
『撃てない恐怖』【第2話】
あらすじ
弾が尽きた主人公は、戦うことを捨てるしかなかった。音を立てれば死ぬ。走れば追われる。視線を外せば近づかれる。すべての行動がリスクになる極限状態の中、彼は“戦わない選択”を強いられる。だが、この施設にはそれすら許さない異常があった。敵はただ徘徊しているのではない——“探している”。逃げ場のない空間で、主人公は新たなルールに気づき始める。
本文
弾がない。
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その事実は。
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想像していた以上に重かった。
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撃てない。
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それだけで。
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世界の見え方が変わる。
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さっきまでは。
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まだ“対処できる”と思っていた。
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だが。
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今は違う。
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選択肢が、消えた。
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戦うことも。
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止めることも。
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すべて。
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奪われた。
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残ったのは。
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逃げることだけ。
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だが。
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それすら。
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簡単じゃない。
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ズ……ズ……
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音がする。
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近い。
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確実に。
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こっちへ来ている。
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息を止める。
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動かない。
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それだけが、唯一の対処法だ。
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だが。
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違和感がある。
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あいつらは。
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ただ歩いているんじゃない。
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探している。
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何かを。
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いや。
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俺を。
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目が合っていないのに。
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視線が合っている感覚。
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見られている。
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確実に。
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気づかれている。
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動けない。
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ここで動けば。
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終わる。
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そう分かっている。
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だが。
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体が震える。
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止められない。
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恐怖が。
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音になる。
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そのとき。
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足元で、何かが転がった。
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カラン……
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最悪だ。
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金属音。
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小さい。
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だが。
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この空間では。
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十分すぎる。
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ズ……ズ……
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音が変わる。
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速くなる。
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向きが変わる。
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こっちに来る。
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完全に。
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見つかった。
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走る。
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もう隠れる意味はない。
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全力で。
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振り返らない。
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振り返ったら終わる気がした。
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廊下を曲がる。
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ドアを開ける。
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中に飛び込む。
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閉める。
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鍵をかける。
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息を荒くする。
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止まらない。
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心臓が暴れる。
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ドクン ドクン ドクン
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静かにしろ。
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頼む。
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落ち着け。
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だが。
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音がする。
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外で。
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ズ……ズ……
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止まらない。
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離れない。
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この部屋の前で。
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立ち止まっている。
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分かる。
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いる。
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すぐそこに。
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ドア一枚の向こうに。
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息を殺す。
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音を消す。
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存在を消す。
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それしかない。
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だが。
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そのとき。
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ふと、気づいた。
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この部屋。
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さっきと同じだ。
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見覚えがある。
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血の跡。
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配置。
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空気。
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全部。
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同じ。
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おかしい。
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俺は。
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同じ場所を。
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回っている?
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その瞬間。
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ドアの向こうで。
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音が止まった。
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完全に。
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静寂。
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それが。
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逆に怖い。
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何も聞こえない。
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何も動かない。
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だが。
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いる。
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分かる。
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確実に。
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そのとき。
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ゆっくりと。
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ドアノブが——
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動いた。
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