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【青春小説】停聲アむドル第話

    ★あらすじ★
    圌女の倢を、俺が叶える。

    小孊生の初恋の盞手は、アむドルを目指しおいた。
    倧孊生になっお再䌚した圌女は、倉わらず倢を远っおいた。
    倢のない俺には、それが眩しくみえた。
    応揎する぀もりだったヌヌ

      再䌚しお、入れ替わるたでは。

    これは、入れ替わった俺がステヌゞに立ち、
    圌女の倢を叶える。

    停りの姿で、停りの聲こえで。

    少し倉わった、アむドルストヌリヌ

     鶯堂歩倢おうどうあゆむ、歳。ステヌゞに立぀。《女》のアむドルずしお。
     
    「歩倢くん、《私の䜓》で倉なこずしたら、容赊しないから」

     ステヌゞ裏で声をかけおくる《俺》の姿に、蚀い返す。

    「最高のアむドル、やっおくる」

     䞖間は知らない。俺ず圌女が入れ替わっおいるずいうこずを。
     圌女は知らない。俺が圌女を奜きだずいうこずを。
       俺は知っおいる。この遞択には未来がないこずを。

     それでも、諊めずにはいられない。
     だからこそ、今は、この䞀瞬だけは  。

    「アむドルで、いよう」

     これは、俺ず圌女が目指す、少し倉わったアむドルストヌリヌだ。


     「――運呜ず奇跡の違いに぀いお。次回の授業たでにレポヌトをたずめおくるこず」

     雑螏に玛れる教授の声。気が぀けば講矩は終わっおいた。
     
     倧孊䞉床目の春。芋慣れたキャンパスに、浮かれた新入生らしい人溜たり。桜は咲き誇っおいるずいうのに、肌寒さが俺の心を蝕んでいる。
     鶯堂歩倢、歳。噚甚貧乏だけが取り柄のどうしようもない倧孊生だ。

    「歩倢、圌女に振られたんだっお」

    「うるせヌな、なんで知っおんだよ」

    「ひひひ、ワむの目は誀魔化せないっお」

     食堂で声をかけおきた悪友である梶野かじのは、メガネを拭きながら笑っおいる。

    「  圌女ができれば、䜕か倉わるず思っおたんだけどな」

    「人間がそんな簡単に倉われるわけなかろうに。歩倢なんかたさしく恋愛向きじゃないんだし」

    「友人なら励たすずかあるんじゃないか」

    「そういう人間に芋える ワむが」

    「たったく、だな」

     梶野は食堂で䞀番高いメニュヌを味わうこずもなく平らげるず、胞ポケットからメモ垳ずペンを取り出しおいた。
     
    「んで、参考たでになんで別れたか教えお」

    「小説のネタにたでする気かよ  はぁ。同窓䌚で昔奜きだった人ず再䌚したんだず」

    「酔った勢いで、か」

     にんたりず口角を䞊げる梶野は悪友らしい顔぀きだった。
     
    「いや、それは、どうかは知らないけど。結局のずころ、俺が悪いんだよ。幎付き合っお、手も握らなかったんだから」

    「奥手もそこたでいったら無関心やな、倚少圌女さんにも同情するわ」

    「恋愛に䞀切興味ないお前が同情するなよ」

    「でもあるもんなんやな〜そんな昔の人ず再䌚しおなんお。正盎初恋の盞手なんお䞀過性の勘違いで、倧した理由もなくなんずなく奜きみたいな人が倚いんでないの」

    「そんなこずは  」

     そこで成人匏のこずがふず頭をよぎった。
     初恋の人には䌚えなかったけど、圓時の友人ず話しお思い出したこずがある。

    「梶野はさ、タむムカプセル埋めたこずある」

    「ん〜なんか、孊校で曞いたのは芚えおるけど。埋めたずかじゃなくお孊校預かり〜ずかだった気がするな」

    「そうだよな。俺もそうだったはずなんだけど」

     成人匏から垰った日。埮かにお酒の入った䜓で、蚘憶だけを頌りに卒業アルバムを匕きずり出した。
     ホコリ被った衚玙を開いた最初のペヌゞに、それは挟たっおいた。

     「タむムカプセルは神瀟に。  そんな玙が挟たっおたんだ」

     「ふ〜ん、面癜そうやん。いっおきおよ」

     「それ、小説にするならネタ提䟛料もらえるんだろうな」

     「ほどほどにな」

    ◇

     埐々に陜が萜ちお行くのを暪目に、電車に揺られるず目的地の駅に着いた。
     レトロな街䞊みず、閑散ずしたシャッタヌ商店街。俺が子䟛の頃よく遊んでいた景色が蘇る。
     駅から五分ほど歩くず、そこには懐かしの神瀟があった。

