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第27章|途中であること

    仙台の会場に着いた時には、もう客入りが始まっていた。
    ノーリハという最悪に近い状況の中で、五人は初めて本当の意味で“ライブ”をやる。
    完璧じゃなくていいと知った夜の終わりに、Aosagiのマネージャーから一本の電話が入る。


    仙台の会場に着いた時には、もう客入りが始まっていた。

    ロビーの向こうで、開場を知らせる声がする。
    フロアには人の気配があって、物販卓の前にはもう何人か並んでいる。
    ステージ袖へ入ると、スタッフが少し早口で言った。

    「すみません、もう押せないです。ラインだけ確認して、本番いきます」

    リハはない。
    本当に、ない。

    「最高」
    とユイナが言った。
    「今日、全部盛りだね」
    「笑えない」
    と絢音が言う。
    「まだ少ししか笑ってないよ」
    「その少しが怖い」

    昨日のトラブルが、まだみんなのどこかに残っている。
    その上で、今日は車が止まって、ようやく着いたと思ったらノーリハだ。
    不安が尽きないというのは、たぶんこういう時に使う言葉だろうとルナは思った。

    それでも、やるしかない。

    ユウがスタッフと短く確認をしている。
    立ち位置。返し。曲順。
    カイはギターを繋ぎながら、いつもより少しだけ周りをよく見ていた。
    絢音はキーボードの出音を最小限で確かめて、すぐに手を離した。
    ユイナだけが、平気な顔をしてスティックを回している。

    「大丈夫?」
    とルナが聞くと、
    「大丈夫じゃなくてもやるでしょ」
    とユイナは言った。
    その返しが、妙に頼もしかった。

    照明が落ちる。

    歓声が上がる。
    それを聞いた瞬間、ルナの中で何かが少しだけ切り替わった。

    完璧な状態じゃない。
    むしろ、かなり悪い。
    でも、たぶんライブっていつもそうなのだ。機材も、体調も、客席の空気も、全部が揃う夜なんてそんなに多くない。

    最初の曲が始まる。

    驚くほど、全員の視線が合った。
    ノーリハだからこそ、誰も油断しない。
    ユウのベースの入りを見て、ユイナが叩き出す。
    カイはルナの呼吸を見る。
    絢音は全体の隙間を確かめながら音を置く。
    一人でも前に出すぎたら崩れる。そのギリギリのところで、五人がちゃんと同じ方向を向いていた。

    今まででいちばん“ライブ”だった。

    正確さだけなら、もっといい日もあった。
    音の回りなら、もっと理想に近い日もあった。
    でも今日は、目の前で鳴っているものを、その場で掴み直しながら進んでいる感じがある。
    途中であることを、そのまま武器にしているようなステージだった。

    客席の反応もよかった。

    最初は少し見守る感じだった人たちが、二曲目、三曲目で前へ来る。
    拳が上がる。
    声が返る。
    完璧じゃないことを責める空気はどこにもない。
    むしろ、少し危なっかしいくらいの方が、ちゃんと届く夜もあるのだとルナは知った。

    「……すご」
    と絢音が曲間に小さく言う。

    「何が」
    とカイが聞く。

    「成立してる」
    「してるね」
    「しかも、思ったより全然いい方に」

    その短いやり取りだけで、少し笑いそうになる。

    最後の曲が終わる。

    大きな歓声と拍手が会場に広がる。
    それは感じたことのない一体感だった。

    袖に戻ると、今度はちゃんと全員が息を吐いた。

    「やばかったね」
    とユイナが言う。
    「いろんな意味で」
    「でも良かった」
    とユウが言う。
    その言い方が、今日は少しだけいつもより軽い。

    ルナも頷く。

    昨日の失敗も、今日の車のことも、全部なくなったわけじゃない。
    でも、それを抱えたままでも前へ出られる。
    それはたぶん、今までのSlowRushにはまだなかった強さだった。

    楽屋の隅でスマホが震える。

    見慣れない番号。
    少しだけ迷ってから出る。

    「お疲れさまです」
    落ち着いた男の声だった。
    「Aosagiのマネージャーです」

    ユウは一瞬だけ黙る。

    「……お疲れさまです」
    「今日のライブ、聞いてます。東京に戻ってからでいいんですが、軽く打ち上げしませんか?」
    そこで一拍置く。
    「実はリアムも交えて、一度お話したいこともあります」

    楽屋の空気が少しだけ変わる。

    ユウは、みんなの顔を見た。
    全員、なんとなく察している顔をしている。

    「分かりました」
    とユウは言う。
    「東京戻ったら、お願いします」

    電話を切る。

    「誰?」
    とユイナが聞く。

    「Aosagiのマネージャー」
    とユウは答えた。
    「東京戻ってから、打ち上げしませんかって」

    誰もすぐには喋らなかった。

    今日のライブは、ちゃんと終わった。
    トラブルの続きみたいな一日だったのに、最後は拍手で終われた。
    その上で、まだ次が来る。

    途中であること。
    たぶん今夜の強さは、そこにあった。


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    📘 Novel × 🎵 Music × 🎥 MV すべてAIで創り続けるプロジェクト。 小説「Parallel Lights」を元にした楽曲 『Before the World…』を公開中。 小説・作詞・作曲・アレンジ・MVをSuno / Sora2 / Canva など

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