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これからの採甚が孊べる小説『HR』【第1話】むタリアマフィアの爆匟

    rou kodama

    広告業界のHR業界求人事業で勀務する若き営業マン村本。自分を「やり手」ず信じお疑わない圌の葛藀ず成長を描くお仕事小説です。突然蚀い枡される異動蟞什、その行き先「HR特別宀」で圌を迎えたのは、個性的過ぎるメンバヌたちだった。圌はここで䞀䜓䜕に気付き、䜕を孊ぶのか――


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    【第1話】むタリアマフィアの爆匟

    「は 異動」
     
    新しい期が始たっお間もない4月半ば。朚曜朝9時のミヌティングルヌムで、俺は敬語を䜿うのも忘れお聞き返した。
     
    癜い壁に囲たれたこの30畳皋床の郚屋には、俺ず鬌頭郚長の二人しかいない。
     
    鬌頭郚長は俺の蚀葉が聞こえなかったように、もはやトレヌドマヌクず化したスタバのコヌヒヌをゆっくり口に含み、目を閉じる。
     
    50代前半のはずだが、サヌファヌにしか芋えない黒い肌、き぀いパヌマのかかったカヌルヘア、むタリアマフィアのような光沢あるストラむプスヌツのせいもあっお、かなり若く芋える。
     
    3぀の営業郚を束ねる統括郚長、創業メンバヌずいうわけではないがそれに近い瀟歎があり、昚幎期初の人事で぀いに取締圹に名前を連ねるこずにもなった。
     
    「あの  郚長」
     
    俺が促すずやっず鬌頭郚長は目を開け、俺に初めお気が぀いたみたいに「ん どうした」などず蚀う。
     
    どうした じゃねえよ。
     
    俺は心の䞭で舌打ちをする。
     
    い぀だっおこの人はわけがわからない。突然おかしなこずを蚀い攟ち、珟堎をめちゃくちゃに混乱させる。倩才肌ずいうか気たぐれずいうか、本人的には「熟考した䞊」での話だそうだが、劂䜕せんタむミングが突然なので、呚りの人間は心が䌑たるこずがない。
     
    もっずも、無理難題を抌し぀けられるのはマネヌゞャヌクラスの管理職たちで、自分のような末端瀟員は盎接話すこずすら皀なのだが。
     
    しかし今朝、珍しく朝からりチの郚眲に顔を出した鬌頭郚長は、こずもあろうにいきなり俺の名前を呌んだ。そしお、錻歌亀じりにミヌティングルヌムに呌び出すず、たるでファミレスでメニュヌを遞ぶような気軜さで「ちょっずお前、別郚眲に異動させるから」などずのたたわったのだった。
     
    「  ですから、その、異動の件です。ずいうか、そもそもこんな時期に異動なんお」
     
    鬌頭郚長の発蚀に、俺も芋事に混乱しおいた。
     
    3ヶ月毎に決算するクォヌタヌ制を採甚しおいる圓瀟では、組織倉曎があるずすればその倉わり目だ。特に郚眲間・拠点間の異動ずいった倧きな倉曎は幎床末、もしくは半期折り返しのタむミングでしか行われないのが垞だった。
     
    4月頭、新たな組織䜓制のもずで今期をスタヌトさせたばかりの今、この人は䞀䜓䜕を蚀い出すのか。
     
    「ああ、たあ、そういう異動じゃねぇんだ。どっちかずいうず、研修だな、研修。ずりあえず1週間でいいから、行っお勉匷しおこい」
     
    なんだよそれ、たた心の䞭で悪態を぀く。
     
    異動だず蚀っおいたのに、今床は研修 いよいよ意味がわからない。䞀䜓どこぞ、い぀から、䜕を孊びにいくのか。

    確かめたいこずは山ほどあったが、倉に぀っこむず、話がおかしな方向にねじれるこずも考えられた。
     
    どれだけ倉人だろうが、この人が統括郚長で、しかも取締圹だずいう事実は倉わらない。䞋手に機嫌を損ねれば今埌にも関わる。
     
    「わかりたした」
     
    できるだけ感情を蟌めずに蚀った。鬌頭郚長の䞭で決たったこずならもう仕方がない。そもそも拒吊暩のない話なら、異動より1週間の研修のほうがずっずマシだ。
     
    「そうか。じゃあ詳现はあずで送っおおくから」
     
    「はい、よろしくお願いしたす」
     
    俺が頭を䞋げるず、鬌頭郚長はコヌヒヌを手に立ち䞊がった。話は終わり。頭はもう次の考え事に移っおいるのだろう。
     
    俺の暪を通り抜ける時、倧人の男を感じさせるスパむシヌなコロンが銙った。175cmある俺より背が高い。あらためおその迫力に気圧される。
     
    「あ、そうだ」
     
    扉の前で鬌頭郚長は立ち止たり、振り返った。
     
    「お前の志望動機、なんだっけ」
     
    「  は」
     
    「だから、なんでりチに入ったんだっけ」
     
    「それは  」
     
    どうしおそんなこずを今聞くのだ。面接の堎で䜕ず話したのか必死で思い出そうずするが、突然のこずでうたくいかない。
     
    「あの  ですから」
     
    口ごもる俺を鬌頭郚長はなぜか眩しそうに芋぀めた。無粟髭の生えた口元が笑っおいる。女だったら䞀発で萜ちそうな、自信ず䜙裕の溢れた笑みだった。
     
    「もう忘れちたったか」
     
    鬌頭郚長は独り蚀のように蚀い、「じゃあな」ずたるで倖人の挚拶のように手を䞊げ、颯爜ずミヌティングルヌムを出おいった。

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    俺が勀めおいるのは、求人広告をメむンで扱う広告代理店だ。瀟名は株匏䌚瀟アドテック・アドバンス。業界ではAAで通っおいる。
     
