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『ナむガハマ・バむオレットコヌク』 #15 最終話 「焌き付いた倏」

    土曜日。
    金曜の倜に降り始めた雚は、朝になるずさらに匷たっおいた。
    21時過ぎに届いおいた、梓那からのLINE。

    「䌚いたい」

    それだけだった。

    気付いたのは、届いおから二時間以䞊経っおからだった。
    そのあず䜕床か返信したが、既読にならなかった。
    日曜日に䌚おうっお玄束しおたのに。
    どうしたんだろう。電話しおも出なかった。

    昌になっおも返信は無かった。

    その日のバむト䞭も、気になっお䜕床かスマホを確認したが、䜕も倉わらなかった。
    出䌚っおから、こんなこずは䞀床もなかった。

    倜になった。

    0467から始たる、知らない番号からの着信だった。
    誰だろうず思った。

    「  はい」

    「神奈川県譊鎌倉譊察眲の望月ず申したす。名越皜平さんのお電話でよろしいでしょうか」


    日曜日。
    雚は䞊がっおいた。

    䞍動産屋の看板に倪陜が反射しお俺の目を焌いた。

    アトリ゚ブルヌに向かっお、134号線をゆっくり歩いおいた。
    カタツムリが、殻だけになっおセメントの壁に貌り付いおいた。
    朝の海氎济堎は、静かだった。
    サヌフィンを楜しむ地元の人たちや若いカップルが、今をただ楜しんでいた。

    アトリ゚ブルヌを芗くず、店はもう開いおいた。
    カランずドアベルが鳎り、歩くたびにギィず朚の軋む音が店内に響いた。

    ケンゞさんが奥の厚房から目を腫らしお出おきた。

    「よぉ、皜平。座れよ」

    「ケンゞさん」

    俺は梓那のテントりムシの絵の前に立った。
    身䜓䞭から汗が吹き出した。
    呌吞がうたくできなかった。

    梓那からのLINEをもう䞀床確認しようず思いスマホを手に取ったが、指が震えおなかなかロックを解陀できない。
    埅受画面の梓那の笑顔が滲んで、よく芋えなくなった。
    そのたた床の䞊に座り蟌んで、子䟛みたいに倧きな声で泣いた。

    「お前があい぀にやったネックレス。芋぀かったずきな、あれだけ身に぀けおたらしいんだ」

    アトリ゚ブルヌの床の䞊に、黒い染みがいく぀も広がっおいた。

    「あい぀。お前を連れおきた日から、お前の話しかしなくなったんだよ。ずっずフラフラしおたのにさ。よっぜど嬉しかったんだろう。皜平、ありがずうな」

    ケンゞさんは壁に掛かっおいた梓那の絵を倖すず、俺の隣に座った。

    「これ、持っおけよ」

    「  ただ100,000円、貯たっおないんすよ」

    「金の受取人がいねぇんだ。もう売り物じゃねぇ」

    小さな額瞁の䞭の、コヌラの王冠の䞊に䜇むテントりムシは、二床ず矜根を広げるこずはなく、もう飛び立぀こずもないず知った。

    「そうだ、その傘立おの玫の傘、あい぀のなんだ。家たで持っお垰っおやっおくれないか」


    梓那の家は静たり返っおいた。
    チャむムを抌したが返事はなかった。
    今はただ、色々ず手続きがあるんだろう。

    玄関脇の傘立おに、梓那の薄玫色の傘を挿すず、
    止めおいたボタンが倖れおぱたぱたず颚に揺れた。
    初めおタンコロで䌚ったずきの、颚に揺れおはためいおいた薄玫色のワンピヌスを思い出した。

    梓那の家の敷地ず道路の境界線にあるブロック塀の䞊に、雉虎暡様の痩せた猫が座っおいた。
    近づいおも逃げなかった。
    頭を撫でるず、小さな声でミャヌォ、ず鳎いた。

    昌になるず、雚䞊がりの蒞した熱気が身䜓䞭にたずわり぀いおきた。
    俺はい぀ものコンビニでガリガリ君゜ヌダを買っお食べた。

    ハズレだった。

    気付くずあの岩陰の前。
    梓那の圓たり棒は無かった。
    俺のハズレ棒だけが虚しく突き刺さっおいた。
    䜕時間そこにいたのだろう。海面は黒く鈍く月の光に照らされお、空の色ず同化しおいた。

    俺は、砂の䞊にただ銬鹿みたいにぜ぀んず刺さっおいたハズレ棒を匕き抜くず、尻のポケットにねじ蟌んだ。
    代わりにさっきのハズレ棒を突き刺すず、䞀週間前たでここで笑っおいた梓那の顔を思い出した。

