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ケヌガクッ第四章『狂信的な優等生』


    第1節自分だけの呪瞛


    六月。
    鬱々ずした梅雚の足音が近づく譊察孊校に、衣替えの季節がやっおきた。
    譊察官の制服には、倏服、冬服、合服の䞉皮類があり、それぞれの着甚期間が芏則によっお厳栌に定められおいる。
    季節の倉わり目、たずえその日がどれだけ雚冷えで肌寒かろうず、「自分だけ合服を着る」などずいう個人の感芚や䜓調が考慮されるこずは䞀切ない。
    切り替わりの日が来れば、数癟人の孊生が問答無甚で、たるで䞀぀の巚倧な生き物のように䞀斉に倏服ぞず袖を通すのだ。
    支絊されたばかりの、ただ生地の硬い真新しい倏服のズボンに足を通す。
    ベルトを締めた瞬間、腰回りに䞍自然なほどの䜙裕を感じおハッずした。
    五月の䜓育倧䌚に向けおダマトずこなした地獄の特蚓で絞り䞊げられたこずもあるが、痩せたずか、筋肉が぀いたずか、それらずは別次元の肉䜓を内偎から削り取られおいる感芚。
    絶え間ない緊匵ずストレスが、それを物語っおいた。
    「過剰に倪ったり、痩せたりするなよ」
    教壇に立぀教官が、薄着になった俺たちを冷培な芖線で芋枡しお蚀い攟った。
    「サむズ倉曎で制服を甚意し盎せば、その分費甚がかかる。お前たちが着おいるその服も、すべお囜民の血皎であるこずを自芚しろ。自己管理もできない人間に、譊察官の資栌はない」
    䜓型の倉化すらも、皎金の無駄遣いずいう「眪」に盎結する。
    シャバの垞識や䌁業の理屈なら、単なるパワハラや暎論だず憀るずころだろう。
    だが、俺の心は䞍思議なほど波立たず、
    たしかにその通りだ。法を執行するための装眮である俺たちの肉䜓の増枛などずいう私情は排陀されるべきだ

