
Parallel Lights|プロローグ
この物語は、写真と音楽と“記憶”が交差する夏の旅の始まり。
照人が日常のすき間に見つけた小さな狂いが、やがて世界そのものを揺らしていく。
次々と星が落ちて来る。
まるで空が何かをこぼしているようだった。
光が滲み、夜が静かに溶けていく。
照人はその下に立ち、息をすることすら忘れていた。
それは奇跡でも予兆でもなく──
あの夏の続きを、空が語りはじめただけだった。
音のない夜。
流れ星が尾を引いて散っていくたび、胸の奥が震えた。
ギターの残響。
笑い声、歌声、花火の記憶が、夜空に重なる。
──あの夏。
終わるはずだったものが、終わらなかった。
石畳を踏む音がした。
鳥居の向こうに、ひとつの影。
黒いギターケース、風に揺れる髪。
照人は立ち尽くした。
もう二度と見られないと思っていたのに。
「……やっぱり、来てたんだね」
声はあの日のまま。
なのに、どこか違う。
時間が戻ったわけではない。
ようやく届いたのだ。あの夏から、ここまで。
照人は言葉を失ったまま、うなずいた。
彼女は少しだけ笑った。
言葉より確かなものが、二人のあいだに流れた。
境内の灯りの下、星の雨の中を並んで歩く。
照人はカメラを持っていたが、レンズは向けなかった。
この瞬間だけは、撮らずに覚えていたかった。
「すごいね……こんな流星群、初めて見た」
彼女が空に手を伸ばす。
照人も見上げた。
無数の光が降り注ぐ夜は、どこまでも静かで優しかった。
──記憶は写真の中にはない。
でも確かに、この空の下にある。
あの夏、照人は“誰にも話せない物語”に出会った。
そして今、彼女はここにいる。
理由はいらない。
星が降っている。それだけで十分だった。
星の光が彼女の頬を照らす。
照人はそっと笑う。
二人は同じことを思っていた。
──これは、終わりじゃない。
ようやく、あの夏の続きを見つけたのだ。
夜空を、一筋の星がまた流れた。
まるで、あの日の花火のように。