ずっと」
    それから少しだけ視線を落とす。
    「実は、最初から少し気になってたし」

    ルナが顔を上げる。

    「SlowRush?」
    「うん」
    と絢音は頷く。
    「動画とか、ライブ映像とか、見てた。だから駅前で話しかけられた時、すぐルナだって分かった」

    ルナは少しだけ目を瞬かせた。

    「有名人てこと?」
    とルナが言う。
    「かなり」
    とユイナが即答する。

    「目立つ髪型してるからね」
    絢音は肩をすくめる。
    「でも、興味はあった。だから、ついて行ったんだと思う」

    それは思っていたより、ずっと嬉しい言葉だった。

    「じゃあ」
    とルナは言う。
    「行けるところまで、一緒に行こうよ」

    絢音は少しだけ目を伏せてから、頷いた。

    ユウも頷く。

    正式な加入の言葉は、思っていたよりずっと静かだった。
    でも静かなものほど、後で効いてくる。

    「世界いけるんじゃない?」
    ユイナが言う。

    「急だな」
    ユウが返す。

    「だってさっきの音、普通じゃなかったじゃん」

    誰も否定しない。

    否定したら、少しだけ嘘になる気がしたからだ。

    ユウは水を飲みながら、頭の中で別の計算をしていた。

    二人増える。
    全曲再編成。
    ツアーのセットリストも組み直し。
    予算も、移動も、宿泊も、全部が変わる。
    今までの計画は、半分くらい白紙になる。

    でもそれを、今ここで言うほど野暮じゃない。
    今はまだ、夢の話をしていていい。

    「五人でツアー、やばいよね」
    カイが言う。

    「やばい」
    ユイナが即答する。

    「話が早すぎてついていけない」
    絢音が言う。

    「曲も変わる」
    ユウが続ける。

    ルナはお誕生日席で、その会話を聞いていた。

    狭いテーブル。
    狭い未来。

    でも、不思議と窮屈じゃない。

    むしろ、前より広い。

    「もっと遠く行こうよ」
    ルナが言う。

    その言葉に、誰も笑わなかった。

    会計を済ませて店を出ると、夜風が少しだけ冷たかった。

    途中で、カイと絢音が別方向へ曲がる。

    「また連絡します」
    カイが言う。

    「次、いつ?」
    絢音が聞く。

    「すぐ」
    ユウが言った。

    その答え方が、妙に良かった。

    残ったのは、ルナとユイナ。

    二人で歩く。

    しばらく無言。

    それから、ルナがぽつりと言う。

    「なんかさ」

    「うん」

    「久しぶりに、あの頃みたいだった」

    「あの頃って?」

    「コンビニの前で、毎日くだらない話してた頃」

    ユイナが笑う。

    「あったね。武道館とか言ってた」
    「言ってた」
    「世界とか」
    「言ってた」

    少し間が空く。

    「あの頃のくだらない話、ちょっとずつ叶ってきたね」
    ユイナが言う。

    ルナは、すぐには返事をしなかった。

    でも胸の奥で、静かに頷いていた。

    くだらない話だった。
    無責任で、根拠もなくて、でも本気だった。

    そういう話だけが、人を遠くまで連れていくことがある。

    「次は、もっと遠くだね」
    ルナが言う。

    夜道に、二人分の足音が並ぶ。

    五人になった。

    まだ何も始まっていない。
    でも、もう始まっている気もする。

    その曖昧さごと、たぶん青春と呼ぶのだ。


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    総目次|SlowRush

     
     
    📘 Novel × 🎵 Music × 🎥 MV すべてAIで創り続けるプロジェクト。 小説「Parallel Lights」を元にした楽曲 『Before the World…』を公開中。 小説・作詞・作曲・アレンジ・MVをSuno / Sora2 / Canva など

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