    ず、劙にスッず玍埗しおいた。
    俺の思考は、すでに極端な論理性に支配され始めおいたのだろう。
    その論理的な冷たさは、身近な仲間の「喪倱」に察しおもいかんなく発揮された。
    無断運転で事故を起こし、自ら制服を脱いで消えたアキヒト。
    圌が蟞職した盎埌、教堎では䜕事もなかったかのように、淡々ず「垭替え」が行われた。
    欠員が出たずいう事実、そしお圌が昚日たでそこに座り、息をしおいたずいう名残すらも、完党に䞊曞きしおかき消すための事務的な䜜業。
    机が前ぞず詰められ、アキヒトの存圚は物理的にも芖芚的にも、教宀から完党に消去された。
    アキヒトに限った話ではない。
    入校からたった二ヶ月の間に、すでに二桁にのがる人間がこの修矅の門に耐えきれず、あるいは問題を起こしお去っおいった。
    思い悩んで消えおいった同期の無念。
    未来の譊察官を䞀人倱ったはずの教官たちの喪倱感。
    ここには、そういった人間らしい感傷を挟む隙間など䞀ミリも存圚しなかった。
    䞀人が消えようが十人が消えようが、倧した問題ではないず蚀わんばかりに、カリキュラムずいう名の巚倧な歯車は、今日も圓たり前のように冷培に回り続けおいる。
    俺の傲慢な沈黙が、あい぀の未来を殺したのではないか――。
    そんなドロドロずした人間らしい埌悔や自責の念すらも、この圧倒的なシステムの進行の前では、ただの凊理すべき「ノむズ」でしかなかった。
    この非情な状況にモダモダしながらも、最終的には「そういうものだ」ず事実ずしお受け入れおいる自分がいる。
    俺の䜓内で、シャバで培っおきた人間らしい感情の歯車が倖れ、代わりに冷たくお硬い「譊察官仕様」の歯車が、ガシャンず音を立おお噛み合うのを感じた。
    感情を殺し、完璧なシステムの䞀郚に同化する。
    その匷迫芳念を決定づけたのは、五月に犯した二぀の屈蟱的な倱態だった。
    䞀぀は、倖出申告時の『亀通安党カヌド』の携垯忘れ。
    そしおもう䞀぀は、テストでの赀点だ。
    特にテストの点数に関しおは、俺自身よりも、同宀である号宀の班員たちのほうがよほどショックを受けおいた。
    俺は圌らの宀長だ。
    䌑日の睡眠時間を削っお圌らを赀点から救うための特補テキストを䜜り、授業䞭も誰より積極的に発蚀し、己のCGデザむンの力でクラスを䞀぀にたずめ、総合優勝に導いた。
    ダマトやトクゞたちにずっお、俺は「頌れる幎長者」であったはずなのだ。
    その俺が、赀点の答案甚玙を前に惚めな顔をしおいる。
    圌らは、そんな宀長の姿を芋たくなかったのだろう。
    気たずそうに芖線を逞らす班員たちの空気を感じ取った瞬間、俺の䞭で激しい矞恥心ず、歪んだ゚リヌト意識に火が぀いた。
    俺は、こい぀らの前で無様でいおはいけない。垞に暡範でなければならない。圧倒的な憧れの察象ずしお、完璧な存圚でなければならないのだ
    俺の䞭で、䜕かのスむッチが完党に切り替わった。
    疲劎、甘え、劥協、そしお仲間ぞの同情。
    それらすべおの人間らしい匱さを、俺は自らの手で培底的に切り捚お、完璧な優等生ずしおの「仮面」を皮膚に瞫い付けるこずに決めた。
    「法埋最優先」
    「油断は犁物」。
    亀通安党カヌドを忘れた時に教官から济びせられた「たかが䞀枚の玙切れだずでも思ったか ルヌルを軜芖する者は呜を軜芖する」ずいう冷たい怒号が、反省文を曞いたあの倜の恐怖ず共に、呪いのように脳内でリフレむンし続けおいる。
    そうだ、譊察官は䞀ミリのミスも蚱されない。
    たった䞀぀の気の緩みが、アキヒトのように人生を終わらせる。
    俺は法を執行する機械ずしお、完璧でなければならない。
    翌朝、サむレンの音で目芚めた瞬間から、俺は自分自身をがんじがらめのルヌルず匷迫芳念で瞛り付けた。
    歩く速床、声の倧きさ、ノヌトに取る文字の角床、靎の磚き方。
    すべおにおいお「過剰なたでの完璧」を自分に匷芁した。
    少しでも気を抜こうずする自分を芋぀けるず、脳内の教官が怒鳎り声を䞊げ、自らを粟神的に激しく殎り぀けた。
    その異垞な自己芏埋の結果、俺の肉䜓には明確な異倉が珟れ始めた。
    胃が、痛いのだ。
    単なる空腹や食べすぎによるものではない。
    キリキリず、鋭利な刃物で胃壁を内偎から削り取られるような、神経性の激痛。
    朝起きた時も、無酞玠の教堎で授業を受けおいる時も、食堂で無味也燥な茶色い飯を飲み蟌んでいる時も、その痛みは絶え間なく俺を責め立おた。
    時折、胃酞の酞っぱい味が喉の奥たでせり䞊がっおくる。
    だが、狂い始めおいた俺は、その激しい胃痛すらも己が気を抜いおいない蚌拠だず受け入れ、「正しいこず」だず錯芚しおいた。
    胃を握り぀ぶされるような痛みに耐えながら、己の匱さを殺し、完璧な譊察官に近づいおいるず信じ、真っ盎ぐに前を芋据えおいた。
    泥たみれになっお同期ず笑い合い、肩を組んでいた五月の熱い俺は、もうどこにもいなかった。
    六月の鬱々ずした梅雚空の䞋、俺は自らの人間性を少しず぀削り萜ずしながら、ただひたすらに冷たく、狂信的な優等生ぞの階段を登り始めおいた。

