
第19話 「夢を語ってください」
会社を変えようとして、会社に教えられたこと
What I Learned from the Company I Tried to Change
― 大企業約40年、中小企業約10年。あるアドバイザーが二つの世界で見たもの ―
― About 40 Years at a Large Corporation and 10 Years at a Small Company: What an Advisor Saw in Two Different Worlds ―
第Ⅵ部 社長という存在
Part VI: The Role of the President
第19話 「夢を語ってください」
Episode 19: “Tell Us About Your Dream”
※この記事は「会社を変えようとして、会社に教えられたこと」シリーズの第19話です。シリーズ全体はこちら →[総合目次]
私は、社長に一つお願いしたいことがあった。新しい仕組みを導入してほしい、ということではなかった。私の提案を採用してほしい、ということでもない。人を増やしてください、でもない。設備投資をしてください、でもない。もっと営業してください、ということでもない。もっと根本的なことだった。私は社長に、こう伝えたかった。
「夢を語ってください。」
なぜ、私は「夢」にこだわったのか
夢という言葉は、少し大げさに聞こえるかもしれない。経営には、もっと現実的なことが必要である。売上。利益。キャッシュ。人材。技術。顧客。品質。確かにそうである。私は、夢だけで会社が経営できるなどとは、まったく思っていない。むしろ第18話で書いたように、会社を潰さないことは、経営者にとって非常に重要な仕事である。
しかし、会社が続くことと、社員が前を向いて働くことは、同じではない。 私は、そこにもう一つ必要なものがあると思っていた。「この会社は、これからどこへ行くのか。」という未来である。
社員は、目の前の仕事だけを見ているわけではない
社員は毎日仕事をする。設計する。お客様へ行く。製造する。品質問題へ対応する。資料を作る。会議に出る。目の前の仕事はいくらでもある。しかし、人は目の前の仕事だけを見て働いているわけではない。この会社は5年後、どうなっているのだろう。自分は、ここで何を身につけられるのだろう。この仕事は、何につながっているのだろう。この会社で、これからも働きたいと思えるだろうか。そういうことも、人は考えている。少なくとも、私はそうだった。だから私は、社長には社員へ未来を語ってほしかった。
売上目標だけでは、未来にはならない
会社には数字が必要である。売上目標。利益目標。受注目標。私は、数字を明確にすることを何度も提案してきた。しかし、数字だけでは人の心は動かない。
例えば「売上を2倍にする。」これは目標である。しかし社員からすれば「それで、私たちはどうなるのですか。」という問いも出てくる。仕事が倍になるのか。人が増えるのか。給与が上がるのか。新しい仕事ができるのか。会社は、どんな会社になるのか。売上は未来を測る数字にはなる。しかし、売上という数字そのものが、会社の未来なのではない。私は、そう考えていた。
私が聞きたかったのは、社長自身の言葉だった
経営理念を作る。ビジョンを作る。中期経営計画を作る。そういう方法もある。私自身、そうしたものを作ることはできる。資料にすることもできる。言葉を整理することもできる。しかし、私が社長に求めていたのは、私が作った立派な文章を社長に読んでもらうことではなかった。社長自身の言葉である。
多少まとまっていなくてもいい。壮大でなくてもいい。「私は、この会社をこうしたい。」「社員には、こんな仕事をしてほしい。」「こんなお客様に喜んでもらいたい。」「こんな技術を持つ会社にしたい。」私は、そんな言葉を聞きたかった。
私は実際に、社長へ「夢を語ってください」と伝えた。しかし、私が待っていた言葉は、すぐには返ってこなかった。