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第1章|未完成の曲

    三人のままじゃ届かない。
    そう思ったのは、弱くなったからじゃない。
    前に進むために、足りないものを認めたからだ。


    スタジオの床は、いつも少しだけ冷たい。

    理由は分からない。
    でもルナは、その冷たさが嫌いじゃなかった。

    ギターを抱えて床に座る。
    そうすると、十三歳の頃の自分に少しだけ戻れる。
    椅子にちゃんと座って作る曲より、床に座って生まれる曲の方が、だいたい信用できた。

    「……これさ」

    ルナはスマホを操作して、デモ音源を流した。

    歌とギターだけ。
    余白の多い曲だった。
    静かで、でもどこか落ち着かない。
    消えかけたものを、どうにか指先で掴んでいるみたいな旋律。

    ユイナがスティックを指で転がす手を止めた。
    ユウも腕を組んだまま、黙って聴いている。

    曲が終わる。

    「タイトルは?」
    ユウが聞く。

    「仮だけど、Ghosted」

    ユイナが顔を上げた。
    「幽霊だから消えるのか。確かにぽいね。」

    「っぽいんじゃなくて、そういう曲だから」

    言ってから、ルナは少しだけ視線を落とした。

    あの曲は、自分の中でまだ整理がついていない。

    儚くて、綺麗で、でも嘘みたいだった。

    「いい曲じゃん」
    ユイナが言う。
    「ちゃんとルナっぽい」

    「でも、止まってる」
    ユウが静かに言った。

    即答だった。

    ルナは苦笑する。
    「だよね」

    Ghostedは、たぶん三人のままじゃ最後まで届かない。

    歌とギターだけなら形になる。
    でも、バンドの曲として鳴らそうとすると、何かが足りない。
    音の厚みというより、もっと別のもの。
    前に出るための速度みたいなものが、どこかで足りなくなる。

    「……やっぱり、両方は無理かも」
    ルナはシェクターを抱え直しながら言った。
    「歌いながら、このリフちゃんと弾けたらカッコいいんだけど」

    「今の顔、全然カッコよくなかった」
    ユイナが即答する。

    「真顔すぎたな」
    ユウも珍しく笑った。

    ルナはタオルで額を拭いた。
    「後から気づいたんだよ。メロディとリフが微妙にズレてる。歌に集中したいし、でもギターも入れたいし……」

    そこで言葉が止まる。

    ユイナがちらりとユウを見た。
    ユウも、一瞬だけ視線を逸らした。

    その視線の意味を、ルナは知っていた。

    三人のままで行くのか。
    それとも、新しい誰かを入れるのか。

    二人はずっと気を使っていた。
    ルナが言い出すまで、その話をしないようにしていた。
    気づいていた。
    気づいていたからこそ、余計に言い出しづらくなっていた。

    三人で始めたわけじゃない。

    もっと前は、四人だった。

    十三歳の頃、渋谷の路上で四人は出会った。
    そこから何かが始まり、
    そして何かが途中で欠けた。

    欠けたままでも進めると思っていた。
    三年くらいなら、見ないふりをして走れると思っていた。

    でも、幽霊みたいな出来事を経て、
    ルナはようやく気づき始めていた。

    置いてきたものを、そのままにしたままでは、
    きっと音が嘘になる。

    「……メンバー、増やしたい」

    言った瞬間、空気が少しだけ軽くなった。

    ユイナは笑う。
    「やっと言った」

    「そんな顔してた?」
    「してた。ずっと」

    ユウは小さく頷いた。
    「止まるより、動く方がいい」

    ルナは床に目を落としたまま、ほんの少しだけ笑う。

    照れ隠しみたいに、早口で続ける。

    「いや、ほら。普通に限界あるし。ライブ映えするリード欲しいし。バンドとしてももう一人ギターいた方が厚み出るし。今後を考えたら表現力広げないとだし」

    「言い訳が多い」
    ユイナが言う。

    「うるさい」

    でも、少しだけ楽になった。

    Ghostedは、まだ完成していない。
    でも、止まってはいなかった。

    その曲は、三人の終わりじゃない。
    たぶん、新しい音の入口になる。

    ユイナがスマホを取り出した。

    「じゃあ、連絡してみる」
    「誰に?」

    ユイナは得意げに笑う。

    「前からいたのよ。ギター増やすなら絶対この人ってやつ」

    画面に映るのは、黒いマスクのギタリスト。
    七弦ギターを抱え、配信画面の中で平然と難しいフレーズを弾いている。

    MUSIC MANの七弦。
    覆面。
    そして、異様に自由な音。

    「名前は?」
    ルナが聞く。

    「カイ。ハンドルネームはカイゼロ」

    ルナは動画を見つめた。

    上手い、だけじゃない。
    音に逃げ場がないくせに、息苦しくもない。
    感覚で弾いているように見えて、ちゃんと計算されてる。

    「……この人、絶対バンド向きだ」

    ユイナはにやりと笑った。
    「あたしもそう思ってた」

    その夜、Ghostedの旋律はまだ未完成のまま、
    でも確かに次の誰かを呼び始めていた。


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    📘 Novel × 🎵 Music × 🎥 MV すべてAIで創り続けるプロジェクト。 小説「Parallel Lights」を元にした楽曲 『Before the World…』を公開中。 小説・作詞・作曲・アレンジ・MVをSuno / Sora2 / Canva など

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