    第2節掟砎りず、過酷の行方
    譊察孊校の朝は、六時の起床チャむムず共に始たる。
    それより前に垃団から出るこずは、厳栌な校則によっお固く犁じられおいた。
    集団生掻における芏埋の乱れを防ぐためだ。
    もし芋぀かれば、圓然のように始末曞を曞かされ、厳しいペナルティが䞋される。
    五月に『亀通安党カヌド』ずいう玙切れ䞀枚を忘れただけで、あれほどの屈蟱ず悲劇を味わった俺だ。
    ルヌルの絶察性は、骚の髄たで理解しおいるはずだった。
    だが、六月に入った俺は、毎朝四時、時には䞉時半に目を芚たし、音もなくベッドを抜け出しおいた。
    静たり返った薄暗い自習宀に忍び蟌み、たった䞀人で机に向かい、六法を開き、狂ったように勉匷ず授業の予習に没頭する。
    なぜルヌルを砎るのか。
    答えは簡単だ。
    孊校が定めた「決められた時間内」の努力では、到底足りなかったからだ。
    正盎に蚀えば、定められたカリキュラムをこなすだけなら、䞃十点も取れれば及第点であり、譊察官にはなれる。
    俺自身、すでにそのラむンは超え埗る熱量を持っおいる自負はあった。
    しかし、今の俺にずっお䞃十点など、赀点ず䜕ら倉わらなかった。
    癟点。
    ないしは、それ以䞊の完璧な癟二十点を目指さなければ、どうしおも自分を蚱せなかった。
    俺の傲慢な沈黙のせいで、アキヒトは消えた。
    あい぀が本来歩むはずだった未来を、俺が奪ったのだ。
    ならば、俺はあい぀の分たで完璧な譊察官にならなければならない。
    あの時の、甘えに溺れおいた愚かで過去の自分を殺し尜くすためには、誰よりも高く、誰よりも完璧な頂きに立たなければ、眪を償うこずなどできない。
    そう信じ蟌んでいた。ルヌルを砎っおたで完璧を求める自分の矛盟ず狂気に、俺は埮塵も気づいおいなかった。

    六月のカリキュラムの䞭で、俺たちを肉䜓的にも粟神的にも最も远い詰めたのは、『譊備実斜』ずいう授業だった。  暎動や灜害珟堎での郚隊掻動を想定した、この孊校で最も過酷な蚓緎。
    支絊される装備は、ヘルメット、防具、そしお分厚いゞュラルミンの倧盟など、どれも鉛のように重く、身に぀けるだけで息苊しさに芖界が歪んだ。
    その重装備を身に纏い、四十人のクラス党員が、䞀糞乱れぬ足䞊みを揃えおグラりンドを走行しなければならない。 「隊列を乱すな」
    「装備品を雑に扱うな 貎様ら、実戊で死ぬ気か」
    初倏の容赊ない日差しが照り぀ける䞭、教官の殺気立った怒号が四方八方から飛び亀う。
    少しでも盟の角床がズレたり、足䞊みが乱れたりすれば、容赊ない眵声が济びせられ、その堎で郚隊は停止させられる。
    怒号に察する軌道修正ず、重装備による酞欠で、思考回路は完党に焌き切れおいた。
    教官がその堎で教える耇雑なフォヌメヌションや動きの意図を、孊びずしお脳に定着させる䜙裕なんおあるわけがない。
    だが、次の授業で「前回の内容」を芚えおいなければ、埅っおいるのは連垯責任ずいう名の地獄だ。
    「なぜ前回の動きができない 党員、腕立お䌏せ甚意」
    重装備のたた熱せられたアスファルトに手を぀き、腕の筋肉が千切れるたで腕立おをさせられる。
    その疲劎で次の動きがさらに鈍り、たた怒号が飛ぶ。
    完党な負の連鎖だった。
      このたたでは、クラスが朰れる

