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第20章|灯りの行き先

    Shining in the Dark は、最初は少し弱い曲だった。
    けれどカイのギターリフをきっかけに、五人の手で育てられ、明るい希望のロックへ変わっていく。
    完成に近づくほどルナは救われながらも、自分の手を離れていくような寂しさを覚える。


    自分のために書いたはずの歌が、
    気づけば誰かの方を向いていることがある。
    音楽はたぶん、そういうふうに少しずつ手を離れていく。

    Shining in the Dark は、最初、少し弱い曲だった。

    悪い曲ではない。
    むしろ、ルナの中ではかなり大事な曲だった。
    暗い場所で、それでも消えないもののことを歌いたかった。立ち上がれと命令するのではなく、まだ消えていない灯りがある、と確かめるみたいな曲にしたかった。

    だから、静かだった。

    アコギを鳴らして、歌う。
    それだけでも曲にはなる。
    けれど、スタジオでバンドの音として置いた時、ユウは少し考える顔をした。

    「弱い、っていうか」
    とユウは言う。
    「このままだと、少し座りすぎるかも」

    責めているわけではない。
    ただ、現実を見ている声だった。

    ホワイトボードには、ツアー用のセットリストが何度も書き換えられている。
    どこで熱を上げるか。
    どこで落とすか。
    客席をどう連れていくか。
    良い曲というだけでは、ライブの中に置けないこともある。

    「立ち位置が難しいんだよね」
    とユイナが言う。
    「空気は変わる。でも、その変わり方がまだ内向き」

    絢音が小さく頷く。
    「綺麗だけど、まだ閉じてる」

    ルナは何も言わなかった。

    分かっている。
    たぶん、その通りだった。
    この曲はまだ、自分の胸の内側で鳴っている。外へ向く前に、そこで丸まっている。

    カイだけが、しばらく黙っていた。

    こういう時のカイは、考えているというより、何かを待っている顔をする。
    人の話を聞いているのか、自分の中の音を探しているのか、少し分かりにくい。

    「一回、もうそのままやって」
    とカイが言った。

    ルナはマーチンを抱え直す。
    Shining in the Dark を最初から鳴らす。

    静かな曲だった。
    でも弱くはない。
    ルナの声の後ろで、絢音の鍵盤が薄い光みたいに重なる。ユウは動きすぎない。ユイナも温度だけを足すみたいに叩く。

    最後まで行って、少し沈黙が落ちた。

    「やっぱいい曲だよ」
    とユイナは最初に言った。
    「ただ、今のままだと、少し優しすぎるかも」

    優しすぎる。
    その言い方が、ルナには少し刺さった。

    優しくしたかったのだ。
    何かを叩き起こすんじゃなく、そっと残る光にしたかった。
    でも、それだけでは足りないのかもしれない。

    その時、カイがギターを持った。

    「頭、もう一回」
    と言う。

    ルナは少しだけ眉を上げる。
    でも何も言わずに、最初のコードを鳴らした。

    その上から、カイがリフを重ねた。

    最初は細かった。
    歌の隙間をなぞるみたいな短いフレーズ。
    でも二周目で少し形が見えた。三周目で、曲の輪郭が変わる。

    Shining in the Dark が、立ち上がる。

    暗い場所から始まるのに、暗いままでは終わらない。
    ギターロックだった。
    ちゃんとロックなのに、怒鳴る感じではない。
    明るい。希望がある。
    その希望も、根拠のない元気さじゃない。暗い場所を知ったまま、それでも先へ行ける音だった。

    「……あ」
    とルナは小さく声を漏らした。

    絢音がすぐに鍵盤を入れ直す。
    さっきまで光の膜みたいだった音が、今度は少し遠くの景色を開く。ユウはベースで真ん中を支え、ユイナのドラムがそこで初めて、ちゃんと前へ押し出す。

    曲が、生き物みたいに変わっていく。

    ルナが作ったのは、たしかにこの曲の種だった。
    でもその種だけでは、まだ土の中にいたのだと思う。
    カイがリフを差し込み、絢音が景色を足し、ユウとユイナが地面と速度を整える。そうしてようやく、Shining in the Dark は地上へ出てきた。

    「これだ」
    とユイナが言った。
    「今の、めっちゃいい」

    「うん」
    絢音も頷く。
    「希望の曲になった」
    それから、少しだけカイを見る。
    「そのリフ、ずるい」
    カイは少しだけ笑う。
    「悪口?」
    「違う。すごく効いてる」

    「最初の形、嫌いじゃなかった」
    と彼は言う。
    「でも、それだけだとたぶん、今のSlowRushには少し優しすぎた」

    ルナはその言葉を、黙って受け取る。

    今のSlowRushには、ただ寄り添うだけの曲では足りない。抱きしめるだけじゃなく、少し先まで手を引く力がいる。
    それでも、みんなの手で強くなるほど、自分の胸の内側だけに置いていた曲ではなくなっていく。嬉しいのに、少し寂しい。

    もう一回やる。

    今度の Shining in the Dark は、最初から前を向いていた。
    カイのリフで始まる。
    その一音で、客席の視線が上がるのが分かる。
    そこからルナの声が入る。暗かった場所を知っている声のまま、でも、歌はまっすぐに先を指す。

    「いい」
    とユウが言った。

    「褒めてる?」
    とルナが聞く。
    少しだけ間を置いて、ユウはベースに目を落とした。
    「悪くない。中盤の軸になる」

    スタジオの空気は、もうさっきまでと違っていた。
    Shining in the Dark は完成したわけではない。
    でも、もう行き先は見えている。どこへ向かう曲なのか、全員が同じ景色を見始めている。

    「タイトル、そのままで合うね」
    と絢音が言う。
    「暗い場所の曲だけど、暗い場所に留まる曲じゃないし」

    ルナは頷く。

    そうだ。
    たぶん、自分が最初に書きたかったのもこれなのだ。
    暗闇の歌ではなく、暗闇の中で見える灯りの歌。

    その日の夜、ライブで初めて鳴らした時、拍手は一拍遅れて起きた。

    考えてから鳴る拍手だった。
    それが少し嬉しかった。

    袖に戻ると、ユイナが笑う。
    「残るね、この曲」
    「うん」
    と絢音が言う。
    「ちゃんと残る」
    「ロックなのに優しいし」
    とユイナ。
    「優しいのに弱くない」
    とカイが言った。

    ルナはその会話を聞きながら、小さく息を吐く。

    五人で育てた曲だ。
    そのことが、もう音に出ている。
    自分ひとりでは、ここへは来られなかった。

    それは救いだ。
    本当に、救いだと思う。

    でも、救われることと、少しも痛くないことは別なのだと、ルナはこの頃から知り始めていた。

    曲が完成に近づくほど、
    バンドが前へ進むほど、
    自分の手の中にあったものが、少しずつみんなのものになっていく。

    それはきっと正しい。
    正しいのに、少しだけ寂しい。

    終演後、会場の外で缶コーヒーを持ちながら、ルナはスマホのメモを開いた。

    Shining in the Dark の下に、新しく一行だけ書く。

    ひとりじゃ見えない光がある。

    書いてから、少しだけ手が止まる。

    これは、次の曲の種かもしれない。
    でも今は、まだ分からない。

    分からないままでも、灯りの行き先だけは、前より少し見えていた。


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    📘 Novel × 🎵 Music × 🎥 MV すべてAIで創り続けるプロジェクト。 小説「Parallel Lights」を元にした楽曲 『Before the World…』を公開中。 小説・作詞・作曲・アレンジ・MVをSuno / Sora2 / Canva など

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