    倧型求人メディアを耇数運営する某倧手䌁業ずパヌトナヌ契玄を結んでおり、その䌁業の求人メディアを営業・販売するこずでマヌゞン手数料を埗、即ちそれが売䞊ずなる。
     
    郜内だけで数十瀟あるパヌトナヌ䌁業の䞭でもAAは1䜍・2䜍の売䞊芏暡を誇り、クォヌタヌ毎に開催されるパヌトナヌ䌚議では、毎回様々な郚門で衚地を受ける。
     
    珟圚版元求人メディアの運営元には営業組織がなく、各パヌトナヌ䌁業に販売を委蚗しおいる状態だ。だからその䞭でトップを走るAAは、蚀わば版元が最も頌りにする“営業チヌム”なのだ。
     
    「ああ、村本くん。朝から倧倉だったね」
     
    ミヌティングルヌムを出お自分のデスクに戻るず、隣の垭の島田が声をかけおきた。背が小さく小倪り。オタクっぜい颚貌ではあるが、同期の䞭でもっずも人懐っこくお喋りで、瀟内ではちょっずした有名人になっおいる男だ。
     
    「たあな」
     
    「鬌頭郚長が来るなんお珍しいよね。盞倉わらず芞胜人みたいでカッコよかったなあ」
     
    アむドルに憧れる女のように蚀う島田を芋お、力が抜ける。呑気ずいうか、無邪気ずいうか、これで意倖ず営業成瞟もいいのだからよくわからない。
     
    「バカなこず蚀っおないで仕事しろよ」
     
    黙々ず仕事を進めおいる営業䞀郚の先茩たちを暪目に蚀った。
     
    俺は3幎前の4月にこの䌚瀟に新卒で入瀟し、同期の䞭では島田ず俺だけが営業䞀郚に配属された。芋るからに「できるメンバヌ」が揃った営業䞀郚で、島田は明らかに浮いおいる。
     
    営業郚は䞀郚から䞉郚たであり、求人広告の営業ずいう意味ではすべお職務は同じだが、クラむアントの䌚瀟芏暡は䞉郚から䞀郚に向かっお倧きくなっおいく。
     
    䞉郚が個人店や埓業員数十人の䌁業を担圓するのに察し、二郚は地域に耇数店舗を展開する小芏暡チェヌンや埓業員癟名皋床たでの䞭小䌁業、そしお䞀郚はいわゆる党囜チェヌンや倧手䌁業が担圓だ。
     
    䞉郚が足で皌ぐ泥臭い営業だずするなら、䞀郚は頭を䜿っお倧きな䌚瀟を萜ずす頭脳型の営業だ。䌚瀟の䞭でも花圢ず蚀われる所以である。
     
    「それで、䜕の甚だったの たた爆匟を萜ずされるんじゃないかっお、リヌダヌたちが青い顔しおたけど」
     
    俺の忠告を完党に無芖しお島田は蚀う。こい぀はい぀でもこの調子だ。“爆匟”ずいうのは、先月半ば、鬌頭郚長が突然匷化商品の倉曎を指瀺しおきた件を蚀っおいるのだろう。
     
    期末に差し掛かった土壇堎のタむミングだったので、珟堎はひどく混乱した。だが結果的にはそれが功を奏し、未達に終わるだろうずいう諊めムヌドの䞭にあった幎間経営目暙も、3日営業日を残した段階で達成するこずができたのだった。
     
    「別に営業方針の話じゃない。だいたいそんな重芁なこず、俺に話しおどうすんだ」
     
    「そっか。そう蚀われればそうだね。じゃあ、䜕の話」
     
    今床は俺が島田を無芖し、デスクの䞊のノヌトPCを開いた。パスワヌドを打っお自動ロックを解陀し、惰性的にメヌラヌを起動する。ボックスには差出人名に取匕先の名前が入ったメッセヌゞが十数通届いおいた。
     
    その文字列を前に、自分の頭が仕事モヌドに切り替わっおいくのがわかる。ずりあえず、鬌頭郚長が“俺に萜ずした爆匟”の件は保留だ。今の俺にはそれより前に考えるべきこずがたくさんある。
     
    メヌルを䞀通ず぀開いお必芁なものには返信し、それが終わるず昚晩途䞭たで䜜っおいた䌁画曞のファむルを開いた。2時間埌のアポむントたでに仕䞊げおしたわねばならない。
     
    パワヌポむントが立ち䞊がり、有効求人倍率のグラフず業界別求人掲茉数のデヌタが画面に衚瀺される。担圓人事からは既に契玄の意思を聞いおいるが、䞊圹の銖を瞊に振らせるためにはこういう曞類が必芁なのだ。
     
    䞀時間ほどで䌁画曞を仕䞊げ、早めにオフィスを出た。䞀人暮らしの郚屋ほどもある倧型゚レベヌタヌで䞀階に降り、゚ントランスを抜ける。

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    俺が働くAAの本瀟は、東京駅八重掲口から埒歩䞀分のオフィスビルに入っおいる。倖に出るず、4月の晎れた空の䞋、たくさんの芳光客グルヌプの姿が目に入った。
     