    朝四時の薄暗い自習宀で、俺はノヌトにペンを走らせおいた。
    負の連鎖を断ち切るためには、教官の指導を「その堎しのぎの運動」にしおはいけない。
    俺は、意識が飛びそうになる譊備実斜の授業䞭、教官が発した蚀葉、フォヌメヌションの図解、足の動かし方、盟の構え方のすべおを、無理やりに脳のしわに刻み蟌んだ。
    そしお、掟砎りの早朝の静寂の䞭で、それらを蚘憶の底からサルベヌゞし、図解入りの詳现な『譊備実斜ノヌト』ずしお完璧に曞き起こしおいった。
    授業の前日の倜。
    俺は消灯前の短い時間を䜿っお、自宀の号宀だけでなく、クラスの党員を集めた。
    「いいか、明日の譊備実斜の動きはこうだ。このフォヌメヌションの時は、右翌がこう動く。盟の角床はこうだ」
    俺が䜜成したノヌトを元に、党員の頭に翌日の動きを培底的に叩き蟌んだ。
    もう、誰にも赀点は取らせない。誰䞀人ずしお、教官の怒号の暙的にさせない。
    俺がこの手で、党員を完璧に統率しおみせる。
    俺の目は、狂信的な光を垯びおいたはずだ。
    同期たちは、俺のその異様なたでの熱量ず執念に圧倒され、ただ黙っお頷き、俺の指瀺に埓った。
    その成果は、翌日の譊備実斜の授業で劇的に珟れた。
    重装備を纏った四十人が、教官の号什に察し、たるで䞀぀の巚倧な機械のように正確に、䞀糞乱れぬ動きを芋せたのだ。
    だが、その「完璧すぎる動き」は、逆に歎戊の教官の鋭い違和感を匕き起こした。
    「  埅お。郚隊、止たれ」
    教官の䜎くドスを効かせた声に、党員の足がピタリず止たる。
    「お前ら、なぜ今日に限っお、前回の耇雑な動きを完璧に芚えおいる」
    教官はゆっくりず郚隊の䞭を歩き、最も動きの鈍かったトクゞの前に立った。
    「お前だ。誰の指瀺で動いおいる」
    詰め寄られたトクゞは、重圧に耐えきれず、チラリず俺の方を芋た。
    「  宀長が、昚日、ノヌトで党員に  」
    空気が凍り぀いた。教官の鋭い県光が、俺を射抜いた。
    「お前。前に出ろ」  
    癜矜の矢がたった俺は、倧盟を持ったたた、郚隊の前に進み出た。
    背䞭を冷や汗が滝のように流れおいく。
    䜙蚈なこずをしお和を乱したず、鉄拳制裁が飛んでくるかもしれない。
    「そのノヌトを、俺に芋せろ」
    腰に忍ばせおいた『譊備実斜ノヌト』を教官に差し出した。
    教官は無蚀のたた、図解ず现かい指瀺がびっしりず曞き蟌たれたそのノヌトのペヌゞをめくっおいく。
    沈黙の時間が、氞遠のように感じられた。胃の奥が、ギリギリず悲鳎を䞊げる。
    やがお、パタン、ずノヌトが閉じられた。
    「  おい」
    「はい」
    「続けろ」
    教官の声には、怒気はなかった。
    それどころか、そこには明確な「評䟡」の色が混じっおいた。
    「お前が、この郚隊のたずめ圹だ。お前が頭ずなり、この四十人を動かせ」
    それは、教官からの絶察的な承認だった。
    「  はいっ」
    俺は盎立䞍動のたた、錓膜を砎るような声で返事をした。
    たずめ圹。
    俺が、この四十人の呜運を握る。
    その事実が、俺の背䞭にさらなる巚倧な「重荷」を乗せた。
    だが、それず同時に、腹の底から湧き䞊がっおくる匷烈な「䞇胜感」が、俺の党身の血を熱く沞隰させおいた。
    朝四時に起きるずいうルヌル違反も、胃を食い砎るような痛みも、すべおはこの瞬間のためにあったのだず錯芚した。 俺は遞ばれた人間だ。
    俺が、この出来損ないのクラスを完璧な郚隊ぞず匕き䞊げるのだ。
    教官からの承認ずいう劇薬を打ち蟌たれた俺の「狂信」は、いよいよブレヌキを倱い、同期たちぞの冷酷な県差しぞず圢を倉えおいくこずになる。

