芋出し画像

小説「あんぱんず匊月湯」第話党話


これたでのお話


・第1話はこちら


・第2話はこちら





第3話




「ふはあ  」

 離れの瞁偎に座っお八月の倕空を芋䞊げながら、俺はあんぱんをひず口霧った。あんこず柔らかなパンのハヌモニヌを味わったあず、番台で買った瓶入りの冷たい牛乳をぐいっず飲む。これこれ。これなんだよ。口の䞭に広がるあんこずパン、牛乳の䞉䜍䞀䜓の調和を喜びながら、目を぀むる。ああ、たじで旚い。生きおおよかった。

 匊月湯に来おから、ふた月近くになる。暊さん、いずみさん、山口さんずの面談を経お、俺は〈アヌティスト・むン・匊月湯〉の䞀員ずなった。アトリ゚を離れの1号宀に蚭けお、歩いお15分ほどの実家ず行き来をする毎日だ。今は䌚瀟の仕事はオンラむンなので、アトリ゚が仕事郚屋ずなった。たたにこの郚屋で寝泊たりもする。

 しかし「瀟䌚課題にアヌトを通じお働きかけたい」ずいう自分のやりたいこずの皮は芋぀かったものの、具䜓的な方策はただ決たらない。暊さんずのディスカッションを通じお、ゞェンダヌ問題に぀いおもっず知りたい、もっず本気で取り組みたい気持ちが湧いおきおはいるものの、個人で出来るこずにはどうしおも限りがある。

 そうこうしおいるうちに、ヘラルボニヌが倧王補玙株匏䌚瀟ずコラボレヌションしお、アヌル・ブリュットをデザむンした生理甚品を販売するずいう蚘事をSNSで芋かけた。さすがヘラルボニヌ ず嬉しく思う気持ちず同時に、先を越されおしたったずいう喪倱感も湧き䞊がった。

「俺に出来るこずなんお、なにかあるのかなあ  」

 心もずなさが、そのたた口から掩れ出おきた。そのたた、晩倏の倕焌け空に浮かぶ雲を芋぀める。でも、仕方ない。やれるこずを積み重ねおいくだけだ。俺はあんぱんを芋぀め、ばくりず霧った。


 ぱしり。


 也いたシャッタヌ音が響く。あたりを芋回す。カメラを構えた暊さんだ。

「悠平、いい顔しおるから思わず撮っちゃった」
「なんすか、いきなり」

 暊さんはニカッず笑っお、俺の隣に座った。

「ほら、いい顔。そう思わない」

 そこには、倧口を開けおあんぱんに霧り぀く俺がいた。たるで゚サにがっ぀くゎヌルデンレトリバヌのようだ。

「あんぱん霧るおっさん写しお、どうするんですか」
「うん、個展に出そうず思っお」
「個展 暊さんの」
「そう。ここでやるの、匊月湯で」

 驚いお、あんぱんを萜ずしそうになった。

「暊さんが 匊月湯で、個展ですか」
「そうそう。他の子達もたたにやっおるけど、自分もやっおみようず思っお」
「暊さんが、たさか個展開くなんお」
「なに、その反応」
「いや、暊さんはすげえ仕事人だず思っおたから、たさか個展開くなんお」

 そう、暊さんの手掛けたデザむン仕事はどれもセンスが良く、業界の䞭でも高い評䟡を受けおいる。匊月湯に来お暊さんず知り合っおから、え、あのデザむンも暊さんのだったの ず驚く機䌚がめちゃくちゃ増えた。お話を聞いおみるず、フリヌになっおも、孊生時代や䌚瀟員時代に培った人脈も掻かしながら、実盎にいい仕事を積み重ねおいるのがよく理解できる。フリヌランスに必芁なのは、高い技術力やセンスだけでなく、人柄も倧事なんだずいうこずが、暊さんを芋おいるずよくわかる。

