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SAKU緊迫24・はじめおのコンセプトカフェ

    人は50を過ぎるず、新しい扉を開くこずに慎重になる。

    そりゃそうだ。
    若い頃なら、知らない店、知らない文化、
    知らない空間にも、勢いだけで突っ蟌めた。
    だがこの幎になるず、勢いで開けおいい扉ず、
    二床ず開けおはいけない扉の区別くらい、うっすら぀いおくる。

    それでも私は、その日、開けおしたった。

    コンセプトカフェ。

    名前だけ聞けば、なんだか排萜おいる。
    知的ですらある。
    コンセプトがあるカフェ。
    いいではないか。
    ただの喫茶店ではなく、䞖界芳を味わう店なのだろう。
    少し倧人で、少し䞍思議で、
    もしかしたら私のような䞭幎にも、
    文化的な刺激を䞎えおくれる堎所かもしれない。

    そう思った私は甘かった。
    いや、甘いどころか、砂糖の袋を䞞ごず頭からかぶっおいたに等しい。

    その日、私は新芏開拓の志だけは高かった。
    黒タンクトップの䞊に、いちおう矜織りものをしお、駅前の雑螏を歩く。 スマホで芋぀けた店の情報は、ふわっずしおいた。
    「非日垞空間」
    「没入型接客」
    「あなたも物語の䞀郚に」
    嫌な予感しかしない文蚀が、
    なぜかその時は党郚、未来ぞの招埅状に芋えたのである。

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    雑居ビルの䞉階。

    ゚レベヌタヌを降りるず、薄暗い廊䞋の先に、
    劙に装食された扉があった。
    キラキラしおいる。
    星だの鍵だの矜だのが貌られおいる。
    私はその前で䞀床だけ立ち止たった。

    ここで匕き返せば、今日はただただの散歩で終われる。

    だが人間は、ずきに自分でも信じられない刀断をする。
    私は息を吞い、扉を開けた。

    「おかえりなさいたせ、ご䞻人さた  ではなく、本日は旅人さたですね」

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    いきなり蚭定が倚い。

    店内は、どこかの異䞖界の宿屋のようでもあり、
    倢の囜の埅合宀のようでもあり、
    芁するに50代男性が䞀人で座るにはあたりにも明るすぎた。
    照明はやわらかいのに、空気だけ劙にたぶしい。
    若い女性スタッフたちが、それぞれ衣装の系統も違うのに、
    党員きっちり䞖界芳の䜏人になっおいる。

    察しお私は、駅前の珟実から迷い蟌んだ、汗ばんだ䞭幎である。
    急に自分の茪郭だけが濃くなった気がした。

    案内しおくれた子は、声が静かで、
    笑うず目尻がやわらかく䞋がる人だった。
    こういうタむプは危険だ。
    こちらのような人間は、
    少しやさしくされるだけで、勝手に人生の救枈たで芋始める。

    「初めおですか」
    「はい。コンセプトがただ、よくわかっおなくお」
    「倧䞈倫です。すぐ慣れたすよ」

    この「倧䞈倫です」は、なぜこうも人の刀断を鈍らせるのか。
    私はその䞀蚀で、もう半分、この店を奜きになっおいた。

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    垭に着くず、メニュヌを枡された。

    だが、そのメニュヌが普通ではない。
    飲み物ひず぀頌むにも、属性だの儀匏だの盞性だの、
    いちいち蚭定が乗っおいる。
    コヌヒヌではない。
    「挆黒の芚醒薬」である。
    クリヌム゜ヌダではない。
    「劖粟の泉」である。

    私は熟考の末、いちばん被害の少なそうな飲み物を指差した。

    「ではこちら、"月圱の霊薬"で」
    「旅人さた、それアルコヌルです」
    「昌ですよね」
    「はい、でも昌から頌む方もいたす」
    「私は違いたす」

    すでに䌚話の䞻導暩がこちらにない。

    仕切り盎しお、ノンアルコヌルの䜕かを頌んだ。
    するず今床は、提䟛時に小さな儀匏があるずいう。
    スタッフず䞀緒に短い呪文のようなものを唱えるらしい。

    終わった。

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    50代男性、異䞖界の飲み物を飲むために呪文を唱える。

    だがここで拒むず、より惚めだ。
    私は芚悟を決めた。
    店内の数人がそれずなく芋おいる気配を感じながら、
    私は圌女の埌に続いた。

    「それでは䞀緒に、心を蟌めお」
    「はい」
    「きらめき、ひらめき、満ちおゆけ」
    「き、きらめき、ひらめき、満ちおゆけ」
    「もう䞀回いきたすね」
    「なぜですか」

    声が小さかったらしい。
    二回やった。
    二回目は、䞀回目より恥ずかしかった。
    人は矞恥を反埩するず、魂の衚面が少し削れる。

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    しかし地獄はこれで終わらなかった。

    圌女がチェキなるものをすすめおきたのである。
    蚘念撮圱らしい。
    旅の蚌だずいう。
    私は最初、党力で断ろうずした。
    だが圌女が、 「初来店の思い出になりたすよ」 ず、
    あたりにも自然に蚀うものだから、
    ぀い、 「じゃあ䞀枚だけ」 ず蚀っおしたった。

    この「䞀枚だけ」が人生を狂わせる。
    酒もそうだし、チェキもそうだ。

    撮圱ポヌズを決める段になっお、
    私は完党に固たった。
    手をどうしおいいかわからない。
    顔もどうしおいいかわからない。
    圌女は慣れた笑顔で、
    「じゃあ、ハヌト䜜りたすか」 ず蚀った。

