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なぜPostpartum Shift Theory(PST)が必要なのか?──既存理論との比較と、PSTが補う“5つの空白”

    ※この記事は、理論連載『産後クライシスを超えて──Postpartum Shift Theory(PST)で読む“関係性の再設計”』の
    第3回(全8回)にあたります。

    この連載では、産後に起こる“関係性のズレ”を「危機」ではなく「構造的な変化」として捉え、
    Postpartum Shift Theory(PST)という新たな視座から、支援・教育・研究の実践に活かせる視点をお届けします。

    連載全体の構成は【▶︎こちら】からご覧ください。


    はじめに:問題提起

    出産後、夫婦関係に大きな変化が訪れることは、数多くの研究により報告されてきた。Transition to Parenthood(TtP)やCoparenting研究、Emotionally Focused Therapy(EFT)など、産後の適応過程に関する理論的枠組みは一定の貢献を果たしている。しかし現実には、産後の関係性変化を「個人の心理的課題」や「育児の役割分担」としてのみ捉える傾向が強く、夫婦関係そのものを構造的に捉え直し、再設計を支援する理論的枠組みは存在していない。

    この空白を埋めるために提案されたのが、**Postpartum Shift Theory(PST)**である。本稿では、まず既存理論の特徴と限界を概観し、続いてPSTが補う「5つの空白」について整理する。


    1. 既存理論の概観と貢献

    1-1. Transition to Parenthood(TtP)

    Transition to Parenthoodは、親になる過程における心理的・行動的適応を対象とする理論である(Cowan & Cowan, 1992)。出産によって生じる役割変化、アイデンティティの変容、ストレス増加への適応過程を描き、親個人への影響を豊かに示してきた。

    限界:
    しかし、TtPは主に個人単位の適応を中心に扱っており、夫婦という関係性システム全体を「再設計対象」として捉える視点には至っていない。

    1-2. Coparenting(育児協働理論)

    Coparenting理論(Feinberg, 2002)は、育児における夫婦の協働関係が、子育て成果や夫婦満足度に与える影響に焦点を当てる。育児タスクを「共に担う」ことの重要性を実証的に裏付けた点は画期的である。

    限界:
    しかし、Coparentingはあくまで「育児協働」に焦点があり、感情的結びつきや関係性の質的変容そのものには直接的なアプローチをしていない。

    1-3. Emotionally Focused Therapy(EFT)

    EFT(Johnson, 2004)は、愛着理論に基づき、カップル間の感情のやりとりを修復する臨床モデルである。産後クライシス的な「感情の断絶」への有効な介入を提供している。

    限界:
    ただし、EFTは「危機が起きた後」の修復的介入を前提としており、予防的・構造的な支援枠組みとは異なるアプローチである。


    2. なぜPSTが必要なのか?──5つの理論的空白

    2-1. 構造変化の可視化が足りない

    既存理論は「変化」を個人単位または役割単位で捉えるが、夫婦関係全体に生じる構造的断裂(リレーショナルショック)という視点を持たない。
    PSTは、「リレーショナルショック」という概念を導入し、出産後に関係性内部で起きるズレや動揺を構造として可視化
    する。

    2-2. 夫婦単位での再設計が不十分

    TtPやCoparentingは、個人または機能単位(育児協働)で支援対象を設定している。
    PSTは、Self(自己変容)、Relationship(対話と感情調整)、Team(育児チーム形成)、Meaning(家族の再定義)の4モジュールを通じて、ふたりの関係そのものを再設計するプロセスを支援する。

    2-3. 感情プロセスの翻訳視点がない

    EFTは感情への介入を重視するが、産後の怒りや沈黙を「構造的サイン」と位置づける理論は存在しなかった。
    PSTでは、「怒り」や「沈黙」を翻訳対象とみなし、それが示す未充足ニーズや関係性ズレを支援者が言語化・可視化するプロセスを理論化している。

    2-4. 危機前介入モデルが欠けている

    多くの既存支援は、「危機が顕在化した後」に対応する。
    PSTは、「Before(準備)→ Shock(衝撃)→ Adjustment(再構築)」という3段階モデルを提示し、危機が起きる前から関係性変化を予防的に支援することを目指す。

    2-5. 支援現場への応用性が限定的

    Transition to ParenthoodやCoparentingは、臨床・教育現場での活用にあたって翻訳が難しい。
    PSTは、6領域×5段階モデル(感情・信頼・会話・役割・意味・時間領域におけるズレの進行段階モデル)を提供し、支援者・教育者・当事者が現場で具体的に活用できる診断・介入ツールを備えている。


    3. PSTの独自性まとめ

    以上を踏まえると、Postpartum Shift Theory(PST)は次の点で独自性を持つ:

    • リレーショナルショックを出発点に、産後のズレを構造的に可視化

    • 個人ではなく、ふたりの関係性単位での再設計を支援

    • 怒りや沈黙を構造サインとして読み解く「感情翻訳」プロセスを導入

    • 危機「前」の予防的介入モデル

    • 実践現場・教育現場への応用可能性を備えた具体モデル設計


    まとめ

    産後の夫婦関係変化は、「愛情不足」や「努力不足」といった個人要因ではなく、構造的変化への適応プロセスとして捉える必要がある。
    既存理論が描き出した重要な知見を踏まえつつも、構造的断裂を可視化し、再設計を支援する包括的理論が求められていた。

    Postpartum Shift Theory(PST)は、まさにその空白を補い、これからの産後支援・夫婦関係支援に新たな地平を拓く理論となり得る。

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    「産後クライシス」ではなく「産後シフト」へ。産後の変化に戸惑った実体験から、夫婦がつながる準備の大切さを発信中。「“産後に不仲になる夫婦”がいない社会へ」パパ目線で家族の絆づくりをサポート 西東京市、助産師学会にて講演あり #産後シフト|#家族の未来を守る 株式会社ひまり副代表

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