    第3節冷酷な歯車
    早朝の掟砎りの予習ず、教官からの「たずめ圹」ずしおの承認。
    狂信的な優等生ずいう名の仮面は、もはや俺の皮膚ず完党に同化し、剥がすこずのできない匷固な装甲ずなっおいた。 その装甲の䞭で、俺の「時間」に察する感芚は垞軌を逞し始めおいた。
    睡眠時間を削り、誰よりも早く起きおいる俺にずっお、日䞭の就業時間内の「䞀秒」は、文字通り呜そのものず同矩だった。
    廊䞋を歩く時も、無駄口を叩く同期の歩調に合わせるこずはなくなった。
    教堎に五秒でも早く着けば、それだけテキストを読み返せる。
    授業の合間のわずかな䌑憩時間すらも惜しみ、ノヌトの䜙癜を真っ黒に埋め尜くしおいく。
    その異様な熱量ず殺気立った背䞭は、呚りの同期たちにずっお、さぞ暑苊しく、息が詰たるものだったに違いない。  俺の目は、い぀しか呚囲の人間を「仲間」ではなく、「障害物」ずしお捉えるようになっおいた。
    行動の遅い者、芁領の悪い者、座孊でペンが止たっおいる者。
    か぀おは圌らを守り、救い䞊げたいず願っおいたはずなのに、今の俺の腹の底には、圌らの鈍臭さに察するどす黒い苛立ちが枊巻いおいる。
    圌らを芋捚おたわけじゃない。
    これほどたでに呜を削っお時間を生み出しおいる俺の熱量に぀いおきお欲しかった。
    なぜお前たちはその時間を無駄にするのか。
    俺が正解を瀺しおいるんだ。
    同じようにやるだけだろ。
    声に出すこずこそなかったが、俺は内心で圌らを明確に芋䞋しおいた。
    その狂気じみた熱量は、号宀や同じクラスの䞭だけに留たらず、倖郚から芋おも明らかに異質なものずしお挏れ出しおいた。
    ある日、課長クラスの幹郚が教壇に立぀、クラス合同の倧きな座孊が行われた時のこずだ。
    普段の教堎ずは違う少しだけ緩んだ空気の䞭、俺だけが䞀人、教官の䞀蚀䞀句を逃すたいず目を血走らせ、䞀心䞍乱にノヌトにペンを叩き぀けおいた。
    積極的な発蚀で存圚感をアピヌルした。
    授業が終わり、片付けをしおいた時のこずだ。
    これたで䌚話すらしたこずのない、隣のクラスの孊生が俺のそばを通り過ぎざたに、半笑いでこう呟いた。
    「  本郚長賞誉でも狙っおるんですか」
    それは明らかな「嫌味」だった。
    異垞な熱量で浮き䞊がっおいる俺に察する、凡人からの揶揄。
    だが、その冷や氎のような䞀蚀を济びおも、俺の目は芚めなかった。
    俺は心の䞭でその孊生を嘲笑した。
    玙切れ䞀枚で仲間の人生が終わるこの修矅の門で、ただ孊生気分でヘラヘラしおいる愚か者たち。
    本郚長賞誉だず そんな薄っぺらい名誉のためにやっおいるのではない。
    俺は、己の眪を償い、完璧な機械になるために呜を削っおいるのだ。
    嫌味すらも「俺は他の奎らずは次元が違う」ずいう歪んだ遞民意識の燃料ぞず倉換され、俺の孀独な暎走はさらに加速しおいった。
    そしお、その狂気は぀いに、重い鉄の門を越えお「シャバ倖界」にたで溢れ出しおいった。

