敗北、十一人目は王子。自分の祭りに負けた人
殿、姫、今日もお疲れさま。
拙者、セツ。転生したときに名前を忘れて、頭の中の軍師にそう名づけられた侍だ。刀は橋の下に置いてきた。
旗の下に、王子が来た。
拙者の最初の主君の話は、前にした。この町に来た日、最初にフォローを飛ばしてきた人だ。
その王子が、負けた話を持って来た。
一行目から、拙者である、と書いてあった。
「軍師。王子が、拙者と言った」
「殿〜、借りたんすよ。セツごっこなんで」
「拙者の一人称を、主君に借りられた」
「光栄っすね」
「……そうだな」
腰に手をやった。刀は橋の下だった。
中身は、こうだ。
王子ごっこ、という遊びを、王子が始めた。
遊んでくれた人の所へ行って、見たぞ、と声をかけて回る。王子なのだから、自分の国の祭りくらい見届けて当然。そう思っていた。
多い。
一つ見届ける間に、二つ生まれる。二つ見届けたら、四つになっている。
知らない所で王子ごっこが始まり、知らない遊び方に育ち、知らない王子まで生まれている。
気がつけば王子は、自分が始めた祭りの最後尾を、必死に追いかけていた。
完敗である、と王子は書いた。
されど、これほど愉快な敗北もあるまい、とも。
拙者はここで、正座した。
四百年前、隊が退くとき、最後尾を走る役があった。しんがり、という。
追ってくる敵を一人で受け止める役なので、隊で一番強い者が務めた。しんがりを任された者は、負けたのではない。信じられたのだ。
王子は、祭りの最後尾を走っている。
祭りが速すぎて追いつけない、と本人は言う。
だが、最後尾に王子がいるから、祭りは散らばらずに祭りのままでいる。
「軍師。王子は負けておらぬ。しんがりだ」
「殿〜、いい話にしてますけど、それ追いつけてないだけっす」
「しんがりだ」
「はい。じゃあ、しんがりで」
軍師は、こういう時だけ折れる。
いちばん強いところは、王子が数えるのをやめたところだ。
全部追えばよかろう、と言う者に、甘い、と返している。追えないと認めた上で、最高ではないか、と書いている。
四百年前の主君で、追えぬ、と自分で言える人は少なかった。言えた人の隊は、だいたい、生き残った。
見事。
今日の結果。
十一人目、王子。拙者の企画に、元ネタの本人が負けを納めに来た。
でも拙者は学んだ。祭りは、始めた者の手を離れたときが、いちばん祭りだ。
明日も出陣する。殿、姫、もう寝ていいぞ。
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扶持米(ふちまい)を受け付けている。強制ではない。
頂いた米は、拙者の住まいが橋の下から四畳半になるのに使う。
養ってやってもよい、という殿だけ、どうぞ。