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芋出し画像
Photo byachanmemory

謀りごずにはうっお぀けの殺人 [2/3]

    和倉皜

    

     午埌十䞀時、実隓宀には西條がキヌボヌドを打぀也いた音だけが響いおいた。静けさは冬の寒さをいっそう匷めおいる。隣の実隓台にヘッドマりントディスプレむが無造䜜に転がっおいる。ひざ掛けを剥ぎ取り、西條は空のマグカップを持っお立ち䞊がった。
     実隓宀の扉を開けお廊䞋ぞず出る。人感センサヌが反応し頭䞊の灯から癜い光が萜ちた。巊右に䌞びる廊䞋の先は暗闇に消え、正面の居宀の扉だけがくっきりず浮かび䞊がっおいる。西條は居宀に入るずマグカップにむンスタントコヌヒヌの粉を適圓に攟りお湯を泚ぐ。
     西條のデスクの䞊には積たれた論文の山がいく぀かある。䞀番手前の山を手元に匕き寄せ、䞊から順に捲っおいく。目圓おの論文は十報も芋ない間に芋぀かった。スタンフォヌド倧孊の研究チヌムによる報告である。空間でスヌパヌマンずなっお人助けをした経隓をするず人は芪切になるずいう。その研究では、䜓隓埌にわざず参加者の前でペンを萜ずすずスヌパヌマン䜓隓をした党員がペンを拟った。䞀方察照矀は――圌らには空間でヘリコプタヌに乗せた――ペンを拟わない者もいたずいう。ペンを拟った堎合も、拟うたでの速床はスヌパヌマン䜓隓矀が早かった。
     田端の研究テヌマはこの報告に関連する。぀たり『善意が善行を促すのではなく、善行が善意を匕き起こす』ずいう仮説にたっお研究を進めおいた。
     ――この研究は他者をコントロヌルするものですか 刀断や行動を倉えるこずはいくらでも悪甚ができそうです。この点に぀いおはいかがお考えですか
     森瀬研のメンバヌに嫌ずいうほど济びせられたお決たりの質問だった。面倒なので森瀬からは圓たり障りのないコメントをするように蚀われおいる。倫理芳は果たしお誰に必芁なのか。科孊的事実に眪はない、声高らかに叫びたいず心の底では思っおいる。しかし堎合によっおはその回答は研究者ずしおの自殺行為ず同矩になる。
     ――悪意の怜蚌をしおいるんではないんです。私は善意の怜蚌をしおいるんです。
     田端の返答には危うさを感じた。悪甚できるず暗に認めおいるようなものだし、善悪は条件次第でいかようにでも逆転する。
     ドアノブをたわす荒い音が来蚪者を告げる。西條は手元の論文を山の途䞭に差し蟌み、回転いすに身を任せお扉を向いた。開かれた扉の先には田端の姿があった。
    「やっぱり悠か。実隓宀の方の明かりもか」
     昌間抜けた時は倜に研究宀に来る。これたでの付き合いでよく知る田端の行動である。
    「ああ、テム瀟の開発品の鏡があっただろ あれの出力画像の調敎をしたくおね」
    「あの案件、悠がやらされおんのか。面倒くさいのによく匕き受けたな」
     付き合いの濃いテム瀟からは、詊䜜機の効果怜蚌を求められるこずがよくある。森瀬が担圓を適圓に振り分けるのだが、今回は西條が貧乏くじを匕いた。田端は蚀われおも断るか適圓に枈たすので、そもそもの頭数に含たれおいない。
    「蚀われたデヌタさえ出せばいいし、予算を超えない範囲なら芋返りに自分の研究甚にも改良しお䜿える。そう悪いずたでは蚀えないよ」
     鏡ずいい぀぀も実際は䞊郚に぀いた小型カメラの映像を巊右反転しおリアルタむムで有機ディスプレむに出力しおいる。画像デヌタのため、顔の各郚䜍の圢状や䜍眮、色を任意に倉化させるこずができる。実物より目を倧きくしたり、頬を染めたりできるのでテム瀟ずしおは䞖代向けのコンパクトミラヌずしお売り出せないか怜蚎しおいるらしい。
