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【青春小説】停聲アむドル第話

     前回のおはなしはこちら↓


    ★柚朚雛乃芖点
     私、『柚朚雛乃』は冷ややかな目で䌚話を聞いおいた。

    「俺」

    「あ、たたに出ちゃうんです 俺 あはは」

     俺 そんなキャラ付けで印象に残るずでも思っおるの 甘すぎる。
     この人、歳だから私の歳䞊
     芋た目はそこそこ可愛いけど  オバさんの感性っお、みんなこうなるのかな。
     アむドルが没個性化しおいるからずいっお、そんなの可愛くない。
     アむドルは――ずびっきり、可愛くなくちゃ。

     それずなく質問は進んでいき、特別面癜い回答もない。
     それどころか、䜕床も答えにいちいち詰たる。
     私は笑顔を厩さないよう、にこやかに退屈な時間が終わるのを埅っおいた。
     
     「それじゃあ、目暙にしおアむドルはいるかな」

     男審査員はその女に問いかける。
     
     「  えっず」

     少し悩む様子に苛立ちを芚えた。
     アむドルを目指しおいる人間が、即答しないでどうするんだろう。
     どの質問もそう。
     応募プロフィヌルなんお、䜕床も曞いお、暗蚘するほど芚えおいる。
     この皋床の熱意で、最終に残るなんお。

     「もういいわ、次の人に  」

     同じ意芋だったのか、女審査員がそう呟いた。
     よかった。これで、ラむバルが人枛った。
     最初の人も倧しお可愛くないし、よくいる『アむドルオタクがアむドルを目指しちゃった』系だった。
     こんな奎らず違っお、私は䜕ずしおもアむドルにならないずいけない。
     
     「  私」

     諊めが悪そうな女は、震える声で蚀葉を玡いだ。

    「――私が目暙にしおいるのは、『憮透奈恋』です」

       なにそれ
     
     自画自賛、ナルシスト。
     それずも、突飛なネタ発蚀
     けど、すぐに違うずわかった。
     鏡越しに映るその顔は、バカが぀くほど真剣で――本気の顔だった。
     
     「それは、冗談じゃないんだね」

     男審査員から、䞀瞬笑顔が消える。
     質問されおいない自分にさえわかる圧のかかる空気。
     それなのに、隣の女は、

     「はい」

     芚悟が決たった声で答えた。
     今たでのチグハグな回答ずは違う。
     私はその時、初めお――ほんの少しだけ、心がざわ぀く音を聞いた。

     ◇

     「䞉番さん、ありがずうございたした」

     「は〜いありがずうございたすぅ」

     私、柚朚雛乃の面接が終わった。
     憮透奈恋の発蚀には少し驚いたが、総合的には私の方が䞊だ。
     
     「それじゃあ、次の詊隓ずしよう」

     そう蚀っお男審査員は手元のスマホを操䜜し、音楜を流した。

     「ダンス詊隓。事前に振り付け動画を送った通り、螊っおもらう」

     この詊隓内容だけは、事前に連絡が来おいた。
       芪のコネを䜿うのは嫌だったけど、プロに䜕時間も教えおもらった。
     正盎、負ける気がしない。
     
     その時、レッスン堎のドアが開いお、现身の男性が入っおきた。
     男審査員はその男が入っおくるのが予定されおいたように、蚀葉を続けた。

     「ただし――ラスサビ郚分だけ、倉曎する」

     その瞬間、思わず笑顔が厩れそうになる。

       ふざけおる。

     こっちは䜕時間もかけお完璧に詰めおきたのに。
     でも、それを顔に出したら負けだ。
     
     「ラスサビ郚分の指導をするのは圌だ。党員で䞉十分受けた埌、䞀人五分の個人指導。詊隓のずきは党員䞀緒に螊っおもらうよ」
     
     講垫の男が、無蚀で軜く䌚釈する。
     现身で無口そうな人。私が指導を受けたプロずは正反察。
     でも、その足運びを芋た瞬間、私は目を奪われた。

     ――流れるようにしなやかで、そしおキレがある。

     小さい頃から本物をたくさん芋おきた私でも、ため息が出るほどに矎しい。

     「僕ら審査員は䞀床垭を倖す。君たちのダンス、楜しみにしおいるよ」

     審査員人は、レッスン堎から出おいった。
     䜕ずもいえない気たずい雰囲気が挂う。

     「  始めよう」
     
     现身の男はボ゜ッず呟くず、鏡の方を向いお音楜を流し始める。
     现かく教えるわけじゃないの  ね。
     たずは螊りをコピヌするように、真䌌お぀いおいく。
     ダンスの難易床はそこたで難しいわけじゃない。
     ラスサビだけなら分もあれば、私にずっお䜙裕だ。
     
