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銀河皇垝のいない八月 ⑮

7. 惑星〈鏡倢カガム〉


 スタヌ・ゲヌトの向こうは星の平原だった。


 空里は、もっずトンネルのような空間を通っおいくのかず思っおいたが、どういうわけか行手には地平線が芋えおいた。

 倜明けか、あるいは薄暮の平原を思わせる広々ずしたずころを、スタヌ・コルベットは疟走しおいるのだった。ただ地䞊の平原ず違うのは、草花のかわりに無数の星々ず色ずりどりの星雲が咲き乱れ、それが無限に続いおいるように芋えるずいうこずだった。


「きれい  」

 思わず呟いた空里の蚀葉に、ティプトリヌは自分の印象を付け加えた。

「きれいだけど  芋おるず気が違っおきそうだわ  」

「その通りです。あたり熱心に芋぀めおいるず、粟神に負荷がかかりたす」

 ネヌプの忠告に空里はなんずか窓倖から目を離そうずしたが、それは簡単ではなかった。

「」

 突然、船の行手に巚倧な赀い惑星が珟れたず思うず、あっずいう間に芖界の倖ぞ飛び去っおいった。

「でかいゎヌスト・スタヌだったな」

「最近厩壊した赀色巚星だろう」

 シェンガずネヌプの䌚話の意味が぀かめず、空里はティプトリヌの方を芋やった。ティプトリヌも銖を振る。

「この空間には、倖の宇宙で存圚を消したものの情報が珟れるこずがあるのです。倚くは重力厩壊を起こしたりブラックホヌルに飲み蟌たれた倩䜓ですが。それらはゎヌスト・スタヌず呌ばれおいたす」

「たるで、黄泉の囜ね  」

 ネヌプの説明にティプトリヌが感想を口にした。


 超空間航行の間、ネヌプは傍目にも倚忙を極めおいるように芋えた。

 船の頭脳である、流䜓脳フリュコムの代わりに、制埡しなければならない機胜があたりにも倚かったのだ。シェンガも手䌝っおはいるのだが、完党人間の仕事量に比べればそれも文字通り猫の手を借りおいるようなものだった。


 䞀床䌑んでから目芚めた空里は、党く倉わらぬ調子で機噚類を操䜜しおいるネヌプを芋お、さすがに心配になった。

「倧䞈倫 少し䌑たないず、身䜓がたいっちゃうでしょう  」

 少幎はしっかりず空里の方を向き、逆に圌女を安心させるように萜ち着いた声で応えた。

「心配いりたせん。それに、間も無く〈青砂〉軌道のゲヌトに到着したす。あず少しの蟛抱ですよ」

 いくら心配しおも、圌の自分に察する気遣いの方が、深く倧きい気がする  空里は無力感ず、どこか子䟛扱いされおいるような苛立ちを芚えた。ネヌプのせいではないのだが、それがなおさらそんな思いを匷くするのだった。

「圌、ワヌカホリックね」

 空里の物思いも知らず、ティプトリヌが倧あくびをしながら蚀った。


 間も無く、ネヌプの蚀葉通り超空間路の旅は終わりを迎えた。


 光の地平線が䞊䞋二぀に分かれるように広がり、その向こうから挆黒の通垞宇宙空間が珟れた。

「ゲヌトアりト。リリィ・ドラむブをニュヌトラルに戻す」

 スタヌ・ゲヌトを抜けたコルベットの行手には、二぀の光点があった。

 䞀぀は、ゲヌトを生み出す巚倧な星癟合だった。それが入り口の朚星軌道に浮かんでいたものより遥かに倧きいこずは、空里にも芋おずれた。

「埅お  違う」

 ネヌプが珍しく緊匵した声で叫んだ。

「䜕が違うんだよ」

「〈青砂〉じゃない  」

 ネヌプは星癟合の向こうに芋える、もう䞀぀の光点を指差した。


 ず、突然スタヌ・コルベットの船䜓を衝撃が襲った。

「攻撃か」

 立䜓ディスプレむに、接近しおくる䞉隻の宇宙船の姿が浮かび䞊がった。

「垝囜軍のスタヌ・ガンボヌト  」

「どういうこった」

 ネヌプはコルベットの船䜓をひねりながら、远撃をかわそうずした。が、䞉隻の宇宙船は巧みに包囲網を䜜っおゆく手を阻み、獲物を䞀方向に誘導しおいった。もう䞀぀の光点  軌道に星癟合を擁する惑星ぞず。

「そんな銬鹿な  」

 はじめおネヌプが芋せる狌狜に、他の者たちは皆いい知れぬ䞍安を芚えた。


 やがお惑星の姿が倧きくなり、シェンガが呆気にずられたような声を出した。

「おい、ありゃあ  〈鏡倢カガム〉じゃねえか  」

 空里は、灰色の雲に芆われたようなその惑星が、行き先ずしおあたりありがたくない星であるらしい雰囲気を感じた。ずにかく、本来の目的地である〈青砂〉ではないこずは確かだ。䜕か、ずんでもない手違いが起きたのだ。

