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第2章|静かな崩壊

    あの日の水音だけが、まだ耳の奥で続いている。
    三人で鳴らすはずだった音は止まり、沈黙だけが島に積もっていく。


    スタジオは薄暗かった。

    午後の光は差し込んでいるのに、空気がまるで色を失ったみたいに感じられた。

    渚のテレキャスターは、スタジオの隅に立てかけられたまま、誰にも触れられずにいる。

    白いボディには、あの日の水滴が乾いて残した薄い跡が、まだ消えずに残っていた。

    ノエルは、その前に立ち尽くしていた。

    「……練習、するの?」

    背中からリアムの声が落ちてくる。
    明るさの抜け落ちた声。彼らしくない沈み方だった。

    ノエルは返事をしない。
    返せる言葉がもう、どこにもなかった。

    スティックを手に取ってみても、指の力が入らない。
    渚が失われた瞬間から、時間だけが空回りしている気がする。

    リアムが机に置いてあったエフェクターをいじる。
    普段なら無邪気な好奇心に満ちたその動作も、今日はどこかぎこちない。

    「……俺らさ、“アオサギ”だったよな」

    リアムがぽつりと言う。
    言われなくても分かってる。
    でも、その言葉が今は痛かった。

    「三人で、やるもんだろ……バンドって」

    ノエルの喉に、重いものがせり上がる。
    それを飲み込むように、スティックをそっと床に置いた。

    それだけで、リアムも理解した。
    アオサギの終わりを告げる音は、驚くほど小さかった。

    湿った沈黙がスタジオを満たす。
    エアコンの振動音だけが、がらんどうの部屋をかすかに揺らした。

    葬儀から三週間。
    島の空も、海も、昨日と同じ顔をして広がっている。
    だけどノエルの視界からは、光という光がすっかり抜け落ちていた。

    みんなは言う。

    ──誰のせいでもない。
    ──助けられなかったのは仕方なかった。

    そんな慰めは、どこにも届かない。

    もし、もし、ほんの少しでも違う選択をしていたら──。

    ノエルが自分を責めるほど、リアムもまた自分を許せない。
    声には出さないけれど、二人とも同じ場所で立ち止まっていた。

    渚が最後に言った言葉が、何度も頭を離れない。

    「大丈夫だよ、ちょっとだけだから」

    その“ちょっと”が、この未来を決めてしまった気がして、苦しくなる。

    ノエルは渚のテレキャスターに触れようと手を伸ばす。
    でも、指先はボディに触れる前に止まった。
    触れてしまったら、本当にいなくなったことを認めるようで怖かった。

    リアムがぽつりと呟く。

    「なあ、ノエル……俺たち、どうするんだろうな」

    答えは返ってこない。
    返せる未来が今はない。

    スタジオの窓から差し込む光が、渚のギターの白い面に淡く反射していた。その静かな輝きだけが、止まった時間の中でじっと呼吸していた。

    そしてノエルは思った。
    音のない世界というのは、こんなにも重いのか、と。

    渚の残した旋律だけが、まだ遠くで揺れているのを、彼は確かに感じていた。


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    📘 Novel × 🎵 Music × 🎥 MV すべてAIで創り続けるプロジェクト。 小説「Parallel Lights」を元にした楽曲 『Before the World…』を公開中。 小説・作詞・作曲・アレンジ・MVをSuno / Sora2 / Canva など

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