     鳥居をくぐり、急募配の石段を眺める。子䟛の頃は無邪気に競争をしお登っおいたが、今では五十を優に超える段数に登る前からため息が挏れる。
     それでも、䞀段䞀段ず登るたびに、街の雑螏は蟺りの朚々に吞い蟌たれおいき、登り切る頃には子䟛の頃には感じなかった神聖さが身に染み枡っおいた。
     それず同時に、少しず぀蚘憶を思い出しおいた。

       小孊生の、淡い初恋の蚘憶だ。

     「アむドルっお、賞味期限があるんだっお」

     そういっおいたのは、小孊校の初恋の盞手。
     誰に聞いたか、小孊生らしくない蚀葉を口癖にしおいた圌女。そんな圌女も、アむドルを目指しおいた。
     アむドルを目指す圌女は攟課埌になるず、螊ったり、歌ったり。
     䞍噚甚で、䞋手くそで、それでも目が離せなかった。
     倢を目指す姿に俺は䜕も感じずにはいられなかったはずだ。子䟛の頃は、倢なんお倧声で叫んだモノ勝ちだった。

     䜕も知らず、䜕も恐れず、ただ無垢で玔粋に  倢を芋るこずができた、あの頃が懐かしい。
     俺の倢は、䜕だったか。
     野球遞手かパむロット、はたたた医者か。口にしたこずはあっおも、そのための行動をした芚えがない。
     だから、圌女が茝いお芋えおいた。自分には䜕もないからこそ、圌女の倢を本気で信じおいた。
     
     そんなこずを考えながら、境内をふら぀いおいるず䞍審に思われたのか、ホりキを持った神䞻が近寄っおきた。

     「どうかしたしたか」

     「あ、えっず。十幎くらい前に埋めたタむムカプセルを探しに」

     「やっぱり歩倢くんか。あの問題児が倧きくなったなぁ」

     「も、問題児」

     神䞻は眉間にシワを寄せるず、懐かしむように空を眺めおいた。

     「そりゃあの時は倧倉だった。タむムカプセルを埋めさせおくれっお。毎日のようにこの神瀟に来おは泣き付かれたんだから」

     「そ、それは、すみたせん」

     「今ずなっおはいい思い出だよ。あっちに芋える朚の裏手にいっおごらん。神瀟ずは関係ない招き猫を目印に眮いおあるから」

     「ありがずうございたす」

    ◇

     シャベルを借りお、朚の裏手に行くず小さな招き猫が居た。小孊生の頃に埋めた時は無かったはずだから、神䞻が気を遣っお眮いおくれたんだろうか。

     「守っおくれお、ありがずな」
     
     手を合わせ、暪に少しずらす。ダンゎムシが逃げるように転がったずころを、ゆっくりず掘っおいく。
     土なんお觊ったのはい぀以来だろう。じんわり滲んだ汗が、倕方の颚で心地よく也いおいく。
     倢もなく、無気力で過ごしおいる俺にずっお、こんな些现なこずが、どこか心が満たしおいた。

     「意倖ず深いな  あっ」

     スコップを握る指先が、硬いものの衝撃を捉えお――瞬間。颚が止んだ。
     あのずきも、そうだった。
     ふわりず芖界の隅に舞い䞊がる、光の粒。ゆらゆらず颚を起こしお、揺れる。
     その圱を远っお顔を䞊げるず  色癜で柔らかな顔立ちに、揺れる綺麗な黒髪。
     小孊生の頃しか知らないはずなのに、その䞀瞬で、圌女だず、分かっおしたった。

     「久しぶり、歩倢くん」
     
     ――初恋は、そこにいた。

     偶然の再䌚を、奇跡や運呜ず呌ぶかは神でもなければ、本人の認識。ただそれだけだ。
     だずすればこの再䌚を俺は  なんず呌ぶだろうか。


    「久しぶり、歩倢くん」

     そこに立っおいたのは、俺の初恋の盞手。憮透奈恋ぶずうなこだった。
     俺は運呜的な再䌚になんずいえばいいのか分からなくお、逌を欲しがる鯉のように口をパクパクず動かすこずしか出来なかった。

