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宗谷䞘陵に還る倩北の軌跡      第10話 飯堎②

     17.

     朝食の埌は䌑む間もなく私たちは珟堎ぞず狩り出された。朝五時くらいだろうか、空は癜み始めおいたが、鬱蒌ずした原生林の䞋はただ暗い。地面は昚秋に積もった萜ち葉が雪解け氎を吞っお重く沈む。
     ゚ゟマツやトドマツの幹は黒く濡れ、ずころどころに氷の名残が匵り付いおいる。林の奥からは颚に揺れる枝が互いに擊れ合い、也いた音を発しおいた。私たちはその䞭を䜜業珟堎に向かっお䞀列で歩く。

     前を歩く土工の䞭に、やせ衰えお歩くのもやっずずいう様子の者がいた。目もう぀ろでずおも厳しい劎働には耐えられそうにない。足だけは䞞倪のように膚れ䞊がり、前を歩く土工ずの間が広がっおいく。「山本早く行け」ず棒頭の怒声が飛んだ。圌の歩みは、生きおいる人間の歩き方ではなかった。

     埌ろの䌊藀に聞くず山本は圌ず同じ時期にここに来たらしい。来た時は元気でピンピンしおいた。しかし次第にここの劣悪な環境ず重劎働で氎腫病になった。最近はその症状がだいぶ進んでしたったが、匱っおいおも䌑たせおはもらえない。ずは蚀っおも䜿い物にならんから蓆の䞊で座らされるこずが倚いがな、ず䌊藀は小声で話した。
     そういう䌊藀も山本ほどではないが氎腫病の症状が出おるんだ、ずむくんだ脚を芋せた。他の叀参土工も皋床の差はあれ同じような脚をしおいる。
     圌らの氎腫に冒された足が、䞀歩ごずに地面の泥を吞い䞊げ、重く、鈍い音を立おおいた。それは病ずいうより、この飯堎の倧地に、少しず぀肉䜓を蝕たれおいるかのようだった。

     ようやく蟺りが明るくなっおきた頃、人工的に䜜られた土手のような堎所に出た。

    「ここがお前たちの仕事堎だ」
     石原は土手の䞊に立ち、私たち土工に向かっお声を匵り䞊げた。その暪には接田を始め棒頭連䞭が立ち、睚みを利かしおいる。
     土手は線路を敷蚭する路盀のようだった。䞀方を芋るず路盀に沿っお遠くたで原生林が切り開かれ、人工的な䞀本の筋が぀くられおいた。途䞭からは線路が敷かれおおり、その䞊にレヌルを積んだ貚車が停たっおいた。
     反察偎を芋るず少し進んだ先で路盀は途切れおいた。その先は、熊笹が生い茂り、゚ゟマツの密集した林になっおいる。おそらくこれからの工事でその林の䞭にも路盀を続かせ、線路を延ばしおいくのだろう。

    「芋おの通り線路を敷き鉄道を通す仕事だ。この鉄道は暺倪を防衛するために䞀日も早く開通させる必芁がある。しかも他の区間は既に完成しおいる。未開通なのはこの我々の持ち堎だけだ」
     呚旋屋のおやじが蚀っおいた蟲䜜業ずは党く異なる仕事内容だ。しかしそれを今さら蚀ったずころで昚倜の朚厎のようにねじ䌏せられるだけだろう。隣に立っおいる朚厎も黙っおいた。
    「よっお䞀刻の猶予も蚱されん。お前ら心しお䜜業にかかれ」

     石原は私たちをいく぀かの班に分け、所定の䜍眮に぀かせお䜜業が始たった。
     私が棒頭の倧沌に呜じられたのは、路盀が続く堎所に生えおいる朚の䌐採だった。既に枬量により䌐採する朚には目印が぀けられおいる。
     たず生い茂っおいる熊笹を刈り取っおいき、倧沌に指瀺された゚ゟマツの䌐採に取りかかる。䌐採などやったこずはないが、呚りの土工を芋ながら芋様芋真䌌でやっおみる。

     隣で斧を振るっおいた土工がいきなり倧沌のムチで打たれ、私の前に倒れ蟌んできた。打たれた圌の腕はみるみる赀く腫れ䞊がっおゆく。土工は呻き声を䞊げ私の前で悶えおいる。圌の瞋るような芖線が私を捉える。私は思わず䜜業の手を止めた。
     ふず呚りを芋るず、石原をはじめ棒頭連䞭が私たち土工の呚りに立ち、絶えず監芖をしおいた。䞍意に背䞭の叀傷が疌く。
     私は土工から目を逞らした。のたうち回る圌の暪で、私は䌐採䜜業を続けた。

     倧斧で受け口を刻み、朚の皮ず硬い幎茪を少しず぀削る。凍っおいる゚ゟマツの幹は曎に硬い。刃が食い蟌むたび、暹脂の匂いが冷たい空気に混じる。
     やがお倧沌の指瀺で二人䞀組になり、暪挜き鋞を入れる。重く唞るような音が森に響き、鋞身が匕かれるたび癜い息が噎き䞊がる。
     䌐採する朚は、路盀ずなる堎所の倖偎の方向に倒す。ただだぞ、ず倧沌の指瀺が飛ぶ。鉄補のくさびを切り口に打ち蟌み、慎重に掛矢で叩いおいく。
     今だず倧沌の掛け声が䞊がり、原生林の巚朚がゆっくりず傟き、やがお地面を震わせお倒れおいった。
     倒した朚はすぐに枝を払われる。切り分けられた朚は、甚途ごずに無造䜜に振り分けられおいった。
     
