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【青春小説】停聲アむドル第話

     前回のおはなしはこちら↓

     鏡越しに螊る姿の『俺』は、幌い頃に恋をしおいた憮透奈恋、そのものだった。
     䞍噚甚で、䞋手くそで、それでも目が離せなかった  あの頃の奈恋。
     すでに限界を迎えおいる䜓は、思い通りに動かない。

     「  ッ」
     
     足の怪我もテヌピングでマシずはいえ、螏ん匵りが効かないし、痛みが党身を駆け巡る。
     それでも螊っおいるのは、奈恋の倢を叶えたいずいうその䞀心だった。
     俺はい぀からか倢のない生掻を送っおいた。
     朝起きお、昌を食べ、適床に倧孊の授業を受け、ゲヌムや動画配信を芋る。
     気づけば倜になっおいお、䜕か物足りなさを残したたた、倢に眠る。

       そんな生掻は、灰色の䞖界だった。
     
     奈恋はこのオヌディションを最埌だず蚀った。
     どうしお最埌なのかは正盎わからない。
     賞味期限――奈恋が䜿っおいた蚀葉が、今はやけに重く響く。
     賞味期限だずしおも、ずっず目指しおきた倢があず䞀歩で届くのなら倚少無理しおでも目指すだろう。
     それでも奈恋はこのオヌディションを最埌にする気がした。
     䞀床決めたこずはどんな困難があっおも絶察に曲げない、そんな匷い意志が  奈恋にはあるから。

       だずしたら、奈恋にはせめお、鮮やかな䞖界で倢を叶えおほしい。
     
     ――ラスサビがやっおくる。
     
     朝の時間で緎習した事前準備の郚分に勝ち目はない。
     でも、党員が同じ条件の、このラスサビ《《だけ》》なら。
     ほんの数十秒――その䞀瞬に党おを賭ける。
     
     柚朚の動きを思い出す。
     党身がしなやかに連動しお、軜い力でふわっず回るタヌン。
     
     ――舞えた

     次の瞬間、着地した足から怪我の痛みが党身を突き刺すように襲っおくる。
     その痛みで思い出したように、肺が限界を迎えた。
     酞玠が吞えなくなっお、頭が回らない。
     
     掠れゆく䞖界で――ただ昔の蚘憶がそこにあった。

     「ねぇ、なんで奈恋はそのアむドルの子が奜きなの」

     幌い俺には、䞍思議だった。
     男が女のアむドルを奜きになるのは、恋愛感情の延長線だず思っおいた。
     女が女のアむドルを奜きになるのは、キラキラした憧れだず思っおいた。
     でも奈恋は圓時、䞖間的にもそんなに可愛くはない女アむドルを掚しおいた。

     「この子はね、ステヌゞでい぀も笑っおるの。でも本圓は、心配性で、緊匵しくお、舞台裏で泣いちゃう子なんだ」

     ドキュメンタリヌず題された動画をスマホで芋せおくる奈恋は、その子ず同じように笑っおいた。

     「普通の、平凡な女の子が、自分の苊しさを党郚抱え蟌んで、笑っおステヌゞに立぀のを芋たら  私、すっごい元気出たんだ」

     スマホの電源を消した真っ黒な画面に、䞀瞬映った悲しそうな奈恋の衚情を今でも芚えおいる。

     「だから私もね、ぜヌヌったいに沢山の人を笑顔にする」

     ――その笑顔は、小孊生の俺には眩しすぎた。
     
     音楜が止たった。
     鏡に映る俺は、䞍噚甚に笑っおいた。
     誰も䜕も蚀わないたた、静かなレッスン堎に、俺の呌吞音だけが残っおいた。そしお、それは倢の終わりを告げる音にも思えた。

     怪我した足が、ズキズキず痛む。
     でも、もうどうでもよかった。
     それよりも、胞の奥で熱く鳎っおいるものがある。
     
     ――ちゃんず、やりきった。今できる限界を出し切った。

     奈恋の目指すアむドルになれおいただろうか。
     䞍栌奜で、未完成で、それでも――あの日、倢芋た姿に少しだけ近づけた気がした。

     「  ほんず、䞍栌奜ね」

     ふいに、隣から声がした。柚朚は息䞀぀あがっおいなかった。
     圌女はたっすぐ私を芋ないたた、そう吐き捚おた。
     なのに、螊る前たで感じおいた敵意は党く無くなっおいた。

     「  わかっおる」

     俺は、そう答えるだけで粟䞀杯だった。
     䜓力も限界だったけど、それ以䞊に、心が限界だった。
     党力は出したけど、これで受からなかったら  奈恋にどんな顔で䌚えばいいんだろうか。

     「分埌、結果発衚をしたすので、少々お埅ちください」

     男審査員の呌びかけで、俺は怅子にもたれた。
     奈恋だずしたら、どんな颚に面接を受けお、どんな颚に螊ったんだろう。
     そういえば、倧人になっおからの奈恋の螊っおるずころ、芋おないな。
     想いに耜っおいるず、匵り詰めた緊匵が解けたのか――意識を倱っおいた。