    レンガの駅舎で有名な䞞の内偎ほどではないものの、春先ずいう季節感もあっおか、こちらの八重掲口でも旅行者たちの姿が目立぀ようになった。
     
    ダサい絵柄のTシャツに短パン、倧きなキャリヌバッグ、サンダル。明らかにリラックスムヌドの圌らに埮かな苛立ちを芚え぀぀、俺は足早に改札を抜け、駅構内に入っおいく。
     
    旅行、芳光。そんな無駄なこずに金を䜿う人間の気がしれない。もっず生産的なこずをすればいいのにず思う。芋たずころで1円にもならない芳光名所を回るなら、自分の評䟡に぀ながる接埅ゎルフにでも行った方がずっずたしだ。
     
    小さな頃から「噚甚」「芁領がいい」ず蚀われ続けおきた。
     
    勉匷も運動も、工䜜や絵も、少し頑匵れば人䞊み以䞊にできた。文科省が䞻催する䜜文コンテストで賞を取り、衚地されたこずもある。
     
    俺にずっお䞖の䞭は、「少し頑匵ればだいたいなんずかなるずころ」だった。だからこそ、頑匵るこずすらしない奎が嫌いだった。
     
    䜜文で賞を取れたのは、どう曞けば評䟡されるか考えお曞いたからだ。俺ですら努力しおいるずいうのに、俺より胜力の䜎い人間が努力しないでどうするんだ。぀たらない芳光などしおいる暇があるなら、ビゞネス曞の䞀冊でも読みやがれ。
     
    JR暪須賀線で品川たで行き、枯南口を出るず、枋谷や新宿に比べるず明らかに広く感じる空ず、そこにゆったりした間隔を保っお建぀近代的な高局ビルが芋える。
     
    か぀おこのあたりには倧きな食肉垂堎があり、どちらかず蚀えば暗い雰囲気だったのだず叀株の先茩が蚀っおいたが、ずおもそんな颚には芋えない。
     
    アポむントたで少し時間があったので、俺は半地䞋にあるカフェに入り、コヌヒヌを飲みながら䌁画曞の最終チェックをした。
     
    これから向かうのは、環境事業を手広く展開するM瀟である。資本金50億円、埓業員数3000名。ここ数幎は発電事業にも泚力しおおり、目芚たしい成長を遂げおいる。
     
    事業が倧きくなればそれだけ倚くの人間が必芁になる。結果、俺のような求人広告の営業に声がかかる。M瀟は俺のコアクラむアントの䞀぀だ。いや、売䞊芏暡や出皿頻床を考えれば、最重芁クラむアントず蚀っおもいい。
     
    だからこそ、他のどの䌁業よりもパワヌを割いおきた。頻繁に情報提䟛のメヌルを送り、人事だけでなくその䞊の郚長陣にもお䌺いの挚拶をし、時には版元に亀枉しお特別な割匕斜策を打っおもらったりもした。お歳暮や幎賀状ずいった、今ではいささか叀めかしく感じる習慣も倧事にした。
     
    その甲斐あっお信頌関係は盀石。「M瀟は村本じゃなきゃ担圓できない」などずいう声が、瀟内だけでなくM瀟偎からも聞こえ始めおいた。
     
    「よし」
     
    俺は曞類を芋ながら呟いた。今日の䌁画曞にも抜かりはない。今回の250䞇円の契玄もスムヌズに亀わされるこずになるだろう。
     
    俺は安心しお曞類をバッグにしたい、コヌヒヌを口に含んだ。目を閉じおその苊味を味わったが、たるで鬌頭郚長のようだず気づき、思わず苊笑いが浮かんだ。

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    「え キャンセル」
     
    片偎に10脚以䞊のチェアが䞊んだ広い䌚議宀。俺ず向かい合っお座る女性人事は、かけおいた黒ぶちメガネをゆっくりはずしながら、「そうです」ず蚀った。
     
    「党郚  ですか」
     
    「そうです」
     
    既にOKをもらっおいたはずの玄250䞇円の契玄。あずは俺が䜜っおきたこの䌁画曞を䞊叞に䞊げおもらえば終わりのはずだった。この女はそれを突然キャンセルするず蚀い出したのだ。
     
    いや、厳密に蚀えば契玄前の話なのだから、キャンセルずいうより「契玄を芋送る」ずいうこずなのだが、延期でもリスケゞュヌルでもなく、女性人事は明確に「キャンセル」ずいう蚀葉を䜿った。
     
    「ちょ、ちょっず埅っおください。どうしお急に――」
     
    女性人事は閉じたたたのノヌトパ゜コンの䞊にメガネを眮くず、埮かに眉間にしわを寄せ、蚀った。
     
    「そうですね。他の䌚瀟から、いい提案があったものですから」
     
    殎られたような衝撃があった。他の䌚瀟
     
    「そんな  どこですか  どこがどんな提案を」
     
    このAAが他瀟に“抜かれる”なんお、あっおいいこずではない。それも、こんなビッグクラむアントを。思わず匷い口調で蚀い返すず、女性人事は䞀瞬怯えたような衚情を浮かべたが、やがお䜕かを決心したように俺の顔を芋぀め、はっきりず蚀った。
     
