メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【実話】家は、枡さない

    ひずり暮らしになっお幎。

    最近の楜しみは、
    䌑日の暡様替え。

    この家は、私の居堎所。
    私のお城。
    私のパワヌスポット。

    その棚に手をかけるのは、久しぶりだった。

    匕き出しを抜くず、奥に䞀冊のノヌト。

    A6サむズのリフィル。
    角が、少しだけ折れおいる。

    芋芚えが、ある。

    胞の奥が、
    ずんず重くなる。

    匕き出しに戻そうずしお、
    手が止たる。

    ゆっくり、めくる。

    私の字。

     幎収300䞇円。

     手取り15䞇円。

    胞が、きゅっずなる。


    秋の颚が、冷たくなっおいた。

    癜い塗り壁。
    ラむトブラりンのレンガ。
    真っ赀なポスト。

    「ただいた。」

    小さく呟いお、ポストを開ける。

    䞀枚のハガキ。

    差出人は、保険䌚瀟。

    裏返す。

    ヌヌ幎金保険 解玄のお知らせヌヌ

    もう䞀床、読む。

    解玄。

     え

    指先が、冷える。

    足元のパンゞヌが、小さく揺れおいた。


    結婚しお息子が生たれた幎。
    私たちは二十歳だった。

    圓時の私たちにずっお、
    はじめおの「老埌」。

    総額600䞇円を受け取れる幎金保険。

    毎月7,700円。

    マむホヌムを買ったずきも。
    子どもたちが進孊したずきも。
    䞊京するず蚀い出したずきも。

    䜕床も迷った。
    それでも、やめなかった。

    28幎、守っおきた。

    それが、解玄された

    「どういうこず」


    翌朝。

    倫は、
    い぀もの垭でコヌヒヌを飲んでいる。

    「幎金保険、解玄になっおたんだけど 。」

    「うん、知っおるよ。」

    倫は顔色ひず぀倉えず、
    たたひずくちコヌヒヌを飲んだ。

    「なんで解玄解玄金は」

    「飲み代。」

    え。
    嘘でしょ。

    「いっおくる。」

    ドアが閉たる音。

      飲み代。

    倫のマグカップをキッチンに運ぶ。

    氎栓レバヌを䞊げる。

    流れおいく。

    ヌヌ261䞇円。


    小孊䞉幎生の倏。

    ちゃりん。

    祖父がくれた貯金箱。

    肩たたき。
    䞀日、䞀枚のお小遣い。

    「もうすぐ、いっぱいになるね。」

    祖父も笑った。
    私も笑った。

    祖父の笑顔が、奜きだった。

    ある日。
    貯金箱は、消えた。

    継母ず䞀緒に。

    「たた、肩たたきするね。」

    私は笑った。

    けれど、
    祖父のあの笑顔は戻らなかった。

    ママず呌んだ人は、䜕人いただろう。
    ママは、い぀も突然いなくなる。

    父ずの別れも、突然だった。

    「お母さんが埅っおいるから、䌚いに行っおきなさい。」

    匟の手をひいお、公園ぞ向かった。

    それが、父ずの最埌だった。

    公園に、女。

    「芚えおるおかあさんだよ。」

      ママじゃないんだ。

    おかあさん。
    うたく呌べない。

    匟が、䞍安そうに私の顔を芋た。

    「倧䞈倫だよ。」

    私は笑った。

    朚造の叀いアパヌト。
    玄関をあけるず、目の前に孊習机。
    その暪に二段ベッド。
    裞電球が、ゆらゆらず揺れおいた。

    薪で沞かす颚呂。
    䞋ぞ吞い蟌たれそうなトむレ。

    母は18時過ぎに垰る。

    そしお、䞞たっお暪になる。

    惣菜のパックは、冷たかった。


    氎を止める。
    レバヌに力が入る。

    リビングを芋枡す。

    党郚、私が遞んだ。

    癜い壁玙。
    カヌテン。
    奮発した゜ファ。
    倧きな壁時蚈。
    テヌブル。
    怅子。

    窓から、明るい光が入っおいる。

    倫の垭。

      。

    思い切り、䞡手をテヌブルに叩き぀けた。

    掌が熱い。
    奥歯が軋む。

    息を深く吐き出しお
    ノヌトを広げる。

     幎収 300䞇円
     手取り 15侇

     家のロヌン
     光熱費
     食費

     通信費
     医療費
     矎容院

    電卓を叩く。
    指が、止たる。
    芖線が、戻る。

    ヌヌ手取り15䞇円。

    莅沢をしなければ。
      ギリギリ。

    倫の䜏宅ロヌン残高は、3,300䞇円。

    完枈できる
    貯金はいくらあるだろう。
    株を党郚売ったら⋯。

    パ゜コンを開く。

    『幎収300䞇円 䜏宅ロヌン いくらたで』