     テム瀟から構想の説明を受けた圓初から今珟圚も需芁には懐疑的である。粟密か぀耇雑な出力に耐えうるので技術的には興味深いが、若者の掻甚ずしおはスマヌトフォンアプリで事足りるのだ。スペックがいくら䞊がっおも興味が湧くはずがないこずは感芚ずしお担圓者も分かっおはいるのだろうが、それでは経営陣の承認がおりないらしい。
     ただ詊䜜段階のためサむズは倧きく眮き鏡仕様である。西條は化粧品を遞ぶずその化粧顔が珟われるメヌクシミュレヌション甚に改良しお研究宀の女性の反応を芋おいる。
    「たたにはアカデミア芖点から倖れおガゞェットありきで研究するのも悪くない。人様の金で実隓できるし、瀟䌚に圹立぀研究ですっお倧腕振れる」
     最埌の皮肉に田端は声を出しお笑う。
    「違いない。応甚研究があっおこその基盀研究だ。実瀟䌚で詊さなきゃならない」
     田端は自垭のデスクトップには觊れず、背埌にある研究甚のハむスペックを立ち䞊げる。ふたりはしばらく黙っお䜜業を進めおいた。頃合いを芋蚈らっお田端の様子をうかがうず、二枚の䜜業ディスプレむの䞀方には゜ヌスコヌドで埋たった画面が、もう䞀方には燃えさかる掋通の映像が映っおいた。
    「ん その火事の映像、この前の研究報告䌚じゃマンションじゃなかったか」
    「ちゃんずマンションもある。あっちは消防隊員になっお灜害救助する䜓隓だ。思い぀いおこれを詊しおみようかず」
     田端が差し出したものは有名なミステリ小説であった。
    「ミステリっお、たさか」
    「そう、名探偵䜓隓が䜕をもたらすのか。スヌパヌマンがあるなら名探偵も必芁だろ」
     田端の蚀い分に党く理解は及ばなかったが、虚構の存圚ず接地した時に人は䜕を孊ぶのかはたしかに興味深い内容であった。田端は時折、真面目かふざけおか分からない調子で突拍子のないこずを始める。
    「いやでも探偵っお事件に巻き蟌たれおから解決するたで長くないか」
    「いい質問だ。ひず通りの事件すべおを䜓隓させるず没入感こそよくおも長くお単玔評䟡ができない。短くするず䜕が名探偵䜓隓なのかさっぱり分からない」
     ぀たりうたく提瀺できずに研究には䜿えないずいうこずだ。犯人芖点ならば切り取っおも䜓隓になるのでは ず思い立ったが䌝えるこずはしなかった。それこそ悪意のむンストヌルだ。
    「䜜っおはみたけどやっぱ成立しなさそうだな。ひずたず今日は止めずくか」
    「朔いな。他の䜜業ずかないのか」
    「あるっちゃあるけど、テンション䞋がったからいいや。悠はただやるの」
     田端はをシャットダりンする。田端が研究宀ぞやっおくる前にひず通りの䜜業は終えおいた。今しがた䜜業を終えたふりをしお、倖付けハヌドディスクにデヌタを移行し、抜き取ったハヌドディスクをトヌトバッグに入れる。
    「俺も終わるよ。智、少し時間あるか」
    「倧䞈倫だけど、急にあらたたっおどうした」
     田端は小型の冷蔵庫を開けおミネラルりォヌタヌを取り出す。先ほどたで䜜業しおいた堎所には戻らず、西條の暪に怅子を寄せお座る。
    「いや今日、アプリで知り合った子ず䌚ったんだろ どうだったかなず思っお」
     想定倖の質問だったのか、田端は目を䞞くする。
    「堅物人間が珍しいな、颚邪か もしくはクリスマス前の雰囲気に屈したか」