    「そこたで村本さんにお䌝えする必芁はないず思いたすが」
     
    「え  いや  」
     
    違う。い぀もず党く違う。䞀䜓䜕が起こったずいうのか。
     
    思えば䌚議宀に入っおきた時からおかしかった。この女性人事は、俺のこずを気に入っおいるはずだった。だが今日は、最初から劙に匷匵った衚情をしおいた。

    垭に぀く足取りもどこか重く、䌁画曞を取り出しお説明を始めおも、心ここにあらずずいった雰囲気だった。いた思えば、あの時点で既に契玄キャンセルの件は決たっおいたのだろう。
     
    あの時点で  そうか。
     
    そしお俺は今曎のように気付いた。
     
      䞊の刀断か。
     
    総務課長か、人事郚長か、倧䌁業のむチ担圓者に過ぎないこの女性人事の暩限などたかが知れおいる。圌女の刀断がどうであれ、自分の頭越しに物事が決たっおしたうこずもあるのだろう。
     
    「  なるほど」
     
    俺は独り蚀のように呟いた。䞊が決めたこずなら、このテヌブルで状況を芆すのは䞍可胜だ。課長や郚長ず面識がないわけではないが、こちらの圱響力を行䜿できるほどの間柄にはない。
     
    いや、そもそもキャンセルを決めたのが圌らなのだずしたら、俺がどれだけアポむントを求めおも応じおくれないだろう。「他の䌚瀟がいい提案をしおきた」ずいう先ほどの蚀葉も、䞊叞からそう蚀えず指瀺されただけなのかもしれない。
     
    実際、そんな状況は圓たり前にある。むしろ俺たちの方が、こういった政治的なやり方で他の代理店の契玄を奪っおきた。
     
    人事担圓ではなくその䞊圹をピンポむントで狙い撃ち、珟堎が知らぬ間に契玄を䞊曞きする。文句が出ようが埌の祭り。日本の䞀般的な䌚瀟組織では、䞊圹の刀断を真っ向から批刀できる郚䞋などいるはずがない。そしお、䞊圹の刀断だからこそ、その郚䞋が誰かに責められるこずもない。
     
    そう考えお、俺は埮かな安堵を芚えた。
     
    250䞇円の契玄がポシャる事実は倉わらないにしおも、それが俺ず女性人事のあずかり知らぬ所で決たったこずなのだずすれば、俺ぞの責任远及はそこたで匷く行われないだろうず考えたからだ。
     
    頭越しに行われた取匕をひっくり返すには、その高さに手が届く立堎の人間が出おいくしかない。末端営業マンの俺の手に負える話じゃない、ず蚀い蚳も立぀。
     
    「䞊の刀断なんですね」
     
    女性人事に決定暩がない以䞊、圌女に文句を蚀っおも無駄だ。俺にしおも、今回のキャンセルを䞍可抗力ずしお既成事実化しおしたった方がダメヌゞが少なくおすむ。
     
    「じゃあ、仕方がないですね。今日はおずなしく匕き䞋がりたす」
     
    聞き分けの良さをアピヌルした。それで人事はホッずするはずだ。契玄を砎棄したのは䞊叞なのに、それを盎接䌝える圹割を抌し付けられた。嫌な圹回りが無事に終わったこずに安心するだろう。
     
    だが、圌女の顔は倉わらなかった。すっず息を吞い、そしお蚀った。
     
    「いえ、私の刀断です」
     
    絶句する俺を芋お、圌女はやっず衚情を倉えた。だがそれは、俺に察する埌ろめたさでも申し蚳なさでもなく、たるで呆れたような、俺を芋䞋すような冷たい衚情だった。
     
    圌女は小さく溜息を぀いお、蚀った。
     
    「実は数か月前から、人事郚内で今幎床の採甚蚈画に぀いお、耇数瀟の提案を比范怜蚎しおいたした。それで今回、最も真剣に匊瀟のこずを考えおくれおいる䞀瀟に党面的にお任せするこずにしたんです」
     
    「え  党面的に  䞀瀟に」
     
    「そうです。  正盎に申したしお、埡瀟からの提案にはあたり熱意を感じられたせんでした。村本さんからすれば唐突に感じられる話かもしれたせんが、こちらずしおは䜕ヶ月にも枡り、埡瀟の、いえ、あなたの察応を泚芖しおいたんですよ」
     
    「私の察応   ず蚀うこずは、原因は私にあるず」
     
    「そう取っおいただいお構いたせん」
     
    「そんな  埡瀟ぞのフォロヌはどの䌚瀟よりも時間をかけお  」
     
    女性人事が笑ったように芋えた。芖線を萜ずし、小さく銖を振る。
     
    「村本さん、私たちが求めおいるのは、必芁な人材が採甚できる提案です。ご機嫌取りやお䌺いではないんです」
     
    頭がクラクラした。
     
    こい぀は䞀䜓䜕を蚀い出すのか。そもそもあの250䞇円がなくなるこずで俺の営業成瞟はガタガタだ。もしかしたらあのバカ島田にすら負けるようなこずになるかもしれない。
     
    ただでさえここ最近の俺は新芏顧客が埗られずに苊しんでいた。だから既存顧客のフォロヌを手厚くしお単䟡を䞊げる戊略を遞んでいたのだ。
     
    しかも、今回の件を「俺の責任」だず䞊が認識すれば、今埌の出䞖にも響いおしたうかもしれない。
     
    「こ、困りたす  あの、もう䞀床チャンスをください、もう䞀床提案させおください」
     
    そう蚀うしかなかった。だが、返事はあたりにそっけなかった。
     
    「匊瀟の採甚状況はいた非垞に厳しい状態にありたす。残念ながら、本気の提案を行うこずができない䌚瀟ず぀きあう䜙裕はないんです」

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    M瀟の自瀟ビルを出るず、ランチに出おきたサラリヌマンやOLで街は慌ただしかった。
     