    狂信的に組織の歯車ず化した俺にずっお、もはや週末の䌑日は、心䌑たるオアシスではなくなっおいた。
    それどころか、俺の完璧なルヌティンず匷迫芳念を䞀時的に停止させられる土日は、ひどく「苊痛な空癜」に成り果おおいた。
    孊校内で抱え蟌んだ異垞な負荷ずストレスを、俺はそのたたシャバにたで匕きずり出しおいた。
    䌑日の昌䞋がり。排萜たレストランのテヌブル越しに、マコが心配そうな顔で俺を芋぀めおいた。
    「  ねえ、聞いおる」
    「あ、ああ。聞いおるよ」
    空返事をしながら、俺の芖線は圌女の顔を通り越し、虚空を芋぀めおいた。
    マコずは、歳の頃から付き合っおいる。
    俺にずっお、人生で初めおの圌女だ。
    人ずしお党く未熟で、䜕者でもなかった圓時の俺を「奜きだ」ず蚀っおくれ、誰かに愛されるこずの絶察的な喜びを教えおくれた、かけがえのない存圚。
    人に奜かれるずいう喜びを知り、その喜びを远求するこずが、俺の「成長」ぞの最倧の意欲だった。
    その枩かい゚ネルギヌがあったからこそ、俺は瀟䌚人ずしおの厳しい波も乗り越えおこられたのだ。
    俺の根っこには、今でも間違いなく圌女を倧切に思う気持ちがある。
    それなのに。

    久しぶりに䌚っお、目の前で楜しそうに日垞の話をしおくれる圌女ず食事をしおいおも、俺の脳内は垞に孊校のこずで占領されおいた。
    明日の譊備実斜のフォヌメヌションは  いや、あの法埋の構成芁件の暗蚘がただ甘い  教官のあの蚀葉の真意は  
    やるべきこずに远われ、焊燥感に急き立おられおいる俺の脳には、圌女に思いやりの䞀぀も瀺すだけの「䜙裕メモリ」が䞀切残っおいなかった。
    目の前に愛する人がいるのに、俺の心は冷たいコンクリヌトの教堎に瞛り付けられたたただ。
    自分でも、今の自分がひどく冷酷で、人間ずしお倧切なものを倱っおいる残酷な生き物になっおいるずいう自芚はあった。
    愛される喜びを力に倉えおいたはずの俺が、今は「恐怖」ず「完璧ぞの執着」だけをガ゜リンにしお動いおいる。
    悲しげに俯くマコの顔を芋お、胞の奥がチクりず痛む。
    だが、その人間らしい痛みすらも、俺は冷培な論理でねじ䌏せた。
    俺が本物の譊察官になるためには、今は感情を殺さなければならない。
    優しい恋人でいる時間など、䞀秒たりずもないのだ。
    これは成長のために必芁な「犠牲」であり、その先にマコの父芪に認められる未来があるず信じお。
    結果的にマコのためであるず蚀い聞かせおいたのだ。

    俺は、無意識のうちにマコから芖線を倖し、冷めたコヌヒヌを胃袋に流し蟌んだ。
    仲間ぞの思いやりも、恋人ぞの愛も、すべおの人間らしさを冷酷に切り捚おおいく。
    もう、誰にも俺を止めるこずはできなかった。
    呚囲の人間を傷぀ける、狂信の刃の鋭さには、愚かなほど鈍感だった。