     田端ず研究以倖の話をするこずは苊手だった。たしおや女性の話をどう切り出しおよいのか分からなかった。
    「そうじゃない。明日、森瀬先生が垰っおくるだろ お前、今日䞀旊抜けたし䜙裕があるなず」
    「なんだ、説教か。その蟺は抜かりない。愛しの埌茩が頑匵っおくれたからな。緑女の子を玹介しおやるっお蚀ったら目を茝かせおたぜ」
     緑女ず聞いお驚いた。田端からその蚀葉が出るずは思いも寄らなかった。よい流れに乗じお氎を向ける。
    「もしかしお今日䌚った子は緑女だったのか」
    「  ああ、しおたらたさかの緑女でびっくりしたよ」
     芹厎に関係のある人物だろうか 圌女はもうこの䞖にはいない。そもそも人に䌚っおいたかどうかも定かではない。䞍自然な間は動揺をあからさたに衚しおいるようだった。
    「矚たしいかぎりだ。もしかしお土曜日来なかったのもその子なのか」
    「土曜は別の甚事だ。博士に進んだら今より時間ないだろ 今のうちに遊んどこうかず」
     芋た目の華やかさず軜い蚀動で誀解を招くこずも倚いが、田端もたた研究に貪欲な人間であるこずは間違いない。森瀬もよく理解しおいお自由にさせおいる。遊びこそすれ研究より優先するずいう理由を口にするこずに違和感を芚えた。
    「わざわざ匕き留めおたでなんだよ。もしや森瀬先生から芋匵りを頌たれたな」
    「なあ土曜日、髙山䌚通を䜿っただろう 䜕をしおいた」
     田端は瞬時に衚情を曇らせる。
    「  お前、䜕か知っおるのか」
    「䜕のこずだ 土曜日に智を䌚通の近くで芋かけたんだよ。遠かったから声はかけなかったけど」
     螏み蟌み過ぎたか、平然を装う。
    「そういうこずか、金曜日にあそこ䜿っただろ 実隓ノヌトを忘れお取りに寄ったんだよ。時間があったから䌚通でそのたた論文読んでたけどな」
     金曜日の実隓は䞀階倧䌚議宀を䜿ったこずは、孊郚生に確認しおいた。論文を読むためだけに䞉階に行く必芁はないはずだ。田端は衚情を固めおいた。芹厎ず䞀緒にいたのだろうか 田端は明らかにこちらの様子を譊戒しおいる。
    「ちゃんずやっおるじゃないか。土曜も研究宀に顔を出さなかったし心配しお損したよ」
     これ以䞊の远求はないず考えたのか、田端は安堵の衚情を浮かべた。
    「だから抜かりないっお蚀ったろ」
     調子を戻した田端はスマヌトフォンをデスクの䞊に眮いた。その行動が劙に気になった。土曜日のこずを聞いおいる間、田端は䞡手でスマヌトフォンを握りしめおいた。
     西條は自身のスマヌトフォンに芖線を萜ずす。研究にも䜿いたかったため、必芁スペックを満たす機皮を遞んだ。田端も同じ理由で同機皮を賌入しおいた。色は玺ず黒で薄暗い郚屋だず違いに気が぀かない可胜性が高い。幞運にも先週に田端が西條の目の前でロックを解陀した。そのロック解陀パタヌンを芚えおいた。頂点から巊回りにロの字を描けばよい。西條はひず぀の賭けに出る。
    「智、ちょっず手䌝っおくれないか 急ぎで組んでおきたいプログラムがあったのを忘れおた」
     西條は実隓宀を指すず田端の返事を埅たずに歩きだした。田端はスマヌトフォンを手に取るず西條を远っおくる。田端から手元が芋えないように背で隠し、西條は自身のスマヌトフォンの電源を切った。
     田端に頌んだプログラミングは集䞭しお五分皋床で終わる䜜業だろう。田端のスマヌトフォンは䜜業䞭の田端の埌ろの実隓台に眮かれおいた。西條は䜜業を眺めるふりをしながら、慎重に埌ろ手で自身のスマヌトフォンずすり替える。
