
うんこ色のカーテン / 純喫茶リリー#99
おじいちゃんが来た日から、数ヶ月が経ったころ。
今度はおばあちゃんが来た。
おばあちゃんも、おじいちゃんと同じように、リリーには似つかわしくない清潔感があった。
でもおじいちゃんと違うのは、来るなり店の中をぐるりと見回したことだ。カウンター、テーブル、壁のシミ、灰皿。何も言わなかったけど、何かを確かめているようだった。
ママは、お父さんと駆け落ちしてきたのだった。
それ以来、両親と会ってなかったのだった。
律子はそんなこと、ずっと後になって知った。
おばあちゃんは、そのままうちに泊まった。何日いたんだろう。
もともと家庭科の先生だったらしく、料理も縫い物も得意だった。
家中のカーテンを全部作ってくれるんだって。
カーテンは、黄色と茶色の縞々だった。
律子の部屋にはピンクのじゅうたんが敷いてあった。
そこに、黄色と茶色の縞々のカーテンがついた。
茶色はうんこ色だから嫌いだった。
男子が茶色いズボンを履いていると、ちょっと嫌いになったくらいに。
青とか緑とか赤とか、かっこいい色が好きだった。
いつも着ているジャージがオレンジなのも、お下がりでもらったから着ているだけで、別に好きじゃなかった。
ピンクのじゅうたんに、うんこ色の縞々カーテン。
でもおばあちゃんは嬉しそうに「どう?素敵でしょ」と言った。
律子は「うん」と言った。
おばあちゃんは律子の世話を焼いて、料理を作って、律子によく話しかけてくれた。律子もすぐに懐いた。
おばあちゃんを好きになった。
ある夜、律子はおばあちゃんと一緒にお風呂に入ることになった。
その時、おばあちゃんの着替えをこっそり見てしまった。
ブラジャーを外したおばあちゃん。
年寄りの裸というものを、初めて見た。
気持ち悪いと思った。
それだけで、全部変わった。
翌朝から、律子はおばあちゃんを避けるようになった。
話しかけられても目を合わせられず、そっけない態度をとるようになった。
その朝のことだった。ママが車でリリーへ行こうとした。
律子はおばあちゃんと二人きりで留守番させられるとすぐに察した。
置いていかれまいと、裸足のまま車を追いかけた。
「まって!律子も行くっ」
夏のアスファルトが足の裏に刺さった。
おばあちゃんが慌てて律子を追いかけてきた。スリッパをパタパタさせながら。
「りっちゃん、お留守番。一緒にいるから大丈夫」
捕まえられた。
嫌だった。おばあちゃんと二人で家にいるなんて。
でもそれは言っちゃいけないことだと思った。
家に戻ると、おばあちゃんは何も言わず、ミシンに向かった。
黄色と茶色の布が、するすると縫い合わさっていく。
どんどんカーテンになっていく。
すごいと思った。ミシンにも興味を持った。
うんこ色の縞々が、家の中にまた増えていく。
でも、おばあちゃんには心を開けなかった。

次の夏、律子は一ヶ月以上、おばあちゃんの家に預けられた。
飛行機の距離だった。
毎日が暇だった。
隣の家に、同じくらいの女の子がいた。
一緒に遊びなさいと言われた。
でも律子は、つまらない子って思われたら嫌だな、とか、何だこの子って思われたら嫌だな、とか、そんなことばかり考えていた。
恥ずかしくて、ぜんぜん楽しくなかった。
ある日、お布団で寝ていたおじいちゃんの頭を、ぴょんと跨いだ。
ただそこで寝てたから、跨いだ。
ものすごく怒られた。それが悪いことだと知らなかった。いつも優しいおじいちゃんが突然怒ったので、怖かった。人を跨いではいけないらしい。律子はその日初めて知った。
一度だけ、おばあちゃんの家にママの妹家族が来た。律子より小さい姉妹で、「イトコ」というやつらしい。同じおじいちゃんとおばあちゃんなのに、きょうだいがいる。いいな、と思った。
イトコたちは、慣れた様子でおばあちゃんの家を走り回っていた。
お菓子の場所も知っていて、おばあちゃんにもすぐ甘える。
服もおもちゃもたくさん持っていて、かわいかった。
律子は全部が初めてだった。
イトコに会うのもおじいちゃんとおばあちゃんの家に来るのも。
なんかむかついた。
早く帰りたかった。
翌年、おばあちゃんは死んだ。
律子が、おばあちゃんを避けたまま。
初めておじいちゃんに会った時の話はこちら