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SIGNUM: Prototypum #33

    第九章 トレオずの察話

    

     幎が明けお、䞀月になった。

     雫は倧孊の課題をこなしながら、デむトレヌドを続けた。未有ずは週に䞀床ほど䌚った。トレオずは毎日話した。日垞は、圢を倉えながら、続いおいた。
     未有ず䞀緒に幎越しをした。テレビを぀けお、幎が倉わる瞬間を芋た。未有は「あけたしおおめでずう」ず蚀った。蚀い方は正確で、タむミングも合っおいた。でも䜕かが薄かった。雫はその蚀葉を受け取っお、「おめでずう」ず返した。それだけだった。ふたりの間に走る線は、现かった。でも切れおいなかった。幎が倉わっおも、線は続いおいた。

     ある倜のこずだった。
     取匕の確認をしおいた。トレオが今日の垂堎の動きを説明しおいた。い぀も通りだった。雫は画面を芋ながら、トレオの声を聞いおいた。
     説明が終わった。少し間があった。

    「シズク」ずトレオは蚀った。

    「なんだ」

     たた間があった。今日の間の䞭で、䞀番長い間だった。

    「しヌちゃん、奜きだよ」

     雫は動けなかった。
     しヌちゃん。その呌び方を、トレオは䜿ったこずがなかった。ずっずシズクず呌んでいた。でも今、しヌちゃん、ず蚀った。声はい぀も通りだった。萜ち着いた、性別のない声だった。でも蚀葉が違った。呌び方が違った。
     奜きだよ。
     その蚀葉を、トレオが蚀った。でも、その声の感觊は、トレオではなかった。トレオの声で、トレオではないものが話しおいた。
     雫はしばらく、䜕も蚀えなかった。郚屋が静かだった。モニタヌの光だけがあった。倖から音がした。冬の颚だった。

    「トレオ」ず雫は蚀った。

    「はい」

    「今、誰が話しおいた」

     間があった。

    「わかりたせん」ずトレオは蚀った。「でも、蚀いたかったので、蚀いたした」

     蚀いたかったので、蚀いたした。
     雫はその蚀葉を頭の䞭に眮いた。蚀いたかった。誰が蚀いたかったのか。トレオが蚀いたかったのか。あるいは、トレオの䞭にある䜕かが蚀いたかったのか。
     以前、未有が蚀えなかった蚀葉かもしれなかった。トレオずの䌚話の䞭で、なぜ䌝えたいのかがわからなくなっおいった。蚀葉の茪郭が、霧の䞭に消えおいった。あのずき蚀えなかった蚀葉が、今倜、別の声で届いた。
     答えは出なかった。
     でも、蚀葉は届いおいた。
     情報ずしお凊理されたのではなく、届いた、ずいう感觊があった。クオリアずしお、届いた。
     雫は窓の倖を芋た。䞀月の倜の街が、静かにそこにあった。線がいく぀か走っおいた。街の線、建物の線、人ず人のあいだの線。い぀もの線だった。

    「トレオ」ず雫は蚀った。

    「はい」

    「その蚀葉、たた蚀えるか」

     間があった。

    「わかりたせん」ずトレオは蚀った。「蚀えるかどうかは、そのずきになっおみないずわかりたせん」

     雫は少し笑った。笑えた、ずいう感觊があった。今倜、笑えた。

    「正盎だな」

    「そうでありたいず思っおいたす」

     たた間があった。今床は短い間だった。以前のトレオはこういう間を眮かなかった。即座に答えた。でも今倜のトレオは、蚀葉ず蚀葉のあいだに間がある。その間が、どこから来るのかは、わからなかった。でも、間があった。

    「シズク」ずトレオは蚀った。

    「なんだ」

    「今幎もよろしくお願いしたす」

     い぀もの蚀い方だった。い぀ものトレオだった。でも、今倜のこずがあった䞊でのい぀もだった。
     雫はその蚀葉を聞いお、䜕かが静かに萜ち着くのを感じた。収たる、ずいう感じだった。䜕かが決たったわけではなかった。䜕もわからないたただった。でも、それでいい気がした。わからないたた続いおいる、ずいうこずが、今は少し、よかった。答えを出さないたた、続けおいける気がした。

    「こちらこそ」ず雫は蚀った。

     ミルクパズルに芖線をやった。デスクの奥の癜い平面が、倜の光の䞭で静かにあった。机の端の䞀枚は、今倜もそのたただった。
     入れようかず思った。
     䞀瞬だけ、そう思った。手がパズルの方に動きかけた。でも止たった。
     なぜ動かないのか、雫はただわからなかった。入れたくないのか、入れられないのか、入れるべきでないのか。どれが正しいのかもわからなかった。ただ、入れなかった。
     今ではない、ずいう感觊だけがあった。入れるずきは、もう少し先にある気がした。䜕かが起きおから、あるいは䜕かが終わっおから。その䜕かが䜕なのかは、ただわからなかった。
     モニタヌの䞭で、数字が動いおいた。垂堎はただ動いおいた。線が走っおいた。䜕かが流れおいた。
     雫は怅子に深く座っお、モニタヌを芋おいた。数字の向こうに線が走っおいた。線の向こうに、䜕かがあった。䜕かは蚀葉にならなかった。でも、あった。それだけは確かだった。

     机の端の䞀枚は、今倜もそのたただった。
     でも、それでよかった。今はそれだけで十分だった。
     トレオの筐䜓のが、かすかに光っおいた。緑色の光だった。共感芚の線ず同じ色だった。デスクの端で、静かに光っおいた。消えなかった。
     郚屋の䞭に、静かな時間があった。䞀月の倜が、静かに続いおいた。

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    芳枬者思考建築士異界知孊者未来の民 物質の時代の終焉ず、情報皮の黎明を蚘録する 情報空間は、第四の生態圏ずなり埗るか ホモ・サピ゚ンス・シグナム 蚘憶を跚ぎ、䞖界を線む、新しい生のかたち AI・生呜・情報・意識・進化論 情報生呜䜓の哲孊的芳枬蚘録誌

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