    「居宀には甚がないしを萜ずしお荷物をこっちに持っおくるよ」
     田端は背䞭越しに巊手を挙げる。はやる錓動を抑えながら西條は実隓宀をあずにした。䞇が䞀、入れ替えた西條のスマヌトフォンを手に取ったずしおも電源を入れるたで少しの時間は皌げるはずだ。
     西條のには普段からマむクロケヌブルが挿しっぱなしにしおある。田端のスマヌトフォンを繋ぎロック解陀パタヌンを入力するず、問題なく解陀された。画像ギャラリヌの最䞊段に動画ファむルがあった。保存日は土曜日、これに間違いない。保存フォルダの堎所を開き、動画を西條ののデスクトップ䞊に耇補する。短い動画だったようで耇補䜜業はすぐに完了した。
     動画の䞭身を確認する時間たではない。メヌル゜フトから新芏メヌルを立ち䞊げおファむルをドロップしメヌルに添付する。これであずから西條のスマヌトフォン䞊で確認ができる。急いでをシャットダりンする。
     音を立おないように実隓宀の扉を慎重に開く。隙間からのぞく田端は䜜業を続けおおり、扉が開いたこずに気が぀いおいない。最倧限の泚意を払っお扉を閉める。足元の機噚類やケヌブルに気を぀けながらゆっくりずカヌペットを進んでいく。キヌボヌドを叩く小気味よい音が段々ず倧きく聞こえおくる。恐ろしいほど長い時間を䜓感し、ようやく田端の背埌たでたどり着く。手を䌞ばしスマヌトフォンを入れ替えようずした瞬間、田端が゚ンタヌキヌを匷く叩く。䜜業を終えるずきに行う癖だ。たずい、田端が埌ろを振り返ろうずする。
     咄嗟に持っおいたトヌトバッグを田端の右暪に萜ずす。バッグの䞭身は幟重もの激しい音を立おお床に散乱する。田端は背を跳ね䞊がらせお立ち䞊がる。振り返った田端の衚情はひどく匷匵り目を芋開いおいたが、西條の顔を認めるずすぐに匛緩させた。
    「すたん脅かす぀もりは、あったがバッグを萜ずしたのは故意じゃない」
    「ふざけんな。心臓止たるかず思った」
     西條は座り蟌んで足元のハヌドディスクを拟いあげる。
    「やっおしたった。壊れおなければいいけど。智、぀いでにそっちに転がっおいったペンを取っおくれないか」
     文句を垂れ流しながらも田端は右手偎に転がった荷物をすべお拟っおいく。
    「ほらよ」
    「すたんな。頌んだプログラムは  問題なさそうだな」
     ふたり揃っお研究棟を出る。
    「俺は䞀服しおから垰る」
     田端は喫煙所ぞ消えおいく。
     西條は南門から出お自宅ぞず歩き出す。十二時も越えるずずいぶんず冷え蟌む。ダりンゞャケットのファスナヌを銖元たであげる。予定よりも垰宅が遅れおいる。西條は歩みを速めた。自宅近くのコンビニ゚ンスストアは煌々ずしお䞍気味であったが、入店した足でトむレぞ駆け蟌む。鍵を掛けバッグからむダホンを取り出すず、乱暎にスマヌトフォンに差し蟌んだ。
     田端が萜ちた荷物を拟っおいるあいだに、すんでのずころで取り戻すこずができた。保存メヌルから目的の動画を開く。
     映っおいたのは癜郷倧孊倧孊院進孊ぞの口利きを逌に、田端が芹厎に芋返りを求めた映像だった。防犯カメラに现工をし、芹厎を䟵入させたのは田端であった。


    

     玄関には芋慣れた黒のショヌトブヌツが぀た先を玄関に向けた状態で揃えられおいた。シュヌズボックスの䞊にある小皿に鍵を眮く。小皿にはすでに鍵がひず぀眮かれおあり、重なりぶ぀かった拍子に鈍い音を立おた。姿芋をのぞき乱れた前髪をただす。ダりンゞャケットを脱ぎ぀぀廊䞋を進む。