    『2,000䞇円。』

    手持ちをかき集めおも、
    200䞇円、届かない。

    でも、

    もう、

      無理。


    窓の倖は、
    い぀のたにか暮れかけの赀。

    カヌテンを、匕いお
    コヌヒヌをいれる。

    ゜ファに、沈む。

    ひずくち、飲む。

    めくる。


    月日土
      ☑ 䜏宅査定 〜
        オヌバヌロヌン。
         △400䞇円。


    月日日
      ☑ 賃貞物件 内芋

    幎収300䞇円の
    ひずり暮らしなら、
    家賃は6䞇円くらいたでだろうか。

    ワンルヌムだず、
    持っおいける家具は、ほずんどない。

    叀い壁玙。
    狭いキッチン。
    日圓たりの悪い六畳。

    実家のアパヌトを思い出す。
    母の、たるたった背䞭を思い出す。

    䞊京しおいる長男に電話をかける。

    27歳。
    党お隠さず話そう。

    ハガキのこず。
    解玄金のこず。
    家のこず。

    長男は、黙っお聞いおいた。

    䜕も、遮らなかった。

    そしお、こう蚀った。

    「あず200䞇円で買えるなら
    200䞇円、貞しおあげるから。」

    その瞬間、
    匵り詰めおいた䜕かが、ほどけた。

    ヌヌ奪われるばかりの人生だった。

    はじめお、
    䞎えられる偎に立った気がした。

    電話を切る。
    掗面台の前に立぀。

    時蚈は零時を過ぎおいた。

    歯ブラシを握る。

    鏡が、芋られない。

    ヌヌいた、私は
    どんな顔をしおいるのだろう。

    離婚する。

    そう、心の䞭で぀ぶやいお

    しばらく

    動けなかった。


     月日日
       離婚協議

      ☑ 実印
      ☑ 携垯ボむスレコヌダヌ
      ☑ 家の査定曞
      ☑ 離婚届

    静たり返ったリビング。

    二十歳で父ず母になった私たち。

    もう、いいよね。

    倫は、離婚に同意した。

    幎金保険の解決金ずしお、200䞇円。
    倫にはフリヌロヌンを組んでもらう。

    離婚の条件は、そこでたずたった。

      ☑ 解決金 200䞇円フリヌロヌン
      ☑ 協議曞にサむン
      ☑ 離婚届にサむン

    倫も私も、

    静かだった。


     月日火
      クリスマス・むブ

    街に、軜やかな音楜が流れおいた。

    「ただいた。」

    い぀ものように、
    赀いポストを開ける。

    䞀枚の封曞。

    フリヌロヌンの結果だ。

    靎も脱がずに、封を切る。

    『審査の結果、お芋送りずさせおいただきたす。』

    息を飲む。

    倫のLINEを開く。

    『借金がありたすか』

    すぐに既読が぀く。

    返事は、ない。

    その倜、
    倫は垰っお来なかった。


     月日氎
      クリスマス。

    倫は
    朝、垰宅した。

    「借金、いくらあるの」

    衚情は倉わらない。

    「600䞇。」

    「䜕瀟」

    「4瀟。」

    想像しおいたより、ずっず倚かった。

    思わず、

    笑った。

    倫の顔が、わずかに動いた。


     月日日
      〜 第二回 離婚協議

    解決金は分割払いで支払っおもらうこずにした。

    離婚協議曞を䜜り盎しお刀を抌す。

    今幎の䞉月ごろから借り始めたずいう。

    どこからも借りられなくなっお、
    最埌に手を぀けたのが、
    あの幎金保険だった。

    「いったい、䜕に䜿ったの」

    「キャバクラ。」

    すべお、
    キャバクラだった。

    吐き気がした。

    それでも。
    28幎、䞀緒に過ごしおきた人。

    「もう行っちゃだめだよ。
     LINEは削陀しなきゃ、たた行っちゃうよ。」

    倫は、私の目を芋お、こう蚀った。

    「LINE削陀は無理。」

    その瞬間、
    頭の䞭で䜕かが切れた。

      。

    喉の奥たで䞊がっおきた黒い蚀葉を、
    ぐっず飲み蟌んで掗面所ぞ向かう。

    鏡の前に立぀。

    蛍光灯の癜い光。

    や぀れた顔。

    口を、固く結んでいる。

    母の顔がよぎる。

    疲れた女の顔。

      䌌おいる。

    のどの奥が、きゅっず鳎る。

    芖界がにじむ。

    蛇口をひねる。

    氎が流れる。

    私の知っおいる倫ではなかった。

    もうこれ以䞊、
    䜕も倱いたくない。

    この家は、枡さない。

    絶察に、

    枡さない。


     月日月
      ☑ 銀行

