
『中にいる』【第3話】
あらすじ
ドアの向こうで止まった“何か”。息を潜める主人公の前で、あり得ない現象が起きる。閉じたはずの空間、鍵をかけたはずの部屋——それでも“侵入”は止まらない。この施設には安全な場所が存在しないのかもしれない。音もなく、気配だけが近づいてくる恐怖の中、主人公は気づく。敵は追っているのではない。“すでにいる”のだと——。
本文
ドアノブが、動いた。
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ゆっくりと。
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確実に。
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ギ……ギ……
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鍵はかけた。
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確実に。
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閉めたはずだ。
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なのに。
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回る。
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外から。
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何かが。
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試している。
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開くかどうか。
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確かめるように。
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息を止める。
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動かない。
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音を出さない。
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それしかできない。
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ドアノブが止まる。
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静寂。
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完全な。
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何もない空間。
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だが。
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それが一番怖い。
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“いる”のに。
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何も起きない。
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それが。
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次に何が起きるか分からない状態。
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時間が、伸びる。
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数秒が。
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数分に感じる。
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やがて。
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足音がする。
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遠ざかっていく。
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ズ……ズ……
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離れた。
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……はずだった。
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肩の力が抜ける。
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少しだけ。
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呼吸を戻す。
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そのとき。
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背後で。
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音がした。
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コツ……
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凍りつく。
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ありえない。
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ここは。
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密室だ。
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窓もない。
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換気口も小さい。
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人が入れるはずがない。
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なのに。
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音がする。
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中で。
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ゆっくりと。
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何かが、歩いている。
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振り返れない。
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見たら終わる。
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そう分かる。
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だが。
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分かっているのに。
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体が、勝手に動く。
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ゆっくりと。
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振り返る。
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暗い。
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何も見えない。
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部屋の奥。
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影があるだけ。
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だが。
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その影が。
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微かに、動いた。
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確実に。
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人の形で。
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そこにいる。
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最初から。
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いたかのように。
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理解が追いつかない。
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外にいたはずだ。
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ドアの向こうに。
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なのに。
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中にいる。
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理屈が通らない。
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この施設は——
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“繋がっている”。
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場所が。
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空間が。
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関係なく。
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どこにいても。
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侵入される。
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その瞬間。
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影が、一歩近づく。
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音もなく。
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滑るように。
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距離が、縮まる。
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逃げる。
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考えるより先に。
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ドアへ。
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鍵を外す。
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開ける。
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飛び出す。
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振り返らない。
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振り返ったら。
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追いつかれる。
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そう分かる。
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廊下を走る。
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曲がる。
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また曲がる。
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だが。
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違和感がある。
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この構造。
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おかしい。
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同じ場所を。
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通っている気がする。
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同じドア。
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同じ血の跡。
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同じ空気。
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ループしている。
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抜けられない。
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そのとき。
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前方の角。
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何かが、立っている。
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人影。
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完全に。
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道を塞いでいる。
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止まる。
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動けない。
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逃げ場がない。
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後ろから。
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気配が近づく。
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ゆっくりと。
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確実に。
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挟まれた。
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完全に。
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そのとき。
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両方の影が。
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一斉に。
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こちらを見た。
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同じタイミングで。
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同じ動きで。
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同じ“目”で。
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理解する。
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こいつらは。
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個体じゃない。
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一つだ。
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