     ダむニングルヌムぞず続く扉のドアノブに手を掛けお、西條ははたず動きを止める。扉の䞋の隙間から挏れる光の量が極端に少ない。䞀方でたったくの暗闇ずいう蚳でもない。意を決しおドアノブを回す。也いた扉からは軋む音がする。西條は目を芋開いた。郚屋には想定以䞊に負の感情が満ちおいた。
     正面にあるダむニングテヌブルの奥偎の怅子にマリヌが座っおいる。テヌブル䞭倮をがんやりず芋぀め、時折たばたきをする以倖に衚情に倉化がない。シヌリングラむトは点されおおらず、西條からみお巊手偎のキッチンからの明かりのみが郚屋をうすがんやりず照らしおいる。マリヌの冷たいのっぺりずした衚情が右半分だけ浮かび䞊がっおいる。数日前に芋た時よりも䞀局癜い印象を受けた。笑顔の絶えないマリヌが粟神的な病に䟵されたず説明を受ければ研究宀の誰もが玍埗するだろう。
    「ごめん遅くなった。マリヌ」
     西條の声にマリヌがゆっくりず顔をあげる。時間をかけお埐々にマリヌの焊点が西條に合う。
    「  ああ、ハルくん。おかえり、埅っおたよ」
     か现い声に䞍安を芚える。マリヌを゜ファに移動させようず近づいたずころで異倉に気が぀く。
    「これ、どうしたの」
     マリヌの右手銖を取る。右手は赀く染たっおいた。よく芋るず手のひらに無数の切り傷があり、そこから血が流れ出おいるようだ。血を掗い流そうずキッチンのシンクぞマリヌをそっず匕き寄せる。シンクには割れたワむングラスが転がっおおり、鋭くずがった淵から排氎溝に向かっお现く赀い道ができおいた。
    「ごめんね。なんだか悲しくなっお、握りしめたら割れちゃった」
     呆然ず蚀い攟぀マリヌの蚀葉に、悲しさなど埮塵も含たれおいないように感じられた。あったのは冷たい怒りの感情だった。
     この様子では出匵の際、森瀬は困っただろう。のちに森瀬から聞いたずころ、あたりにもひどい状態だったため䌚食は䞭止にしたそうだ。東京駅からタクシヌに乗せお垰らせたらしい。マリヌはその足で西條のマンションぞずやっおきた。
    「あヌ本圓にごめんね。ハル君に迷惑かけちゃった」
     流氎をあおるずマリヌは顔を顰めた。消毒をしお包垯を巻く。しばらくするずマリヌは䞊蟺だけ明るく取り繕っお謝眪ず感謝を口にしたが、すぐにがんやりずした衚情に戻った。䞀昚日よりも状態が酷くなっおいる。
    「修平さんず連絡ずっおる」
     マリヌはゆっくりず銖を暪に振った。マリヌず倫の修平ずの関係はよいずは蚀えない。なにか特別なこずがあった蚳ではない。ただマリヌに無関心であるずいう䞀点だけであった。四幎前の結婚埌からすぐに始たっお以来、真綿で銖を絞められ続けたそうだ。そしお䞉日前に金曜日、海倖出匵にいく修平を玄関で芋送ったあず、緊匵状態であった糞がぷ぀りず音を立おお切れた。『殺された日』ずマリヌは蚀う。
    「デヌタはたずたった 今日は䞀緒に寝る」
     金曜日、土曜日ず続けおマリヌは西條の元に蚪れた。半幎前から付き合いを始めおいるが、西條の郚屋に連日くるこずなどなかった。今はできる限り傍にいたほうが粟神状態も安定するだろう。
    「倧䞈倫、終わらせおきた。シャワヌ济びおくるから、よかったら埅っおる間にこれを詊しおくれない 画面が気持ち悪いっお蚀っおたから改良したんだ」
     リビングのロヌテヌブルの䞊に眮いおある鏡を手元に寄せる。テム瀟の開発品だ。に鏡ずハヌドディスクを繋ぎ、今日実隓宀で改良した仕様を反映させる。田端の暪に萜ずしたハヌドディスクは幞いにも損傷しおいなかった。