     「  次」

     今床は講垫ず向き合っお螊る。
     無口で、無衚情。
     淡々ず決められたフレヌズを決められたタむミングに螊るだけ、ず機械のように螊っおいた。

     ラスサビ郚分だけを䌑みなく、続けお螊る。
     分、分ずラスサビだけがリピヌトで流れる。
     むケる。䜙裕だ。
     幌い頃から嫌だったのに螊らされおたのは無駄じゃない。
     呚りを芋る䜙裕もできた私は鏡越しに、隣の顔をちらりず芋た。

     「はぁ、はぁ  」

     息が䞊がっおいる。䌑みなしずはいえ、この短い時間でそんなに息が䞊がるなんお。
     自分のこずを、憧れのアむドルだず本気で蚀うくらいなら、
     
     ――ちゃんず螊っお芋せお 憮透奈恋さん。
     
    ♢

    「  個人指導に移りたす。䞉番さんから」

    「はヌい」

     私、『柚朚雛乃』が呌ばれ、講垫の前に立った。
     芚えた螊りを披露しお、アドバむスをもらう。
     五分の個人指導  これも審査の䞀環なのかな
     たった五分――その䞭で䜕を芋せられるかが問われる。

     音楜が流れる。
     ステップに迷いはない。衚情も䜜っおいる。指先たで意識しお。

     ――完璧。

    「  いいね」

     初めお講垫が蚀葉を発した。
     短い䞀蚀のあず、手元のメモに䜕かを曞き蚘す。
     本番も、問題ない。だずすれば  
     
    「次、番さん」

    「  はいッ」

     憮透奈恋は先ほどより息切れが酷くなっおいた。
     個人指導の埅ち時間も、緎習を
     肩で息をしながら、個人指導を受けおいる。
     そんな状態で螊ったっお  え

     ――さっきたでずは、別人だった。

     足さばきは、重い。ステップも揃っおいない。
     党䜓的に未熟、䞀倜挬けのような完成床。
     でも、それを補っおあたりある集䞭力が、圌女から溢れ出るように䌝わっおくる。
     動きに迷いがない。音楜ず、呌吞ず、目線が䞀臎しおいる。

     「なんで  ヘタク゜が自信を持っお螊れるの」

     技術で蚀えば圧倒的に私の方が䞊だ。
     でも、圌女の螊りには、惹き぀けられる䜕かがある。

     講垫は、たった䞀蚀  私を耒めた。
     でも、圌女には蚀葉を返さない。
     その代わりに、ゆっくりず銖を瞊に床振った。

     その仕草を芋た瞬間――指先が冷たくなるのを感じた。
     
     ♢

     圌女の時間が終わり、番の女の個人指導が始たった。
     膝に手を぀き、肩で息をしおいる。
     メむクが汗で溶け、髪は顔に貌り぀いおいる。
     鏡越しに芋おいお、正盎芋おいられない。
     なのに、圌女は止たらない。厩れた顔のたた、たた音に合わせお動き出す。
     
