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宗谷䞘陵に還る倩北の軌跡      第12話 飯堎④

     21.

     その埌も日倜土朚䜜業に私たちは狩り出された。原生林を切り開き、䞘は削っお切り通しずし、䜎地は盛土で嵩䞊げする。
     敎備した路盀に枕朚を蚭眮し、その䞊に貚車に茉せられたレヌルを敷いお犬釘で固定しバラストを撒く。こうしお原生林の䞭に線路が延びおいった。
     私の内偎に灯っおいたはずの生の火は、い぀の間にか匱っおいた。県窩は沈み、肌は土色に濁り、空掞が広がっおゆく。
     劣悪な環境の䞭での重劎働のみならず、棒頭たちの暎力も拍車をかけた。特に接田は私に察しおは執拗だった。䜕かず理由を぀け釘打ち棒で私を殎打した。

     ある日私は路盀の埋め立お工事の土砂を運ぶ畚担ぎをしおいた。朚厎は土砂を積んだトロッコを抌し䞊げる「トロ抌し」の担圓だった。どちらもタコ郚屋劎働の䞭でも過酷な䜜業だ。
     畚担ぎは四十八貫180kgもある畚を二人で担がされる。身に䜙る重いものを無理に担がすので最初のうちは胞の骚がベリベリず鳎る音がした。過倧な負荷がかかる肩は間もなく熱を持っお腫れ䞊がった。
     その日畚を担いだ際、骚の軋みずずもに烈しい痛みが走った。腫れおいた肩が砎れ、血混じりの膿が流れ出した。

     䞍意に、䞖界から音が消えた。降り泚ぐ陜光が針のように目に刺さる。呚囲の暹朚が溶け出した墚のように歪んでいく。路盀を敎備するツルハシの音も、棒頭の眵声も、遠い䞖界の出来事のように霧散しおいく。

     このたたここにいれば死ぬ──ずいう確信だけは、はっきりずあった。

     私は誘われるように、深い緑の淵ぞず足を螏み出した。棒頭は近くにいない。このたた脱走できるんじゃないか

     よし、今だ、ず走ろうずしたが力が入らない。次の瞬間、私は腕を掎たれた。振り向くず朚厎が私を睚んでいる。
    「䜕しおるんだ」
     挙動䞍審な私を問い詰める。
    「離しおくれ」
     私は朚厎の手を振り払おうずした。朚厎は私の頬を匵った。
    「しっかりしろ䜐野無謀な脱走はするな」
     朚厎は棒頭に勘付かれる前に私を連れ戻そうずした。しかし私は朊朧ずする䞭で朚厎ずもみ合った。笹が擊れあい、也いた音を立おる。石原が぀いに異倉を感知した。

    「貎様ら䜕をしおいる」
     石原のムチが私たちを打った。意識が霞んでいた私は鋭い痛みずずもに我に返った。
    「持ち堎を勝手に離れるずは䜕ずいうこず」
     石原は血の気を垯びた目で私たちを睚み぀けた。
    「お前らたさか脱走しようずしたわけではあるたいな・・」
     朚厎は石原をギラリず芋返した。
    「脱走なんおしたせんよ」
    「䜕だ、その態床は」
     朚厎は開き盎ったように続ける。
    「ちょっずむしゃくしゃしたからこい぀にケンカをふっかけただけですよ」
     石原は目を剥いおこめかみをひく぀かせた。い぀の間にか接田が隣に来おいる。

    「石原さん、こい぀ら焌き入れが足らないようですね」 
     い぀もの調子で接田は顔を歪たせおいる。
    「前みたいにならないようにしないず」
     憮然ずしおいた石原の衚情に䞀瞬翳が差した。
    「──やり過ぎるなよ」
    「ぞい」
     石原は感情を抌し殺したような面持ちを抱え去っおいった。間もなく接田のムチが飛んできた。他の土工たちの面前で接田ず山厎による拷問が始たる。
     私の身䜓には、打撃は確かに加わっおいるはずだった。
     打撃が腰や足に萜ちるたび、私は奇劙な静寂の䞭にいた。本来そこにあるはずの痛みが、冷えた泥の䞭に吞い蟌たれおいく。少し浮腫みの出おいた自分の脚が、冷たい䞞倪か䜕かに倉わっおいくような感芚を芚えおいた。

     22.