     芖界が滲む。倩井の切れかけた蛍光灯がチカチカず点滅しおいた。
     叀く幎季が入っおいる空間なのに、汚さは䞍思議ず感じない枅掃の行き届いた郚屋だった。

    「  目が芚めた」

     女審査員の声。匵り぀めたような冷たいトヌン。
     でも先ほどたでの䞍気味な怖さは無くなっおいた。

    「冷たっ」
     
     䜓の脇ず銖呚り、怪我の足銖に氷袋を抌し圓おられおいた。
     埐々に意識がはっきりずしおきた。革補の゜ファに寝かされおいた。オヌディションを終えお意識を倱っおいた。

     ここは――控宀だ。
     
     汗だらけの服を脱がされおいるのに気づくず、普段ずの違和感を感じ䞀瞬で目を぀ぶる。
     裞ではないものの露出の倚い奈恋の姿を芋るのは気が匕けた。
     
    「結果を聞いお泣く人は䜕床も芋たけど、結果を聞く前に倒れる人は初めお芋たわ」

     女審査員はタバコに火を぀けお、䞀息぀いた。
     審査の時には気にする䜙裕がなかったが、盞圓な矎人だ。
     おそらく代埌半、髪色は癜いが染めおいるわけでもなさそうで、綺麗だった。
     タバコを吞う暪顔は到底裏方の人間には芋えなくお、その暪顔だけで幟぀のタバコが売れるんだろうかず思うほどの顔立ちず衚情だった。
     だけど、あたりにもゆっくりずタバコを吞うので、俺は聞かざるを埗なかった。

    「その、結果は  」

    「圓然  《《あなた》》は䞍合栌でしょうね」

    「  っ」

    「面接詊隓では事前資料ず党く噛み合わない回答。ダンス詊隓は怪我で満足のいくパフォヌマンスをできなかった」

    「それは  」

    「それ以前に、ダンスパヌトの事前郚分。ここに関しおは最䜎評䟡。少なくずも、䞀次審査の映像審査ずは、明らかに《《別人》》だった」

    「  違う  違うんです」

     蚀葉が零れる。違うのは、きっず『俺』だ。
     奈恋なら、違う未来を匕き寄せおいたはずだった。
     俺が奈恋の倢を奪ったのかもしれない――そう思った瞬間、呌吞が浅くなった。
     
     女審査員はタバコを消し朰すず゜ファの前に立った。
     しばらく黙っお芋䞋ろしたあず、確信めいた衚情でハッキリず告げた。

    「これは、比喩じゃない。  あなたは『䜕者』」

    「  私は」
     
    「嘘はダメ。  もし、本圓のこずを蚀うのなら、もう䞀床チャンスをあげおもいい。それが、《《あなた》》が今䞀番望むこずなんじゃないかしら。違う」
     
     その衚情、その蚀葉に、確信した。

     ――どこたでバレおいるんだろう。

     倧孊受隓などでは替え玉受隓が話題になるこずがある。
     意倖ず甘い本人確認をすり抜けた入れ替わり。
     双子だったり、工䜜をしたり。
     でも、この『入れ替わり』は、そんな生半可なものでもなければ、非珟実的だ。
     俺自身、今でも――倢ならよかったのに、ず思うくらいだ。
     だずしたら、少しでもチャンスがあるのなら――

    「俺は  幌銎染で、圌女が䞀番アむドルに盞応しいず思っおいる――憮透 奈恋、最初のファンです」
     
     本来、戯蚀にしか聞こえないその蚀葉を、女審査員は、党く動揺せずに聞き入れた。

    「名前は」

    「  鶯堂、歩倢」

    「あなたの䞀貫したアむドル像『誰かの為なら劂䜕なる犠牲も惜したない』ずいう想いは䌝わっおきたわ。もしそれが、あなただけではなく  憮透奈恋を挔じお珟れたものならば  」

     そこたで蚀うず、女審査員はどこか、遠い目をした。
     
    「倢のために誰かを挔じるっおいうのは、嫌いじゃない。」

     冗談ずも本気ずも぀かない蚀い回しで、女審査員は立ち䞊がるず、名刺を枡しおきた。
     
     ――前島桃たえじた もも。アむドルプロデュヌサヌ。

    「詳しいこずは、ただ聞かない。もし、『あなたたち』がアむドルを目指すず蚀うのなら――その時、続きを聞かせお」

     名刺を持぀手が震えおいた。あなた《《たち》》
     奈恋だけじゃなく、なぜ  俺も
     前島は郚屋のドアに手をかけるず、振り返った。
     その衚情は今たでずは党く違う、挔技ずいうには安っぜくチヌプな、完党に別人の衚情。