「自分はそんな仕事人間じゃないよ。ただ、奜きなこずが仕事になったから、オンずオフの境界線は曖昧なのかもしれないなあ」
「いた、こうやっお写真を撮っおいるのは、オンですか オフですか」
「どっちなんだろうね。自分でもよくわかないや。悠平、よければしばらくモデルになっおもらえないかな」

 そう蚀っお、暊さんはカメラを構えた。俺は苊笑する。

「モデルになっおもいいですけど、そしたら暊さん、俺の思考の壁打ち盞手になっおくださいな」
「いいよ。どんなテヌマで話しおいこっか」
「テヌマは、俺の新しい仕事に぀いおでお願いしたす」
「オッケヌ。悠平、どう 匊月湯に来おから、なにか倉わった」

 暊さんの蚀葉に、俺はぐっず詰たる。このふた月、俺の䞭ではなにが倉わったのだろう。

「匊月湯に入るずき、俺、暊さんずゞェンダヌ問題の話をちょっずしたじゃないですか」
「うん」
「あれがきっかけで、俺にできるこず、なにかあるんじゃないか っお思っお、ゞェンダヌ問題の勉匷を始めたんです。本やむンタヌネットで情報集めたり、noteにアカりント開蚭しお、自分の考えを少しず぀たずめたりし始めたんです」
「すごいね、悠平。めちゃくちゃ倧きな歩みを、着実に積み重ねおるじゃん」
「ありがずうございたす。でも、調べれば調べるほど、そしお勉匷すればするほど、俺になにかできるこずなんおあるんだろうか っお䞍安な気持ちが湧き䞊がっおきちゃっお。そうしおいるうちに、ヘラルボニヌが倧王補玙ずコラボしお生理甚品のパッケヌゞをデザむンしたっおいうこずを知ったんです」
「あ、それ、自分も芋たよ」
「そうでしたか。いやじ぀は、ヘラルボニヌが生理甚品を出しおくれたっおこず、めちゃくちゃ嬉しくお、やった っお思う自分ず、ああ、先を越されちゃった  っお寂しく思う自分が、なんだかないたぜになっちゃっおお。これからどうしよっかなあ  っお思っおたんです」
「なるほどねえ」

 ぱしり。シャッタヌ音が裏庭に響く。

「自分ずしおは、悠平がそういう颚に思うようになっおくれたっおこずの方が、めちゃくちゃ嬉しいけどな」
「そうですか」
「うん。だっお、自分ず話すたでは悠平、生理のこずはタブヌだず思っおたっお蚀っおたじゃん」
「はい」

 そうだ。結婚を考えおいた前の圌女は、い぀も生理のこずを隠そうずしおいた。

「それが、今はきちんず自分ごずずしお考えおくれおる。その倉化っお、すごく倧きなこずだず思うよ」
「そうなのかなあ」
「うん。たずは、れロがむチになったこずを自分でほめなくちゃ」
「そっか」

 確かに、俺はこれたで䜕も知らなかった。自分の性に぀いおも、自分ず異なる性に぀いおも、自芚的に考えようずするこずはなく、䞎えられる情報をただ受け取るだけでしかなかった。そういう意味では、ただ俺は赀ん坊みたいなものだ。

「れロがむチになったずころかあ」
「そうそう。で、これからの悠平はむチをゞュりにするフェヌズに入っおいくんだず思う」
「むチゞュりのフェヌズか」
「そう。あらゆる面で、れロむチずむチゞュりっお違うから、たずはそれを心埗る必芁があるのかもしれないね。仕事でも、生掻でも、人間関係の構築でも同じじゃない」
「たしかに、そうですね」

 俺は空を芋䞊げる。ぱしり。シャッタヌ音が響く。

「でも、最初からむチゞュりを目指さなくおもいいず思う。たずは、むチをニにするずころからでいいんだよ。最初から倧きなもの、完成されたものを䜜ろうずしなくお倧䞈倫」
「そうなんですかね」
「うん。たぶん、悠平の堎合はゎヌルから逆算できるタむプじゃないから、スタヌトからどれだけ進めたかっおこずを毎日確認できるようにするずモチベヌション続くかも」
「あヌ、確かにそうですね。暊さん、俺をよく芋おるな」
「悠平、わかりやすいから」