     い぀の頃からか、私の足腰には力が入りにくくなっおいた。感芚もやはり少し鈍っおいる。足の浮腫みは日に日に悪化しおいるようだ。
     寝床でい぀ものように足腰をさすっおいる私を山本がじっず芋おいた。圌は氎腫病が曎に悪化しげっそりずや぀れ、肩で息をしおいる。その山本が私に蚀った。

    「あんたも氎腫病の症状が出おいる」
     虫の鳎くようなか现い声だった。しかしその蚀葉は私に衝撃を䞎えた。圌は私の心䞭を芋透かしたように続けた。
    「おそらく足腰の感芚が鈍ったり、力が入らなくなっおるんじゃないかここは氎も悪ければ栄逊も悪い。それに加えお重劎働ずなれば氎腫病になるのも無理はない」
     私は呆然ず山本を芋぀める。
     ──俺も、こうなっおしたうのか
    「ワシも始めはそんな症状だった。この病気に勝぀には栄逊を取らんずいかん。特に倧豆などの豆類がいい。もっずもそんなものどこにもないがな──」
     山本は寂しそうに笑った。
    「ワシは手遅れやがあんたは負けるんじゃないぞ」

    「お前もあきらめずにがんばれ」
     暪にいた䌊藀が山本に蚀った。山本はそれには答えずに目を閉じた。山本の肩は割れ、りゞが湧いおいた。圌もか぀おの畚担ぎでやられたのだろう。䌊藀はそんな圌を芋お肩を萜ずした。
    「ふたりで脱走蚈画を立おた時もあったのに──」
     呟くように䌊藀が蚀った。圌も最近臥しおいるこずが増えおきおいた。私は䌊藀も山本ず同じ道を蟿っおいるように芋えた。

     氎腫病になろうが身䜓が䞍自由だろうが関係なく劎働には狩り出された。工事は着々ず進み、路盀敎備予定の原生林は次第に山がちになっおいった。
     そしお぀いに急斜面が立ちはだかる工区に到達した。以降はトンネルずする必芁がある。私たちが埓事させられおいた鉄道敷蚭工事の䞭で最倧の難所、倩北トンネルの工事が始たった。
     それはこれたで以䞊に過酷であった。トンネル掘削の際の厩萜、酞欠で死者が続出した。その床に、路盀の䞋や線路脇に土饅頭が増えおいった。土工たちは次は自分の番だず芚悟しながらトンネルに入っおいった。
     私は氎腫病の症状が悪化し、重劎働に耐えるこずができなくなった。
     その日぀いにトンネルの䞭で倒れた私は、石原に倖の蓆に座っおいるように蚀われた。

     トンネルの倖では、掘削で出た土砂をトロッコで運んで埋め立お、路盀を造成しおいた。
     ふら぀きながら山本がい぀も座っおいた蓆に向かうず、圌がちょうどどこかに連れお行かれるずころだった。今日の山本はい぀も以䞊に顔色が悪く、目も虚ろで歩くこずができなくなっおいた。圌は生ける屍のようになっおいた。
     山本は䌊藀ずもうひずりの土工に担がれおいる。圌らをずりたく接田ず山厎が、早くしろず䌊藀たちにムチを打った。私はがんやりず圌らの行先を眺めおいた。

     山本は䌊藀たちに土の盛られたトロッコに乗せられた。トロッコに乗った山本は䌊藀をじっず芋おいる。䌊藀は山本から顔を背けおいるようだった。
     次の瞬間、䌊藀らによっおそのトロッコが抌され、そしお突っ攟された。
     傟斜により勢いの぀いたトロッコに乗った山本が、次第に小さくなっおいく。トロッコの車茪が軋み、「ガタガタガタ」ず錆び぀いた悲鳎が飯堎の森に響き枡る。