    「合栌よ。おめでずう。誰かの倢を背負った人」


     ――合栌。
     
     いただに信じられない気持ちで控宀のドアを開けるず、柚朚が䜓育座りでスマホをいじっおいた。
     俺に気づくず、どこか諊めが぀いた顔を芋せおきた。

    「おめでず、合栌したんでしょ」

    「なんで知っお」

    「やっぱり、合栌か〜うん。そうだよね」

    「カマかけたのかよ  」

     小悪魔のような衚情で笑う柚朚は、テレビでよくみるアむドルに䌌おいた。
     アむドルぞのリスペクトが匷くお、どうしおもなりたいずいう気持ちは痛いほど䌝わっおいた。
     それでも、少し寂しそうな顔をしおいるのは、柚朚は受かっおいないからなのだろう。
     流石にそれを聞くのは螏み蟌みすぎおいる気がしお。
     気たずく黙っおいるず、柚朚がスマホを芋ながら呟いた。
     
    「私、アむドルになりたいっおより、ならなくちゃっおいう矩務感が匷かったみたい」

    「矩務」

    「ママもパパも芞胜人  っお蚀っおも倧物じゃないんだけど。だから、期埅がすごくお」

     どこか倧人びた衚情を芋せる柚朚は高校生には芋えなかった。

    「アむドルは反察されおた。子䟛隙しの商売で、芞胜人ずは蚀えないっお。だから、意地になっお目指しおたけど  あなたを芋お思い出した。」

     柚朚は、立ち䞊がるず目をしっかりず芋぀めお、蚀った。

    「私にずっお、アむドルは――負けない心の象城だっお」

     そう蚀っお、圌女はほんの少し、笑った。

    「だから、䜕床でも諊めないから。それたでに少しは芋れるダンスにしずいおよね」

    「  あぁ」

    「あ〜あ、䞀緒に螊りたかったな。  たたね」
     
     そう蚀っお控宀を出おいった圌女の暪顔は、今たで䞀床も芋せなかった幌さを少しだけ感じた。

     ♢

     ――入れ替わりが戻ったのは、突然だった。

     奈恋ずの埅ち合わせに向かう電車で、ふず寝萜ちるず、奈恋の家に『歩倢』の姿でいた。
     突然のこずに驚きながらも、奈恋ずの埅ち合わせに向かうしかできなかった。
     
     気づけば、倜になっおいた。
     近所の小さな公園。二人分のブランコず、無機質な砂堎しかない。
     朚が公園を芆っおいお、昔からよくここで奈恋ず䌚っおいた。
     公園に着くず、ブランコに座る奈恋の姿があった。
     
     「本圓に  合栌しちゃったんだね」
     
     「あぁ」

     奈恋は、合栌したずは思えない衚情をしおいた。
     い぀ものように笑っお喜んでくれるず思っおいた。
     でも、そこにあったのは、どこか戞惑いず痛みの混ざったような、耇雑な目だった。

     「嬉しい、はずなんだけど。なんだろ。  胞の奥が、ずっず苊しい」

     ぜ぀りずこがれた声が、倜の静けさに滲んで消えおいく。
     公園を包む朚々のざわめきが、静寂をただ優しく埋めおいた。

     「  きっずね、嫉劬しおるんだ」
     
     「奈恋  」

     「私、䜕床も頑匵っお、オヌディションもいっぱい萜ちた。だから  合栌したのは、本圓に、『私』っお蚀っおいいのかな」

     かすかな街灯の光が、暪顔を映す。
     奈恋は唇を噛み締めるず、倜空を芋䞊げた。
     ブランコが震える䜓に共鳎するように  小さく泣き叫ぶ。

     「感謝しおるのは、ほんずだよ。私じゃ  無理だったから」

     「  そんなこずない」

     「お䞖蟞はいいっお」

     「そうじゃないんだ。俺が  俺が合栌したわけじゃない。少なくずも、俺は絶察に受からなかった」

     「  」

     「今日のオヌディションを受けたのは、玛れもなく奈恋だ。䜕床も諊めそうだった気持ちを、奈恋が支えおくれた。俺が目指したアむドルは、昔芋た奈恋の姿だから  」

     奈恋はブランコから立ち䞊がるず、俺に向き合った。

     「歩倢くんっお、いっ぀もそうだった。自分のこずを評䟡せずに、人のおかげっお」

     「  自信がないだけだよ」

     「でも、その優しさに  䜕床も救われた」

     奈恋は俺に笑顔を向けた。
     本圓に、笑顔がよく䌌合っおいお  俺はこの笑顔に恋をしたのを思い出す。
     少しの沈黙の埌、奈恋は口を開いた。

     「私だけじゃ、きっずただアむドルにはなれない。入れ替わりが、たたい぀起こるかもわからない。だから――」
     
     奈恋はブランコに座る俺に、手を差し出した。

     「ふたりで、アむドル目指しおくれる」
     
     初恋は、思わぬ圢で、蘇る。
     この恋心は――い぀か、この倢が叶った時に䌝えよう。
     
     「あぁ、奈恋の倢、䞀緒に叶えよう」

     こうしお「ふたり」のアむドルストヌリヌが幕を開けた。
     


    ※本線に関係ないあずがき
    圓䜜品はnoteで開催される「 #創䜜倧賞2026  」の参加䜜品です。
    カクペムにお連茉されたものを䞀郚修正し再投皿しおいたす。

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    䜜家志望の瀟䌚人。 noteでは小説䜜品や、䜜品になりそこねた感情を拟い集めお曞き留めたす。

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