 思わず笑みがこがれる。ぱしり。その瞬間を切り取られる。

「仕事もさ、なにか新しいこず、倧きなこず、立掟なこずをバシヌンず始めなきゃいけないっお思っおる節ない」
「  はい」

 その通りだった。経歎も華々しい起業家のむンタビュヌや本を読んで、勝手に劣等感を持っおいた。立掟なこずをやらなければ仕事を新しく始める意味なんおないず、無意識に思っおいたかもしれない。

「そういう考え方が有効な堎面も、確かにある。でも、今はたず思考のパヌツを揃えおいく時期なんじゃないかな」
「思考のパヌツ」
「うん。もっずいろんなこずを芋たり聞いたり、読んだり孊んだりしお、自分の思考を深く育成するためのパヌツ。悠平は様々なこず孊び始めたずころだけど、この先孊び続けおいったら、あれずこれがこんなずころで繋がっおいたなんお っおびっくりする堎面も出おくるず思う」
「なるほど」
「だから今は、たずはむンプットを倧事にする方がいいんじゃないかな。新しく仕事を開拓しなくちゃっおがむしゃらになるよりも、ゆったり構えお䞀幎ぐらいはむンプットに充おる気持ちでもいいんじゃないかなっお思うよ。たぶん、悠平だったらむンプットしながらアりトプットがポロポロ出おくるような気もするし」
「ふうむ」
「今の仕事続けながら、然るべきずきに将来の皮を蒔いおいくっおスタンスを遞ぶのはどうかな あず、将来のための貯金があるず、いざ動いおいこうずする時、ずおも安心だよ」

 暊さんの蚀葉を聞いお、俺は目から鱗ががろがろず萜ちた。新しいこずを始めようずする時は、すべおを新しくしなければならないず思いこんでいた。それこそ、今の䌚瀟を蟞めようかずいうこずも考えおいたのだ。

「ゆっくり、新しいこずに移行しおいっおもいいんですね」
「もちろんだよ。地盀を少しず぀育おおいきながら、軞足を少しず぀スラむドさせおいくっおいうのは、新しいものを䜜り続けるクリ゚むタヌにずっおはずおも倧事なこずだよ。実際、自分も前の䌚瀟から独立するずきには時間ず゚ネルギヌをかけたしね」
「そうだったんですね」
「うん。独立したおの頃は、前の䌚瀟からの぀ながりで仕事をいただいおいたクラむアントさんも少なくなかったし。今もそういうお客さんは倧事にしおいるよ」
「暊さんずいた話せおよかった。話せおなかったら、どうやっお䌚瀟を蟞めようかっおこずばっかり考えおたした」
「  悠平のこずだから、そう考えおるんじゃないかなっお思っおたんだ。実は」

 暊さんは二カッず笑った。

「思い立ったら裏衚なく䞀本気だからね、悠平は。そこが、いいずころでもある」
「ありがずうございたす」
「けど、倧事なこずほどゆっくり考えお、いたの自分にできるこずを積み重ねお、遠くから進めおいったほうがいい。しっかり準備をしお、動けるずきが来るたで埅぀んだよ。それで、動けるずきが来たら、迷わずに動くんだ」

 暊さんは、俺の目をしっかり芋぀めながらそう蚀っおくれた。俺も頷く。暊さんの目が柔らかくなった。そしお、カメラの画面を芗き蟌んだ。

「お、いい写真撮れた。ありがずうね、悠平。お瀌に今床、あんぱんご銳走する」
「牛乳も぀けおください」

 暊さんは笑いながら立ち䞊がり、芪指をぐっず突き出した。颯爜ず去っおいく暊さんの埌ろ姿を、俺は芋送った。


 暊さんの個展「みんなの愛ず生涯」は、9月頭の氎・朚ず匊月湯の颚呂堎ギャラリヌで開催された。山口さんがSNSでも広報しおいったおかげで、遠方からもたくさんの人が匊月湯に集たった。入湯制限をかけながらの開催ずなったが、颚呂䞊がりの皆さんの顔は䞀様に幞せそうだ。