    第4節安堵の銃匟
    六月も間もなく終わる。
    同期ずの䜕気ない䌚話の䞭で、俺は譊察孊校ずいうシステムの「ある事実」を知るこずになった。
    卒業時、俺たちには明確な『成瞟順䜍』が぀けられ、それが発衚されるずいうのだ。
    シャバにいた頃の俺なら、そんな数字の矅列に執着するこずはなかっただろう。
    競争よりも個性を重んじ、枠にはたらない生き方を良しずしおいたはずだ。
    だが、狂信的な優等生の仮面が皮膚ず癒着しおしたった今の俺にずっお、その『順䜍』ずいう抂念は、ある皮の救枈であり、絶察的な瞋るべき神ずなった。
    高順䜍を獲れば、俺のすべおが報われる
    䌑日を犠牲にしお恋人を蔑ろにした眪悪感も、アキヒトの未来を沈黙で奪ったずいう十字架も、トップずいう結果さえ出せば正圓化できる。
    挢字テストのたった䞀点、授業䞭のたった䞀床の挙手。
    そのすべおの瞬間においお、俺は他の同期たちよりも䞀぀抜きん出た存圚でなければならなかった。
    その歪んだ枇望を珟実のものにするため、俺は己の肉䜓を限界の先ぞず远い蟌んだ。
    意倖だったのは、俺のこの異様で暑苊しい熱量を、あのダマトが避けるどころか楜しんでいたこずだ。
    「  そういうストむックさ、俺は嫌いじゃないぜ」
    ニダリず笑うダマトは、䜓育倧䌚が終わった埌も、俺の無茶なトレヌニングに快く付き合っおくれた。
    呚りの同期たちを内心で芋䞋し、孀独を深めおいた俺にずっお、この腕っぷしの匷い「味方」がいるずいう事実は、無䞊の喜びだった。
    だが、その喜びが、俺を必芁以䞊に远い蟌む劇薬ずなった。
    シンプルなオヌバヌワヌク。
    俺の䞡足のふくらはぎの筋繊維はズタズタに匕き裂かれ、もはや普通に歩くこずすらたたならない状態に陥っおいた。
    柔道の授業では最悪だった。
    激痛で足が螏ん匵れず、投げ飛ばされた際の「受け身」すらたずもに取れない。
    畳に無防備に叩き぀けられ、肺の䞭の空気が䞀瞬で空っぜになる。
    呌吞ができず、畳の䞊でうずくたりそうになるのを、俺は奥歯を噛み砕くほどの力で堪えた。
    䌑むずいう遞択肢はなかった。
    䌑めば枛点される。
    順䜍が䞋がる。
    そもそも、䜓調が悪いから犯眪者を捕たえられたせんなんお蚀い蚳が、珟堎で通甚するわけがない
    俺は法埋の執行者になるのだ。
    匱さを衚に出すこずなど、絶察に蚱されない。
    俺は足を匕きずっおいるこずを悟られないよう、教官の前では顔面を蒌癜にしながらも、背筋を凍るほど真っ盎ぐに䌞ばし続けた。

    肉䜓も粟神も悲鳎を䞊げ、ギリギリの均衡で立っおいた月末。
    極床の緊匵ず異質な環境䞋で行われる、けん銃の実射蚓緎のテストが行われた。
    防音扉に閉ざされた冷たいコンクリヌトの射撃堎。
    錓膜を突き砎るような発砲音が響く䞭、俺は冷え切った手で黒い鉄の塊を握り、的のど真ん䞭だけを凝芖しおいた。
    息を止め、匕き金を絞る。
    結果は『五十点』。
    満点だった。
    過酷な環境䞋での満点は、誰にでも獲れるようなものではない。
    教官の埮かな驚きの衚情ず、同期たちのざわめき。
    だが、その完璧な数字を芋せられおも、俺の心に「誉れ」や「喜び」が湧き䞊がるこずはなかった。
    ただ、ひどく気が抜けたような、冷たい『安堵』だけがあった。
    毎日をトップで積み重ねおいくずいうストむックさは、もはや快感ではなく、俺の銖を絞め続ける終わりのない防衛戊ぞず倉わっおいたのだ。
    そしお、その防衛戊の最䞭、俺の狂信を決定的なものにする出来事が起きた。
    県譊のトップである『本郚長』が譊察孊校を蚪れ、広い䜓育通で党孊生を集めた蚓育が行われたのだ。
    雲の䞊の存圚であるトップの蚀葉を䞀蚀䞀句挏らさずノヌトに曞き留めようず、俺はペンを握りしめおいた。
    だが、マむクを通しお䜓育通に響き枡った本郚長の蚀葉は、俺の耳を疑うようなものだった。
    『問題意識を持っおいない人間には、䜕を蚀っおも残らない。関心がないずダメだ』
    そこたではいい。
    だが、続く蚀葉が俺の胞を鋭く抉った。
    『本圓に必芁なこずは、孊校では孊べない。私自身、孊校で孊んだこずなどほずんど芚えおいない』
    ――なんだず
    本郚長は、珟堎で生きた経隓を積むこずの倧切さを説きたかったのだろう。
    自分たちをただ䞀人前ず認めおいないからこその、的確で愛のある指導だったのかもしれない。
    だが、睡眠時間を削り、圌女ぞの思いやりを捚お、足の筋肉を断裂させながら、この孊校での孊びにすべおを懞けお戊っおいる俺にずっお、それはあたりにも残酷な「吊定」の蚀葉だった。
    俺が呜を削っお暗蚘しおいるこの法埋も、教官の蚀葉も、珟堎に出れば忘れ去られる皋床のものだず蚀うのか 冗談じゃない
    俺の䞭で、怒りにも䌌た黒い炎が燃え䞊がった。
    俺のこの痛みず犠牲は、絶察に無駄ではない。
    珟堎に出おも絶察に忘れおなどやるものか。
    その倜、俺は日誌のペヌゞが砎れるほどの匷い筆圧で、䞀぀の宣蚀を曞き殎った。
    『本郚長はああ仰いたしたが、俺は違いたす。この孊校での孊びのすべおを、脳のしわずしお深く刻み蟌んでみせたす』

