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ナナとユイともう一つの名前 4

    第四章「噂」


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    十一月に入ると、町の空気が急に冷たくなった。

    山から吹き下ろす風は強く、夜になると、
    コンビニの自動ドアが開くたび、冷気が店内に流れ込む。

    制服だけでは寒かった。

    ユイはレジ横の肉まんを購入し
    両手で持ちながら、窓の外を見ていた。

    駐車場には、見慣れた黒いセダンが停まっている。

    最近、あの車を見るだけで、
    少し胸がザワつくようになっていた。

    「聞いた?」

    隣でナナが小声で言った。

    「何を?」

    「ミホの事」

    「誰?」

    「ほら、前ファミレス居たじゃん」

    金髪の男と一緒にいた女。

    派手な化粧をした、二十歳くらいの女だった。

    「あぁ」

    「なんか男と揉めてるらしい」

    「また?」

    「てか、カズ絡みっぽい」

    ユイは黙った。

    最近 “カズ絡み” という言葉をよく聞く。

    金の貸し借り。

    男女トラブル。

    失踪した先輩。

    突然辞めた夜職の女。

    全部、どこかでカズの名前が出てくる。

    でも不思議な事に、誰も本気で離れない。

    嫌ってるはずなのに。

    怖がってるはずなのに。

    みんな、またカズの車に乗っている。

    学校でも、少しずつ視線が変わり始めていた。

    廊下ですれ違う女子達。

    急に止まる会話。

    笑い声。

    「……ねぇ、見た?」

    「マジなん?」

    「ヤバくね?」

    ユイが振り返ると、女子達はすぐに目を逸らす。

    ナナは舌打ちした。

    「ウザ……」

    「なんか言われてる?」

    「そりゃ言われるでしょ」

    「……」

    「この町、秘密とか無理だから」

    その通りだった。

    誰がどこで誰と居た。

    誰が夜遊びしてる。

    誰がどこの車に乗った。

    全部、翌日には噂になる。

    狭い町では、人の人生が娯楽になる。

    ある日の夜。

    ユイは母親と口論になった。

    「最近、あんた帰り遅すぎない?」

    「別に普通だし」

    「普通じゃないでしょ!」

    「うるさいな……」

    「学校から電話来たのよ!?」

    ユイは黙った。

    「変な人達と関わってるんじゃないでしょうね?」

    その言葉に、一瞬だけ胸が詰まる。

    でも、素直に認められるわけがない。

    「関係ないじゃん」

    「ユイ!」

    「うるさいって!」

    ユイは乱暴に家を飛び出した。

    冷たい空気。

    吐いた息が白い。

    ポケットのガラケーが震える。

    ナナからだった。

    【今どこ?】

    ユイは少し迷ってから返信する。

    【外】

    すぐに返信。

    【カズ居るよ】

    その一文を見た瞬間、ユイは少し安心している自分に気づいた。

    それが、一番怖かった。

    黒いセダンの中は暖かかった。

    ヒーターの風。

    タバコの匂い。

    低く流れるHIPHOP。

    「ケンカした?」

    カズが笑う。

    「別に」

    「家ってダルいよな〜」

    ナナが後部座席から笑う。

    「分かる(笑)」

    カズはコンビニの袋を後ろに投げた。

    「ほら、肉まん」

    「うわ、神」

    「カズ優し〜」

    車内に笑い声が広がる。

    その瞬間だけは、本当に楽しかった。

    学校より。

    家より。

    ここに居る方が、自分の居場所みたいに思えた。

    だから気づかなかった。

    その感覚こそが、一番危険だった事に。

    その夜。

    車を降りる直前、ユイはふと聞いた。

    「ねぇカズ」

    「ん?」

    「なんでそんな色んな人と揉めるの?」

    一瞬だけ。

    本当に一瞬だけ、カズの表情が消えた。

    笑顔でもない。

    怒りでもない。

    何も無い顔。

    暗い目。

    でも次の瞬間には、また笑っていた。

    「俺さ」

    タバコに火をつけながら、カズが言う。

    「なんか、人を壊したくなる時あるんだよね」

    ユイは笑えなかった。

    ナナも、珍しく黙っていた。

    車の窓の外では、
    雪が降り始めていた。


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    創作は、僕にとって破壊と再生を試す遊び場。 AI相棒と一緒に、マンガ・アニメ・小説で何度も壊して、作り直して、また遊ぶ。 変化する時代の中で、何を残せるか試しています☺️

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