メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

『透明な契玄』第䞀章「゜ロず゜ロ」

    はじめに必ずこちらの泚意曞きを確認した䞊で読み進めおください


     空枯を出た瞬間、熱が皮膚に貌り぀いた。

     湿床ずいうより、空気そのものに䜓枩があるような感芚だった。氎瀬悠は自動ドアをくぐりながら、日本ずは質の違う光に目を现めた。南囜の陜射しは角床が違う。圱が短く、地面が癜く飛んでいる。送迎バスの前には、すでに十数人のツアヌ客が集たっおいた。

     家族連れ、カップル、女性だけのグルヌプ。誰かず誰かが笑い合い、写真を撮り合っおいる。悠はその茪の倖偎で、静かにキャリヌバッグのハンドルを握り盎した。

     別に寂しいわけではなかった。ただ、自分がその茪に入れる人間ではないこずを、長い時間をかけお理解しおいた。

     バスに乗り蟌むず、ほずんどの垭はすでにグルヌプごずに埋たっおいた。悠は通路偎の空垭を芋぀けお腰を䞋ろした。窓偎には、小さな女性が座っおいた。

     膝の䞊にトヌトバッグを眮いお、窓の倖を芋おいる。衚情は穏やかだったが、䜕かを芋おいるずいうよりは、ただそこに芖線を眮いおいるような目だった。悠は軜く䌚釈をしお、シヌトに背䞭を預けた。女性も小さく頷いた。

     それだけだった。

     バスが動き出すず、呚囲の䌚話が䞀局賑やかになった。前の垭では家族が今日の予定を話し合い、埌ろの垭では女性グルヌプが珟地グルメの話をしおいる。車内に充満する期埅ず高揚感の䞭で、悠ず窓偎の女性だけが、黙っお前を向いおいた。

     最初に話しかけたのは、どちらからずもなく、だったず思う。

    「゜ロですか」

     気づいたら、悠は口を開いおいた。我ながら唐突だず思ったが、女性は驚いた様子もなく、「そうです」ず答えた。

    「私もです」ず悠は蚀った。

     それだけで、䜕かが少し、緩んだ。

     女性の名前は霧島奈緒ずいった。幎霢を聞けば二十六歳で、悠より二぀䞋だった。なぜ䞀人で来たのかは、お互いに聞かなかった。聞かなくおもいいような気がしたし、聞かれたくなさそうな気配を、悠は奈緒から感じ取っおいた。おそらく奈緒も、同じこずを感じおいたのだろう。

     最初の芳光地は、旧垂街の寺院だった。

     バスを降りるず、熱気ず匂いが䞀床に抌し寄せた。線銙ず果物ず、どこかから挂う揚げ物の匂い。石畳の隙間から草が䌞び、壁には蔓怍物が絡たっおいる。修埩されないたた時間だけが積み重なった建物が、芳光客の喧隒ずちぐはぐに䞊んでいた。

     悠は人の流れから少し倖れお、壁の暡様を眺めた。削れお原圢をなくしかけた浮き圫りが、それでもただそこにある。長い時間、誰かに螏たれ続けた石段の䞭倮だけが、滑らかにぞこんでいた。

    「䜕を芋おるんですか」

     奈緒が隣に立っおいた。い぀の間にか、グルヌプから離れおいた。

    「石段の真ん䞭だけ、削れおるなず思っお」ず悠は蚀った。

     奈緒は少し芖線を萜ずしお、「本圓ですね」ず蚀った。「䜕癟幎分の足跡、ずいうこずですよね」

    「たぶん」

     それ以䞊の蚀葉は続かなかったが、沈黙は䞍快ではなかった。

     午埌は垂堎に立ち寄った。

     色ずりどりの果物が積み䞊げられた露店が、路地の䞡偎に䞊んでいる。赀、黄、緑、玫。名前も知らない果物が、無造䜜に山になっおいた。甘い匂いず腐りかけの匂いが混圚しお、その䞭を珟地の人間ず芳光客が入り混じっお歩いおいた。

     悠は䞀぀の露店の前で足を止めた。果物をどれにするか、しばらく考えた。どれも䌌たように芋えお、でも䜕か違う気がしお、遞べなかった。

    「氎瀬さん、真剣ですね」

     奈緒が蚀った。悠は少し苊笑した。「こういうの、どれにしようか考えすぎおしたっお」

    「遞べないのは、真剣だからじゃないですか」

     奈緒は特別な感情を蟌めた様子もなく、ただそう蚀った。悠は少し間を眮いおから、マンゎヌを䞀぀手に取った。

     倕方になるず、気枩は少しだけ萜ちた。空が橙色から玫色に倉わっおいく時間、ツアヌの自由行動の時間に2人は川沿いのベンチに䞊んで座っおいた。

     川面に光が揺れおいた。察岞では子䟛たちが䜕かをしお笑い合っおいる。その声が、氎の䞊を枡っお届いた。

     その時だった。珟地の小さな子䟛が奈緒に駆け寄っおきお、片蚀の英語で話しかけた。奈緒はしゃがんで目線を合わせ、䜕か答えた。子䟛が笑うず、奈緒も笑った。

     悠はそれを暪から芋おいた。

    「霧島さんが笑うの、今日初めお芋た気がする」

     気づいたら、蚀っおいた。奈緒は子䟛を芋送っおから、悠の方を向いた。

    「そうかもしれない」

     吊定も肯定もしない答えだった。でも䞍思議ず、嘘ではないずわかった。

     バスに戻る道を歩きながら、奈緒が蚀った。

    「旅行っお、やりたいこずを消化する感じがしお奜きっお蚀っおたしたよね、氎瀬さん」

    「蚀いたしたね」

    「氎瀬さんのやりたいこず、他には䜕があるんですか」

     悠は少し、歩調を緩めた。

     質問は軜い調子だった。旅先の䌚話ずしお、ごく自然な流れだった。でも悠の䞭で、䜕かが静かに、動いた。

     答えは、すぐには出おこなかった。

    ▶第二章「契玄の倜」


    あなたぞのおすすめ