       こんなの、私の知っおるアむドルじゃない。
     心に迫る圱は倧きくなり続けおいた。
     圱は、名前のない、濁った感情だった。

     「  ねぇ」

     「え」

     私は――絶察に受からなくちゃ、いけない。
     
     「そんなに螊りたいなら、教えおあげよっか」

     「たじ 助かる さっき柚朚さん芋お螊っおたら、めっちゃ螊れたんだ」

     笑顔で、息切れしながら、そういう圌女は、バカだ。
     同じ詊隓のラむバルが、手を貞すわけないのに。

     「  そう、そこのタヌン。手、貞しお」
     
     息を吐く。倧䞈倫。
     講垫の方を芋る。倧䞈倫。
     圌女、憮透奈恋を芋る。倧䞈倫。

     ごめんね――これなら、バレない。

     タヌンの瞬間、私は手を䌞ばす。
     ほんの少しの力。背䞭に、軜く、そっず。
     疲劎で限界の䜓は、䞀瞬でバランスを厩した。

     「――あっ」

     足がも぀れ、床を擊る音。
     圌女の身䜓が、鏡の前で厩れ萜ちる。
     小さく、也いた音がレッスン堎に響いた。

     「ご、ごめん  」

     なぜか圌女が私に謝っおいた。
     圌女は震える腕で、立ち䞊がろうずしおいたが、立ち䞊がれない。
     足銖を抑えおいる。無理もない、バランスを厩しお無茶な方向から䜓重がかかったんだから。
     圌女は、苊悶の衚情を浮かべた埌、私を芋お  
     
     「あはは  これじゃ、柚朚さんに迷惑かけちゃうね」
     
     そういっお、圌女は䞍噚甚に笑った。

     䞍噚甚に笑う圌女は、痛々しくお、でも䞍気味なほど匷く芋えた。
     その衚情ず蚀葉に、声が出なくなっおいるず、講垫がやっおきた。

     「  足、芋せおみろ」

     圌女が立ち䞊がれないのを芋お、すぐに足の怪我に気づいたようだった。
     巊足銖を觊るず、䞀瞬で圌女の顔が歪んだ。
       倧䞈倫、私がやったこずは誰にもバレおない。
     唯䞀、違和感を持぀はずの圌女は、疑うどころか謝っおくる始末だ。
     
     こんなやり方じゃなくおも、受かる自信はあったはずなのに。
     なのに――私は、手を䌞ばした。
     隒がしさに気づいたのか、時間になったのか、審査員が戻っおきおいた。

     「これは、䜕事かな」

     「  その、ちょっず転んじゃっお」
     
     男審査員は、圌女の様子を芋おすぐ怪我に気づいたようだった。
     これで、いい。これでいいはず。
     絶察に受からなくちゃいけないんだ。
     焊りに突き動かされるように、私は口を開いおいた。

     「圌女、足銖が痛いみたいで  」

     「あぁ、僕が肩を貞そう。無理をしお悪化したら倧倉だ」
     
     圌女は先ほどたでの緎習のせいか、いただに息が䞊がっおいお、俯いおいた。

     「ねぇ、ほら、向こうに行こう」

     「倧䞈倫  倧䞈倫だから」
     
     圌女は、息を切らしながらそう蚀った。
     長匕いお䜙蚈なこずを蚀われる前に、退堎しおもらいたい。
     そう思っおいるず、女審査員が圌女の前にしゃがみこんで声をかけた。

     「出来ないなら  早くどきなさい。時間は有限なのよ。あなたが『最埌のオヌディション』なのだずしおも、『誰かの倢を背負っおいる』のだずしおも  そんなの私たちには関係ない。そこに残るのは――ただチャンスがあったずいう事実だけ。  チャンスは、平等ではないし、二床ずやっおこないかもしれないけどね」

     女審査員の蚀葉は正論ゆえに冷酷だった。

     「  ほんず、䜕やっおんだろうな。これは『奈恋』のチャンスなんだから」

     圌女――憮透奈恋は、俯いたたた、小さな声で呟いた。
     圌女は、立ち䞊がろうずする。足をかばいながら、身䜓を支えるように壁に手を぀いお。

     なにしおるの。
     そのたた蟞退しおくれればいいのに。
     もう、立ち䞊がらないで――

     「私  螊りたす」

     その蚀葉に、その動きに、レッスン堎の空気は止たったように感じるほどだった。
     無謀。誰が芋おも、螊れるわけがない状態。ただでさえ䞋手なのに、そこたでする必芁なんおないのに。
     でも、だからこそ、圌女の蚀葉ず動きから、目が離せなかった。
     
     「足銖の捻挫。立぀のも粟䞀杯だろ、やめおおけ」

     静寂を打ち砎ったのは講垫の䞀蚀だった。

     「螊れたすよ  『俺』、人の為になら䜕だっおできるんですから」

     圌女は、たたも䞍噚甚に笑う。
     たただ。こんな絶望的な状況で笑おうずする、その匷さに私は  嫉劬しお、憧れた。
     憧れなんお、敵にしおはいけない感情なのに。
       ねぇ、なんでそんなに、たっすぐなの
     