 俺も、倧孊時代の友達のカケルず久しぶりに埅ち合わせお、䞀緒に颚呂に入るこずにした。

「悠平、いたここをアトリ゚にしおるんだね。すごく雰囲気があっお、いい銭湯だよ」
「銭湯もいいんだけど、䞭の人たちが最高にいいんだよ。個展開いおる若月暊さんっお俺達の先茩なんだけど、俺、この人のこずすっげえ尊敬しおるんだ」

 カケルず話しながら男湯の暖簟をくぐった。するずそこには、あんぱんを片手に倧笑いする俺の写真があった。

「わ、悠平だ」

 カケルは嬉しそうに声を䞊げる。俺はセピア色の写真に芋入る。俺、こんな衚情しお笑うんだ。なんだか新鮮な気持ちで、暊さんず話した日の自分ず察峙する。照れ臭い気持ちを隠しながら、裞になり、䜓を流し、湯船に浞かる。

「暊さんっお、すごく人間のこずが奜きなんだね」

 セピア色の写真に囲たれた湯船に浞かっお、カケルはぜ぀りず぀ぶやいた。

「ここに食られおいる写真、みんないい顔しおる。それっお、暊さんに察しおみんなが心を開いおるっおこずなんだよね」
「そっか、そう蚀われおみるず」

 暊さんに初めお䌚った時から、なんおオヌプンマむンドな人だろうず思っおいた。暊さんがそういう人だから、みんなも安心しお心を開くのだろう。

「悠平はさ、瀟䌚課題に察しおアヌトを通じお働きかけたいっお蚀っおたよね」
「うん。最近はゞェンダヌの問題を掘り䞋げお勉匷䞭だよ」
「Twitterの投皿芋お、そうなんだろうなずは思っおた。僕もさ、悠平の投皿をきっかけに、ちょっず違うけれど、同じようなこずを考えるようになっおいるかもしれない」
「そうなの カケルも」
「僕の堎合は、パレスチナの問題に察しおなんらかのアクションを起こせないかっお挠然ず思っおいたんだ。けれど、あたりにも問題が倧きすぎるし、僕は非力だから、䜕もできるこずはないだろうっお諊めおいた。でもね、悠平が毎日投皿しおくれるこずで勇気をもらっお、僕も具䜓的になにかできないかなっお思うようになり始めたんだよ」
「カケル、すごいな」

 カケルは照れたように笑い、湯を掬っお顔を掗った。

「倚分だけどさ、僕らみたいに瀟䌚課題に察しお䜕か自分のできるこずをしたいず思っおいるクリ゚むタヌっお、結構いるず思うんだ。そういうクリ゚むタヌの連垯の茪を、少しでも広げおいけたらいいよね」

 カケルの蚀葉を聞いお、俺の䞭に閃くものが走った。

「カケル、いいこず蚀った」
「え」
「賛同者募っお、グルヌプ展やらないか ここで、この匊月湯で」

 カケルの目が倧きくなった。笑顔が広がる。

「それっお、ずおも玠敵なこずだね  」

 俺は湯船の壁に貌っおある写真、垞連のおじいちゃんの笑顔を芋぀めた。暊さんのおかげで、俺たちの心にも火がずもった。俺たちは、ここにどんな空間を䜜り出せるだろう。

 湯船を䞊がるず、䜓を拭くのももどかしく、俺ずカケルは番台の山口さんのもずに駆け寄った。

「山口さん、俺らもグルヌプ展開くこずっお出来たすか」





぀づく





぀づきのお話


・第4話最終話はこちら




いいなず思ったら応揎しよう