
twinkle scorpe⑩
「愛夜子! 愛夜子! 愛夜子……!」
泣いて、泣いて、名前を呼ぶことしか出来ない里志。
「さとし、あひだぃ」
繰り言のように言い出した。
里志には、愛夜子の言葉が理解出来た。
「いるよ、ここに! 里志だよ? 愛夜子! 愛夜子! オレも……逢いたかったっ」
しかし、愛夜子に里志の言葉が通じない。
里志が愛夜子の言葉を理解出来たって、愛夜子はこの人が里志だと、分かっていない。
ギュッ! と力強く、さらに痩せてしまった愛夜子を抱きしめる里志。
「あああ――――ッ!」
泣きわめき里志にしがみつく愛夜子。
医師は看護師に促し(自分たちは廊下に出よう)と合図をした。
麻矢子も部屋を出ることにした。
今すぐ口づけたい気持ちを里志は必死で抑えた。だって、愛夜子は自分にしがみついて来たが、自分のことを里志だとは認識出来ていないかもしれないのだから。
可哀相なことをしてはいけないと感じた。
が、キスを……里志にしがみついた愛夜子からして来た。
「さとし! あ・ぃだかた」と口づけた後言った。
愛夜子に今パッヘルベルのカノンが鳴り続けている。
「愛夜子、愛夜子! 想い出してくれたの?」と問うと、コクリと愛夜子が頷いた。
「ほもみだいだ(想い出した)」
「すき、たとつぃ」
「オレもだよ! 愛夜子を愛してる。ずっと待っていたんだ」
すると愛夜子は小首をかしげた。長い言葉は難しいらしい。
「オレ」
自分を指さす里志。そして愛夜子に向かい両手を広げる里志。
「待っていた」
愛夜子が、うんうんと泣きながら頷いた。
愛夜子は行方不明から半年経ち、こうして里志の胸に帰ることが出来た。
声と記憶を失った。それらは戻って来るかもしれないし、もしかしたら二度と戻らないかもしれない。
ただ、里志の存在と、里志への愛だけは憶えていた。
――――二人は結婚した。
里志のいない時間帯には、今必ず介護者が愛夜子についている。
*
今日は里志の休日。
愛夜子と里志、しっかりと着込みふたりで冬の海を見に行った。
それは、愛夜子が朝「う・に」と里志に上目遣いに言ったからだった。里志にはすぐに愛夜子の言いたいことが不思議と伝って来る。
*
真っ青な空。長い1つのマフラーが二人の首を巻いている。まるで二人を結んで二度と離すものかとでも言いたげに。
満面の笑みの愛夜子。愛夜子がいる歓びに涙ぐむ里志。
――――愛夜子は青空に、無数の万華鏡の中身が飛び散るのを見て言った。
「綺麗」
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twinkle scorp⑨
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