
ピンクと紫の街に金魚が泳ぐ
一番好きな季節の
一番好きな時間に
一番好きな場所を
歩くといつも決まって、
街はピンクと紫だった。
まるで金魚の吐き出すあぶくのような光の玉が、
ピンクと紫の街を反射して
街を映して揺れていた。
小さな頃から住む街だから、
至る所に記憶が落ちていた。
あぶくは記憶をすっぽりとつつみ、
シャボン玉のように
いつも街を歩く私のそばをゆったりとついて来るのだ。
子供の頃に、ノートを買いに行った文具店や、
両親と姉とくぐった銭湯ののれん。
買い物を待つ間、スーパーの入口で眺めたガチャポン。
毎月、漫画雑誌を買いに走った小さな書店。
母の日にお小遣いを握りしめカーネーションを買った花屋。
今はなくなった場所の記憶たちが、
金魚の小さなあぶくとともに、鮮明によみがえり、
その途端、
ふわりと小さな私が隣で跳ねるように駆け、
あぶくをひるがえし、金魚と一緒に、いつも歩いた道を走り抜けて行くのだ。
よみがえった記憶たちは、
1枚の切手に描かれた絵柄のように、鮮やかに刻まれ、
私の中の、大切な古いノートに貼られていく。
そうやって、私はたまに一人で。
切手集めに勤しむように、
記憶を集めに出掛けるのだ。
その時はいつも必ず、
ピンクと紫の美しい金魚が、
私の隣をふわりと泳いでいた。
そしてまた、
小さな私を連れてきてくれる。
一番好きな季節は秋。
私が生まれ、
私の街が一番美しく色づく季節だ。