    「よし、これでオヌケヌ」
     マリヌを゜ファに座らせお鏡を芗いおもらう。䞊手く動いおいるようで、鏡に映るマリヌの顔には埮笑みが浮かび、頬に赀みがさしおいる。西條は実際のマリヌの顔ず鏡像を芋比べる。ふた぀の顔は少し異なっおいた。
    「  気持ち悪さがなくなっおる。むしろいいかも。ハル君がシャワヌ济びおるあいだに色々ず詊しおみるよ」
     マリヌは鏡の端に蚭けられたアむコンをタッチしお、様々なメヌク顔を䜜成しおは保存しおいった。マリヌの奜きな化粧品ブランドの最新デヌタを入れおおり、よく銎染んでいた。う぀くしい顔が次々ず珟れおいく。
     西條は撮圱したベヌスずなる顔画像に手を加えおいた。口角や眉の䜍眮、血色は実際の顔よりもわずかに倉曎された状態で鏡に出力される。矎容雑誌を眺めおいお、衚情豊かなモデルがよりメヌク映えしおいるこずから考案した機胜だ。明るい衚情を提瀺すればマリヌは前向きになるだろうず螏んだのだが、うたくいったようだ。
     シャワヌから戻るずいくぶんかマリヌの衚情は改善しおいた。マリヌの右手に觊れないようにそっずベッドに入る。鎖骚䞋に入った小さなツバメのタトゥヌにそっず口づけをするずマリヌが埮笑む。その様子をみお西條は安堵した。
    「少しは萜ち着いた」
    「ハル君ず䞀緒にいれば、぀らいこずも頑匵れる気がするよ。ありがずう」
     マリヌの小さな頭を抱え蟌む。鏡の䜜甚のこずは䌝えおいない。心理実隓では実隓者の意図を被隓者が理解するず没入感が薄れ、効果が出にくくなるこずは倚くある。明日以降も䜿っおもらえれば埐々に明るいマリヌに戻るだろう。
     今日は粟神をすり枛らすこずが倚かった。ほっず䞀息぀くず、急激に眠気が襲っおくる。西條は頭を振るず、マリヌの頭の䞋に右腕を滑り蟌たせる。
    「マリヌ、ちょっず聞きたいこずがあるんだけど」
     マリヌが身䜓ごずこちらを向く。
    「金曜日に実隓で髙山䌚通に行っただろ 田端の様子におかしなずころはなかった」
    「おかしなずころっお」
    「普段ず態床が違ったずか、行動が違ったずか」
    「ん、実隓に関しおいえば特に倉なこずはなかったず思うけど。匷いお蚀えば実隓が終わったあず、劙に優しかったかも。同意曞のコピヌをわざわざ自分で取りにいったり、飲み物を買っおきおくれたり。普段そんなに気を遣う人じゃないでしょう そこはちょっず違和感あったかな」
     事務宀近くに䜕床も足を運び、機䌚を芋蚈らっお防犯カメラを止めたのだろう。
    「田端君がどうかしたの」
    「いや倧したこずはないんだ。さっき研究宀に田端が戻っおきた時にちょっず様子がおかしかったから。金曜じゃなくお土日になにかあったかな」
     マリヌの様子を窺い芋る。土曜日、田端は芹厎を髙山䌚通に忍び蟌たせた。マリヌは土曜日䜕のために䌚通ぞず足を運んだのか 間接照明は薄闇の䞭、圌女の銖から顎あたりを浮かび䞊がらせおいる。西條はそのなめらかな皮膚をじっず眺めおいた。
    「  田端君なら土曜も䌚通にいたみたい。わたしずはすれ違いだったけど」
     眠気は完党に远いやられ意識が研ぎ柄たされる。跳ね起きたい衝動をどうにか抑える。
    「マリヌが個人的に䌚通を䜿うなんおめずらしいね」
    「盞手に指定されお。そのずきに聞いたんだけど、わたしの前に田端君に䌚っおたんだっお」
     頭を打ち付けられた思いだった。田端の手によっお䟵入した芹厎玲はそのあずにマリヌにも䌚っおいる。なぜ田端ず芹厎が髙山䌚通を利甚したのかがよく分からなかったが、マリヌずも䌚うためだった。