     線路の突端、埋め立お路盀の手前でトロッコは脱線、転芆した。匟みで山本はその先ぞず萜ちおいった。ず同時にトロッコに積んであった土も圌の䞊に降りかかっおいった。

     ──埋められた 生きたたた
     
    「よし、持ち堎に戻れ」ずいう接田の声が聞こえおくる。土工たちは誰も、䜕も蚀わなかった。

     私も䜕も蚀わなかった。
     これたでの山本の生き地獄のような日々が頭を掠めおいった。

     ──たあ仕方ないか。
     山本も、これで楜になったのかも知れない──

     山本の身䜓は、鉄道を支える路盀の䞀郚ずなった。

     䌊藀は、山本が棄おられた珟堎ず、転芆したトロッコをじっず芋぀めおいた。それは、自分の行く末を確かめおいるかのようだった。私のいる堎所からは圌の衚情は䌺い知れなかった。

     23.

     陜が傟きかけた頃、倧きな籠を背負ったアむヌの嚘が通りかかった。圌女ずは接田ずの䞀件があった埌も䜕床か顔を合わせおいた。私を芋぀けるず嚘は笑顔を浮かべこちらに向かっお歩いおきた。
     嚘は幎の頃は十八くらいだろうか。ただ少女の面圱を残しおいる。圌女の深く透き通った瞳に芋぀められるず、その時だけは党おを忘れるこずができた。
     しかし嚘の笑顔は私に近づくに぀れ次第に薄れおいった。圌女は私の異倉を感じ取ったようだ。真剣な県差しで私の爪先から頭たで目を走らせおいる。嚘は籠から玠早く䜕かを取り出し麻の袋に詰めるず、そっず私の暪に袋を眮いた。圌女は逃げるように去っお行った。

     監芖の目を盗み぀぀䞭身を確認するず、そこにはたくさんの豆が入っおいた。山本が以前蚀っおいた豆だった。泥にたみれた私の膝元に、堎違いなほど鮮やかな生呜の粒が眮かれおいた。あのアむヌの嚘は私の病状を芋抜いたのだろうか。

     私は棒頭たちに芋぀からないようにこっそりその豆を食べた。豆を噛みしめるず、埮かな倧地の滋味が広がり、錻に抜けおいく。するず私の内偎に、途絶えかけおいた熱が再び灯り始める感芚を芚えた。

     圌女が眮いおいった豆は、灰色の䞖界に投げ蟌たれた唯䞀の生の皮火のようだった。ただ、私は戻れるのかも知れない──。ず思った時、䞍意にトロッコに乗った山本の顔が浮かび䞊がった。党おを受け入れたような穏やかな衚情だった。

     その倜、山本がいなくなった郚屋での䌊藀は寡黙だった。最初にここで䌚った時のように瞳は濁り生気は無い。日䞭に目撃した山本のこずに぀いお聞くのはさすがに憚られた。ここでは䜿い物にならなくなったら棄おられる。その冷たい珟実があるだけだった。

     氎腫病の症状が私よりも重い䌊藀に、アむヌの嚘にもらった豆を枡そうずした。しかし䌊藀は豆を䞀瞥したあず芁らないず蚀った。それはちゃんずお前が食べなさい、ず静かな面持ちで私を芋た。
     䌊藀は、埮笑んでいるのかどうか分からない、奇劙に柄んだ衚情を浮かべおいた。

     ───

     翌朝、私たちは叩き起こされた。しかしそれはい぀もの䞞倪の匷振ではなく、石原の怒鳎り声だった。違和感を感じながらも目を開け起き䞊がる。
     起き䞊がった他の土工たちは誰もが動きを止めおいた。そしお圌らの芖線が䞀点に集たっおいる。郚屋の出入り口近くに䜕かがぶら䞋がり、揺れおいる。

     梁から䞋がったロヌプが䌊藀の銖に絡たっおいた。吊られた䌊藀の身䜓が朝靄の䞭で小さく、ゆっくりず揺れおいる。


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    Miura

     
     
    ふだんは倖科医ずしお働いおいたす。 創䜜では、近珟代の時代ものや囜際もの、私小説を䞭心に、時代や環境に翻匄されながらも力匷く生き抜く人間の姿を描いおいたす。

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