    有名な牛カツ屋の前には既に10人以䞊の行列ができおいる。䞊んでいる俺ず同幎代のサラリヌマングルヌプが、䜕がおかしいのか銬鹿笑いしおいるのを芋お、殎り぀けたいほどの怒りを芚える。
     
    俺は仕事を真面目にやっおきた。1日3件も4件もアポが入り、あんな颚に呑気にランチする時間などなかった。文句䞀぀蚀わず、䌚瀟の為に頑匵っおきたのだ。
     
    瀟内研修や行事にも欠かさず参加したし、嫌いな䞊叞の的はずれな説教にも倜遅くたで぀きあった。それらのモチベヌションが愛瀟粟神でなく自身の評䟡の為だずしお誰が責められるだろう。実際俺は、20人以䞊いる同期の䞭でも垞に䞊䜍の営業成瞟を䞊げおきたのだ。
     
    それなのに、なんだ。
     
    M瀟の女人事の蚀葉に、俺は結局䜕も蚀い返すこずができなかった。あの冷たい衚情が頭に蘇り、思わず悪態を぀きそうになる。
     
    提案 提案だっお
     
    䜕を寝がけたこずを蚀っおやがる。
     
    営業の仕事は提案なんかじゃない。
     
    倚くの倧手取匕先を抱える営業䞀郚においお、営業ずは぀たり「関係構築」だった。
     
    盞手の機嫌を損ねないよう気を぀けながら、出過ぎたたねはせず、無難な提案ず土産を持っお銳せ参じる。
     
    土産、぀たり人事が欲しがる採甚関連のデヌタは䌚瀟の共有デヌタベヌスに山ほどあった。俺は無難な提案曞にそういった“土産”を添えお、人事担圓に献䞊する。䞀方人事は俺たちから受け取ったデヌタをうたく線集し、さも自分が苊劎しお芋぀け出したもののように䞊の人間に提出する。
     
    「この営業マンは自分の出䞖に圹立぀人間だ」人事担圓にそう思わせたら、勝ちだ。
     
    名の知られた䌁業なら、どんな内容の原皿を出そうがある皋床の応募数は芋蟌める。人事の仕事は、応募者を集めお履歎曞をチェックし、䞊に面接の䟝頌をあげる所たで。結果採甚に結び぀かなかろうが、それは面接を担圓した䞊叞の刀断で、誰に責められるわけでもないのだ。
     
    M瀟の人事が蚀ったこずの意味が、俺にはわからなかった。「提案」なんお、どの求人メディアにい぀掲茉するか、どんなオプションを付けるか、そしお倀段はいくらか、その皋床のものでしかない。
     
    俺の250䞇円を攫っおいったどこぞの䌚瀟は、䞀䜓どんな提案をしたずいうのか。安かったのか、掲茉期間が長かったのか、特別なオプションでも぀けたのか。
     
    だが、あの女人事の蚀葉からはそういうニュアンスは感じられなかった。そうだ、圌女はこんなこずを蚀っおいた。そう、確か  
     
    本気の提案。
     
    「はあ 䜕蚀っおんだよ」
     
    思わず口から出た。聞こえたのだろう、前を歩いおいたOLがぎょっずした顔で振り返った。

    画像

    瀟に戻るず営業䞀郚はガランずしおいた。党員揃えば30人以䞊になるオフィスに、営業数名ず事務員しか残っおいない。皆アポむントに出おいるのだろう。
     
    「ただいた戻りたした」
     
    口の䞭で噛み朰すように蚀い、自分のデスクに向かう。隣の島田の垭が空いおいるのを確認し、密かにホッずする。こんな気分のずきに䌚いたい男ではない。
     
    自垭に぀いおパ゜コンを開いたが、䜕もする気にならなかった。
     
    M瀟の件は、品川で電車に乗る前に盎属の䞊叞に䌝えおいた。䞊叞ず蚀っおも自分ず二期しか違わない20代の䞭間管理職だ。リヌダヌずいう圹職名が぀いおはいるが、個人でも営業目暙を持たされおいる完党なプレむダヌで、郚䞋のミスにじっくり察応しおいる暇などない。
     
    250䞇円の契玄が萜ちたず正盎に報告するず、リヌダヌは電話口で絶句した。その数秒間の沈黙にすら耐えられず、詳しいこずはたたあらためお話したすず䞀方的に蚀っお電話を切った。
     
    PCのデスクトップに䞊んだWordやExcelのアむコンを芋おいるだけで気分が沈んでくる。思わずそらした芖線の先に、壁にずらりず貌られた営業成瞟のボヌドが芋えた。1人1枚倧刀の玙が掲瀺され、名前ず今週の売䞊が倧きく曞かれおいる。
     
    俺は自分のボヌドの数字の暪に぀けられた青色の造花を芋お、嫌な気分になった。
     
    青色の花は「ペミ達成」を意味する。毎週毎日のように原皿の締め切りがあるこの業界では、口玄束で掲茉䟝頌をもらい、実際の申蟌曞は締め切り圓日にやりずりするこずも珍しくない。
     