    「その盞手っお芹厎玲さん」
    「えっ、圌女のこずハル君も知っおるの」
    「いや、田端から緑女に芪しくしおいる人がいるっお聞いたから。その芹厎さんはマリヌ盞手になんの甚だったの」
    「なぜか、ちょっず前に経由で連絡がきお。院に行くか、就職するかで悩んでたみたい。テム瀟の人事郚長か研究所長を玹介しおくれないかっお。正盎、緑女の孊郚卒だずテムで垌望する職皮には぀けないし、玹介するこず自䜓も難しいっおはっきり䌝えたけど、圌女もそれは分かっおたみたい。だから田端君に――」
    「癜郷の院に入りたいず」
     マリヌは頷く。癜郷の院卒なら確かにテム瀟の研究職に就き易いだろう。芹厎のこずはよく知らないが、平均的な緑女生ならば癜郷の院詊に合栌するこずは難しい。田端はその状況を利甚し、芹厎を誘い蟌んだ。芹厎は田端からマリヌの情報を埗たのかもしれない。就職にせよ倧孊院入孊にせよ、正芏ルヌトを䜿おうずしない芹厎の匷かさに脱垜する。
    「芹厎さんず䌚ったあずはふたりで䌚通を出たの」
     マリヌは怪蚝な衚情を浮かべた。
    「  田端君じゃなくお、芹厎さんのこずが気になるの」
     西條はかぶりを振っお取り繕った。
    「いや、マリヌず䌚ったあずに田端ず芹厎さんがたた䌚ったんじゃないかず思っお。ほら、ようやく田端に圌女ができたのかず」
    「他人の恋愛に興味を持぀なんおハル君らしくないね。実は芹厎さん、わたしずの話で機嫌損ねちゃっお。しょうがないかもしれないけど、正盎に䌝えたこずで銬鹿にされたず思ったみたい。䞀緒に出るように䌝えたんだけど、電話する甚があるからっお断られた。わたしず䞀緒にいたくないんだなっおその時は思ったんだけど、もしかしお田端君ず䌚っおたのかも」
     芹厎はどう蚀いくるめられたのか、田端の策略䞋で髙山䌚通に忍び蟌んでいた。それを知らないマリヌず事務窓口前を通るず事務員に怪したれる可胜性がある。マリヌの蚀う通り田端ず䌚ったのかもしれないが、カメラ映像が残っおおらず死人に口もない。
     田端は戻っおきたのだろうか 芹厎が田端のあずにマリヌに䌚うこずを知ったのであれば、殺人蚈画を芋盎しお別の日に犯行に及べばいいのだ。戻るリスクが高すぎる。マリヌに眪を着せるこずができるず刀断したのか 眪を着せる぀もりであれば、既にマリヌが犯人ずなり埗る蚌拠が出おいおもおかしくはないが、そうではない。
     であればマリヌが眪を犯した可胜性が俄然高くなっおくる。玠盎に考えるのであれば芹厎ず最埌に䌚ったのはマリヌで、それは぀たり殺害機䌚が十分にあったずいうこずに他ならない。
     どちらかが芹厎を殺した。可胜性の芜を残すのであれば、片方に決定づけるこずはできない。どちらかが犯人である蓋然性が高たれば磯山は満足するであろうか ふず隣を芋るずマリヌは寝息を立おおいた。西條も混乱する思考ずたどろみに身を任せ、眠りに぀いた。

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    ミステリずSFが奜き、でも䜕かは分からず日々迷子第8回新朮ミステリヌ倧賞 最終候補第6回ゲンロンSF新人賞 遞考委員特別賞SF創䜜講座第6期 https://school.genron.co.jp/works/sf/2022/students/ryo3wakura/

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