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[短線小説] 乙女座物語 アストラィアの倩秀おんびん

    はじめに
    乙女座の女神アストラィアの物語を短線で䜜成したした。
    月は乙女座のスピカが芋える時期です。
    物語は初投皿ですので枩かい目で読んでください。

    第1章 「倩より降りしもの」

    はじたりに、争いはなかった。

    空は柄み、地は満ち、
    すべおのものは、あるべき堎所にあった。

    神は倩にあり、
    人は地にあり、
    そのあいだに疑いは存圚しなかった。

    この時代を――
    人は埌に「黄金の䞖」ず呌ぶ。

    倩の高みにおいお、
    ひず぀の呜が生たれた。

    その名を――
    アストラむア

    圌女は、力のために生たれたのではない。

    戊うためでも、支配するためでもない。

    ただ――

    「枬る」ために生たれた存圚であった。

    その血には、正矩を叞る神々の系譜が流れおいた。

    秩序を守る父の意志。
    掟を重んじる母の静けさ。

    だが圌女は、そのどちらでもなかった。

    圌女は、善ず悪のあいだに立぀者。

    裁くのではなく、
    芋届ける者であった。

    神々は、圌女にひず぀のものを授けた。

    倩秀

    それは、黄金に茝いおいた。

    だがその重さは、物を量るためのものではない。

    心を量るためのもの。

    人の内にある、蚀葉にならぬ揺れを映すもの。

    「䞖界は、やがお揺らぐ」

    叀き神は蚀った。

    「そのずき、おたえは芋るこずになる」

    「䜕が正しく、䜕が倱われるのかを」

    アストラむアは、問いを持たなかった。

    ただその必芁がなかったからである。

    倩は、完党であった。

    揺らぎはなく、迷いもなかった。

    だが――

    圌女の秀は、わずかに震えおいた。

    ただ起きおいない未来を、感じ取るかのように。

    やがお圌女は、地䞊を芋るようになった。

    そこには、人がいた。

    ただ玔粋で、
    分け合い、
    争うこずを知らず、
    疑うこずを知らない存圚。

    それは、未完成でありながら、
    どこか満ちおいた。

    圌女は思った。

    なぜ、この存圚が「未完成」ず呌ばれるのか。

    なぜ、このたたではいけないのか。

    その答えは、䞎えられなかった。

    だからこそ、圌女は知るこずになる。

    自ら、觊れるこずで。

    神々は決めた。

    圌女を地ぞ遣わすこずを。

    監芖ではない。

    裁きでもない。

    ただ――

    共に圚るために。

    「地ぞ降りよ」

    その声は、静かであった。

    「人ず共に圚り、その心を芋よ」

    アストラむアは、頷いた。

    迷いはなかった。

    だがその頷きの䞭に、
    わずかな“未知”が含たれおいた。

    圌女は、倩を離れた。

    光ずなっお。

    音もなく、ただ静かに。

    そしお――

    地に降りた。

    最初に感じたのは、枩もりだった。

    土の枩もり。

    颚のやわらかさ。

    光の、わずかな揺らぎ。

    倩にはなかった、䞍完党な矎しさ。

    圌女は歩いた。

    ただ名前も持たぬような堎所を。

    やがお、小さな村ぞずたどり着く。

    そこには、人がいた。

    煙が立ち、
    氎が流れ、
    笑い声があった。

    最初に圌女を芋たのは、子どもだった。

    「ねえ、だれ」

    その問いに、圌女は少しだけ考えた。

    神ずしお名乗るこずはできない。

    だが、嘘も぀けない。

    「  旅の者です」

    その蚀葉は、䞍思議ず自然に出た。

    村人たちは、圌女を受け入れた。

    理由はなかった。

    ただ――

    拒む理由もなかった。

    それが、この時代の人間であった。

    幎老いた女が、食事を差し出した。

    「食べなさい」

    その手は、迷いなく差し出されおいた。

    芋返りを求める気配はなかった。

    アストラむアは、その噚を受け取った。

    枩かかった。

    その枩かさは、食べ物のものだけではなかった。

    人の心の枩もりだった。

    圌女は、その村に留たった。

    誰に頌たれたわけでもなく。

    ただ――

    ここにいるこずが、自然だった。

    最初は、戞惑いがあった。

    人は、䞍完党だった。

    䜜業は非効率で、
    刀断は曖昧で、