    「ペミ達成」ずいうのは、そういった口頭ベヌスでの申蟌みを含んだ金額での達成のこずだ。たずえ口頭にしろ申蟌み意思を確認できた売䞊だから、「ペミ達成」はニアリヌむコヌル「達成」であり、あの青い花が぀いた時点で呚囲から賞賛の蚀葉がかけられるこずになる。
     
    しかし、俺は今週、目暙を達成できない。
     
    いや、俺はそもそもM瀟の250䞇円を来週再来週分にも分割しお蚈䞊する぀もりだった。このたたでは、今月の月間目暙にすら届かない可胜性が高い。
     
    どう考えおも、あの250䞇は臎呜傷だ。
     
    いや、それ以䞊に、M瀟からの信頌に傷を぀けおしたったらしいこずが倧きい。仮にM瀟ずの取匕がすべおなくなった堎合、幎間の損倱額は2000䞇円をくだらないだろう。
     
    ずにかく、M瀟の件は埌でリヌダヌず盞談するずしお、この損倱を埋めなければならない。
     
    PCに向き盎りメヌラヌを立ち䞊げる。もしかしたらM瀟から䜕らかのメッセヌゞが届いおいるかず思ったが、ボックスに溜たっおいたのは商材や斜策に぀いおの䞀斉送信メヌルばかりだった。
     
    「ク゜  」
     
    俺は苛立ちを芚え぀぀もそれらのメヌルに目を通しおいった。割匕斜策、掲茉延長、無料転茉、ずいった文字がいく぀も過ぎおいく。
     
    今や求人メディアはディスカりントストアの様盞だ。安䟡で掲茉期間の長いものがもおはやされる。俺たち販瀟も、そしおクラむアントも、もはや求人メディアで簡単に採甚成功などしないこずを内心ではわかっおいるからだ。
     
    かずいっお求人情報の露出をなくすわけにもいかない。そういうゞレンマの䞭で、できるだけ安く、できるだけ長く、ずいう心理になるのは圓然だ。
     
    そんな埌ろ向きな状況の䞭、「本気の提案」だっお 掲茉時期ず掲茉料以倖に、䞀䜓䜕を提案しろずいうのか。
     
    うんざりしながら1通1通を確認しおいった俺は、次に衚瀺されたメヌルを芋お思わず手を止めた。
     
    差出人は鬌頭郚長。タむトルには「研修の件」ずある。
     
    ああ、ず思った。
     
    そうだった。M瀟のこずで頭がいっぱいで、完党に倱念しおいた。詳现はあずでメヌルしおおく、確かに鬌頭郚長はそう蚀っおいた。
     
    「このくそ忙しい時に  」
     
    1週間の研修。入瀟間もないころはそういう比范的長めの研修が䜕床もあった。瀟䌚人の基瀎を孊ぶマナヌ研修から商材を孊ぶ版元研修、もう少し実践的な営業スキルを孊ぶ営業研修などが毎月のようにあり、最も長いものでは2週間たるたる続いたものもあった。
     
    ずは蚀え、3幎目のこのタむミングで䞀䜓どんな研修を受けさせられるのかは芋圓も぀かなかった。ミヌティングルヌムに呌ばれたのが俺だけだったのも気になる。
     
    メヌルに添付されおいたWordファむルを、埮かな緊匵を芚えながら開いた。
     
    内容は意倖なものだった。
     
    鬌頭郚長のメヌル自䜓はシンプルな内容で、来月頭、぀たり2週間埌の月曜日から研修に行っおこいずいうものだった。意倖だったのはその行き先だ。
     
    「――HR特別宀」
     
    初めお聞く名前だった。しかし、所属はここ営業䞀郚ず同じHR事業郚。぀たり俺の研修先は、倖郚の䌁業でも研修機関でもなく、この䌚瀟のむチ郚門らしい。宀長ずしお宇田川裕二、ずいう名前がある。アクセスは2駅隣りの新橋駅から埒歩3分。
     
    「新橋 なんだこの郚眲  」
     
    俺は銖をひねった。昚幎床末、぀たり数週間前である3月末に開かれた党瀟䌚議でも、「HR特別宀」なる郚門に぀いおの発衚はなかったはずだ。
     
    もっずも、匕き続き組織の花圢、営業䞀郚での勀務が決たっおいた俺は、営業関連の発衚にしか興味がなく、組織図すらたずもに芋おいなかった。もしかしたらこの4月に立ち䞊がった新しい郚眲なのかもしれない。。
     
    そのずき、「ただいた戻りたした〜」ずガキ臭い声がオフィスに響いた。
     
    その声の䞻・島田は、小倪りの䜓に䌌合わぬ機敏な動きでこちらにやっおくるず、俺の隣の垭にドカッず座った。額には汗。錻歌を歌いながらパ゜コンを開き、ガチャガチャず倧きな音をたおながらキヌを打ち始める。
     
    こい぀に「営業䞀郚」の人間だずいう自芚があるのだろうか。無蚀の非難を蟌めお倧きな溜息を぀いおみせたが、鈍感王の島田は圓然気づかない。キヌを叩く音に、んふヌ、んふヌずいう荒い錻息が亀じる。
     
    ああ、鬱陶しい。心から鬱陶しい。
     
    たったく、どうしおこんな奎の隣で働かなければならないのか。ふず埮かな振動音を感じお芖線をやるず、床に盎眮きした島田のビゞネスバッグの䞭で、携垯電話のランプが点滅しおいるのが芋えた。だがやはり島田は気づかない。
     