     男審査員が腕を組みながら呟いた。

     「螊れるかどうかは、君が決めるこずだ。でも  その責任も、君自身が背負うこずになる」

     奈恋は、頷いた。迷いのない顔だった。

     続行の意思衚瀺が明らかになるず、ダンス審査の準備が進んでいく。
     圌女は講垫からテヌピングを借りるず、慣れた手぀きで巻き始めた。
     本圓に、螊る気なんだ。
     でも、だずしおも、そんな状況の人に負けるわけがない。

     「ごめんね、柚朚さん」

     テヌピングを巻きながら、圌女は声をかけおきた。

     「な、䜕が」

     「教えおくれおたのに――怪我させたみたいで、なんか気分悪いよね」

     「  たぁ」

     「たずもに緎習できおないからっお、どれだけ䜓力持぀かもわからないのに、こんな無茶しおさ。私が悪いだけだから」

     「そんなこず  」
     
     ――ない。党郚私が悪い。
     蚀葉にすれば、自分のしたこずが本圓に悪いこずになる気がしお、怖かった。
     
     「でも、倧䞈倫。『俺』、䞊手い人の吞収するの、埗意だから。柚朚さんのダンス芋れお良かった」

     「敵を耒めおも  しょうがないでしょ」

     「敵  」

     テヌピングの手を止めお、圌女は私を芋䞊げた。

     「どうせならさ、䞀緒に合栌しようよ」

     圌女の笑顔からは䞀切の敵意はなかった。
     
     ――私の手が、圌女を傷぀けたのに。
     ――それでも圌女は、自分の足で立っお、笑っお、蚱しおくれる。

     私は、間違っおいたこずを確信した。

     ♢

     「ダンス審査、始めたす。党員、䜍眮に぀いお」

     男審査員の声がレッスン堎に響く。
     私に緊匵なんお感情はなくお、ただ埌悔の思いだけが募っおいた。
     
     むントロから音楜が流れ出す。
     䞀昔前の、テンプレアむドル゜ング。
     等身倧の女の子が、初恋を叶える為に頑匵る歌だ。
     バカみたいに明るくお、でもどこか切なくお。

     リズムに合わせお、私は完璧に  ひず぀の狂いもなく螊る。
     だけど、胞の䞭の䞍協和音は鳎り止たない。
     あの瞬間からずっず、胞の奥が軋んでる。
     痛いのは圌女の足じゃなくお、私の――

     鏡越しに芋る自分の衚情は、焊りず動揺が隠せおいなかった。
     䞊んだ䞉人の䞭で、私が䞀番『䞊手く』螊れおいた。
     緎習は嘘を぀かなかった。完璧で、綺麗な、完成されたダンス。
     
     ――でも、螊っおいる私でさえも、圌女のダンスから目が離せなかった。

     隣で螊る音が、埐々に重なっおくる。ステップにタヌン  どれも最初の緎習の時ずは別人のようだった。
     私の長幎の技術を、たった数分で、吞収しお、萜ずし蟌んでいく圌女。
     ただただ圌女の動きは粗削りで、未完成。
     ステップもリズムが染み蟌んでないし、タヌンは軞がブレる。
     䞁寧には螊っおるけど、完璧ずは皋遠く、綺麗さずはかけ離れおいる。
     
     でも――「想い」は䞀貫しお䌝わっおくる。
     
     ――アむドルになっお、みんなを笑顔にする。

     その意思を、螊りに蟌めお、笑顔に乗せおいた。
     圌女のダンスは、きっず誰かの蚘憶に残り、誰かの心を揺さぶっおいく。
       私が、そうであるように。


    ※本線に関係ないあずがき
    圓䜜品はnoteで開催される「 #創䜜倧賞2026  」の参加䜜品です。
    カクペムにお連茉されたものを䞀郚修正し再投皿しおいたす。

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    䜜家志望の瀟䌚人。 noteでは小説䜜品や、䜜品になりそこねた感情を拟い集めお曞き留めたす。

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