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プロローグ|残響のあと

    五百人の歓声は、ライブが終わってもすぐには消えない。
    天井に貼りついたまま、しばらく人の心拍みたいに鳴り続ける。
    そういう夜だけ、世界は少しだけ自分たちの味方をしている気がした。


    渋谷のライブハウスは、まだ熱を持っていた。

    スモークの匂い。
    汗の残り香。
    アンプの唸りの余韻。

    照明が落ちているはずなのに、ルナの目にはまだステージが明るく見えている。

    ピンクの長い髪が、頬に貼りついていた。
    シェクターのギターを抱えたまま、彼女はステージの中央で天井を見上げる。

    夢みたい、と思った。

    十三歳の頃、渋谷の路上で歌っていた。
    誰も立ち止まらない夜もあったし、酔っぱらいに絡まれたこともある。
    寒さで指が動かなくなって、コードが押さえられない日もあった。

    それでも歌っていたのは、たぶんやめる理由より、続ける理由の方が少しだけ多かったからだ。

    その少しだけが、今ここまで自分を運んでしまった。

    「ルナ、片付け」

    ユイナがスティックをポケットに差し込みながら言う。
    ドラムを叩き終えたばかりなのに、相変わらず目がぎらついている。
    疲れているくせに、疲れた顔をしない。
    そういう人間はたいてい面倒だけど、バンドには必要だ。

    「余韻って言葉、知ってる?」
    ルナが言う。

    「知ってる。だから余韻が終わる前に次の準備すんの」

    ユウはすでにベースをケースに収めて、スタッフと何か話していた。
    落ち着いているというより、もう次を考えている顔だ。
    こういう時のユウは、だいたい誰よりも未来にいる。

    「五百人」

    ふいにユウが呟いた。

    ルナとユイナがそちらを見る。

    「やったな」

    その言い方は静かだった。
    大げさに喜ばないあたりが、いかにもユウらしい。

    「でも、まだ五百人だよ」
    ユイナが口角を上げる。
    「武道館だって行ける。ていうか、行く」

    ルナは笑った。

    こういう無茶を、ユイナは平気で言う。
    そして時々、本当にそうなってしまうから困る。

    「行こうよ、どこまでも」

    口に出すと、少しだけ現実味が増した。

    その夜、打ち上げの席でユウが言った。

    「全国ツアーをやろう」

    一瞬、沈黙が落ちる。

    グラスの氷が鳴る音だけが聞こえた。

    普通なら笑うところだ。
    金はない。車もない。スタッフもいない。
    マネージャーすらいない。
    いるのは、ピンク髪のギターボーカルと、目つきの悪いドラマーと、法学部のくせにバンド運営までやっているベーシストくらいのものだ。

    でも、その場の誰も笑わなかった。

    「やろう」
    ユイナが真っ先に言った。
    「ボロいハイエースでも借りてさ」

    ルナも頷いた。

    やれるかどうかじゃなくて、やるかどうかだ。
    そういう夜が、たまにある。

    その時点では、まだ三人だった。

    でも少し先の未来で、その音は変わる。
    良い意味でも、悪い意味でも。

    この時のルナたちは、まだ知らない。

    全国を回ることより先に、
    自分たちの音そのものが、もう後戻りできないところまで変わっていくことを。

    そして、五百人の夜を「始まりだった」と言い換える日が来ることを。


    次の話へ

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    📘 Novel × 🎵 Music × 🎥 MV すべてAIで創り続けるプロジェクト。 小説「Parallel Lights」を元にした楽曲 『Before the World…』を公開中。 小説・作詞・作曲・アレンジ・MVをSuno / Sora2 / Canva など

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