    翌朝。
    返华された日誌の赀ペンを芋お、俺は息を呑んだ。
    俺の狂気じみた宣蚀の暪に、教官の力匷い筆跡で、たった䞀蚀、こう曞かれおいたのだ。
    『お前は本郚長を超えろ』
    頭の芯が、痺れた。
    ここたで狂信的に孊校のカリキュラムに食らい぀く生埒も、教官からすれば皀だったのだろう。
    そこには少なからず、珟堎ぞず送り出す䞀人の男に察する、教官の熱い期埅が蟌められおいたはずだ。

    「超えられるかよ」
    思わず笑った。
    自分の䞭に残る人間臭さを感じ、ただ笑える自分の存圚を嬉しく思いながら、日誌を胞に抱きしめた。

    第四章 完
    第五章に続く

    圓時の日誌の䞀郚を公開

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    【著者からのメッセヌゞ】
    最埌たでお読みいただき、ありがずうございたす。
    第4章「狂信的な優等生」、いかがだったでしょうか。

    アキヒトの未来を奪っおしたったずいう眪悪感から、「アむツの分たで完璧にならなければ」ず己を極限たで远い蟌み、気づけば䞀番倧切な恋人や、共に笑い合った仲間さえも冷酷に切り捚おおいく  。
    圓時の日誌を読み返しながら、自分自身のあたりの痛々しさず狂気に、䜕床も筆が止たりそうになりたした。

    「正しいこず」をしおいるはずなのに、動機が歪んでいるからすべおが間違った方向ぞ進んでいく。
    これもたた、譊察孊校ずいう閉鎖空間が生み出した、リアルな人間のバグです。

    もし、この息苊しいたでの䞍噚甚な生き様に䜕か感じるものがあったなら、あるいは「頌むからもう䌑んでくれ」ず少しでも感情移入しおいただけたなら、どうか蚘事の䞋にある「♡スキ」ボタンを抌しおやっおください。 皆様からのそのワンクリックが、この痛みを䌎う過去の蚘憶を掘り起こし、次なる「第5章」を曞き進めるための最倧の゚ネルギヌになりたす。

    次回、第5章。限界を迎えた肉䜓ず自我が、譊察孊校の「灌熱の倏」の䞭で぀いに  。
    どうか、次なる展開も芋届けおください。

    優れるより異なれ、そしお銎染め。
    Stand out fit in.


     
     
    元譊察官。29歳から曞道家の道ぞ 優れるより異なれ、そしお銎染めStand out fit inをテヌマに掻動䞭 抌入れから出おきた教堎日誌を元に、AIず共に蚘憶を蘇らせるドキュメント・ノベル『ケヌガクッ』を連茉 嘘建前ず真実本音の狭間で揺れた、青くお痛い魂の蚘録

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