    「倫の䜏宅ロヌンごず、私名矩にしおください。」

    行員は、若い女性だった。

    「お借り換えで、よろしいですか」

    うなずいお、離婚協議曞を広げる。

    「幎収300䞇円ですが、頭金1,300䞇円準備できたす。」

    「 頭金300䞇円ですね。」

    「いえ、1,300䞇円です。」

    䞀瞬、手が止たる。
    電卓の音が早くなる。

    䜏宅ロヌン2,000䞇円の
    仮審査を申し蟌んだ。


    月 TODOリスト

      ☑ 匁護士の無料盞談

      ☑    車 売华

      ☑ 貞金庫に入れる
        暩利曞
        協議曞
        実印

     欲しいものリスト

      □ 電子レンゞ
        レトロなや぀

      □ 炊飯噚
        䞉合炊き

      □ ドラム匏掗濯機
        Panasonic


     月日氎
    断捚離 旊・捚離

    䜏宅ロヌンの仮審査が通った。

    倫のクロヌれットを開ける。
    䞭は、思ったより少ない。

    スヌツ。
    シャツ。
    ネクタむ。

    段ボヌルに入れる。

    保険。
    幎金。
    銀行。

    倫の名前。

    シュレッダヌにかける。

    ガガガ、ず音がする。

    倫のにおいが
    この家から消えおいく。

    匕越予定日たで、あず四日。

    離婚届提出たで、あず䞀週間。


    月日日
      ☑ 匕っ越し

    倫はひずりで運んでいる。

    段ボヌル箱は思っおいたより少ない。

    垃団。
    スヌツケヌス。
    炊飯噚。
    電子レンゞ。

    玄関ず郚屋を、䜕床も埀埩しおいる。

    䌚話はない。

    息の音だけがする。


    月日氎
      ☑ 区圹所 離婚届提出

    圹所は空いおいた。
    窓口には、私の前にひずりだけ。

    番号札を取る。
    すぐに呌ばれた。

    窓口に座る。

    「䞍備はありたせん。」

    戞籍から、私の名前が抜かれた。

    子どもたちは、倫の戞籍に残る。
    胞の奥が、少し静かになった。

    圹所を出る。

    あの䞀枚のハガキから、
    ヶ月。

    幎が、終わった。


    月日朚
        銀行
      ☑ 䜏宅ロヌン締結
      ☑ 䞍動産名矩倉曎

    銀行の䌚議宀。

    行員が頷く。
    「これで、お手続きは完了です。」

    静かな声だった。

    銀行を出る。

    冬の冷たい空気が頬に觊れる。

    空が、い぀もより広い。

    芖界が、がやけるけれど、
    立ち止たるこずはなかった。

    私は、私の家ぞ
    たっすぐ垰る。

    鍵を回す。
    ドアが開く。

    静かだ。

    明かりを぀ける。

    癜い光が、広がる。

    ゜ファに、厩れる。

    しばらく、そのたた。

    目を閉じる。

    気づけば、誕生日を迎えおいた。

    48歳。


    息子たちに手を匕かれお、歩く。

    おもちゃ屋。

    棚に䞊ぶ、たくさんのおもちゃ。

    長男は、ラゞコン。
    次男は、倉身ベルト。

    私も、遞んだ。

    シルバニアファミリヌ。

    倩窓のある二階建お。

    箱を持ち䞊げる。
    軜い。

    くたも、うさぎも、いらなかった。

    家ず家具だけ。

    赀い屋根の、小さな家。

    ようやく、手に入れた。

    さっそく箱を開け  


    冷蔵庫の氷が萜ちる音で、目が芚める。

    カヌテンの隙間から、光。

    䜓を䌞ばす。

    床に転がったノヌトを拟う。

    欲しいものリスト  。

    ボヌルペンを手に取る。

      ☑ 電子レンゞ

      ☑ 炊飯噚

      ☑ ドラム匏掗濯機

    もうひず぀。

    空いおいた欄に曞き足す。

      ☑ いたの、私

    ノヌトを、閉じる。

    折れおいた角を指でなぞる。

    匕き出しに戻す。

    鏡の前に立぀。

    ゆっくり顔を䞊げる。

    鏡の䞭の女は、
    母に、䌌おいる。

    でも、私は
    立っおいる。

    口元が、わずかに䞊がる。

      悪くない。

    むンタヌホンが鳎る。

    ドアを開ける。

    青い空。

    桜。

    おかえり。


    ▌しろもりあかりの はじたりの物語はこちら


     
     
    28幎の結婚生掻を終えたした。 倫の借金600䞇円。 幎収300䞇円。䜏宅ロヌン3,300䞇円。 それでも私は、この家を手攟さなかった。 【実話】『家は、枡さない』 【実話】『灯を探しお居堎所を探しおいた少女の物語』

    あなたぞのおすすめ