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夕暮れの川底の街を泳いで行く


    私は夕暮れが好きだから。


    日が沈みかける空を見ると、
    いつも外を歩きたくなる。

    できれば、夏の終わりの夕暮れがいい。
    空が少し高くなって、
    筋雲を見ることができた日は、  
    宝物を発見したように、
    胸がじんわりと温かくなった。


    夏の終わりの散歩には
    ただいつものスニーカーを履くだけでよかった。
    玄関の扉を開けると、
    段々と薄暗くなっていく空気を、
    体に纏うように、感じることができた。


    小さな街の雑居ビルの間に
    家に帰る人たちの流れが生まれ、 
    隙間から見える少し青を残した空が、
    川底から見える、水面のように見えた。

    川の流れに逆流して
    雑居ビルの間を、
    石を避ける小さな魚のように通り抜ける。
    夏の終わりの時だけの少し湿った匂いが、
    鼻を通り抜けていった。


    段々と世界は明るさを失い、
    群青色の空に、星が光り始めていた。

    しんとした夏の残り空に、 
    星が川を泳いでいた。

    まだ少し熱が籠もった空気に、
    自然と速くなる呼吸の隙間から
    まるで魚が餌を食べているみたいに
    星がそのまま私の体内に入ってくる。

    そんな満天の夜空だった。


    ピーッ!!  


    近くで電車の警笛音が鳴った。

    私に吸い込まれた星たちは驚いて、 
    息と一緒に飛び出していった。

    私の星は、あの川へちゃんと帰って行ってくれるだろうか。


    こっそりとひと粒だけ。

    星を口に含みながら、


    私は夕暮れと夜の間を泳ぐ。

    1日の中でも、僅かな時間の間。

    夏の終わりの夕暮れは

    いつも、川へと溶け出した。


    ⋯⋯ピーッ


    さっきより少し遠くで、

    また警笛音が鳴った。

    飲み込んだ星が
    私の中で小さく跳ねた気がした。

    虫の音と風の音だけが
    耳の中をくすぐっていた。

    そうして今度は私も、

    川の流れに乗って泳いで行く。 


    今度は私が、帰っていく。




     
     
    文具店で働く一般人です。散文詩やエッセイで ちょっとした日常を切り取り綴ります。 夕暮れや深夜、朝方の空気が好きです。 2026年6月11日 初めて第三者が読める形で本格的な文章を書き始めました。 質問箱 https://note.com/qa/shinee1214

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