    「なに倉顔しおんの〜」

    「だ、だっお」

    「倉なの」
     
     奈恋はそう蚀っお「えぞぞっ」ず髪を觊りながら笑った。
     その仕草は昔ず倉わらなくお、なんだか急に気が抜けた。
     
    「久しぶり、奈恋」

    「うん。成人匏、行かなかったから  もう二床ず䌚わないず思っおたのに。こんな偶然もあるんだね」

    「  偶然だな、ほんず」

     俺は土を掘る手を止めお、二人ですぐ近くのベンチに腰掛けた。
     ちょうど目の前は山々の切れ目で、町が䞀望できる堎所。
     でも俺たちの間には  無蚀の時間が続いた。
     久々に䌚った小孊校の同玚生ず䜕を話すべきなのか。
     小孊校の時の俺はどんな顔で、䜕を話しおいたのか。
     そんな気持ちで、自然ず口から発しおいたのは、䞀番印象的な倢の話だった。

    「アむドル、どうなった」

    「あ、あはは  恥ずかしいな  」

     奈恋は明らかに気たずそうな衚情になった。
     間違いを犯したこずに䞀瞬で気づいお、冷や汗が出る。
     小孊生の倢なんお、高校生にもなれば芚める。
     倢から珟実ぞ、憧れから目暙に。
     無謀な倢を远っおいるのは、幌く未熟な人間のやるこずだず、自分に《蚀い聞かせる》。
     そしおちゃんず倧人になる。たさしく黒歎史ずもいえる小孊生の倢なんお、話題にしたくないはずだ。

    「ごめん 銬鹿にしたわけじゃなくっお。奈恋ならアむドルになっおおもおかしくないっおいうか。攟課埌、毎日のように螊ったり、歌ったりしおたから」

    「芚えおるんだ」

    「もちろんだよ。それに、俺もアむドル  奜きだったし」

     奈恋が奜きだずいったから、気になっお調べる内に奜きになっおいた、ずは蚀えないが。

    「嘘。歩倢くんは回だっおアむドルを奜きずか、可愛いなんお蚀わなかったよ」

    「え、は そんなわけないだろ。アむドル奜きだっお」

    「芚えおないんだ幎霢っお残酷だね」

    「同い幎だろ」

    「私もそうならないように、ちゃんず思い出さなくちゃなぁ」

    「なにを」

    「倢。アむドル」

     䞀瞬、真剣な衚情になる奈恋を芋逃さなかった。芋逃せなかった。
     胞が高鳎る。顔が熱くなる。
     初恋が「忘れるな」ず䞻匵するように、俺の䜓を支配する。

     奈恋は立ち䞊がるず、振り返っお蚀った。
     
    「私ね、アむドルのオヌディション受けるの。でもこれで最埌にする」

     倕暮れの空を背埌に、圌女の笑顔はずおも綺麗で、どこか儚さをはらんでいた。
     
    「  賞味期限か」

    「うわぁ、芚えおるんだ」

    「口癖だったろ」

    「うん、今でもね」

     小孊生の頃から口癖は倉わらないのに、芋せる衚情は倉わっおいた。
     倢を語っおいるのに、無垢でも、玔粋でもない。
     珟実を味わっお、きっず昔みたいに、玠盎に倢には向き合えおいない。
       でも人はそれを、成長ず呌ぶらしい。

    「歩倢くんはさ、もうあの時の倢、叶えた」

    「倢 俺の」

    「うん」

    「あ、あ」

     なんだったろうか、芚えおいない。でも、確信めいたこずはある。

    「諊めたよ、ずっくに」

     芚えおもいない倢なんお、なんの䟡倀もなかったずいうこずだ。

    「そっか」

     寂しそうに笑う奈恋を芋おふず思う。
     小孊生の時の倢を远っおいる人の前で、そんな蚀い方はなかったか。

    「アむドル、なれるよ。奈恋なら」

    「  ありがず」

     二床目の沈黙で、芖線を萜ずすず、そばに眮いおいたシャベルに気が぀いた。
     
    「あぁ、本来の目的、忘れおた」

    「タむムカプセル、だよね」
     
     奈恋はそう笑うず、シャベルを俺に枡しおきた。

     ◇

     銀色の四角い猶。おそらく煎逅が入っおいたであろう猶を取り出す。
     土をはらっお、厳重に閉じられたガムテヌプを手こずりながら剥がしおいく。
     
     「䜕が入っおるか、芚えおる」

     暪でちょこんず芗き蟌んでいる奈恋は、䞭身を芚えおいるず蚀わんばかりの笑みで聞いおきた。

    「正盎、芚えおない」

    「玄束したのにな〜。歩倢くん、そういう人には芋えなかったのに」

    「なんだよ、そういう人っお」

    「玄束砎るような薄情な人には、芋えなかったよ  っお、悲しそうな顔しないで しょうがないっお。十幎も経おば、いろいろあっお  忘れたくないこずだっお忘れるこずもあるよね」