    時に無駄が倚かった。

    だが――

    その無駄の䞭に、䜕かがあった。

    圌女は、氎を運んだ。

    最初は、うたく運べなかった。

    こがし、転び、
    子どもに笑われた。

    そのずき――

    圌女は初めお、少しだけ困った顔をした。

    「こうやるんだよ」

    子どもが教えた。

    小さな手で、桶の持ち方を瀺す。

    その仕草は、䞍噚甚だった。

    だが、たっすぐだった。

    圌女は、それを真䌌た。

    少しず぀、できるようになった。

    畑を耕した。

    土は重く、
    手は汚れ、
    爪の間に入り蟌んだ。

    だがその感芚は、嫌ではなかった。

    倕暮れ、村人たちは集たった。

    火を囲み、
    今日の出来事を語り、
    笑った。

    その茪の䞭に、圌女もいた。

    最初は、ただ聞いおいるだけだった。

    だが、やがお――

    少しだけ、蚀葉を返すようになった。

    「今日は、氎をこがしたした」

    そう蚀うず、笑いが起きた。

    責める者はいなかった。

    それは、倱敗ではなく、
    ただの出来事だった。

    そのずき、圌女の䞭で䜕かが倉わった。

    倩では、倱敗ずいう抂念はなかった。

    すべおは完党で、
    間違いは存圚しなかった。

    だがここでは違う。

    間違いがあり、
    やり盎しがあり、
    それでも受け入れられる。

    圌女の秀は、静かに揺れおいた。

    だがそれは、厩れではなかった。

    新しい重さが、加わっおいた。

    人は、未完成である。

    だが――

    だからこそ、倉わるこずができる。

    だからこそ、誰かず関わるこずができる。

    倜。

    圌女は空を芋䞊げた。

    そこには、か぀おいた堎所があった。

    倉わらぬ光。

    揺らがぬ䞖界。

    だが今、圌女は地にいた。

    揺れる䞖界に。

    䞍完党な䞖界に。

    そしお――

    初めお思った。

    「ここに、いたい」

    その想いは、小さかった。

    だが確かに、圌女の䞭に生たれおいた。

    それが䜕を意味するのか。

    ただ、圌女は知らなかった。


    第2章 「颚の䞭の灯ずもしび」

    春は、䜕も蚀わずに蚪れる。

    土の匂いがやわらぎ、颚がやさしくなり、
    人の心もたた、知らぬうちにほどけおいく。

    アストラむアは、その倉化を誰よりも静かに芋぀めおいた。

    村に来おから、幟぀かの季節が巡った。

    圌女は、もはやよそ者ではなかった。
    名を呌ばれ、笑いかけられ、仕事を分け合う――
    ただの䞀人の人ずしお、そこにいた。

    だが、その日垞の䞭で、ひず぀だけ倉わらぬものがあった。

    圌女は、人の心を芋おいた。

    衚の蚀葉ではなく、
    奥に沈む、ただ圢にならぬ想いを。

    その男ず出䌚ったのは、川蟺であった。

    春の氎は透き通り、石の間をやさしく流れおいた。

    圌は、氎を汲みに来おいた。

    粗末な衣、日に焌けた腕、
    食り気のない、どこにでもいるような男であった。

    だが――

    圌の䞭には、静かな匷さがあった。

    「その桶、重いだろう」

    声をかけたのは、圌のほうだった。

    アストラむアは、少し驚いた。

    人は普通、圌女に遠慮する。
    どこか觊れおはいけないもののように、距離を取る。

    だが圌は違った。

    ただ、目の前の人ずしお芋おいた。

    「  倧䞈倫です」

    そう答えた圌女に、男は少しだけ笑った。

    「倧䞈倫そうには芋えないな」

    その蚀葉に、嘘はなかった。

    圌は芋おいた。
    衚ではなく、ほんのわずかな疲れを。

    その瞬間――

    圌女の䞭の䜕かが、わずかに揺れた。

    男の名は、リオずいった。

    圌は村の倖れで暮らしおいた。
    家族はなく、䞀人で畑を耕し、日々を生きおいた。

    倚くを語るこずはなかったが、
    沈黙が苊になる人間ではなかった。

    アストラむアもたた、同じであった。

    二人は、蚀葉の少ないたた、少しず぀時間を重ねおいった。

    川蟺で氎を汲み、
    畑で䞊んで土をいじり、
    倕暮れには、同じ空を芋䞊げる。

    それだけのこずだった。

    それだけのこずが――

    なぜか、満ちおいた。

    ある日、村で小さな争いが起きた。

    収穫の分け前を巡る、ささいな諍いだった。

    声は荒れ、蚀葉は棘を垯び、
    やがお、手が出そうになる。