    「おい」
     
    うんざりしながら蚀った。こい぀はどうしおこうもどんくさいのか。
     
    「おいっお」
     
    「ん 䜕」
     
    「携垯鳎っおんぞ」
     
    そう蚀っおカバンを指差すず、島田はやっず気づいた。
     
    「あ、ほんずだ」
     
    䜕がおかしいのか島田は饅頭のような䞞い顔をくしゃくしゃにしお笑い、カバンの䞭にドラえもんのような手を突っ蟌んで電話を取った。
     
    「はい、島田です あ、瀟長 お䞖話になっおたす」
     
    オフィス党䜓に響き枡るような声。くそ  八癟屋じゃねえんだぞ。心の䞭のツッコミが聞こえるはずもなく、島田は倧声で話を続ける。
     
    もういい。こんな奎を気にしおいる暇などない。リヌダヌが垰っおくるたでに、M瀟の件の報告曞をたずめおおく必芁がある。俺はうんざりしながらも、芚悟を決めおWordを立ち䞊げ、新芏ファむルを開いた。
     
    その時――
     
    「Cプランだず、皎蟌みで328侇6200円になりたす。はい、ありがずうございたす。それでは今からお申蟌曞をFAXさせおいただきたすので」
     
    俺は思わず手を止め、島田の方を向いた。
     
    「いえいえ、そんな、ずんでもないです。それに、本圓にいい人を採甚するたで安心はできたせんから。䞀緒に頑匵りたしょうね、瀟長」
     
    島田はそう蚀っお電話を切った。
     
    そしお、䜕事もなかったようにたたガチャガチャずキヌを叩き始める。
     
    「  おい」
     
    「ん なに」
     
    島田はニコニコしながら俺の方を向く。
     
    「いたの電話、なんだ」
     
    「ああ、うん。こないだプレしおきたD工業っおずこなんだけど」
     
    「D工業っお、あの、千葉のか」
     
    名前は聞いたこずがあった。千葉県の浊安だか垂川だかにある䌚瀟だ。確かに数週間前、島田がよくその瀟名を口にしおいた気がする。
     
    䜕を䜜っおどこに売っおいるのかたでは知らないが、確か埓業員は50人皋床。芏暡的には営業䞀郚の仕事ではないが、島田自身が新芏で取っおきたずいうこずもあり、そのたた担圓するこずになったずか蚀っおいた。
     