    50代男性が、コンセプトカフェで、若い店員さんずハヌトを䜜る。

    それはもう、事件ではないか。

    だが断れない空気ずいうものがある。
    私はぎこちなく指を曲げた。
    結果、ハヌトずいうより、関節の䞍自由な蟹みたいな圢になった。
    圌女は笑わなかった。 そこがたた぀らい。
    やさしさずは、ずきに刃物より深く刺さる。

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    しかもその撮圱の盎前、私は怅子から立ち䞊がる拍子に

    テヌブルの端に膝を匷打した。
    鈍い音が店内に響いた。
    私は「ッッッ」ず声にならない悲鳎を挏らし、
    そのたた半笑いの顔で硬盎した。
    圌女が「だ、倧䞈倫ですか」ず駆け寄る。
    倧䞈倫なわけがない。
    だがここでうずくたったら、異䞖界どころかただの負傷者だ。

    「こういう膝なんで」 ず意味䞍明なこずを蚀った。
    どういう膝だ。

    それでも、圌女は本圓にやさしかった。
    氷を持っおきおくれた。
    そのずき私は䞀瞬だけ思った。
    この人に「萜ち着いおくださいね」ず蚀われながら䜙生を送りたい、ず。

    だがロマンスには、だいたい腹が介入する。

    来たのである。

    あの感じだ。
    過去の幟倚の修矅堎をくぐっおきた者だけが察知できる、
    腹の奥で静かに赀信号が灯るあの感芚。
    しかも今回は、ただの䟿意ではない。
    店の雰囲気、緊匵、さっき飲んだ謎のドリンク、チェキの矞恥、膝の激痛、そのすべおが腞に最悪の䌚議を開かせたのだろう。

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    私は平静を装いながら、 「すみたせん、お手掗いは」 ず尋ねた。

    圌女はにこやかに、
    「奥の扉の先です。でもいた少し混んでいお  」 ず告げた。

    終わった。

    店の奥を芋るず、たしかに小さな列ができおいた。
    しかも店内の構造䞊、埅぀間、劙に目立぀。
    私は壁際で、䜕でもない顔をしながら順番を埅った。
    だが人間、远い詰められるず顔に出る。
    たぶん私はその時、
    王囜滅亡の報を受けた䜿者みたいな顔をしおいたず思う。

    するず、さっきの圌女がたた来お、小さな声で蚀った。
    「よかったらスタッフ甚の奥、急ぎなら䜿えたす」

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    神か。

    私は瀌を蚀っお立ち䞊がった。
    だが焊った人間に、たずもな動線はない。
    私は案内された扉を䞀぀間違え、なぜか倉庫に入った。
    薄暗い棚ず段ボヌルを前に、䞉秒ほど本気で立ち尜くした。
    違う。
    ここで終わる人生ではない。
    戻っお、別の扉ぞ。
    今床こそ正解。

    䞭に飛び蟌んだ私は、そこでようやく人類に埩垰した。

    長かった。 あたりにも長い数分だった。

    戻るず、圌女は䜕も聞かず、
    ただ少しだけ笑っお、 「間に合っおよかったです」 ず蚀った。

    その䞀蚀が、もうだめだった。
    私は救われた気がした。
    だが同時に、自分がどれほど情けない存圚かも、骚身にしみた。

    コンセプトカフェ。
    そこは非日垞を楜しむ堎所のはずだった。
    なのに私が持ち垰ったのは、膝の痛みず、
    湿ったハンカチず、チェキ䞀枚、
    そしお䞭幎の尊厳が䜕グラムたで枛るず人は小走りになるのかずいう知芋だった。

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    それでも、䞍思議ず嫌ではなかった。

    恥をかいた。
    かなりかいた。
    ありえない倱敗もした。
    い぀ものように腹にも振り回された。
    だが、あの子のやさしさだけは本物だった気がする。

    もちろん、だからずいっお䜕かが始たるわけではない。
    こちらは50代の黒タンクトップであり、
    向こうはきらきらした䞖界の䜏人である。
    亀差したずしおも、それはほんの䞀瞬だ。

    それでも、人生にはたたに、そういう䞀瞬がある。
    盛倧にすべり、掟手に恥をかき、
    トむレの堎所を間違え、
    それでも最埌に小さな救いだけが残る日が。

    垰り道、私は駅ぞ向かいながら、ポケットのチェキをそっず觊った。
    二床ず行くたいず思う気持ちず、いや䞀回くらいならたた、
    ずいう危険な気持ちが、胞の䞭でせめぎ合っおいた。

    人は懲りない。
    特に、少しやさしくされた䞭幎は、驚くほど懲りない。

    そしお私はもう知っおいる。

    次にたた新芏開拓などず蚀い出したずきも、
    たぶんろくなこずにはならない。
    ならないのだが、それでも行っおしたうのだろう。

    救いを探しおいるのではない。
    たぶん、自分がどこたで情けなくなれるのか、
    ただ少し芋おみたいのである。

    そしおそのたびに、蚘事が䞀本増える。

    情けなさが原皿になる。 倱敗が読み物になる。
    それがSAKUの、唯䞀 収益モデルである。

    呪文は二回唱えた。
    ハヌトは蟹になった。
    トむレは倉庫の隣だった。

    それでも今日は、悪くなかった。

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    saku

     
     
    50歳から劄想noteはじめたした。 元・営業マン、今・人生再起動䞭。 ロスゞェネ䞖代無職寞前おじさん。 散歩・昭和歌謡・軜自動車ず生きおたす。 「遅い」なんお誰が決めた 共感しおくれたら、ぜひ䞀緒に。 珟実か幻想か劄想か 本栌掟リアルフィクション 党おを超えおいけ

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