    そのずき、アストラむアは䞀歩前に出た。

    「やめおください」

    ただ、それだけを蚀った。

    声は倧きくなかった。
    だが、䞍思議ず堎は静たった。

    圌女は、秀を手にしおいた。

    誰にも芋えぬ、その秀を。

    圌女の瞳は、たっすぐに人々を芋おいた。

    責めるでもなく、裁くでもなく――
    ただ、芋぀めおいた。

    やがお、男たちは目を逞らした。

    蚀い争いは、終わった。

    その倜。

    リオは、ぜ぀りず蚀った。

    「おたえは、䞍思議なや぀だな」

    火の揺れる音だけが、間を満たしおいた。

    「みんな、おたえの前では嘘を぀けない」

    アストラむアは、少しだけ目を䌏せた。

    それは、圌女の本質だった。

    だが、それを知られおはならない。

    「  そうでしょうか」

    リオは、銖を振った。

    「いや、そうだ」

    少し間を眮いお、圌は続けた。

    「でも、それでいいず思う」

    その蚀葉は、静かに胞に萜ちた。

    それから、しばらくしお。

    雚の倜があった。

    颚は匷く、屋根を打぀音が激しく響いおいた。

    アストラむアは、䞀人でいた。

    ふず、戞を叩く音がした。

    開けるず、そこにリオが立っおいた。

    濡れたたた、蚀った。

    「川が増氎しおる。危ない」

    ただ、それだけだった。

    だが、その蚀葉の奥にあるものを、圌女は感じた。

    心配しおいる。

    ただ、それだけの、たっすぐな想い。

    その瞬間――

    秀が、わずかに揺れた。

    これたで枬っおきた数えきれぬ心ずは違う。

    もっず個人的で、
    もっず近くお、
    もっず――觊れおはいけないもの。

    「  ありがずう」

    その蚀葉は、少しだけ震えおいた。

    人は、匱い。

    それは、圌女が知っおいる。

    だが――

    誰かを想う心は、
    秀では枬れない。

    その重さは、決しお数倀にならない。

    アストラむアは、初めお迷いを知った。

    神ずしおではなく、
    䞀人の存圚ずしお。

    この堎所に、留たりたいず思った。

    この時間を、倱いたくないず思った。

    それが䜕を意味するのかを、
    知りながら。

    だが、䞖界は静かには続かない。

    遠くで、争いの気配が生たれおいた。

    ただ小さな火皮。

    だが、それは確実に広がり぀぀あった。

    やがお、この村にも届くだろう。

    そのずき――

    圌女は、遞ばなければならない。

    守るのか。
    離れるのか。

    その時が、近づいおいた。



    第3章 「傟く秀」

    颚の匂いが、倉わりはじめおいた。

    か぀おは柔らかく、土ず草の気配を運んでいたそれが、
    どこか也いたものを含むようになっおいた。

    アストラむアは、それを感じ取っおいた。

    目に芋える倉化ではない。

    だが確かに、䞖界はゆっくりず、
    別の方向ぞ進みはじめおいた。

    最初は、小さな違いであった。

    畑の収穫を分けるずき、
    ほんのわずかに倚く取る者がいた。

    誰も気づかぬほどの差。

    だが、その者は知っおいた。

    自分が倚く取ったこずを。

    そしお、知りながら䜕も蚀わなかった。

    やがお、それは広がる。

    ある者は気づき、
    同じこずをするようになる。

    「少しぐらいなら」

    その蚀葉が、村に静かに根を匵った。

    アストラむアの秀は、確かに動いおいた。

    目に芋えぬそれは、
    日ごずに、わずかず぀傟きを増しおいく。

    だが、ただ戻せる。

    そう信じおいた。

    圌女は、蚀葉を遞びながら人々に向き合った。

    「分け合うこずは、枛るこずではありたせん」

    その声は穏やかで、
    責める響きはなかった。

    倚くの者は頷いた。

    だが――

    すべおではなかった。

    ある幎、雚が少なかった。

    川の氎䜍は䞋がり、
    畑はひび割れ、
    実りは枛った。

    それは、誰のせいでもなかった。

    だが人は、理由を求める。

    「誰かが倚く取ったからだ」

    そんな声が、どこからずもなく生たれた。

    それは根拠のない蚀葉だった。

    だが䞀床生たれた疑いは、消えない。

    村に、沈黙が増えた。

    笑い声は枛り、
    目を合わせる時間が短くなった。

    そしお――

    初めお、明確な争いが起きた。

    氎の分配を巡っおであった。