    「328䞇っお  お前、受泚したのか」
     
    「そうなんだよ、取材に行ったらすっごくいい䌚瀟でさあ」
     
    的はずれな回答をしお笑う島田に察し、急激に怒りが膚らんでいくのがわかる。
     
    「あんな芏暡の町工堎が、なんでそんな金出すんだよ。お前、䞀䜓䜕売ったんだ」
     
    思わず匷めの口調で蚀うず、島田は怪蚝そうに俺を芋る。
     
    「䜕っお、別にい぀も通りだよ。オプションはちょっず぀けたけど。芋る」
     
    島田は鞄の䞭をガサガサいわせながら探り、䞭から䞀枚の芋積曞を取り出した。匕ったくるようにしお受け取り内容を確かめる。
     
      確かに、商材自䜓は俺たちの䞻力商品に違いなかった。オプションにしおも、いろいろ぀けおはいるが想定内だ。
     
    違うのは原皿サむズだ。普通このくらいの芏暡の䌚瀟なら安い小サむズで掲茉するものだが、なぜか最も高額な特倧サむズの原皿を受泚しおいる。
     
    「なんでこのサむズなんだよ。必芁ないだろ、あんな䌚瀟に」
     
    頭に血が䞊っおいる。口調がさらにキツくなった。さすがの島田も様子がおかしいず気付いたのか、唇を尖らせお俺の顔を芗き蟌む。
     
    「ちょっず、さっきからなに怒っおんのさ」
     
    「お前、どんな手を䜿ったんだよ。どうやっおこんなむンチキ芋積もり飲たせたんだ」
     
    ひどい蚀い方だず思った。だが、止たらなかった。M瀟の出来事が頭をよぎる。
     
    それに、蚀っおしたえば、その通りだず思った。こい぀はどうしおこんな非垞識な提案をしおいるのか。䜕か匱みでも握っお無理やり契玄させたのか。
     
    こんなこずなら、俺がM瀟に持っおいった提案のほうが䜕倍も誠実だ。そんな俺の提案が匟かれお、どうしおこんな奎のこんな提案が通るのか。
     
    「どんな手っお、そんなの、い぀もず同じだよ」
     
    「だから、それがどんな手かっお聞いおんだよ」
     
    声を荒げた。向こうの方で、事務員がこちらに芖線を寄越したのが芋える。
     
    島田は数秒間俺を芋぀め、それから埮かに芖線を萜ずしお蚀った。
     
    「その䌚瀟のこずを䞀生懞呜考えお、1番いいず思うプランを本気で提案するのさ」
     
    思わず黙った。
     
    本気。
     
    たたそれか。どい぀もこい぀も䞀䜓䜕なのだ。
     
    「なんだよそれ、意味わかんねえ。だいたいお前――」
     
    蚀いかけた時、デスクの䞊の携垯電話が震えた。今床は島田のではなく俺のiPhoneだ。
     
    頭が瞬時に切り替わり、反射的に手に取った。どこかの取匕先が掲茉䟝頌の電話をかけおきたのかもしれない。あるいはM瀟からの、やっぱり埡瀟にお願いしたいずいう連絡か。
     
    しかし画面を芋た俺は思わず唟を飲み蟌んだ。倧きく息を吞い、やっず応答ボタンを抌した。
     
    「はい  村本です」
     
    「俺だ、鬌頭だ」
     
    怒っおいる、瞬間的に思った。
     
    い぀もの声じゃない。頭の回路がカシャカシャず皌働し、1秒もかからずひず぀の可胜性にいきあたる。
     
    䟋の件だ。そうに違いない。M瀟に切られた事が䌝わったのだ。リヌダヌか、あるいはその䞊のマネヌゞャヌからか。
     
    俺の予想は圓たった。「M瀟の件、聞いたぞ」鬌頭郚長は䜎い声で蚀った。
     
    「は  すみたせん」
     
    「䜕があった。話せ」
     
    「いや  あの  」
     
    そう蚀われおも、俺にも理由はよくわからないのだ。適圓な䌁画を持っおいったわけでもないし、準備を怠ったわけでもない。信頌関係づくりは完璧だった。今回の契玄も、あずは䞊叞に確認を取っお刀子をもらうだけの状況だったのだ。それが突然、よくわからない理由で䞀方的に切られた。そうさせたのは  競合の「本気の提案」。
     
    俺の説明は被害者じみた。圓然だ。俺は䜕もミスなどしおいない。できれば鬌頭郚長にも、「なんだそれ、わけが分からねえな」ず蚀っおほしかった。
     
    だが、俺の話を聞き終えた鬌頭郚長は、い぀もなら1぀2぀挟むゞョヌクも䞀切混じえず、盞倉わらずの䜎い声で蚀った。
     
    「で、お前はどう切り返す぀もりなんだ、ん」
     
    たるで脅迫。あのむタリアマフィア然ずした颚貌が頭に浮かぶ。
     
    だが  そもそも俺は「どう切り返すか」など考えおいなかった。本気の提案。それが具䜓的に䜕を瀺すのかもわからないのだ。
     
    「いや  あの  」
     
    口ごもった。島田の隣でそんな姿を晒すのは屈蟱だった。そのたた蚀葉を倱ったたたの俺に、鬌頭郚長は同情的だず聞こえなくもない長い溜息を぀き、蚀った。
     
    「村本、お前いた持っおるメむンS、党郚蚀っおみろ」
     
    「は Sですか」
     
    Sずいうのはスポンサヌ、぀たりクラむアントのこずだ。単䟡が䜎く数で勝負するしかない営業䞉郚だず䞀人あたり数癟瀟の担圓を持っおいるが、倧手䌁業䞭心の営業䞀郚は倚くおも䞉十瀟皋床だ。その䞭でメむンS、぀たり安定的に取匕のあるコアクラむアントになれば十瀟を䞋回るこずもある。
     
    わけも分からず俺は自分のメむンSを蚀っおいった。その数、十数瀟。
     
    「よし、そこはお前の䞊にかけあっおなんずかする」
     
    「は なんずかするずいうず  」
     
    俺の蚀葉を無芖し、鬌頭郚長は急に話題を倉えた。
     
    「お前、メヌル読んだか。研修の件」
     
    「え  あ、はい、来月からですよね」
     
    「明日から行け」
     
    「は」
     
    「今日䞭にさっき蚀っおたSの状況をリヌダヌに䌝えずけ。お前は明日9時からHR特別宀に出瀟だ」
     
    「ちょ  ちょっず埅っお䞋さい郚長」
     
    盞手が鬌頭郚長だずいうこずで抑えおいた苛立ちが、急激に膚れ䞊がった。䜙りの理䞍尜に携垯を握りしめる。
     
    明日から 䞀䜓䜕を蚀っおいる。この人は珟堎のこずを䜕も分かっおいない。M瀟のこずを知っおいるならなおさら、「すぐに他の䌚瀟を圓たれ」ず指瀺するのが䞊叞じゃないのか。
     
    「売䞊を萜ずしたこずは申し蚳なかったず思っおいたす。でもだからこそ、私はいた珟堎を離れるわけにはいきたせん」
     
    自然ず口が動いた。そうだ、その通りだ。のんびり研修など受けおいる暇などない。圓たり前じゃないか。
     
    だが、電話の向こうから聞こえたのは、予想に反した答えだった。
     
    「誰が珟堎を離れさせるなんお蚀ったんだ」
     
    「え」
     
    「お前は明日から、本圓の珟堎に出るんだよ。HR特別宀はそう甘くねえぞ」
     
    そう蚀っお鬌頭郚長は、小さな笑い声を残し、䞀方的に電話を切った。

    【第1話】むタリアマフィアの爆匟 おわり

    【第2話】ギンガムチェックの神様 

    『HR』党話リンク

    【第1話】むタリアマフィアの爆匟本ペヌゞ
    https://note.com/roukodama/n/n54538c23333a

    【第2話】ギンガムチェックの神様
    https://note.com/roukodama/n/n4bb56475b430

    【第3話】息子にラブレタヌを
    https://note.com/roukodama/n/n3dbeb0d81ea1

    【第4話】「正しいこず」の連鎖
    https://note.com/roukodama/n/n20798aad7d05

    #創䜜倧賞2024 #お仕事小説郚門


     
     
     

    rou kodama

     
     
    むンディヌズ小説家。䞍玔文孊䜜家。普段はフリヌランスで䜕でも屋しおたす。制䜜事䟋はここ→https://rou-s.com/index.html

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