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ギフト—胚培逊士はいのちを぀なぐ— 第九話〖満月を指す指・二〇二五幎 䞃月十䞀日 埌線〗創䜜倧賞2025  

    第䞀話
    第八話

    足音のする方ぞ振り向くず、癜いTシャツにブルヌのデニム姿の芜衣が立っおいた。

    「照」
    「あ、おかしゃん」

    海音の心臓が、倧きく脈打぀。照の顔が段違いに明るくなる。照は、芜衣の子䟛だったのだ。芜衣ず、河瀬の子䟛だったのだ。

    芜衣は、「すみたせん、嚘が」ず蚀っお、顔を䞊げ、海音ず小林に気付いた。刹那、芜衣ず海音は互いに芋぀め合った。

    「芜衣さんもいらしおたんですね。私ず小林くんは、カンファレンスで研究宀に来おいお、おこがれに預かるこずになっお」

    平静を装っお笑った。職堎の倖で芜衣に䌚うのは初めおだ。海音は劙に緊匵した。

    「私は、河瀬の同僚の先生に誘われお」

    芜衣はふわりず笑った。培逊宀では芋せない、自然な笑顔だった。プラむベヌトでの芜衣は、優しい雰囲気を纏っおいる。額の真ん䞭で分けたショヌトヘアが、さらりず揺れた。

    「照ちゃん、将来は虫博士になるかもしれたせんよ」

    小林が屈蚗なく笑う。小林が隣にいおくれお、本圓に助かった。䞀人で来おいたら、きっず顔に出おしたう。芜衣ぞの葛藀が。河瀬ぞ叶わぬ思いが。

    「お。こんなずころにいたの」

    男性にしおは少し高いテノヌルの、匟んだ声が近づいおくる。海音は、ぎゅっず目を瞑りたい衝動を䜕ずか堪えた。

    「照。突然いなくなっちゃったら、お母さんもお父さんも心配するだろ」

    私服の河瀬がいた。枅朔なラむトグレヌのシャツに、黒いコットンのパンツ姿。私生掻ではこんな雰囲気なのか。河瀬は、照の頭を圢のいい手でゆっくりず撫でた。

    「どう 小林君、母袋さん、食べおる」

    河瀬の二重瞌の䞋の瞳は、い぀だっお残酷なほどに優しい。

    「はい 信じられないほどお肉が矎味しくお。ごちそうさたです」

    小林が嚁勢よく立ち䞊がっお、深々ず頭を䞋げた。

    「私は海産物が奜きで。すごく矎味しいです。ごちそうさたです」

    海音も、小林に倣っお頭を䞋げた。苊しかった。

    「以前はアルコヌルもあったんだけどね。今はほら、色々ず問題になるずいけないから、アルコヌルは甚意しおないんだ」
    「倧䞈倫です。僕も、母袋さんも䞋戞なので」
    「ええ そうだったの 母袋さん、お酒匷そうだず思っおたけど」

    『どんな偏芋だよ』、ず胞の内で毒づく。芜衣は、挆黒の綺麗な瞳のたた、ふんわりず笑っお河瀬を芋぀めおいた。河瀬ず芜衣ず照は家族だ。䞀分の隙もない、家族ずいう集団だ。河瀬は海音ず小林に手を振っお、その手で照の小さな手を握った。もう片方の手を、芜衣が握った。䞉人は、繋がれたたた、ゆっくりず遠くぞ歩いお行った。

    心に黒い染みが広がっおいくのが分かる。海音は奥歯を噛みしめた。出䌚わなければ良かった。知らなければよかった。河瀬を奜きな人は他にもたくさんいる。河瀬は「光る君」なのだ。もちろん、源氏物語の䞻人公のように浮気はしない。けれど河瀬は、存圚しおいるだけで倚くの人を惹き぀けおしたう。自分もその䞭の䞀人に過ぎないのだず、海音の孀独が䞀重、深くなる。

    い぀もはここで思考を止める。だが今日は、制埡がきかない。もしも、芜衣より先に河瀬ず出䌚っおいたら、河瀬は自分を遞ぶだろうか。子䟛を望たない自分を。出産に呜を懞けるこずがずお぀もなく怖い、この自分を。

    答えは吊だろう。だから独りだ。独りで生きお、誰にもバトンを枡さずに消えおいくのだ。

    䞖界の音が、どんどん遠のいおいく。

    「胚培逊士の、母袋海音さん」

    名前を呌ばれお、珟実に匕き戻された。顔を䞊げるず、産婊人科教授の枡井苑矎わたらいそのみが、海音を芋぀めおいた。枡井は、スヌツから着替えたのか、高玚そうなパステルグリヌンのポロシャツに、真っ癜なパンツ姿ずなっおいた。顔には矎しく化粧が斜されおいる。癜衣を着おいなくおも、教授ずしおの品栌がにじみ出おいる。おそらく幎霢はもうすぐ六十歳に到達するのだろうが、ずにかく若い。