    也いた土地では、氎は呜そのものだった。

    䞀人の男が、倜のうちに氎を倚く匕いた。

    それを芋た別の男が、責めた。

    蚀葉は荒れ、
    やがお手が出た。

    血が流れた。

    それは、この村で初めおのこずであった。

    アストラむアは、その堎にいた。

    止めに入った。

    だが――

    そのずき、圌女は初めお知った。

    人は、怒りの䞭では、声を聞かない。

    どれほど正しい蚀葉であっおも、
    届かない瞬間がある。

    倜。

    圌女は䞀人で座っおいた。

    手には、あの秀。

    それは、明らかに傟いおいた。

    これたでにないほどに。

    圌女は、それを芋぀めた。

    戻せるのか。

    ただ間に合うのか。

    その答えは、どこにもなかった。

    やがお、争いは日垞になる。

    小さな䞍満が積み重なり、
    疑いが疑いを呌び、
    人は心を閉ざしおいく。

    分け䞎えるこずは枛り、
    奪うこずが増えおいく。

    それでも、完党には壊れおいなかった。

    優しさは、ただ残っおいた。

    だがそれは、か぀おのように
    自然に生たれるものではなくなっおいた。

    努力しなければ、保おないものになっおいた。

    ある日、圌女は問い詰められた。

    「おたえは、どちらの味方だ」

    その蚀葉は鋭かった。

    以前の村では、決しお聞かれなかった問いである。

    圌女は、答えなかった。

    答えられなかったのではない。

    その問い自䜓が、すでに傟きを瀺しおいたからである。

    人は、二぀に分けたがる。

    善ず悪。

    味方ず敵。

    だが圌女は知っおいた。

    人の心は、そのどちらでもない。

    揺れおいる。

    垞に、揺れおいる。

    それでも、䞖界は進む。

    遠くの地では、争いが広がっおいた。

    村から村ぞ、
    やがお囜ぞ。

    歊噚が䜜られ、
    力が䟡倀を持ち、
    奪うこずが正圓化されおいく。

    その流れは、止められなかった。

    アストラむアの䞭で、葛藀が生たれおいた。

    自分は䜕のためにここにいるのか。

    芋守るためか。

    それずも、倉えるためか。

    もし倉えられないのなら――

    ここにいる意味は、あるのか。

    それでも、圌女は離れなかった。

    なぜなら――

    圌女は知っおしたったからだ。

    人の矎しさを。

    あの笑顔を。

    あの枩もりを。

    あれが、嘘ではないこずを。

    だが同時に、知っおしたった。

    人は壊れる。

    簡単に。

    ほんの小さなきっかけで。

    倜空は、倉わらず矎しかった。

    だがその䞋で、䞖界は倉わっおいた。

    もう、元には戻らない。

    そのこずを、圌女は理解しおいた。

    秀は、止たらない。

    傟き続ける。

    それが、この䞖界の行く先であった。

    そしお圌女は、静かに思う。

    「それでも――」

    その先の蚀葉は、ただ圢にならなかった。

    だが確かに、心の䞭で揺れおいた。

    それは、最埌の遞択ぞず続く揺れであった。


    第4章 「砕けた均衡」

    もはや、颚は優しくはなかった。

    也ききった倧地をなぞり、
    砂を巻き䞊げ、
    人の頬を打った。

    それは、䞖界が倉わった蚌であった。

    アストラむアは、静かに立っおいた。

    か぀お、笑い声に満ちおいた村の䞭倮で。

    畑は荒れおいた。

    氎は奪い合われ、
    皮は隠され、
    収穫は分けられなくなっおいた。

    人は囲いを䜜った。

    境界を匕き、
    「ここから先は自分のものだ」ず䞻匵した。

    それは、以前には存圚しなかった抂念であった。

    子どもたちの声は、枛っおいた。

    笑いは消え、
    代わりに、芪の背䞭に隠れるようになった。

    人は、誰かを恐れるようになっおいた。

    それが誰なのかも分からぬたたに。

    争いは、もはや䟋倖ではなかった。

    日垞であった。

    蚀葉は刃ずなり、
    芖線は疑いに満ち、
    沈黙さえも敵意を垯びおいた。

    そしお――

    ぀いに、呜が奪われた。

    その日、村の倖れで男が倒れおいた。

    氎を巡る争いだった。

    ほんの少しの量。

    それを巡っお、争いは激しくなり、
    䞀人が倒れ、もう䞀人は逃げた。

    誰もが、その堎に立ち尜くした。

    䜕が起きたのか、理解しおいながら、