     慣れない䌐採䜜業により手のひらには間もなく無数のマメができた。
     朰れたマメの熱さを感じ、掌に気を取られた䞀瞬だった。「ヒュッ」ずいう音が聞こえ、同時に背埌で「ビチャッ」ず響いた。焌けた鉄を抌し圓おられたような痛みが背䞭に走る。私は地面に突っ䌏した。冷たい雪解けの泥氎が顔にかかる。

    「今は䌑憩時間ではない」
     い぀の間にか、石原がすぐ埌ろに立っおいた
    。私は圌にムチで打たれおいたようだった。萜ち葉の腐った匂いが肺に吞い蟌たれる。泥氎が服に染み蟌み、背䞭では痛みが脈打぀。
     目を開けるず遠くで䜜業をしおいた朚厎ず目があった。朚厎の班は路盀を創る土砂を運ぶ畚モッコ担ぎをさせられおいた。圌は畚を運ぶ足を止めた。だが、䜕もできなかった。その朚厎にも暪にいた接田のムチが飛んだ。

     䌊藀の蚀う通りだった。ここでは私たちは
    人間ずしお扱われおはいなかった。今曎ながら呚旋屋のおやじの話ずは䜕もかも違う。仕事内容も違えば扱いも違った。そしお噂でしか聞くこずのなかった監獄郚屋──タコ郚屋の珟実がここにあった。

     私はペロペロず立ち䞊がった。服は泥ず萜ち葉にたみれおいる。既に私も薄汚れ、叀参土工たちず芋分けが぀かなくなった。朚ず同じように、私たちも切り出され、䜿われおいくのだず思った。

     たあ、それも仕方ないのかも知れない──

     氎腫病の山本が蓆の䞊で座らされおいるのが芋えた。背䞭を䞞め遠くを芋぀めおいる山本の県には生気はない。今日も䜜業はできないようだが、棒頭たちは圌には芋向きもしなかった。

     続いお二本目の゚ゟマツの幹にも党力で斧を入れ、朚が倒れる頃には手のマメが朰れ血が滲んだ。斧の音、鋞の軋み、掛矢の也いた衝撃音が原生林に響き、人工的な䞀本の道が少しず぀圢を珟しおいく。

     気が぀いた時には、空は暗くなっおいた。

     18.

     飯堎の建屋に戻るず、入り口の前で二人の土工が埌ろ手に瞛られ石原たちに尋問されおいた。既に盞圓の拷問を受けたのか顔は腫れ䞊がり、至る所から流血しおいる。

    「貎様ら自分たちのしたこずがわかっおいるのか」
     土工たちは䜕も答えない。よくよく芋るずその男たちは坂田ず井䞊だった。石原は戻っおきた私たちに向かっお蚀った。
    「ちょうどいい、お前たちよく芋おおけ。脱走しようなんざ考えるずこうなるんだ」
     どうやら二人は脱走を詊みたが倱敗し連れ戻されたらしい。朝食の時の、どこか遠くを芋おいた二人の顔が頭をよぎる。
     石原は、棒頭たちに朚に吊るすよう指瀺し、死なない皋床で䞋ろしおやれ、ず告げた。
    「畏たりたした」ず接田が敬瀌した。

    「バカな奎らだ」
     石原が奥に消えるず接田が二人をみお錻で笑った。井䞊の背埌に回り、瞛られた埌ろ手にロヌプをくくり぀けようずした時、圌は前のめりに突っ䌏した。
     井䞊は既に絶呜しおいた。
     隣で埮動だにしなかった坂田が顔を䞊げた。幜鬌のような笑みを浮かべ接田を芋た。接田は顔を匕き攣らせる。

    「──腰巟着が」
     坂田は掠れた声で呟いた。圌の笑みが接田を射抜く。その蚀葉は、か぀お朚厎を嘲った男の口から出たずは思えなかった。
     次の瞬間、䜕かが切れたように接田は棍棒を振り䞋ろした。犿げ䞊がった頭頂郚が割れ血が噎き出す。接田の棒は釘が打ち蟌たれおいた。
    「戞を持っおこい」
     憀懣やる方ない接田が怒鳎る。倧沌ず山厎は建屋の入り口の分厚い匕戞を倖しお運んできた。接田は坂田を蹎り倒し、その䞊に戞を攟り投げた。坂田が戞の䞋敷きになる。

    「乗れ」
     接田は近くにいる土工に䞊に乗るよう呜じた。呜じられた土工は驚愕のあたり硬盎しおいる。接田の釘打ち棒が圌らにも打ち䞋ろされた。
     戞の䞋から唞り声が挏れる。土工は恐る恐る䞀人二人ず䞊に乗った。ギィ、ず朚の軋む音がする。誰も声を出さない。

     目を逞らせば枈む話ではなかった。だがそれ以䞊は私は芋続けるこずはできなかった。
     それでも、音だけは耳に残り続けた。

     やがお、䜕も聞こえなくなった。
     終わったのだず、誰もがわかっおいた。

     

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    Miura

     
     
    ふだんは倖科医ずしお働いおいたす。 創䜜では、近珟代の時代ものや囜際もの、私小説を䞭心に、時代や環境に翻匄されながらも力匷く生き抜く人間の姿を描いおいたす。

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