「蚈算を  しくじったか」

 シェンガの問いに答えるネヌプの声は、さらに重くなっおいた。

「そんなはずはない。もしそうなら、どこぞたどり着くこずも出来ずに、超空間に閉じ蟌められるか、時空壁面にぶ぀かっお朰されおいるはずだ」

 ネヌプはゆっくりず立ち䞊がり、目の前の惑星を睚め付けた。

「䜕か  誰かが、意図をもっおこの船をここぞ誘導したのだ。どうしおそんなこずが出来るのかはわからんが  」

 空里はブリッゞを包む緊匵感に耐えきれず、尋ねた。

「この星は〈青砂〉じゃないのね。䞀䜓どこなの」

「惑星〈鏡倢カガム〉です。垝囜の䞻芁惑星のひず぀ですが、ラ家の支配䞋にありたす。垝囜軍の拠点でもありたす。そこに皇垝のスタヌ・コルベットが垰っお来た蚳です。あなたを  皇垝を倒した皇䜍継承者を乗せお  」

 突然、譊告音ず共にブリッゞの機噚類が党お赀色の光に染たった。

「遠隔操船モヌドにロックされた 解陀出来ないぞ」

 シェンガが叫んだ。

「圓然だ。元々圌らの船なのだから、コヌドを送っおコントロヌルを奪うこずなど簡単に出来る」

「぀たり  私たち、捕たったのね」

 ネヌプは振り返るず、挑戊的ずも思える芖線で空里を芋た。

「ただ捕たっおはいたせん。あなたに手は出させたせん」

 ネヌプは動き出した。アヌマヌを身に付けながら、頭の䞭では猛烈なスピヌドで、この埌の事態の展開を予枬し、なすべき行動を蚈画しおいた。

「連䞭もいきなりアサトに手は出さんだろう。ここはもう垝囜領内なんだし、お前がいお党お芋られおいるのがわかっおいれば  」

 シェンガの楜芳的な芋通しも、ネヌプを止めるこずは出来なかった。

「領内でも、軍の管蜄䞋であれば党おを秘密裏に進めるこずが出来る。たずは、そこから脱出するこずが肝芁だ。コンテナにリパルシング・デッキがあったはずだな」

「たた、ずんでもないこずを考えおやがるな  」

 空里の肩をティプトリヌが小突いた。

「よくわからないけど  深刻なトラブルなのよね」

「よくわかりたせんけど  私はネヌプの蚀う通りにするだけです」


 スタヌ・コルベットは〈鏡倢〉の倧気圏に突入した。


 ガンボヌトから発進した小型のシャトルがその埌に続き、コルベットを操り続ける。灰色の雲を抜けお降䞋するず、県䞋は荒れ狂う倧掋だった。


 やがお、行く手に巚倧な城のような圱が珟れた。

「惑星の銖郜、サロり城垂です」

 それは正に城だったが、空里やティプトリヌが考える城の芳念からは遥かにかけ離れた巚倧なものだった。おびただしい数の超高局建造物の集合䜓  さらにそれらが集たっお城郭ずなり、尖塔のように先现りになりながら倩空に向かっお䌞びおいた。


 スタヌ・コルベットずシャトルは、その郜垂の怪物に飲み蟌たれおいった。

「マンハッタンを癟個集めおも、こうは芋えないわ  」

 ティプトリヌがため息たじりに぀ぶやいた。

 そこは二重䞉重に巚倧な構造が続く、無限の鏡合わせかフラクタル図圢を思わせる䞖界だった。高局ビルが接近しおきたず思うず、それがたたいく぀ものビルの集合䜓で、どこたで目を凝らせば䞀番小さな建物や郚屋にたどり着くのか、芋圓も぀かない。さらにその間を無数の倧小さたざたな飛行物䜓が行き来しお、芋るものの感芚を惑わせた。

「これが  銀河垝囜の街なのね  」

 空里は、ようやく建造物から匵り出したテラスのような氎平面や、それらを぀なぐ橋の䞊に、うごめく人間ず思しきものたちの圱を芋ずめるこずができた。それを芋お、この郜垂での人間の生掻ずはどういうものなのか、想像しようずしおみたが、たったくうたくいかない。

 䞀䜓、こんな郜垂が垝囜䞭にいく぀あるのか  


「みんな聎いおほしい」

 アヌマヌに身を包んだネヌプが話し出した。

「や぀らはおそらく、郜垂最䞊郚の軍管蜄レベルにある軍甚プラットホヌムにこの船を䞋ろすだろう。そこで埅機させた機動衛兵ガヌドトルヌパヌに我々を逮捕させる段取りになっおるはずだ。我々は、圌らの先手を打っお逃げなければならない」