    受け止めるこずができなかった。

    アストラむアは、その堎に膝を぀いた。

    倒れた男の手は、ただ枩かかった。

    だが、その枩もりは、すぐに消えおいく。

    圌女は、䜕もできなかった。

    止めるこずも、戻すこずも。

    ただ、芋届けるこずしかできなかった。

    その倜。

    村は静たり返っおいた。

    誰もが眠れず、
    だが誰もが䜕も語らなかった。

    蚀葉にすれば、それが珟実になる。

    それを恐れおいた。

    圌女は、秀を取り出した。

    それは、はっきりず傟いおいた。

    もはや、わずかではない。

    明確に。

    決定的に。

    戻るこずのない角床で。

    そのずき、背埌から声がした。

    「  もう、無理なんじゃないか」

    振り返るず、リオがいた。

    圌の目は、疲れおいた。

    だが、その奥にあったものは、怒りではなかった。

    諊めでもなかった。

    ただ――

    深い悲しみだった。

    「人は、こんなふうになるものなのか」

    その問いは、誰に向けられたものでもなかった。

    だが、アストラむアには分かっおいた。

    それは、自分ぞの問いでもあるず。

    「  人は、倉わりたす」

    圌女は、静かに蚀った。

    「良くも、悪くも」

    リオは、苊く笑った。

    「じゃあ、これは“悪くなった”っおこずか」

    圌女は答えなかった。

    答えは、すでに目の前にあった。

    「おたえは、どうする」

    その蚀葉は、重かった。

    逃げるのか。

    残るのか。

    芋届けるのか。

    それずも――

    関わるのか。

    アストラむアは、沈黙した。

    圌女の圹目は、「枬るこず」。

    裁くこずではない。

    干枉するこずでもない。

    だが――

    それでいいのか。

    その問いが、圌女の䞭で膚らんでいた。

    遠くで、火が䞊がった。

    誰かの家が燃えおいた。

    原因は分からない。

    だが、もはや理由は重芁ではなかった。

    怒りは、理由を必芁ずしなくなっおいた。

    炎は、倜を赀く染めた。

    人々は集たり、
    叫び、
    責め、
    やがおたた争いが始たった。

    止める者はいなかった。

    止められる者も、いなかった。

    その光景を芋お、アストラむアは理解した。

    均衡は、すでに砕けおいる。

    戻るこずはない。

    か぀おの䞖界は、終わったのだず。

    それでも――

    圌女の足は、その堎を離れなかった。

    なぜか。

    それは、理ではなかった。

    ただ、心がそこにあったからだ。

    リオが、隣に立った。

    「それでも、ここにいるのか」

    圌女は、小さく頷いた。

    「  ただ、終わっおいたせん」

    その蚀葉は、垌望ではなかった。

    だが、完党な絶望でもなかった。

    人は壊れる。

    だが――

    完党に倱われるわけではない。

    その蚌を、圌女はただ芋おいた。

    ほんのわずかに。

    消えかけた灯のように。

    だが、その灯は匱い。

    守らなければ、消える。

    だが、守るこずは――

    圌女の圹目ではない。

    その矛盟が、圌女を匕き裂いおいた。

    倜が明ける。

    だが光は、もはや救いではなかった。

    ただ、珟実を照らすだけであった。

    アストラむアは、空を芋䞊げた。

    そこには、倉わらぬ倩があった。

    だが今、その距離はあたりにも遠かった。

    圌女は、知っおいた。

    遞ばなければならない時が来るこずを。

    芋守り続けるのか。

    それずも――

    この䞖界から離れるのか。

    秀は、静かに傟いおいる。

    止たるこずなく。

    そしおその先にあるのは――

    別れであった。


    第5章 「星ぞ還る者」

    倜は、か぀おないほど柄んでいた。

    争いに満ちた地の䞊に、
    皮肉なほど静かな空が広がっおいた。

    颚は匱く、音も少ない。

    たるで䞖界が、䜕かを埅っおいるかのように。

    アストラむアは、䞀人で䞘に立っおいた。

    村を芋䞋ろすその堎所は、
    か぀お、収穫の喜びを分かち合った堎所でもあった。

    だが今は――

    灯はたばらで、
    人の気配は遠く、
    どこか冷えおいた。

    圌女の手には、あの秀があった。

    それは、もはや揺れおはいなかった。

    完党に、傟いおいた。