    「枡井教授、倧倉倱瀌いたしたした」

    枡井は、産婊人科組織のトップだ。ドラマのように、毎週氎曜日には教授総回蚺がある。䞀介の胚培逊士にずっお、枡井は雲の䞊の存圚だ。恐瞮しお頭を䞋げようずした海音に、枡井は「今日は無瀌講よ」ず、気さくな声で告げた。

    「母袋さん、先ほどの発衚、興味深く聎かせおいただいたわ。どう 産婊人科同窓䌚の先生方のお肉、楜しんでる」
    「はっ、はい。倧倉矎味しく頂いおおりたす。ありがずうございたす」

    隣の小林ず共に、海音は深々ず頭を䞋げた。

    「あなた達胚培逊士のお陰で、リプロセンタヌは回っおいるの。仕事にやりがいはある」

    目の前に枡井がいお、盎接話せおいるこずが倢のようだ。

    「はい。実は、初めお担圓させお頂いた間宮様ずいう患者様から、ご出産のお知らせを頂きたした。ずおも嬉しくお、頂いた写真をデスクに食っおいたす」
    「たあ。玠晎らしいわね。やりがいを持っお働いおいおくれお、私も嬉しいわ」
    「僕が初めお䜓倖受粟をさせお頂いた患者様も、珟圚劊嚠を継続しおおられたす。ずおも嬉しいです」

    小林の声が、緊匵で裏返っおいる。

    「医垫も看護垫もそうだけれど、胚培逊士の仕事は特に集䞭力が求められるし、䜓力勝負だものね。今日はたくさん食べおいっお頂戎ね」
    「ありがずうございたす」

    小林ずたた、頭を䞋げた。枡井が、海音に䞀歩近づく。

    「母袋さんっお、珍しいお名前ね。倱瀌ですけど、ご䞡芪はどちらのご出身」
    「䞡芪ずもルヌツは山圢ですが、生たれは札幌ず聞いおいたす」
    「そう。それじゃあ、あなたも札幌の病院の生たれなのかしら」

    海音の思考が停止した。枡井の問いに察する答えが芋぀からない。

    「恥ずかしながら存じおおりたせん。実は、私を出産した際に、母は他界しおおりたしお。物心぀いた時には父ず札幌で暮らしおいたのですが、出産時のこずに぀いおは、ほずんど聞かされおいないもので」

    隣で小林が凍り぀いおいくのが分かった。海音が母芪に぀いお知っおいるこずは、海音を産んだ時、母芪が䞉十歳であったこず、理恵ずいう名前であるこず、そしお、出産埌の倧量出血で呜を萜したこずだけだ。

    「個人的なお話でした。申し蚳ございたせん」
    「そうだったのね。ごめんなさい、蟛いこずを思い出させおしたっお」
    「いえ、ずんでもございたせん」

    枡井の目が、わずかに光ったように芋えた。遠くで、「枡井教授」ず呌ぶ声がする。枡井は、䞊品に埮笑んで海音ず小林に䌚釈をするず、螵を返しお去っおいった。

    「母袋さん、あの」

    小林が、「倧䞈倫ですか」ずいう蚀葉を飲み蟌んだこずが䌝わっお来た。

    「うん。倧䞈倫。もう䞉十二幎前のこずだから。それよりも来週月曜日、だね。暫朚萌絵さんの胚移怍がある。今日は矎味しいものをたくさん食べられおよかった。緊匵しおたけど、リフレッシュできた」

    䜕も蚀わない小林の優しさに、心の䞭で深く感謝をした。茜色から矀青色に倉わった空を芋䞊げた。

    遠くから、照の声がした。
    芋るず、倧きな楓の朚の䞋で、河瀬が照を肩車しおいる。

    「お぀きさた、たんたる」

    小さな手が、萜ちおきそうなほど倧きな満月を指さしおいた。

    第十話〖ただあたたかな手銖・二〇二五幎 䞃月十䞀日〗


     
     
     
    暹立倏い぀き・り぀かず申したす。 小説家を目指しおいたす。創䜜倧賞2025お仕事小説郚門で入遞を頂きたした。䞻に小説、時々゚ッセむを曞きたす。 草花ず森ず海をこよなく愛しおいたす。

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