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第13章|青い鳥の鳴く夜

    圧倒される、というのは負けることとは少し違う。
    むしろ、その音に触れたせいで、
    自分の中の何かが目を覚ましてしまうことに近い。


    Aosagiの本番は、やけに静かに始まった。

    歓声が大きくないわけじゃない。
    むしろ客席の熱ははっきりある。

    ただ、ステージに立つ前の空気が妙に澄んでいた。

    リアムはいつの間にか戻っていた。

    細い指でピックを回しながら、何も言わずにステージへ上がる。
    ルナは袖からその背中を見る。

    特別目立つ動きをするわけではない。
    なのに、空気が少しだけ変わる。

    こういう人がいる。
    大声を出さないのに、中心の温度だけを変えてしまう人。

    最初の一音で分かった。

    三人なのに、音が広い。

    渚のギターが道を作る。
    ノエルのドラムが、その道に体温を乗せる。
    リアムの低音は、ただ下で支えているわけじゃない。
    空気の流れそのものを持っていく。

    隙がない。

    でも窮屈じゃない。

    完成しているのに、生きている。

    ルナは、少しだけ息を止めた。

    (すごい)

    その言葉しか出てこない自分が悔しい。
    でも、その悔しさごと認めた方がいい時もある。

    渚のカッティングが入るたびに、景色が切り替わる。
    リアムは前に出すぎない。
    でも、前に出ていないわけでもない。
    歌とベースの間で、妙に柔らかい重心を作る。

    曲が進むにつれて、ルナの中に二つの気持ちが並んだ。

    一つは、単純な憧れだ。
    こういうステージに立ちたい。
    こういう空気を支配したい。

    もう一つは、もっと面倒な感情だった。

    今のSlowRushは、どこまで行けるんだろう。
    五人になったばかりの音で、
    この場所まで来れるんだろうか。

    その考えは、胸の奥を少しだけ冷やした。

    リアムが歌う。

    声は派手じゃない。
    でも妙に残る。
    目立つところだけを取ろうとしないから、逆に全部が耳に残る。

    ルナはふと思う。

    この人、何を考えてるんだろう。

    誘ったのはAosagi側だ。
    SlowRushをこのツアーに呼んだのも、きっとリアムだ。
    でも、その理由をまだちゃんと聞いていない。

    聞く必要が無かったとも言える。
    ツアーに呼ばれた。出る。
    それで十分だ。

    でも、目の前でこの音を浴びると、
    理由の輪郭が少しだけ気になってしまう。

    曲が終わる。

    歓声。

    照明が落ちて、また次の音が鳴る。

    ルナは、ふと三人だった頃のSlowRushを思い出す。

    まだ音が足りなかった頃。
    でも、不思議と自由だった頃。

    今は厚い。
    強い。
    表現できることも増えた。

    その代わり、
    考えなければいけないことも増えた。

    三人の頃は、一直線だった。
    今は少しだけ分岐が多い。

    Aosagiの三人を見ていると、
    その“分岐の無さ”が少し羨ましくなる。

    たぶん隣の芝生だ。
    分かっている。
    でも、音楽ってたまに、分かっていても羨ましくなる。

    ステージが終わる。

    袖に戻ってきたAosagiの三人は、妙にいつも通りの顔をしていた。
    すごいライブをした人間が、そのまま水を飲んでいる。
    そういうところまで少し腹が立つ。

    「すごかった」
    ルナが言う。

    渚がタオルで汗を拭きながら、少しだけ笑った。

    「ありがとう」
    「いや、ほんとに。三人であれはずるい」

    ノエルが吹き出す。

    「ずるいって何」
    「広いもん」
    ルナは言う。
    「人数の計算合ってない感じする」

    渚は少しだけ肩をすくめる。
    「そっちも、思ってたよりずっと攻撃的だった」

    「思ってたより、って何」
    とルナが言う。

    「配信よりライブの方が怖い」
    渚はあっさり言った。
    「ちゃんと空気変えるし」

    その言葉に、ルナは少しだけ笑う。

    「それは嬉しい」
    「でしょ」
    ユイナが横から入ってくる。
    「今日のうちら、わりとやばかったよね」
    「自分で言うなよ」
    ユウが言う。
    「でも、まあ、悪くはなかった」

    ノエルが頷く。
    「トップであれは強いよ」

    楽屋の空気が少しだけ明るくなる。

    ルナも笑っていた。
    ちゃんと笑えていた。

    でも胸のどこかに、別の熱がまだ残っている。

    Aosagiの音は、たしかにすごかった。
    それを認めることと、今日の自分たちが良かったことは、べつに矛盾しない。

    たぶんその二つを、今のルナはまだうまく同じ場所に置けないだけだ。

    スマホが震える。
    ユイナからだった。

    《今日の動画、もう回ってる》
    《あと、感想えぐい》

    スクロールすると、たしかに反応は良い。

    《五人体制やばい》
    《カイのギター強すぎ》
    《ピンク髪のボーカル、やっぱ華ある》
    《キーボードの子すご》

    そこで、ルナの指が一瞬止まる。

    “華がある”。

    褒め言葉だ。
    でも今日のルナには、少しだけ遠い。

    華って、なんだろうと思う。
    前に立つ理由になるものだろうか。

    ルナはスマホを閉じる。

    答えは出ない。
    でも、出ないまま進むしかない。

    たぶん今は、その途中なのだ。


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    総目次|SlowRush

     
     
    📘 Novel × 🎵 Music × 🎥 MV すべてAIで創り続けるプロジェクト。 小説「Parallel Lights」を元にした楽曲 『Before the World…』を公開中。 小説・作詞・作曲・アレンジ・MVをSuno / Sora2 / Canva など

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