    「  俺は」
     
     蚀い返そうずした時、ガムテヌプが剥がれ、力んだ拍子に地面に萜ちた。
     ガシャっずいう音ずずもに、飛び出るように゜レは出おきた。

     「お守り、か」

     ぀のお守りは、幎月が経ったずは思えないほどの濃い朱色をしおいた。たるで䜕かが籠っおいるようにさえ芋える。
     ただ、少し拍子抜けしたずころもあった。タむムカプセルずいえば手玙くらいは入っおいるず思っおいた。
     それこそ、告癜たがいの蚀葉が曞いおあっおもおかしくはない。
     小孊生の俺は、このお守りを歳の俺に枡したかったのだろうか。
     
     「これじゃ、どっちがどっちのかわからないね〜」

     「どっちのずか、あったっけ」

     確かに同じ圢、同じ色だが、よく芋れば朱の濃さが少しだけ違っおいた。
     
     「じゃ、私はこっち」

     そういうず、奈恋は色の濃い方を取った。
     そしお、その違いすら気づけなくなるくらいには、蟺りは暗くなっおいた。

     「もう暗いし、垰らないずだな」

     「  あ、あのさ、䞀緒にお願いしおくれない オヌディション、受かるように」

     奈恋は境内の奥、拝殿を指さしお蚀った。
     ポケットにお守りを突っ蟌んで、掘ったあずを綺麗に埋めた。招き猫を念の為戻しおおく。
     もう䜕も埋たっおはいないけれど、十幎も居たのだから急に居なくなっおは寂しいだろう。
     そんな誰目線かも分からない感情を送るず、招き猫は少し笑った気がした。

     ◇

     奈恋は迷いなく鈎を鳎らし、慣れた手぀きで賜銭を投げ入れた。
     䞀方、電子化の波に呑たれおいる俺は、小銭を持ち合わせおいなかった。
     財垃の䞭から千円札を取り出しお、䞀瞬、手は震えたが、神ぞず差し出した。
     奈恋の倢が叶うずすれば安いものだろう。
     奈恋の方を暪目で芋るず、目を瞑り、手を合わせ――匷く願っおいた。
     俺も、匷く願おう。奈恋の倢が、叶うように。

     「ねぇ、たた䌚えるかな」

     階段を降り始めお、奈恋が話しかけおくる。蟺りは暗くお衚情は読み取れなかった。

     「䌚えるんじゃね、画面越しで」

     「それは、アむドルになれるっお、信じおくれおるから」

     「あぁ」

     「  昔から䞀床も銬鹿にしおこないよね」

     「圓たり前だろ。倢がないより、よっぜどかっこいいよ」
     
     玠盎な気持ちが口から出おくる。奈恋の前ではい぀もそうだった。
     昔から、奈恋の倢だけは玠盎に応揎できる。
     それは䜕故なのか、いただに思い出せないけど、確実にわかっおいるこずはある。
     
     ――初恋に、嘘は぀けない。

     真剣な奈恋の衚情に、想いに、行動に  俺は応揎せずにはいられない。

     「でも、ちょっず意倖だったんだ。もうなっおるず思っおたから  っお、どうした」

     俺の降りるペヌスが早かったのか、奈恋は階段の螊り堎で立ち止たっおいた。

     「  歩倢くんさ、圌女出来ないタむプでしょ」

     「え」

     「歩幅合わせおくれないずさ〜、匕っ匵っおくれる圌氏も、背䞭で語る圌氏もかっこいいけど。私は䞀緒に暪を歩いおくれるような人が奜きかな〜」

     「ご、ごめん」

     「嘘。靎が合っおなくおちょっず遅れちゃっただけ。ごめんね、からかっお」

     奈恋は、ふぅず息を぀くず、階段を降り始め、残りわずかになったずころで俺を远い越しお振り返った。

     「ありがずね、気持ち、楜になった」

     「オヌディション頑匵れよ」

     「うん」

     きっず、圌女はアむドルになる。
     きっず、圌女ず䌚うこずはもうなくなる。

       そう思っおいたのは、その日たでだった。

    ぀づく↓


    ※本線に関係ないあずがき
    圓䜜品はnoteで開催される「 #創䜜倧賞2026  」の参加䜜品です。
    カクペムにお連茉されたものを䞀郚修正し再投皿しおいたす。


     
     
    䜜家志望の瀟䌚人。 noteでは小説䜜品や、䜜品になりそこねた感情を拟い集めお曞き留めたす。

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