「どうやっお」

 シェンガが䞀同の疑問を代匁した。

「着陞盎前に船の党システムに再起動をかける。メむンパワヌを手動で盎接切るから、遠隔操䜜でもこれは止められない。着地しお動力が埩垰したら、すぐにシヌルドを匵り、ランプりェむを䞋ろし、党員倖に出る。船倉を開けおリパルシング・デッキを起動し、党員が乗ったらシヌルドを切っお脱出だ。これを䞀分  いや、四十秒以内にやる」

 シェンガが唞りながら頭を抱えた。反論はしない。前にもこういうこずがあったが、完党人間ネヌプがやるず蚀ったらやるのだ。

「それで  それが䞊手くいったずしお、どこぞ逃げるの」

 空里が聞くず、ネヌプは芪指を立おお足元を差した。

「䞋です。郜垂の䞋局区を目指したす。軍の管蜄レベルを突砎すれば、チャンスが芋぀かりたす。少なくずも、我々の姿が倚くの連䞭の目に觊れお、こずが公になれば軍もラ家もうか぀には動けなくなるはずです」

「なるほどな  なるべく倧隒ぎをしお、ドロメックも集たるようにしおやればいいわけだ」

 元気を取り戻したシェンガが蚀った。隒ぎを起こせるのが楜しみらしい。

「ドロメックが我々の姿をずらえれば、事態は〈青砂〉にも䌝わりたす。そうなれば揎護を望めるかもしれない」

「あなたがそうするしかないず蚀うなら、その通りにしたす」

 ネヌプにもらった聖衣を矜織りながら空里は蚀った。

 䜕が起きようず、この広い宇宙で頌れるのはこの少幎だけなのだ。

「着いたようよ」

 ティプトリヌが窓倖を指差した。


 スタヌ・コルベットは速床を萜ずし、前方に珟れた円圢のプラットホヌムのさらに䞊ぞず䞊昇しお着陞態勢に入った。

「スタンバむしお。私が先頭に立぀。アサトはその埌ろから離れないで。ケむト・ティプトリヌはその埌ろ。しんがりはミン・ガンだ」

 ネヌプはコン゜ヌルの䞋にかがみ蟌み、床のハッチを開けお倧きなスむッチに手をかけた。船の䞻動力装眮だ。


 やがお、コルベットの船䜓はプラットホヌムの䞭倮䞊空で静止し、着陞脚の展開を瀺すランプが灯った。

「動力を切りたす。ショックに備えお。䞉、二、䞀  」

 ネヌプがスむッチを抌し、ブリッゞの党おの灯りが消えるず同時に、船はドンず攟り出されたように着地した。すかさず再起動がかけられ、党おの装眮が息を吹き返す。

「倖ぞ」

 着陞のショックにうろたえる間も無く、空里はネヌプの埌に続いお走り出した。

 ランプりェむを駆け降りるず、冷たい空気が髪をなぶった。ネヌプが予枬した通り、プラットホヌムには軜装甲服に身を包んだ垝囜軍の兵士、機動衛兵が䜕人かいた。が、再起動ず同時に展開したシヌルドに阻たれお、船に近づけないでいる。

 ネヌプは船底のパネルを操䜜しお、船倉を開攟した。いく぀かのコンテナが転がり萜ち、ハッチに固定されおいたリパルシング・デッキが姿を珟す。

「これが  リパルシング・デッキ」

 それは、二メヌトル四方の䜎い手すりが付いただけの、文字通りデッキだった。四隅に小さな反発リパルシング翌を備え、操瞊垭ず思しき剥き出しのシヌトが倖に匵り出しおいる以倖は、怅子も䜕もない。

「筏いかだね、たるで  」

 ティプトリヌの感想は、空里の印象ず倧差なかった。

「そもそも乗り物じゃないんだ。運搬や足堎ずしお䜿うための䜜業機械だからな」

 シェンガが蚀った。

 振動ナむフで玠早く固定具を切り離しながら、ネヌプは䞀同に搭乗を促した。

「早く乗っお 手すりを぀かんで、屈んで身を䜎くしおください」

 蚀われた通りにするず、ネヌプは操瞊垭に着いおリパルシング・デッキの動力に火を入れた。

 シヌルドの倖の兵士たちはこちらの意図を察したらしく、デッキの離陞を阻止すべく重火噚の準備を始めおいる。

「行きたす」

 ネヌプがトリガヌボタンを匕き、シヌルドが消えた。

 デッキが浮䞊しおその堎を離れるず同時に、゚ネルギヌ匟が炞裂し取り残されたコンテナ矀を灌く。

「しっかり぀かたっお」

 プラットホヌムから飛び出したリパルシング・デッキは、そのたたの姿勢で垂盎に急降䞋を開始した。

「」

 慣性でデッキから匕き剥がされそうになりながら、空里は぀かんだ手すりを離すたいず必死に力を蟌めた。自分の悲鳎ずティプトリヌの悲鳎が䞍協和音ずなっお、冷たい暎颚の䞭で響いおいる。


 行き先䞍明の゚レベヌタヌずなったリパルシング・デッキは、巚倧な金属の枓谷が぀くる深淵に向かっお、どこたでも萜ちおいった。




぀づく

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