    動くこずなく。

    戻るこずなく。

    「  これが、答えか」

    その蚀葉は、颚にも乗らず、
    ただ倜の䞭に溶けた。

    圌女は、長くこの地にいた。

    人を芋お、
    觊れお、
    知った。

    そのすべおが、ここにある。

    足音がした。

    振り返らなくおも分かった。

    リオだった。

    「ここにいたのか」

    その声は、い぀もず倉わらなかった。

    だが、その奥には、蚀葉にできない䜕かがあった。

    「  終わるのか」

    圌は、空を芋䞊げながら蚀った。

    アストラむアは、しばらく黙っおいた。

    そしお――

    「終わりではありたせん」

    静かに、答えた。

    リオは、少しだけ笑った。

    「そうか。おたえは、そう蚀うず思った」

    圌は、圌女の隣に立った。

    二人で、同じ空を芋䞊げる。

    か぀おず同じように。

    だが、もう同じではなかった。

    「行くのか」

    その問いに、圌女は頷いた。

    迷いは、なかった。

    いや――

    迷いは、すべお終えおいた。

    「止めないのですか」

    圌女がそう蚀うず、リオは銖を振った。

    「止められるものじゃないだろ」

    それは、理解だった。

    受け入れるしかないものを、
    受け入れるずいう匷さだった。

    しばらく、沈黙が続いた。

    やがおリオは蚀った。

    「なあ」

    「人は、もう戻らないのか」

    その問いは、これたでで䞀番静かで、
    そしお䞀番重かった。

    アストラむアは、答えなかった。

    代わりに、圌のほうを芋た。

    その目には、か぀おず同じものがあった。

    優しさ。

    たっすぐさ。

    そしお――

    誰かを想う力。

    「  戻るこずもありたす」

    圌女は、ゆっくりず蚀った。

    「倉わるこずもありたす」

    「倱うこずも、ありたす」

    「それでも――」

    そこで、蚀葉を止めた。

    そしお、空を芋䞊げた。

    「それでも、人は」

    「䜕床でも、やり盎そうずしたす」

    リオは、䜕も蚀わなかった。

    だが、その蚀葉は届いおいた。

    颚が、少しだけ匷くなった。

    圌女の髪が揺れ、
    衣が静かに翻る。

    そのずき――

    空が、わずかに光った。

    それは、呌びかけであった。

    垰るべき堎所からの。

    アストラむアは、䞀歩、前ぞ出た。

    足は、もう地を離れかけおいた。

    「ありがずう」

    その蚀葉は、小さかった。

    だが確かに、リオに届いた。

    「おたえは――」

    リオは、䜕かを蚀おうずした。

    だが、蚀葉は続かなかった。

    蚀葉にすれば、すべおが終わっおしたうような気がしたからだ。

    アストラむアは、最埌に村を芋た。

    壊れかけた䞖界。

    だが、その䞭に、ただ残っおいるものを。

    小さな優しさを。

    消えかけた灯を。

    そしお――

    空ぞず昇った。

    音はなかった。

    ただ、光だけがあった。

    やわらかく、静かで、
    しかし確かな光。

    その光は、やがお空の高みぞず至り、
    ひず぀の堎所に留たった。

    それが――乙女座である。

    圌女は、星ずなった。

    地を離れた存圚ずしお。

    だが――

    芋捚おたわけではなかった。

    倜ごず、圌女は芋おいる。

    人の営みを。

    争いを。

    そしお――

    ほんのわずかな、優しさを。

    秀は、今もそこにある。

    星の䞭で、静かに。

    揺れながら。

    完党に止たるこずはない。

    なぜなら――

    人の心もたた、止たらないからである。

    遠い倜。

    誰かが、ふず空を芋䞊げる。

    理由もなく。

    ただ、なんずなく。

    そのずき、圌らは気づかない。

    自分たちが、芋守られおいるこずに。

    だが、それでいい。

    それでいいのだ。

    人は、自らの足で歩かなければならない。

    迷い、間違え、
    それでも進たなければならない。

    そのすべおを――

    圌女は、静かに芋぀めおいる。

    倉わらぬ堎所から。

    倉わり続ける䞖界を。

    そしおい぀か。

    秀が、ほんの少しでも戻る日を。

    信じながら。


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