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第9章 | 崩れる虚構

    終わったはずの事件が、まだどこかで息をしている。
    靄が晴れた瞬間、誰かの顔だけが見えなくなる。
    答えはいつも、静かな場所に置かれていた。


    佐久間が連行された翌日、警察内部は騒然としていた。
    半グレの実行犯と闇バイトは、紗耶のサイコメトリーで得た断片を手がかりに一斉に摘発された。
    流通ルートは潰れ、組織は壊滅状態に追い込まれる。

    だが黒幕――署長に届く決定打が足りなかった。

    署長は余裕を崩さない。
    事情聴取でも感情を乱さず、「証拠不十分だ」の一点張り。
    そういう人間は、だいたい“証拠のない場所”を住処にしている。

    さらに厄介だったのは、佐久間本人の状態だった。
    彼は組織との関係を「思い出せない」と繰り返す。
    嘘をついているようには見えない。だからこそ厄介だ。

    「隠しているというより……」
    宮本刑事が困惑する。
    「事件に関する記憶だけが抜け落ちている感じです」

    都合がよすぎる。
    ルナはそう思ったが、言葉にはしなかった。
    能力の存在を警察に説明できない。説明できないことは、存在しないことにされる。世の中は大体そうだ。

    宮本が帰ったあと、紗耶がぽつりと言った。
    「……思い出したことがある」

    事情聴取の最中に感じた違和感。
    頭の奥を撫でられるような、脳をかき回されるような不快感。

    「あのとき……署長が、私の記憶に触れようとした気がする」

    当時は混乱して気づけなかった。
    でも、佐久間が「知らない」と言い張る姿で確信に変わる。

    署長は、記憶を改竄できる能力者だ。

    「でも、紗耶の記憶は消されていない」
    シンが静かに言う。

    「完全に、じゃない」
    紗耶は首を振った。
    「嫌悪感が強すぎて……本能的に抵抗したのかもしれない」

    「能力者相手には効きにくい能力もあるのかもな」
    シンが補足する。
    「推測でしかないが」

    真実は分からない。
    ただ、署長が想像以上に厄介だということだけは、はっきりした。

    状況が動いたのは、それから数日後。

    夕刻、宮本刑事が喫茶店に現れる。
    疲労の色は濃い。けれど目には手応えがあった。

    「……佐久間が、証言しました」

    宮本は低い声で続ける。
    署長が組織と繋がっていたこと。
    命じられて証拠を隠蔽したこと。
    証拠は銀行の貸金庫にあること。

    昨日まで「思い出せない」と言っていた男が、核心を語る。
    靄が晴れた、と本人は言ったらしい。
    靄って、勝手に晴れることもあるけれど、誰かが掃くこともある。

    「どうして急に?」
    ルナが尋ねる。

    宮本は首を横に振った。
    「本人にも分からないそうです。でも証言は具体的で、場所も一致しています。これで署長を追い詰められる」

    数日後、署長の逮捕が報じられた。
    事件は、表向きには解決した。
    表向き、という言葉はいつも便利で、いつも不吉だ。

    その夜、シンは預言者に連絡を入れた。

    「……あなたのおかげで、どうにか収まりました」

    短い沈黙のあと、預言者は首を傾げる。

    「では、あの“鍵”には会えたのだな?」

    シンは、わずかに言葉を探した。

    「……いや。思い当たる人物はいたが、違った」

    「違った?」

    「少なくとも、あなたが言った“若い男”ではない」

    電話の向こうで、空気が静かに揺れた気がした。

    「妙だな」
    預言者の声に、珍しく迷いが滲む。
    「確かに私は見た。お前が、その男と交わる場面を」

    シンは答えない。

    「だが、その男だけは……どうしても輪郭が定まらない」
    「未来も過去も視える私の中で、そこだけが靄に覆われている」
    「能力の有無すら、掴もうとすると霧のように散ってしまう」

    「……一体、誰なんだ」

    シンの呟きに、返事はなかった。

    答えがなくても、世界は次のページをめくっていく。

    夜。
    ルナは古本屋の前を通りかかる。

    ガラス越しに見えたのは、本を整理する蓮の姿だった。
    埃を払い、背表紙を撫で、棚に戻す。
    いつもと変わらない、静かな動作。

    ――けれど。

    佐久間が記憶を取り戻したタイミング。
    「靄が晴れた」という言葉。
    胸の奥に、わずかな違和感が残る。

    「……偶然、だよね」

    呟いた瞬間、蓮がふと顔を上げた。
    穏やかに微笑み、軽く会釈する。何も言わない。
    何も言わない人ほど、よく語る。

    ルナは会釈を返し、そのまま歩き出した。

    背後で、古本屋の灯りが静かに揺れていた。


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    📘 Novel × 🎵 Music × 🎥 MV すべてAIで創り続けるプロジェクト。 小説「Parallel Lights」を元にした楽曲 『Before the World…』を公開中。 小説・作詞・作曲・アレンジ・MVをSuno / Sora2 / Canva など

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