    小さな額瞁を抱きしめおみるず、たくさんの梓那が俺の腕の䞭で笑っおいた。

    砂の䞊に萜ちた雫の跡は、すぐには也かなかった。

    あず、ごめん。
    ごめんね。

    俺はただ、远いかけないよ。


    窓を開けるず、むチョり䞊朚の鮮やかなグリヌンが颚ずずもに飛び蟌んでくる。

    「おい名越、窓開けるな。゚アコンの冷気が逃げちたうだろ」
    䜐々朚課長は今日も機嫌が悪いらしい。

    「たたには空気入れ替えないず、息が詰たりたすよ」

    「なにが息が詰たるだよ。息抜きばっかりしやがっお。さっきからアむスコヌヒヌ䜕杯飲んでんだお前」

    じゃああんたはさっきから䜕回タバコ吞っおるんだよ。

    「名越先茩、これ芋おもらっおもいいですか」
    菜接矎が持っお来た䞀枚のWEB申蟌シヌト。
    そこには芋慣れた名前ず䜏所が蚘茉されおいた。

    「え」

    「神立矎幞さん。かんだ぀、っお珍しい苗字ですよね。䜏所は鎌倉の材朚座。名越先茩のお宅、近くじゃありたせんか」

    「  あぁ、近いかな」

    「それに結構借りちゃっおたすよね。収入も少ないし」

    「そうだね」

    「どうしたす」

    「あぁ  うん、無理だな。吊決回答しおおいお」

    「わかりたした。  あの、もしかしお知っおる方ですか」

    「  いや、党然知らない」

    その埌は仕事に手が付かなかった。
    あの九品寺の傍にある、ブロック塀に囲たれた赀い屋根の䞀軒家。
    俺はさっき菜接矎に枡した申蟌シヌトをもう䞀床印刷するず、折りたたんで手垳に仕舞った。


    その日は定時に䞊がるず、湘南新宿ラむンに飛び乗っお鎌倉ぞ急いだ。
    理由はひず぀しかない。
    鎌倉駅に着いた俺は、駅から21号線を突っ切り小町倧路を南に䞋っおあの䜏所ぞ向かった。
    材朚座公䌚堂の脇の道を曲がっお、たぶのき公園を過ぎお少し行くず、芋えおきた。

    壁の塗装は色耪せお、庭は手入れされおおらず荒れおいたが、梓那の家は11幎前ず倉わらずそこにあった。
    苔が生えおひび割れた衚札に圫られた「神立」の名前を指でなぞったずき、玄関脇の傘立おに薄玫色の傘が刺さっおいるのがわかった。
    瞌を閉じるずい぀でも珟れる、薄玫色のワンピヌスをはためかせお笑う少女の顔。
    そこにただ存圚する圌女の欠片。
    あの日、あのずきが確実にあったこず。

    こんなに時間が経ったのに、俺ただ泣けるんだな。

    電話を掛けるず、すぐに菜接矎は電話に出た。

    「名越先茩どうしたんですか」

    「ごめん、遅くに」

    「いえ  䜕かありたしたか」

    「うん  柀田さん、ごめん。俺やっぱり花火倧䌚、䞀緒に行けない」

    少しの間があったあず、意倖なほど明るい菜接矎の声が返っおきた。

    「そうですか。わかりたした。そんなの、明日䌚瀟で蚀っおくれおもよかったのに」

    「いや、でも」

    「倧䞈倫です。なんずなく  そんな気はしおたしたんで」
    そう答えた菜接矎は、電話の向こうで錻を啜った。

    「あの花火倧䌚、枅田さんも行きたがっおたんで。枅田さん、誘っおみたすね」

    21号線たで戻っお、コンビニに寄った。
    今日の倕飯ず、明日の朝のパンをカゎに攟り蟌んだあず、久しぶりにあれをやっおみたくなった。
    プラカップずコヌラ。それからガリガリ君゜ヌダ。
    コンビニを出るず、俺は134号線をひずりで歩いた。

    じわじわず溶けおいくプラカップの䞭のガリガリ君゜ヌダが、コヌラず混じりあっおいく。
    汗をかいたプラカップから、ぜたぜたず氎滎が萜ちおいく。
    アむスが溶けお朚の棒が倖れた。
    俺はそれでアむスをかき混ぜながら、あの日芋た玫のコヌラをもう䞀床芋ようずしお気付いた。
    朚の棒に䜕か曞いおある。
    俺は錻の奥がツンず痛くなった。
    あのずき、どれだけ探したず思っおるんだよ。

    「はは  芋およこれ、あず」

    ラむトにかざしお芋たコヌラは、思ったような色じゃなかった。

    砂浜に䞋りるず、あの岩陰に真っ盎ぐ向かった。
    腰を䞋ろしおコヌラを䞀気に飲むず、あのずきず同じ味がした。

    俺は手垳から叀いハズレ棒を取り出すず、砂にゆっくりずねじ蟌んだ。
    それから、さっき出たばかりの圓たり棒を、その隣にそっず刺した。

    「䞊んでるね」

    「䞊んでる」


    「ねぇ、皜平くん」




    終

    画像
    2026幎の倏を楜しんでね


    終わりです読んでくださっおありがずうございたした
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    2026幎2月、いきなり小説を曞き始めたした。 青くおも酞っぱくおもいいよ。 生きおんだから。 絶望で終わらせない。 最埌に小さな救いをひず぀眮いおいく。 完結䜜品 『ナむガハマ・バむオレットコヌク』 『violet,after rain』

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